これはゾンビですか?~いいえ、ただの?病弱です~   作:ハヤテ

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知らない間に、ずいぶんと頑固になったものです

 

 

どうも、またまたお仕事をすっぽかした朧です。まあ、またまたと言っても描写するのは初ですけどね。

 あの後、僕は相川家に戻り、そこで普通に話し合った結果、何故か僕の下僕として、歩の家に居座ることになりました。うん、何故? いやね? セラフィムさんに提案したのは僕ですよ? でも、まさか『責任、とって下さい』といわれるとは夢にも思いませんよ。

ユーの冷めた目線の痛いのなんの。通り過ぎざまに小指を蹴られました。激痛でした。何故こんなことをしたかしたのか聞いてみたところ、『朧が女を侍らせていたから』だそうです。いや、僕の望むところじゃないですからね?

因みに、下僕になるという事でセラフィムさんの呼称はセラフィムさん本人の希望もあって『セラ』という事になります。

 

 まあ、そんなこんなで土曜日です。あのセラとバトッた日からは数日経過しています。

 

「といっても、する事なんて碌にないんですけどね」

 

そりゃあ、年中暇人ですし? むしろここでやる事があったらそれはそれでいけない気もするんですよね。ま、する事はありませんが出来る事ならありますのでそれをやりましょうかね。

 

ピコピコ・・・・・。

 

「・・・ふむふむ。成程」

 

ピコピコピコ・・・・・。

 

「朧、そんなところで寝転がって何をしているのですか?」

 

「え、あ、セラですか・・・・・天井裏で何してるんですか?」

 

「質問を質問で返さないでください」

 

 手厳しい。

 

「あ、これですか?」

 

「ええ、何やら真剣にやっているようなので」

 

「これはですね、最近流行りのボカ○のゲームです」

 

「え」

 

「え?」

 

「・・・そうですか」

 

ん? なんか若干引いてませんか? どうしたのでしょう? まあ、いいです。今は消失クリアに全力で挑みましょう。

 

「で、何かご用で?」

 

「いえ、ただ今度、ボーリングに行こうとハルナが言っていたので朧はどうするのか聞きに来ただけです」

 

「ボーリング? あの球転がしてピンを圧し折るアレですか?」

 

「圧し折りませんよ?」

 

「え」

 

「え?」

 

「・・・世間との常識の違いに絶望しました。が、まあ、いいでしょう。暇だったら行きます。ユーはどうすると?」

 

「参加するようです」

 

 ふむ、まあ、珍しいと言えば珍しいですね。

 

 

 

 

 

 

さて、ゲームにも飽きましたし、下でユーと一緒にバラエティー番組でも見ましょうかね。最近のバラエティーというか、お笑い番組はどうもイマイチなのが多いですけど。

 

「そうは思いませんか?」

 

『個人的に、レッドカーペッ○の連続化はいらない。あれは時たまやるから面白い』

 

 また随分昔の話をしますね。

 

「ところで皆さんは?」

 

『メガロが出たから、狩りに行った』

 

「ブフッ! 出たんですか? メガロ」

 

『汚い』

 

「あ、すみません。僕って行った方が良いですか?」

 

『今回のメガロは大きい』

 

 へー。まあ、大きいといってもそこまででしょう。常識の範囲内でしょう。

 

「モデルになった動物は?」

 

『クジラ』

 

「ブフッ!?」

 

 で、でかい。それはでかい。唯でさえメガロって普通の小さい生物も大きく見せるから(ザリガニとか)始末におえないのに、クジラとかどんだけでかいのでしょう? ・・・ちょっと、これ、災害級では?

 

「これ、行った方が確実に良いですよね?」

 

『無論』

 

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 

 まあ、面倒くさい事に変わりはありませんが、街に被害が出るのは本意じゃありませんしね。

 と、言う思考の下、碌に装備も整えずそのままメガロの所へ向かいました。

 

 

 

 

 

「しっかし、何処に居るのやら」

 

 まあ、メガロは見えているのですけどね。肝心の歩達が何処に居るのかさっぱりですね。

 

「おまけに水がものすごい勢いで流れてきますし」

 

 屋根から屋根に飛び移って移動していますけど、これ家の中水浸しは確実では? その辺の後処理はどうするのでしょうね?

