洋介は宿屋の囲炉裏の近くにいた。
年配の男性が囲炉裏で餅やスルメを炙るのを若旦那と一緒に見ていると若旦那に聞かれた
「ところで貴方は何処の出なんだ?」
(未来から来ましたとか言っても頭が痛い奴だよな。)
適当な言い訳を考えて唸っていると
「若旦那、まさかあのあっちの弥三郎さんがなった記憶が無くなる奴ではないのではないですかね?」
年配の男性はスルメを引っくり返しながらそう言った。
(あぁ、それがいい。それで行こう。)
洋介はすぐさま話に乗った。
「そうなんです。追い剥ぎに頭を強く叩かれたようで思い出せないんです。」
洋介の言葉に二人は同情の目を向けた。
「昨今、物騒でいけない。異人さんがたのせいでもあるが、浪人や農家の三男や四男に仕事がなくて行けねぇや。」
若旦那はキセルを取りだしふかしはじめた。
「そうですね若旦那。こちとらあんな奴等がのさばり倒してお武家様は借金踏み倒しとくれば怒りしか感じやしませんな。若旦那とお客さん出来やしたよ。」
年配の男性は焼けたスルメを皿に移し引き裂きながら若旦那に同意を示すのだった。
「ほんに世界がおかしくなっとる。商人の我々や農民、職人や下々が苦しむなかお武家様は贅沢三昧とくれば怒りしか湧かん。」
キセルを置いてスルメをつまんで食べ始めた。
「そんな酷いのですか?」
スルメをご馳走になりながら洋介は聞いてみた。
「あぁ、酷いとも出稼ぎに田舎から来てた奴等が蝦夷に金山があると連れてかれて、結局あるとか無いとか騒いだ山師の為に金山掘らされて死んじまったよ。しかも、なにも出やしねぇておまけ付きだ。」
囲炉裏にかけられてた鉄瓶から熱燗をつぎ洋介に渡してきた。
「お前もどうだ?与作。」
年配の男性の名前は与作と言うらしい熱燗を進められた与作は
「若旦那、まだ仕事中なので。」
与作は断ったが若旦那の「気にやしないよそれに家に三代働いてくれてる与作だからすすめてんだ。」と言われてしまえば断る理由もなく三人で飲み会が始まった。
「昨今は、景気が悪い。時勢が悪いと抜かして働きやしねえ浪人がいるが働かないから景気が悪いんだよな与作。」
餅とスルメをがっつきながら話してた。
「そうですね。若旦那金がなけりゃあ女もろくに着いてこない様な浪人どもの言い訳なんだ。こちとらかかぁに金を寄越せとせびられて搾られてるって言うのに浪人どもと来たら……。」
与作もスルメをがっついていた。
結果的に洋介がスルメを焼いていた。
(矢鱈、矢継ぎ早に飲むなよく倒れないな。)
等と考えていると玄関が開く音がした。
「与作行ってくれ。」
「若旦那、わかりました。」
与作が玄関に行くと怒鳴り声が聞こえた。
「金100両の借金帳消しにしては頂けまいか!」
これが聞こえるや否や若旦那が立ち上がって玄関に行った。
洋介も着いていくことにした。
若旦那は出ていくや侍姿の男に
「お武家そんなの無理に決まってるでございましょう。」
と言い切ったのだった。
帳消し、嫌だ、帳消し、嫌だの堂々巡りを20分ぐらい繰り返すと
「こちらの店に娘を嫁がせるから借金は無かったことに出来ぬだろうか?」
侍が頭を垂れてきた。
「いや、しかし我々の店はお武家の二代より前から金を貸しているのですよ。お分かりください。」
若旦那も頭を下げて返してくれと返すと
「ここまで、頼んでるのに許さん。切り捨ててくれるわ!」
いきなり侍が刀を抜くと若旦那に切りかかってきた。
洋介は咄嗟に刀を掴もうと刀に触れてしまった。
刀は折れて侍は弾けとび店の前まで転がった。
そのあと、同心が飛んできて侍を連れていった。
後日聞いた話だが、侍は切腹を命じられ侍の家はお取り潰しになったらしい。
「あんた、用心棒として家で働いてくれお願いだ。」
若旦那の言葉に洋介は頷いた。
洋介は宿無しから宿屋の用心棒になり、未だ苦難の中にいる。
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