これはゾンビですか?~いいえ、ただの?病弱です~ 作:ハヤテ
フランクフルト。アルプスの少女で出てくるあの有名なフランクフルトではなく、でっかいソーセージを焼いたあの熱々の食べ物。その用途は多岐にわたり、ある時には家族の食卓に並び、またある時は育ち盛りな学生の腹の足しになり、またまたある時には水着を着た女性と共に写真に映ったりもしています。
さて、そんなフランクフルトさんですが、熱々の出来たてを早食いするというのは実に困難な事です。何故なら、加えて口の中に入れるだけでも熱いというのに、それを噛みしめた時に出る肉汁。あれが熱くてたまらないのです。猫舌じゃない人もあれには思わず『ハフハフ』してしまうことでしょう。猫舌の人は思わず吐き出してしまうかもしれません。
はい、という訳で皆さんごきげんよう。上流階級気取ったのは良いけど実は下流階級の朧です。
かき氷に続き、次はフランクフルトという主催者側の悪意が丸見えな食べ物の選び方ですが、七実に一矢報いたい僕としては都合が大変よろしいです。
『朧……後で覚えておきやがって下さい』
『そういえば僕の場合、感覚の延長で味覚も七実に丸投げ出来るんですよね』
『……?』
『ワサビでも食べましょうか。勿論、本ワサです』
『くっ……』
フハハ、同じ土俵に立てた僕を甘く見ない事です七実よ。あなたが視覚や読心で僕を脅かすのなら、僕は感覚と味覚を持ってしてあなたに立ち向かいます。
『フ、フン! どうせ次はフランクフルトなのでしょう? ならば朧の企みは失敗ですね』
『ほう?』
『何故なら、私は猫舌ではないからです。しかも、単純に熱いだけならば私はなんとも思いません。伊達に長年病気で苦しんでいませんよ』
『はい、知ってます』
『ウェ!?』
『それをふまえた上での策は我にありますので、どうぞご期待下さい』
そう、取っておきの、猫舌じゃなかろうが我慢強かろうが関係ない。先ほど食べたかき氷でさえもこの為の布石でしか無かったという事を、このブラコンに教えてあげるのです。フフフ……。
あ、因みにセラは歩の妨害工作によって失格になったそうです。歩は後で磔獄門ですね。にっこり。
「それでは! スタート!!」
はい遂に始まりましたフランクフルトの早食い。優勝狙いのハルナさんは初回からハイスピードで食べ進め、友紀さんは……おう、ドレッシングを上からドバーっと掛けていますね。あれは……和風ドレッシングですか。一体何種類持ち歩いてるんだあの人。そしてユーは一人マイペースにモキュモキュ食べ進めています。和む。歩は丸太を齧って……え、丸太? ああ、セラの仕業ですね。忍者の変わり身と言えば丸太ですし。僕も今度習っときましょうかね、変わり身の術。
で、そんな殆どの人が優勝なんて気にせず、ゴーイングマイウェアしている中、僕はというと……
「いただきます」
フランクフルトを口に運び、ゆっくりその肉に歯を入れていく。そして、そのまま噛み切ることなく静止します。
『な、何故動かないので?』
『賢い七実なら薄々分かっていると思うのですが、あえて言いましょう。キンキンに冷えた歯を熱々のフランクフルトで温めているのです』
『やはりそうですか! ええ分かってましたよ! さっきから歯に言い知れぬ不快感がががががが!!?』
感じたことないでしょうか。熱いものを食べた後に水で冷やすと歯に感じる言葉にし難いあの感覚を。あれは冷やしたものから熱いもののパターンでも同じような現象が起きるのです。ほら、冷やしたコップに熱々のお茶を入れると割れるでしょう? あの現象ですよ。流石に歯は割れませんけど。あれ、割れませんよね?