 

「まあ、僕が知ったこっちゃないですね。・・・久しぶりに空、飛んでみましょうか?」

 

 【足軽】で空を飛ぶのは実は簡単なことではありません。ほら、それ相応の勢いを付けて跳ばなくては風の流れに流されて何処に行ってしまうか分かったモノではありませんし。なので、気流の流れを読んだり、重心の問題もありますし。重心次第でどこに流されるか変わってきますし、ね? 結構難しいでしょう?

 なので、僕は【足軽】で完全に重力から解き放たれるのではなく、ある程度重力に引かれるようにしています。そうすれば、気流に流される事もありませんし何より、地に足というか、何かを足場にして戦うのが一番得意なんです。

 

「フッ・・・」

 

 話の流れから分かるように、飛ぶのは容易ではないのです。しかし、時間短縮の為にもあえて飛びます。いや、飛ぶというよりむしろ・・・。

 

「『跳ぶ』の方が適当ですね」

 

少し浮いた状態で足元に石を落とし、それを足場に一気に上空に上がります。それを連続して繰り返すのが僕の移動方法。無重力の中に居るので、少しの衝撃でかなり前進できます。で、僕は今身体能力を程々に使用して移動しているので、結論、新幹線並みのスピード、という訳です。

 

「あ、いました」

 

 因みに減速方法は自力です。地に足付けて減速します。・・・むろん、鋼糸による補助はしますよ? というか、そのまま突っ込んだら僕がバラバラになります。

 

「朧!? お前、来たのか?」

 

「ええ・・・まあ。だって、ぶっちゃけ、あれを歩とセラだけでどうにかするって言うのもキツイ話でしょう?」

 

「そりゃそうだが・・・お前、大丈夫か?」

 

「何が?」

 

「いや・・・お前、戦えるのか?」

 

 戦えるに決まってるじゃないですか。・・・いや、待って下さい。思えば、歩にとってみれば僕って戦える印象・・・ないですよね? だってほら、あの連続殺人犯の襲撃の時だって、僕、磔にされてましたし。・・・そういえば、この前のセラ襲来事件の時もそれを踏まえて歩に放り投げてたじゃないですか。自然とそういう事になり過ぎていて逆に気付きませんでした。なんたる失態。 

 

「まあ・・・その辺はセラにでも聞いて下さい」

 

「セラ?」

 

「・・・少なくとも、朧は私とあなたよりかは格段に強いです。この身をもって実感しました」

 

 いや、だからあの時やったのは本当に大したことではないのですよ? まあ、それはどうでもいいですか。

 

「だそうです。ま、見てて下さい。・・・で、実際問題、あれどう処理するのですか?」

 

「そこなんだよな。セラも焦れてるし、あまり悠長に考えている時間はない」

 

「そうです。朧、あれをバラバラに引き裂く事は可能ですか?」

 

 あのアホみたいにでかいクジラをですか? んー、どうでしょう? それ相応の鋼糸があれば出来ない事も無いのですが、今手持ちにあるのは岩をズタズタに斬る程度の鋼糸。まあ、クジラは斬れるでしょうが、僕の体が持つかどうか・・・。いや、確実にもたないですね。こっちもズタズタになるでしょう。

 

「命と引き換えなら出来ますよ」

 

「なら却下だな。せめて足止め出来ればな・・・」

 

「あ、足止めぐらいなら出来ます。・・・そうですね。セラが、あのクジラの首だか頭だか知りませんが、5メートルほどの剣で斬りながら一周して、一周し終わった瞬間歩が頭部に全力全壊の力で何かして下さい」

 

「それで足りますか?」

 

「足りません。恐らく、そのままクの字に折れ曲がって地面に叩き付けるだけでしょう。ですから、歩の攻撃と同時に僕が全く逆の方向に鋼糸で首をスパッと斬り落とします」

 

「さっき出来ないって言わなかったか?」

 

