雑なあいえす導入編
気がつけば空を見て雲の流れを追いかけていた。どこまでも広い青空に浮かぶ雲を掴んでみたいと、あの空を飛ぶ鳥や飛行機を追いかけてみたいと、そう思った幼少。
ゆっくりと成長する中で、空の先には宇宙(そら)があることを知った。近いようで遠い、空の先。行ってみたいと思うのは当然の流れでもある。
少年は宇宙を目指す。夢は宇宙飛行士、体も頭も鍛えなくてはならない。
夢を目指して鍛錬の日々、その中で起きた事件――白騎士事件――それに少年は心を奪われた。
インフィニット・ストラトスと呼ばれるマルチフォームスーツ。
世間ではミサイルや戦艦を両断したという、その兵器としての有能さを見せ付けるかのような報道に対して、《自在に空を飛ぶ姿のみ》に着目した。
詳しく調べてみれば、宇宙での活動を目的としたマルチフォームスーツだという。
少年の魂は燃え上がった。が、すぐにその炎は鎮火されてしまう。
インフィニット・ストラトスは女性にしか操ることが出来ないマルチフォームスーツだということが判明したからである。
それでも、少年は夢想した。自身がアイエスを身にまとい空を、そして宇宙を駆ける姿を。
それからはISに関する文献を只管に読み続けた。
女尊男卑の世の中へと傾き始めた中で、変わることがないまま、励んだ。
そして、運命の日は訪れる。
織斑一夏――全世界初のアイエス男性操縦者が現れ、全国各所にて男性の適正検査が行われることになる。
少年は歓喜する、可能性は死んではいなかったと。
適性検査としてアイエスに触れるだけの簡単な検査、夢にまで見た機体にただ触れるだけ。
触れた――瞬間、溢れた光の中で少年はラファール・リヴァイブを身にまとっていた。
第二の男性操縦者が発見されることとなる。
少年、天野翔(あまのかける)はため息を漏らす。
アイエスを起動できたということは、世界でも数の少ない男性操縦者になることであり、二人も出てしまえば研究用のモルモットになってしまうかもしれない。
そんな思いも裏腹に、政府に篤く保護され、女性しかいないであろうIS学園に放り込まれることになってしまったのだから。
とは言っても、今年はきっかけを作った男性……織斑一夏がいるのであるからまだマシな方なのかもしれない。
窓際の前から二番目に位置する席で彼は頬杖を着いて、窓の外に広がる空を眺めていた。
「男子だよ、男子! しかも二人一緒よ」
「あっちの黒板の前の彼はイケメンよね、窓際の彼は普通かなぁ」
喧騒の中でも同じ教室内だ、聞こえないこともないのでそういうのはもっと聞こえないように話すか、言わないで欲しい。
「なあ、ちょっといいか」
声がする方向を向けば、そこにはもう一人の男子生徒、即ち織斑一夏が立っていた。
「ああ、どうした織斑君」
「一夏って呼んでくれ、天野。二人しかいない男子生徒だろうし仲良くしようぜ」
「そうか一夏君、なら僕のことは翔とでも呼んでくれ」
「わかったぜ翔。よろしくな」
ニカっと爽やかに笑う織斑だが、妙に馴れ馴れしくフレンドリーという言葉を履き違えている輩のように感じた。
織斑と話をしていると、童顔で眼鏡をかけたスーツの女性が教室へ入ってきた。
このクラスの副担任である山田真耶女史、その胸は実際豊満である。
山田女史の登場によって朝のHRが始まり、順当に自己紹介が始まる。
「天野翔(あまのかける)です。趣味は空を眺めることと天体観測、2年次以降は整備科を目指そうと考えています。よろしくお願いします。」
フツメンの彼の無難オブ無難な自己紹介、少ない男子生徒ということもありやや大きめの拍手を受けるがどうでもいいことである。
席に戻ると教科書を開く。既に学んだことではあるが、復習として読み返すのも悪くは無い。
少し外野が騒がしく、目を向けてみれば織斑がどうのこうのという声が聞こえてくるが、織斑女史ともう一人の男子生徒によるコントが繰り広げられているだけだった。
実に無駄である。
そのままHRは終わり授業に突入する。既に自習済みであるため内容を理解することが容易い。
だが、もう一人の男子である織斑は愚かにも、教本を電話帳と間違えて捨ててしまい、予習すらしていないという。
まるでコメディの陳腐なネタのような有様に、彼は思わず目頭を押さえてしまいたくなることだ。
「あ、天野君は大丈夫ですか? わからないところはありませんでしたか」
「大丈夫です、問題ありません」
「そうですか、わからないところがあったら遠慮なく質問してくださいね」
彼の問題がありそうな返答に、天使のような微笑で答える山田女史は女神か何かではないだろうか。