『くぅ……! 喚くほどではありませんが何ですかこの不快感は……』
『因みに、フランクフルトは三本ありまして、それぞれに別パターンを用意してあります』
『朧は鬼畜で外道で悪魔です!』
『褒めてくれてありがとうございます』
そんなに褒められると、期待に答えたくなるじゃありませんか。
『あ、さっきのは無しで。朧マジ天使』
『こんな事をしている人に向かって天使とか、七実はM属性が御有りですか? アニオタ、ゲーオタ、ブラコン、そしてM。随分多彩な属性をお持ちですね?』
『もう私にどうしろと!?』
『僕の日ごろの鬱憤を晴らしているだけなのでどうもしなくても良いですよ』
さて、そろそろ一本目が冷めてきたので、これは僕が美味しく頂きます。
『せ、せめて味覚を共有してくれませんか?』
『してあげたいのは山々なんですが、僕は共有が出来ないんですよ。いやー、ほんとーにざんねんだなー』
『ファッキン!!』
さて、七実が何やら壊れ始めたところで二本目いきましょうか。
二本目のフランクフルトを手に持ち、口に運んで、そのまま一気に噛み砕く。味を楽しむことなく、あの『ハフハフ』をすることもなくそのまま胃に流し込みます。
誰もが経験したことはあると思います。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』という諺を信じて熱々の食べ物をそのまま胃に流し込んだことが。あれは苦い経験も過去の事になれば忘れてしまうということであって、熱さを忘れる(物理)ではございません。つまり、喉元過ぎても熱さは残るんです。
そして、その熱々なフランクフルトにより体にどのような影響が出るかというと……
『胃がっ!? 胃が何故か苦しい!?』
この様に、胃に熱々のフランクフルトが流し込まれもんどりうってもどうにもならない熱さに襲われます。口内と違って胃ですので吐きだしてどうにかする事も出来ません。強引に与えられる熱さを黙って受け入れるしかないのです。まあ、逆に言えばそれだけなんですけどね。ただ、単純でシンプルなほど抗いがたいんですけどね。
『フゥゥゥ……ハァァァ……腹式呼吸で少しマシにな―――』
「あ、後3分の2ほど残ってますね」
早く食べねば。
『ちょ、タイムって熱!?』
おー、やっぱりこのフランクフルトは美味しいですね。ジューシです。
『ハァァァ……フゥゥゥ……うぅ、胃が引き攣ってるような感覚が……』
『さて、次は三本目です』
『ま、まだあるんですか!?』
フフフ、まあ、次も単純と言えば単純なんですけどね。
「あー、君?」
「喉の奥に熱々のフランクフルトを加えたまま静止する。これは熱い、熱いですよ」
「いや、あのね?」
「このまま出し入れするのも良いかもしれませんね。こう、ジュボジュボと」
「ちょっとおじさんの話しを聞いてくれるかな!?」
「うわ!? な、何ですか突然」
「さっきからずっと話しかけてるんだけどね? いや、それよりも君、食べるの遅過ぎだから」
「……え?」
「これ、一応早食い大会なんだよね。うん、だからさ、遅い人は負けなんだ」
ふと、周りを見渡してみると、明らかに全員が食べ終わっていました。それどころか、歩は血だまりの中に伏し、周りの彼女持ちらしき男性客は女性に足を思いっきり踏まれたり、前屈みになって絶対零度の視線を受けたりしています。
要するに、なにこれカオス。
「まあね? 君もね、こういう公共の場で妙に色っぽくフランクフルトを食べるのは止めようね?」
「……はい」
ああ、そういうことですか。やばい、超恥ずかしい。
恥ずかしさで悶え苦しんでいる間に早食い大会はハルナさんの優勝で終了したようです。友紀さんは去り際に「ま、人生こういうこともあるさ! 元気出せよ鑢!」と言って励ましてくれました。天使かあなたは。
「ハァ……」
『朧 元気出して』
「いや……夢中になっていたとはいえ、まさか周りを気にする事なくあのような醜態を晒す羽目になるとは……気が抜けてるんですかね」
一回夜野に殺されているというのに気が抜けているとかアホの極みでしょう。まったく、こんなのでこの先やっていけるんでしょうか?
『朧』
「なんですか、ユー」
『朧の日常は そっちじゃない』
そっちじゃない、ですか。
「ですが、僕はもう―――」
『時間は関係ない。朧がどっちにいたいかが大切』
「……フフ、それもそうですね」
おそらく、ユーが今日嫌がる僕を海に連れて行ったのは、この事が言いたかったのでしょう。僕でもまだそちらに行ける、時間になんて関係ないのだ、と。
でもね、ユー。僕がユーを守るという約束を果たす為には、まだ『こっち』にいなくてはならないんですよ。
だから、ユーの期待には答えることができません。
「今日は、楽しかったですよ」
『そう』
因みに、ハルナさんはゲットした抱き枕を幸せそうに抱きかかえ、有頂天になっています。僕達がシリアスな雰囲気を発している中でなんともまぁ、羨ましいことです。
『ククク……計 画 通 り!』
結論:七実さんの掌の上な朧くん。
あともう一話投稿します。なぜこんなやる気が満ちているかといいますと、ヴィータでFF10、10-2が出るからです。嘘です。