「あくまで僕一人の力では、ですよ。セラが深さ約5メートルの切れ込みを入れてくれますし、歩の馬鹿力もある。首を落とすぐらい造作もありません」

 

 分かりやすく言うと、切れ味のよい刀に上から思いっきりマグロを叩き付けるみたいな感じですね。ま、当然負担は掛かるんですけどね。筋肉がズタズタになるぐらいは覚悟しましょう。何、腕が再起不能になる訳でもありませんし、一回脇腹ごっそり持って行かれた時もありましたが、傷自体は三日で治りましたし、筋肉断裂もすぐ治るでしょう。・・・たぶん。

 

「という訳で、早速やりましょうか? 歩は確か、空飛べましたよね?」

 

 因みに、今の歩の服装はヒラッヒラの気持ち悪い姿です。分かりやすく言うと魔装少女の服装。キモい。ですが、飛べるというのは利用するべきですね。

 

「あー・・・まあ、な」

 

「なら、それで僕を運んで下さい」

 

 歩は落下時のエネルギーを利用してあのクジラを攻撃するでしょうし、僕もクジラの上から鋼糸を操作するので、丁度いいのです。

 

「分かった」

 

「では、セラ、この件で一番危険なのはあなたです。気を付けて下さい。不幸にも、僕は医療技術や応急手当の心得は全くといっていいほど持ち合わせていません。精々、傷口に包帯を巻く位です」

 

「・・・分かりました。出来るだけ怪我をしないようにします」

 

 よろしい。セラは僕の下僕宣言しているだけあって素直に言う事を聞いてくれますね。稀に僕も吃驚な毒舌が飛んできますけど。

 

「では、行動開始」

 

 

 

 

 

僕は歩に肩車(服装が着物なので、脚が見えてとても破廉恥なことになっていますが、気にしない)されながらクジラが動かない様に行動を制限しています。

僕がクジラの動きを素の力で制限できるかと言われれば、答えは否。全く出来ません。巻き付けた瞬間、胴体と腕が永遠の別れを遂げるでしょう。では、どうやって制限するのか。その方法は単純に、忍法【足軽】の応用です。

確か原作では、どこぞのはぐれ『まにわに』が手に持ったあのクソ重い刀(確か、双刀『鎚』でしたっけ?)を重さ0にして振っていました。結果は刀の利点を損なわせた完璧な悪手でしたが、僕はそこに目を付けました。

 

 手に持って出来るのなら、間接的でも出来るのでは? と。

 

 間接的とは、要するに物を通しての拘束みたいなものです。縄、鋼糸等々。そう言ったもので拘束する際、相手の体重を0に出来たら便利ではないかとある日思い至ったのです。腕力で拘束を破壊しない限り、抵抗できませんからね。

 で、2年ほど掛けてやっとそれに成功したのです。

 さしずめ、忍法【足軽】応用編~2~といったところでしょうか? あ、1は既に七実さんがやっております故、2です。

 と、まあ、こんな感じでクジラの動きを制限しているのです。感覚的には風船を操っている感じですね。

 

「まあ、弱点もあるんですけどね?」

 

「どんなだ?」

 

「相手が逃げようとするのなら良いのですよ。僕も引っ張るだけなので。ですが、相手が逆に襲ってくるとちょっと困ったことになります」

 

「成程、対処しようがないな」

 

「ええ、普通の人間相手なら相手と逆方向に行けばいいのですが・・・今回の相手は、デカイですし」

 

 大きいと旋回しにくいですし、相手を追い抜きにくいんです。

 

「あ、だからセラが必要だったのか?」

 

「この拘束の前提条件が、二人いる事なんですよ。昔は僕は世間一般的に言う『ボッチ』だったのでこの技というかテクニック? は封印していたのです」

 

 あ、ボッチとはユーと別れてからの話です。基本一人でした。流石にホームレスではなかったですけど、お仕事は一人でやっていましたね。家は・・・まあ、ある人物に用意してもらいました。いや、もらえました。「これが今回の報酬だ」とかなんとか言ってバカでかい洋館をくれました。相当費用掛かった筈ですが・・・いや、あの人にとってはハリウッド顔負けの洋館建てるぐらいの費用ははした金ですか。