そして授業は恙無く終了する……教科書を閉じる彼は少しだけ寂しそうな表情をしていたが。
「ちょっとよろしくて」
業間、教科書を読んでいると声をかけられる。声の先に目を向ければ、そこにいたのはセシリア・オルコット。その胸は豊満に近い。
「なんでしょう?オルコット嬢」
幾許か高圧的な感覚を得て、対高圧的女性コミュニケーションを開始する。
無駄な話なので割愛するが、要するに代表候補生でエリートだから一緒のクラスになったことを光栄に思いなさいということだった。
ハイハイ、光栄光栄。
彼の巧みな話術に機嫌を良くして彼女は席に戻っていった。
面倒な輩のようなので極力関わらないでおこうと彼は思った。
同じクラスなので関わることになる可能性は高いのであるが。
「ちょっとよろしくて」
先の業間にかけられた声と同じ声が、今度は別方向から聞こえた。
どうやら代表候補生様が織斑に話しかけているらしい。が、そこから先はただのコントであった。
非常に滑稽である。
オルコット嬢のことは代表候補生(笑)様とでも呼ぶことにしよう。
「クラス代表を決める、自薦・他薦は問わない」
織斑女史の一声でクラスがざわめき、他薦が始まる。
「織斑君がいいと思いまーす」
「私は天野君がいいと思う」
ワイノワイノキャッキャと姦しい女子の声。
珍しい男性操縦者ということもあり、他薦されるのは覚悟した直後だったので問題はないがやかましいことこの上ない。
挙句に辞退却下という始末を再度コントで繰り広げる姉弟には目も当てられない。
さらにはイギリス代表候補生(笑)様が名乗り上げる。
曰く、代表候補生がいるのにそれ以外がクラス代表なんて普通じゃ考えられない。とのことらしい。
彼は代表候補生(笑)様の意見に同意し頷いた。男性操縦者は客寄せパンダではないのだし、そもそも特殊な訓練を受けているであろう代表候補生と未経験者を比べるだけでもバカらしい。
クラス代表戦もあるようだし、別段経験者が代表となる分には問題ないのではなかろうか。ただ、当の候補生(笑)様の人格には若干……問題はあるような気もするが。
しかし、反論した織斑によって口論となり、仕舞いには決闘することになった挙句、彼まで巻き込まれることになった。
彼は挙手をし、織斑女史が発言を促した。
「辞退します」
「ダメだ」
駄目だ。何故駄目なのかわからない。彼は頭を抱えたくなった。
彼が目指すのは空であり、宇宙(そら)だ。
アイエスで空を飛ぶのは良いのだが、いかんせん戦うということには否定的なのである。
アイエスとは宇宙開発を行うためのマルチフォームスーツであり、既存の兵器を上回った超兵器などではないのだから。
「どうしてもダメですか」
「ああ、ダメだ」
無駄だと悟った彼は両手を肩くらいまで上げてヤレヤレとため息をついて諦める。
まぁ訓練機を借りて狭いアリーナの中を翔けてみるのもいいだろう、そう思うことにした。
訓練機が借りられないと、本番までアイエスに乗れないだなんて考えると頭がおかしくなって死ぬ。
放課後、職員室まで行き山田女史に訓練機を借りられないか尋ねたところ、一週間は借りられないと返された。
決闘は一週間後である。そんなのってない。
「あ、そうだ天野君。はい、これ寮の部屋の鍵です。」
山田女史に手渡された鍵は寮のものだが、まだ寮には入れないから自宅から通えとのことではなかったのだろうかと。
「それが急に決定したことでして……織斑君にも渡さないと」
慌てて職員室を飛び出していく山田女史可愛すぎではなかろうか。
しかし、急な引越しというか寮生活になってしまい着替え等が無いのだがと考えていると、背後から声をかけられる。
「着替えと携帯の充電器は用意してやった。それだけで十分だろう」
織斑女史だ。そんな言い方ってない! とは思うが、まぁ最低限という意味では確かに十分だろう。
織斑女史は彼に荷物を渡すとどこかへと去っていった。
彼は諦めて部屋に向かう。
部屋の前に立ち、まずはノックをする。反応無し。
鍵を開けて扉を開き中へ進む。物音は聞こえず、奥には二つのベッドが並んでいる。
そこに荷物は無く、同居人はまだ来ていないようである。
手前のベッドに荷物を放り投げ、食堂へと向かう。
夕食時の視線は教室にいた時よりも多く、非常に居心地の悪いものだった。
暫くは自炊すべきか、慣れるまで我慢するか。面倒なことこの上ない。
宛がわれた部屋に戻って来たが、二人部屋であるにも関わらず相方こと同居人がまだ来ていないようである。
若しくは二人部屋を一人で使えと宛がわれたのかもしれない。
初日だということと、慣れない環境というのもあり、彼はシャワーを浴びてベットに倒れ込み、疲れを取るために就寝した。