短編BOX   作:John_Doe

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転生物のプロローグ・プロローグ的なモノ


えぴそーどぜろ
session00 英雄転生


 月夜の下で二つの影がぶつかり合う。

 一方は全身が黒を基調とした貴族風の服を着た男、もう一方は燃え盛る炎の模様が施された服に美しい意匠が施された手甲足甲を装備した初老の男だ。

 どちらにも翼など無いというのに空を翔け、何故か格闘戦を繰り広げている。

 貴族風の男の攻撃速度は凄まじいが、初老の男はそれを小さい動作で回避して反撃の拳を打ち込む。

 その拳を受けた貴族風の男は苦悶の表情を浮かべるも、再度初老の男に向かってその腕を振るう。

 その間、貴族風の男は少しずつ傷が癒えて行くが、それ以上にダメージを受けて傷が増えるばかりである。

 対して初老の男は攻撃を受けたとしても、その度に何かを呟くと光が身体を覆ってすぐさま傷が癒えるのである。

 長いようで短い……時間にすれば大よそ五分もしないうちに、その攻防は終わりを迎える。

 貴族風の男が地に落ちたのだ。

 それを追って初老の男は地に降り、地に倒れ伏す貴族風の男の前に立った。

「……まさか私が敗れてしまうとはな……人の英雄よ、止めを刺すがいい」

「ああ、そうさせてもらおう。吸血鬼(ヴァンパイア)氏族(ノワール)よ」

 貴族風の男の言葉に頷いて初老の男は腕を振り上げるが、瞬間、初老の男は短い呻き声を上げて胸を押さえながら地に膝をつく。

 そのまま初老の男は地に倒れ伏し、跡形も無く消えた……いや、人の形をしたものが崩れ去りその中心にあったぬいぐるみが跡形も無く消えたのである。

 それは操霊魔法第十四階位複体(コピードール)であった。

 操霊魔法の高位魔法であり、人形を媒介として術者を肉体的にも精神的にも技術的にも完全に模倣した……つまりは術者同等の分身のようなものだったのである。

 人形を術者本人と完全に同等な模倣体に仕上げ、術者本人の精神を移して動かす。その間、術者本体は無防備のままになってしまうのであるが。

 もしこの魔法が解けるとすれば、模倣体が力尽きるか()()()()が力尽きた場合である。

 今の状態を鑑みれば模倣体が力尽きたのではないという事が容易に理解できるであろう。

「永き時を経ても所詮人は人か」

 少しばかり悲しげな声色で呟いたヴァンパイアノワールは起き上がり、美しい意匠の施された手甲足甲と燃え盛る炎の模様が施された服を拾い上げる。

 その身体には既に先ほどまで戦っていた傷は残っていなかった。吸血鬼の自己再生能力によって完全に傷が癒えたのである。

 彼は英雄の遺品を持って飛翔し、夜の闇へ消えていった。

 

 幾許か時を戻してある部屋の中横たわる初老の男がいて、それに近づく影が一つ。

 影の手には光る文字の刻まれた短剣が握られている。そしてその短剣は一切の慈悲なく振り下ろされて無防備な身体の心臓部分に流れるように綺麗に突き刺さる。

 影が繰り出した一閃は、老いながらも屈強な肉体を貫き命の灯火を消すに値する十全で強力な一撃であった。

「嗚呼、偉大なる我が腐敗の女神(ブラグザバス)よ……我等の怨敵、見事討ち晴らしましたぞ」

 影を月明かりが照らしてその姿が浮かび上がる……初老の男の近くに佇むのは人間であった。

 ただし、人族が崇拝する類の神ではなく、敵対勢力である蛮族が信仰する神の僕であったのだが。

 その影は熱心な腐敗の女神(ブラグザバス)信者であり、それ故に狡猾で常に邪悪な考えを持ち、崇拝する神のため、初老の男を殺害するために潜み続けていたのである。

 影はようやく初老の男の本体の居場所を突き止め、かつその部屋に入っても違和感のない地位を手に入れたのだ。

「ククッ……ククク……フフフアハハハハハハハハ」

 影は壊れたかのように笑いを零しながら、腐り始めた初老の男だったモノの背骨を抜き取った。

 操霊魔法中位魔法に第七階位帰魂(リザレクション)という蘇生魔法があるが、頭蓋骨及び頚椎の残った死体でなくては蘇生できないからである。

 影の選択は今の時代を鑑みれば、崇拝する神の勢力にとっては非常に有効であるといえる手法であった。

 しかし、この影の詰めは最後の最後で甘かったのだが、結局影の運が勝り事なきを得たのである。  

 

 翌朝、初老の男は原型を留めずに命の灯火が消えてしまった状態で別の使用人に発見される。

 その初老の男は英雄と呼ばれていた。

 彼は格闘家(グラップラー)練体術師(エンハンサー)として名を馳せており、斥候(スカウト)野伏(レンジャー)も非常に高いレベルでこなし、学者(セージ)としても名高く、操霊魔法(コンジャラー)もさることながら真語魔法(ソーサラー)にも精通し、深智魔法(ウィザード)を極めた魔法使い(マジックユーザー)であるという絵に描いたような英雄である。

 そんな英雄が死んでしまった、その事実は国だけでなく世界……つまりは人類を揺るがす大きな出来事である。

 彼がいなくとも蛮族との戦いは続けることが出来るだろうが、彼の死つまりは英雄の死というものは蛮族と戦う者達の士気を下げてしまうのである。

 国は即座に【穢れ】る事を考えずに彼の蘇生を決断するも、彼の遺体からは背骨が抜き取られており第七階位帰魂(リザレクション)による蘇生という選択肢は取ることが出来なくなっていたのだ。

 しかしながら彼の遺体は欠損していたとしても残っていた故に、苦肉の策として国は神殿の神官を頼り、英雄を転生させる為の儀式を行った。

 高位神聖魔法リーンカーネーション……それは魂を生まれる子の器へと落とし、その魂を新たな生命として誕生させるという転生魔法であった。

 その魔法により生まれた新たな生命は、死の直前までの肉体的・精神的な能力を引継ぎ、ある程度成長した頃に死の直前程度の肉体的・精神的能力となるという恐るべき魔法である。

 しかしながら、記憶を取り戻さない限りは前世で得た技術等は戻らずに、ただ肉体的・精神的に頑強に育つであろう人間が生まれてくるだけになってしまう可能性もあるのだ。

 もちろん、生まれた子が自ら学んだ技術等は身につくのではあるが。

 英雄の転生……それは人々の希望であり、未来であった。

 転生魔法は成功し、彼らは耐え忍び生まれてきた子等に転生した英雄がいることを切に願う。

 しかしそれは叶うことなく人類は暗黒時代へと突入した。

 そう、確かに英雄の魂は新たな器に入った……この世界に生まれる器ではなく、異世界に生まれる器の中へと。

 

 そして彼は生まれ育つ。前世の記憶を持たぬまま、人よりも丈夫で力強く、賢く、しかし病弱な状態で。

 彼の新たな世界での物語が今始まろうとしていた。

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