 ああ、以前ホームレスと言いましたが、それは13歳から15歳までの事を指しております。12歳の頃はその洋館で暮らしてましたよ? 世間体もありますし。

 

 まあ、そんな事はどうでもいいので今は目の前のクジラに集中しましょう。

 

 僕の鋼糸の扱いは、腕を動かすのではなく、手首と指を動かします。例えば、人差し指を動かせば相手の体の一部が切断され、手首を回せばギュッと絞れるみたいな感じです。

 

「・・・すごいな。クジラが苦しんでるぞ」

 

「気管を塞いでますからね。まあ、アレでは死にはしないでしょう」

 

 だからこそセラが必要なのですが。

 おっと、また暴れ始めましたね。締めあげなければ。

 そうこうしている間にセラも刀の準備が出来たようです。長さ5メートルの木の葉の刀をクジラの首に突き立て、そのままクジラの首を回っています。

 

「・・・セラ、速いですね」

 

「ああ、俺も一回セラと戦ったんだが、見事に速さで圧倒されたよ」

 

 ほう、それは初耳。

 

「で、結果は?」

 

「なんとか勝ったが・・・あれは勝ったとは言えないな・・・」

 

 ふむ、まあ、歩の勝敗などどうでもいいのでそこまで気にする必要もありませんか。少し話していただけでも、セラは首半分以上に到達してしまいました。やっぱり速いですね。

 

「歩、準備を」

 

「ああ」

 

 実際に歩のゾンビパワーというのを間近で見た事はないので楽しみですね。吸血忍者襲撃の時も僕は基本お茶の間でお茶を飲んでいましたし。

 セラが斬りつけるのと同時にクジラの方も先ほどより比べようもないほど暴れている・

 

「う・・・く・・・」

 

 鋼糸が指に食い込み、うっすらと血が滲み始めました。

 

「朧!?」

 

「・・・大丈夫です。気にせず、歩は歩のやるべき事をやって下さい・・・」

 

 そうこうしている間にセラが遂に首を一周し終わりました。よし、此処からが正念場ですね。

 

「歩、合わせますよ!」

 

「ああ! せーのっ」

 

 その掛け声に合わせて、僕は今まで抑えつけるだけだった鋼糸を一気に上に引き上げる。それと同時に歩はゾンビである事を利用して、0から一気にトップスピードでクジラの首目掛けて空気を蹴った。

 引き上げる力と歩の落下力。合わされば鋼糸で首を切断するどころか、もしかしたら頭部が全体的に爆散するかもしれません。まあ、当然、腕はズタボロですけどね。いや、クジラを締め上げてバラバラにした場合は腕が再起不能に陥るので、こっちの方が被害は少ないんです。

 

「らあああああ!!」

 

 歩の踵落としは見事首に命中。そのまま切断されると思いきや、切断されつつ爆散していきました。・・・ゾンビ、すげー。

 にしても、腕がやばい。いや、神経までは傷ついている訳ではありませんが、痛いものは痛いですね。大事な血管、切っちゃいましたし。

 とりあえず、体重を操作してゆっくり地に足を付けます。

 

「歩、お疲れ様です」

 

「・・・お前、手ボロボロじゃないか!?」

 

「大丈夫なんですか!?」

 

「失血死の危機です。ハァ、一体どうし・・・歩!」

 

 咄嗟に歩の腕を引き、姿勢を崩しました。その瞬間、歩の頭の横を高速で突いた何か。あれは・・・舌?

