いつも通り短い
Fate/Grand Order―最古の作家―
死んだ覚えもないのに憑依していた件について。
目を覚ませば文明的な部屋で眠っていたはずなのに見たことがない天井、それは土の固まった天井だった。
凡そ近代的ではない天井に慌てて起き上がれば、視界は低く、見たこともない人が隣で眠っている。
即ち母である。それは直感だった。意味不明な事態に混乱するも、何故か冷静になれる自分がいて、落ち着くことは容易であった。
いまだ幼い名も無い彼に憑依してしまったが、何故か今まで彼が生きてきた記憶を自分も知り得ることが出来たので、憑依しても母や他の人たちと暮らしていくことは容易いことだった。
日々の暮らしは狩りと家事、娯楽が無いことに気付き、何となく前世で知り得た物語を本にしてしまおうと思い立つ。
例えばそれは
『王になるべくして育てられた者と土くれから出来た人ならざる者の話』
『剣を抜いて王様になってしまった誰かとその騎士達の滅びの話』
『土くれで出来た管を造り直すことを生業とした男が、住まう国の姫を助け出す話』
『名に宿命を背負わされた男が、名に呪われた姫を救う話』
『魔術の魔の字も知らないたった1人の人間が、作られた者や過去に栄光を持つ者たちと共に未来を守るために戦う話』
要するに、前世でいうギルガメッシュ叙情詩やアーサー王物語等の昔話やマ○オとかゼル○の伝説等のゲームの話を本にすることだった。
様々な物語をあやふやながらにも書き綴り本にした。
暮らしの中で魔術を知り、研鑽を重ねた。
狩りでは魔術で切り倒し、荒くも鋭く削った丸太の槍で獲物を奢った。
住処には物理的にも、魔術的にも罠を仕掛け外敵に備えた。
何とか嫁を貰い、子を生し、育て、書いた本を読み聞かせ、妻が死に、狩りができなくなり、罠をしかけられなくなり、住処では一番長く生きて大往生。
この世界では変わり映えのしない生活ではあったが、憑依前以上にスリルがあり、時間があり、沢山の事を経験できたと思う。
名も無い彼に憑依して凡そ30年程、ああ楽しかった。
第二の人生と言うべきか、この名も無い彼に憑依してしまった上で過ごした人生は本当に楽しかったのだ。
そしてそれが終わってしまう……私は一体どこに逝くのだろう。
天に帰るのか、もしかしたら憑依する前に戻れるかもしれない、どうなるかは全く持って不明である。
喜びか悲しみか、頬に零れた一筋の涙と共に私は逝った。
そして私は目を覚ます。空は暗いが、周囲はとても明るい……大地が燃え盛り、建物が倒壊している。
またしても、文明的な天井を見ることは叶わず世紀末的な様相を呈した外界での目覚めである。
視界はとても高く、まるで全盛期の頃に戻ったかのように感じる。
目の前には少女が3人、そして私は刻み込まれた知識を基に彼女たちに声をかける。
「サーヴァントキャスター呼応により馳せ参じた。名も無き模倣作家……といったところかね。ああ、私に名前が無いと君たちが私を呼ぶのに不便であろう、そうだな率直にナナシとでも呼んでくれ給え」
「何? 何なの!? 漸く呼び出せた英霊が……丸太と本を持った名前の無いわけのわからない英霊だなんて……そんな、そんなこと有り得ていいはずがっ……!!」
そんな光景を私は文章と絵で見知っている。
私は心の中で声を零す『あっ、憑依したの異世界じゃなくてFGO世界の地球やん』と。