オーバーロードとフェアリーロード   作:skyline

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プロローグになります。主人公の外見はlovシリーズに登場するオーベロンを想定しています。言動的にも。


プロローグ
妖精王の帰還


そよ風を感じて目が覚めた瞬間、草原に仰向けになって寝転がっていた彼は反射的に口元を覆った。それからゆっくりと目を開いて、黒い天球の中に漂う無数の星々を目に焼き付けた後、脱力したように手を放り出した。

 

「これは……夢か?」

 

22世紀の日本において、防毒マスクをせずに大気に触れるのは即ち死を意味する。一呼吸すれば致死量を吸い込んでしまう環境ホルモンや、神経麻痺作用のある有毒ガスに脳を食われたくなければ、外出する時にはマスクをせねばならない。だが、現在はそれをしなくとも呼吸ができている。

月と太陽以外の、映像の中でしか見たことのなかった星たちが見えることからも、この場所が現代日本ではないことは明らかだった。

 

「すごく……安らぎを感じる場所だな。」

 

ふと、地面に押し付けている背中に居心地の悪さを感じ、彼はゆっくりと上体を起こした。そのままの流れで、いつも布団から起きた時するように大きく伸びをする。寝起きの頭をクリアにすると、彼の頭は一つの可能性に思い至った。

 

「ユグドラシルかな?ログインした記憶がないけど……ん?」

 

草原の緑が風に揺られる音のなか、遠くの方から誰かが小走りに駆けてくる足音が聞こえる。足音は一人分。

彼が腰を上げる暇もなく、それは瞬く間に近くにまでやってきて、彼の座っている地点まで数歩というところで止まった。彼は首を振って接近者を確認する。

 

「……む、ムーマァ様!?ムーマァ様ではございませんか!?」

「……君は……ギルドの九層にいた執事くん?!NPCがしゃべっ!?喋ってる!?」

 

彼の視線の先にいたのは、真白な頭髪と髭をたくわえた老齢の執事。周囲に明かりが乏しいため、執事服の黒さが闇に溶けている。直立していれば鋼のような威圧感を与える風貌だが、彼を見たことに衝撃を受けているようで、慌てている様子が伝わってきた。

 

PKKギルドーーアインズ・ウール・ゴウンの居住区である第九階層の管理を行うという設定のNPCであることを、ムーマァと呼ばれた彼は覚えていた。

 

覚えているからこそ、驚いているのだ。

ユグドラシルにおいて、NPCは意志を持って言葉を発することもできなければ、状況に応じて行動することもない。プレイヤーが操作するか、命令したことを行うだけの存在だった。

それがなぜ、自分に対して膝をつき、顔を覗き込むようにして声をかけてくるのか、彼にはわからなかった。

 

「このセバス、至高の方々の中に名をお連ねになっています、ムーマァ様のお戻りを心からお待ちしておりました!ムーマァ様のお美しい虹色の薄羽、初めて拝見した時から一度たりとも忘れたことはございません!」

 

(そうだ、名前はセバスだった。製作者は……確かたっち・みーさんだったよな。……まずは事態の把握に努めよう。)

 

自分のことを忘れたことはないと息を荒くするセバスに対し、セバスの名前を忘れていたムーマァは少し苦笑いをする。

それと同時に、今の自身の体がユグドラシル由来の異形であることも把握した。セバスの言った薄羽は、ムーマァの左右の肩甲骨から大きく伸び、極々淡い虹色の発光がムーマァの周りを照らしていた。

手足の指は四本で、どの指からも猛獣の牙のような、長く鋭い爪が伸びていた。

サソリのような尾を持ち、羽の光を浴びて鈍く輝く、硬く鎧のような四肢。彼がユグドラシルで作り上げた異形種のアバター、ムーマァそのものだった。

 

「ありがとう、セバスさん。それで、ここはどこで……どこだい?ギルドの中のようには感じないけれど?」

「はい。ナザリック地下大墳墓より北に二百メートル程の地点にございます。原因不明の事態によりナザリックが別の場所に転移した模様でして、現在はモモンガ様の命令でここ一帯を調査しておりました次第にございます。」

 

NPCが喋ってる方が原因不明の事態なんじゃないのか、とムーマァは思ったが、喋っている本人を前に口に出すのは少し躊躇われた。

その逡巡にムーマァが黙っていると、セバスは「少々失礼いたします」と言って誰かと魔法による通信を始めた。

ナザリックの誰かであろうか。ムーマァは、モモンガの可能性が高いとなんとなく思った。

一分ほどしてセバスが向きなおり、通信を終わらせた。

 

「ムーマァ様、支障さえなければ、どうぞナザリックへとご帰還下さいませ。モモンガ様もムーマァ様のご帰還をお望みになられております。」

「……わかった。先導をお願いしてもいいかな?」

「是非もなくもちろんでございます!……しかしお言葉ですが、ムーマァ様はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをお持ちになっていらっしゃいますので、そちらをお使いになられた方が、よりすみやかにナザリックへと戻ることが出来ると存じます。」

「そういえばそうだね。では、先に戻らせてもらうよ。」

 

人間の手首ほどもある太さのムーマァの指に、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは入らない。課金アイテムの力で装備できるようにはしたが、グラフィックの問題で『データ上では装備したことになってます状態』だった。

現在も同じようで、装備しているのは確実だけれど、ムーマァの視覚情報には入ってこなかった。

ユグドラシルでやっていたように、システムコマンドから指輪の転移能力を発動させようとして。

 

(……システムコマンドが出ない。けど、指輪の力はなんとなく発動できる……気がする?)

 

ムーマァがいくつか試行錯誤すると、画面が暗転して転移が発動した。

暗転する間際に見えた光景で、セバスは片膝を付いたまま、ムーマァに深く礼をしていた。

 




できれば毎日更新したい。
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