 

「あれは・・・ヘビー級メガロ、モハメド・クイ!」

 

 ・・・ヴィリエにもボクシングあるんですかね? いや、というかこれ、アリクイですよね? というか、ハルナさん、いたんですか。そういえば歩が魔装少女姿になる時は何時もいますね。・・・へぇ。

 

「っと!」

 

 考え事をしていたらアリクイが一瞬で目の前に来て殴りかかってきたので、血の足りない体に鞭打って、歩を後方に蹴飛ばし、僕はその衝撃を利用して回避しました。

 

「チィ! セラ、やれますか!?」

 

「すみません。血が足りません」

 

 ブルー○ス、お前もか。くそ、セラと一緒にやればいいと思っていたのですが、既に後方に蹴飛ばしてしまいましたし、今ハルナさんが「魔装少女には24時間の中で一回しかなれない」という不穏な言葉を聞いてしまいました。魔装少女になれないゾンビなど唯の不死身な肉盾です。しかも、今の僕は両手負傷つき、なにも装備出来ない状態。つまり・・・

 

「わ、ちょ! タイム! タイムを要求します!」

 

 結構なピンチです。このアリクイ、戦闘スタイルもボクサーなのですが、矢鱈強い。どのくらいかというとフラス○計画のあの黒人さんぐらい。ん? 分からない? 最強の男(笑)とでもいえば良いですか? まあ、あんな感じですね。 普段なら倒すのにそこまで掛からないのですが・・・

 

「っ、脚だけというのも、考えモノですね」

 

 僕はどこぞの海上コックのように脚だけで戦うという特殊な訓練は受けていないのです。無茶があります。

 

「・・・仕方ないですね」

 

 回避に専念していましたが、距離を開ける為に一旦後ろに跳ぶ。どうせすぐに詰めてくるのでしょうが、距離を開けることに意味があるのです。

 

「虚刀流【薔薇】」

 

 距離を詰めるべくして突っ込んできたアリクイの顔面に飛び膝蹴りを入れ、

 

「虚刀流【百合】」

 

 着地し、続けざまに横っ腹に回し蹴りを入れる。

 

「ラスト、虚刀流【牡丹】」

 

 そして、止めとばかりに後方回し蹴りを決め、アリクイを吹き飛ばしました。心臓を辺りを蹴り、何かが破裂する感触と共にアリクイの血が僕に降りかかり、アリクイはそのまま消滅、僕は血濡れになりました。

 

・・・・・あ、やべ。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 血を・・・浴びてしまいましたか。く、まずい。唯でさえ、今日の今日までずっと『我慢』していたのに、ここにきて、しかも歩たちのすぐそばで血を・・・!

 

「あ・・ゆむ・・・」

 

「お、おい、朧、どうした?」

 

「・・・早く、帰って下さい。僕は、少し用事が・・・」

 

「でも、お前・・・」

 

「・・・早く帰れっつてんだろ。聞こえなかったかド低脳」

 

「なっ! おま―――」

 

「歩! ・・・朧には朧の事情があるようです。早く行きましょう」

 

「・・・わかった」

 

 セラに促され、しぶしぶながら帰っていく歩達。

 ・・・ふう、良かった。歩は兎も角として、セラ達は殺さずにすみました。

 

 もう既に気付いている方もいると思いますが、僕は俗に言う『殺人快楽者』です。殺人といっても、生きているのなら何でもいいという雑食ですけど。無論、それに甘んじて大量殺戮などした事はありません。が、残念ながらこれは生まれつき。どうしようもありません。一種の生理現象と言っても過言ではありません。

 昔は、そう、僕がユーと別れて半年ぐらいにこの事が分かった(正確には分からされた)のですが、その時は僕に引き取り手がいて(ぶっちゃけ、僕を洗脳した人です)、その人がしっかりコントロールしてくれていたので良かったのですが。此処最近は音沙汰ないですし、溜まる一方だったのですよ、欲求が。自ら会いに行っても良いのですが、同じ場所に留まる様な人ではないので探すのは至極困難。だからと言ってその辺の人殺す訳にも行かない。殺したい、でも殺す訳にはいかない、よって欲求は溜まりいつか爆発。見事な悪循環です。

 こんな事なら、ユーを拉致しに来た吸血忍者を殺しておけばよかったです。歩に戦闘に慣れさせるという目的があったので仕方ないと言えば仕方ないのですが。

 

「ハァ・・・フゥ・・・」

 

 僕の今の状態は、簡単にいえば腹ペコ状態の人にステーキを一角上げたみたいな感じです。サイズは1×1で。当然、もっと食べたくなりますよね? そういう状態です。

 まあこの場合、我慢していれば収まりますし、幸い、殺した事に変わりはないので当分は爆発する事も無いでしょう。

 しかし・・・一匹殺しただけでこの体たらく。いっその事メガロ狩りでもしましょうかね? ですが、あれって探しても中々いないんですよね。魔装少女の前にはしょっちゅう現れるくせに、一般人に対してのエンカウント率は驚くほど低いのです。そうですね、野生の色違いのポケ○ンぐらいでしょうか?

