書籍版の建国後のお話。
・2015/11/10 修正
この頃アインズ様のご様子がおかしい。魔導国の建国百年祭の辺りからだろうか。
元々冷静沈着、果断即決を体現されたような御方であったが同時に慈愛に溢れた慈悲深き王であらせられた。しかし最近のあの御方は感情を表に出される事が減って来ておられた。かつてならば僅かの逡巡を示された様な案件でも必要とあらば即座に御許可頂ける。
不敬ながら至高の王として更なる高みに登られたのだと初めは思っていた。
だが近頃は我々守護者と距離を取り始めたように感じる。以前迄の御方は御政務の合間にも我々との会話を楽しみ、シモベ達にすらその御慈愛を向けて下されていた。今はその余裕が見られない。まるで御自身の何かを抑え付けていられるかの様で。
不敬の極みながら王座に飽かれたのかと考えたが御政務は常に精力的になされている。
ならば遂に私が危惧していた事態が訪れようとしているのだろうか。考えるだに恐ろしい。あぁ至高なる御方、アインズ様。このデミウルゴスいかような御望みでも叶えて見せます。全ての障害を命を賭けて取り除いて見せましょう。どうか、どうか我々に御慈悲を……。
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飽きた、アインズは完全に飽きていた。世界征服が終り各地の政治体系の整備も整った今、自分のやる事は書類仕事ぐらいしかない。
判子を押すだけなら俺じゃなくても良い気がする。何かもう内容をじっくり見るのも面倒だ。アルベドやデミウルゴスなら俺より頭が良いし、穏便な統治も軌道に乗っているらしいから問題ないだろう。とにかくただ判子を押して行く。
それにしても多い。目の前に塔のように積まれた書類をブチまけたくなる衝動を抑え付ける。この執務室にはメイドや護衛がいるのだ。そんな事をすれば「アインズ様御乱心!」などと大騒ぎになる。下手をすればいつかのアルベドのように取り押さえられるかも知れない。
大体、乱心したと判断された王の末路など知れている。良くて幽閉、悪くて死刑だ。そんなのは嫌だ。何も考えずに感情のない機械のように判子を押すのだ。頑張ろう。
その時ノックの音が部屋に響いた。メイドが「デミウルゴス様が御拝謁を希望しております」と告げてくる。まずい。書類をちゃんと見ていない事がバレたか? 近頃は書類の内容について突っ込まれるのが恐くて守護者達になるべく会わないようにしていたのだが。
「今は忙しい。緊急の用件でなければ後にしろ。」
とりあえず時間を稼いだ。特にデミウルゴスはヤバいのだ。あいつは頭が良すぎる。難しい話に付いて行ける自信がない。今の内にデミウルゴスからの書類をきちんと確認しておかなければ。
「はぁ」
ため息が出た。冒険者ごっこが懐かしい。またやろうかな……。
ナザリックは今日も(デミウルゴス以外は)平和だった。
デミウルゴス考え過ぎ。
飽きるまで百年もったアインズ様は褒めても良いと思う。