 

「さて、帰りますか」

 

 収まりましたし。歩には後で謝っておきましょう。暴言吐いちゃいましたし。後、セラにはお礼を。空気読んで下さいましたし。

 

 

 

 

「・・・ただいま戻りました」

 

 居間に入り、そう告げました。全員集合していて、暴言を吐いた身としてはちょっと居心地が悪いですね。早く謝るに限ります。

 

「あの・・・歩、その、先ほどはすみませんでした。僕も焦っていたのです」

 

 素直に頭を下げ、歩に謝ります。

 

「・・・朧が謝るなんて・・・」

 

「おい、人が素直に謝っているのにそれはなんですか?」

 

「いや、すまん。俺もよく考えてみたら朧があそこまで焦るのはおかしいから、むしろ言う事を聞かなかった俺も悪いと思ってたんだ。こっちもすまなかったな」

 

「いや、あれは僕が悪いんです」

 

「いや、俺が・・・」

 

「いやいや僕が・・・」

 

「・・・茶番はそこまでにしていただけませんか?」

 

「「すみません」」

 

 吹雪が吹いたと思ったらセラの目線でしたよ。おお怖っ! アレ絶対目から冷凍ビーム撃てますよ。

 

「それで、歩はヘルサイズ殿に聞きたい事があるようですが」

 

「あ、そうだった。じゃあ、仕切り直して、ユー、聞きたいことがあるんだが?」

 

 む? 僕が帰ってるまでにこんな事になっていたのですか。ま、大方何を聞いてくるか予想が付きますけどね。

 

「俺たちが出会った日、ユーは俺を助けてくれたんだよな?」

 

 まあ、そうなのではないでしょうか? 実際、歩はゾンビになってますし、歩が殺された現場は知りませんが。

 僕の考えと同じく、ユーも肯定の意を返しました。

 

「本当にか? 俺を殺そうとしたのはユーじゃないのか?」

 

 ・・・は? 歩は何を言っているのでしょう? バカなんですかね?

 ユーはそれを否定します。

 

「じゃあ、俺を助けた後、俺が意識を取り戻すまで時間があったよな? その間何をしていたんだ?」

 

 何してたって・・・そんなの、歩の傍に居たに決まっているではありませんか。仮にも死体を住宅地に放置する訳でもないですし。

 

『歩の傍にいた』

 

 ほら。というか、歩にはこんな一般的常識も無いのでしょうか?

 

「本当に?・・・・・お前に家族を殺されたって情報を得たんだ。おかしいだろ? 被害者の人間と、訳のわからない力を持った人間と、どっちの証言を信じる? ユー、頼む真相を説明してくれ!」

 

「歩、口調がきついですよ」

 

「ええ、それに、ヘルサイズ殿は嘘を言うようなお人ではない」

 

「更に言うと、ユーは人間ではありません。冥界人です。その辺はきっちりして下さい」

 

「・・・朧は少し黙りましょうか?」

 

 拝啓、潤さまへ。

 同居人が怖いです。

敬具

 

 

「そうだな。少し強く追及してしまった。それは謝るさ。・・・・・すまんかった。じゃあ朧、セラ、お前らが判断してくれ。被害者の人間がユーの姿を指摘出来る理由はなんだ? さあ、答えてくれよ。どっちの言葉に信憑性がある?」

 

「歩、少し落ち着いて下さい」

 

「・・・喋って良い?」

 

 コクッと頷くセラ様。よし、許しが出た。

 

「一般論で、ですか?」

 

「ああ」

 

「成程、あなたは少し頭を冷やす必要がありそうですね」

 

「俺は冷静だ。冷静に、真実を聞きたいんだ。」

 

『嘘は言っていない』

 

「信じてやりたいさ。だから、そういう言葉じゃなくて、もっと簡単で確実な証拠はないのか? お前が人殺しをしていないっていう確証だ!」

 

「・・・歩、あなた、バカですか?」

 

「・・・何だと?」

 

「聞こえませんでしたか? あなたはバカだと言ったんですよ。ねえ? セラ。あなたなら分かる筈です。この面子で、一般論なんかが意味を成しますか? 常識が通用しますか? 方や死者を蘇らせるネクロマンサー、方や吸血鬼と忍者を合わせたよく分からない生物、方や異世界から来た魔装少女。そして、ネクロマンサーによって蘇ったゾンビ。さあ、歩、この面子を前にしてまだ一般論とか常識がどうのこうの言いますかね?」

 

「・・・それは屁理屈だろ」

 

 おいちょっと待て。こいつまだ理解していないのか?

 

「・・・セラ、あなたは理解してくれましたよね?」

 

「勿論です」

 

「ハルナさんは?」

 

「当たり前だろ!」

 

「・・・ハァ、歩はもう少し推理力を鍛えましょう」

 

「・・・どういう事だよ」

 

「つまり、こう言いたいんですよ。『何故、ユーのことは疑う癖にその情報の出所は疑わない』と。あの連続殺人事件。もはやこの世に起こる常識的な事件とは流石に思ってませんよね?」

 

「!! それは・・・だが」」

 

「歩、ぶっちゃえて言いますとね? ユーの事を疑うのは仕方がない事だと思います。ユーにだって秘密が多いですからね。疑われやすいです。それは、ユーも分かっている筈です。ね?」

 

『勿論』

 

「・・・おい待て。つまり・・・どういう事だ?」

 

「歩、その被害者の方、かなり怪しいですよ。良く考えて下さい。生存者0だったこの事件、そんな『偶然』にも生き残り、『偶然』にも犯人の姿を見た人が果たしていますかね? それに、前聞いたところによると、歩は後ろからグッサリでしたよね? しかも動けなかったとか」

 

「・・・おいちょっと待て。つまり・・・そういう事か?」

 

「やっと気付きましたか。ええ、そういう事です」

 

 やれやれ、アホに物を教えるのは大変ですね。

 

「・・・だが、それでもユーは」

 

「ユーの疑いはとりあえず晴れますよ? 何と言っても、今一番怪しいのはその被害者ではありませんか。操られているのか・・・こちらを分裂させようとしているのか。とりあえず、そんな怪しい人がピンポイントでユーの特徴を言ってくるのは怪し過ぎるでしょう? 更に言うと、人間というのはそんな生と死の瀬戸際でそんな明確に物事を覚えていられません。ユーの場合、かなりインパクトが強かったとはいえ、特徴として覚えられるのは銀髪が良いところでしょう」

 

「・・・成程、一理あるな」

 

「でしょう? ユーを疑うのは早計です」

 

「そうだな。ユー、すまなかった」

 

『気にしていない。疑われるのは当然だから。でも、信じて。私は歩を殺していない』

 

「ああ。よっぽどの事がない限りはそれを信じるよ」

 

 うむ、一件落着ですね。

 

「・・・随分手慣れていますね?」

 

「ん、そうですか?」

 

「ええ、まるで常日頃言いくるめをしていたかのようでした」

 

「物事を冷静に分析し、整理すればこのぐらいは誰でもできます」

 

 そこまですごいことでもない。

 

「そうですか」

 

「ええ・・・ところで歩、お腹が空きましたね」

 

「ああ、そうだな」

 

「久しぶりに僕が作りますか」

 

「お手伝いします」

 

「・・・セラは料理が出来るのですか?」

 

「無論です」

 

「では、お願いします。あ、ちょっと用があるので先に下準備していて下さい」

 

「任せて下さい」

 

「歩は、さっき僕の話が長すぎて飽きて上に行ってしまったハルナさんを連れてきて下さい」

 

「了解」

 

・・・さて、

 

「ユー、大丈夫ですか?」

 

『何が?』

 

「強がっても意味はないですよ。つらかったのでしょう? 歩に疑われて」

 

『それよりも、朧に疑われても仕方がないと言われた方がつらかった』

 

 うっ、まさかのブーメラン。

 

「いや、あれはですね? ちょっとしか言葉の綾というか、少なからず歩の意見も汲まないとまた拗れると言いますか・・・その・・・」

 

『冗談』

 

「そういう冗談はやめません?」

 

『つからっかたのは本当』

 

「うっ・・・申し訳ない」

 

 しばらく沈黙した後、僕は口を開きました。

 

「・・・泣いても良いのですよ? 偶には感情を爆発させないといつか壊れてしまいます。大丈夫です。ユーの影響で起こる事は全部僕が処理しておきますから」

 

『泣かない。これからも、こういう事で泣く事はない』

 

「何故です?」

 

『朧も、泣いてないから』

 

 ・・・は?

 

『朧は、私と初めて出会った時を除いて今まで一回も泣いていない。一緒に居なかった時期もあるけど、泣いた姿は見た事はない』

 

「・・・それは」

 

『今でも、思い出してつらい事の一つや二つ、あるでしょう?』

 

 ・・・まあ、ありますね。はい。

 

『でも、泣いてない。朧が我慢しているのに、私だけ感情を爆発する訳にはいかない』

 

「僕の事は気にしなくて―――」

 

『気にしていない。唯の自己満足』

 

 ・・・全くこの子は。いつの間にこんな頑固になったのやら・・・。

 

「なら、これ以上はなにも言いません。唯、泣きたくなったらいつでも言って下さい。胸ぐらい貸しますよ?」

 

『骨ばっていて痛そう』

 

 黙らっしゃい。

 

 

 

 

 

「夕飯が出来ました」

 

 ユーと話しこんでいたら、いつの間にや料理が出来たようです。そんなに話していましたかね? まあ、こういう時間は経過するのが速いと言いますし、たったのでしょう。丁度歩達もきましたし、いいタイミングでもありますね。

 

「さ、食べてください」

 

 と言って差し出してきたのは黒い何か。・・・うん、黒いですね。何これ。まさか・・・黒酢? ああ、成程。健康にいいですね。

 

「では、頂きます」

 

「お、おい!!朧!?」

 

 歩が「正気か!?」と叫んでいますが、僕は正気です。僕って、体に病魔飼ってますし、割と健康には五月蠅いんですよ。さて、早速お玉で掬い・・・なっ!?

 

 お玉が溶けただと!?

 

「朧。そのようなやわなものでは、この料理に触れることもできませんよ?」

 

なん・・・だと・・・。あ! 成程!! 酢って確か酸性でしたね。なるほど、だからですか。

 

「じゃあ、どうやって掬うのですか?」

 

「これです」

 

・・・なんか、怪しいザルが出てきましたよ。皿にバシャーっと入れられました。具は・・・ないのですか? あ、お酢と出汁で勝負してるんですね。

 

「さ、早く食べないと、お皿が溶けますよ?」

 

 ・・・いい加減、何か可笑しいとは分かりますよ? 何処の世界に皿が溶ける程のお酢があるのですか。いやない。

 ですが、ですがね? セラが、あの冷徹女王セラフィム様が、まるで普通の女の子の様にこっちを見ているのですよ! やめて、そんな目で見ないで!

 こんな目をした女性の料理を断れますか? 否! 激しく否です!

 よって、僕はこれを食します! 何が何でも!

 

 男鑢朧! いきまーす!!

 

 

 

 

 

 




NGシーン

「夕飯が出来ました」

「あ、そうですか。ふむ、良い匂いですね。甘いながらも酸っぱい。サラサラしていそうで実はドロドロ。そんな嘔吐物感漂う素晴らしい料理・・・グフッ!」

「朧!? 朧ー!!」

 あ、久しぶりにユーの声聞きました。
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