次回はおそらく進む。
ある部屋の一室、そこで二人の男が並んで正座していた。そんな二人を一人の女が睨んでいる。
(何か言いたいことはあるかい?二人とも)
一人の女が質問を投げかける。顔は笑っているが目は笑っていない。声も聞いたものをすくませるほどの覇気をまとっていた。
「……ごめんなさい。」
「いや、俺は悩んでいる後輩をただ助けようと思って」
女の質問に対してそれぞれ返答する。一人はクロノス、もう一人は面助だ。
「何があったかは知らないけど勝手に部屋に入るってことは不法侵入よあんたたち。
これが他の建物なら警察沙汰よ。」
「……。」
「いや俺はやめようって言ったんだがクロノスが」
「面助。あんたさっきから言い訳ばっかりじゃないか。あんた本当に反省してんのかい?」
女は呆れた様子で面助を見やる。
「面助はともかくクロちゃんまでこんなことやるなんてね……。いいかい二人とも今後同じことしたらそれなりの覚悟はしてもらうよ。」
「……すいません大家さん。」
声の主、大家に対してクロノスは謝罪した。
面助とのデュエルを終えた後、部屋のドアがいきなり開きそこには大家が立っていたのだ。
大家もこの時間に誰かがデュエルをしているなどとは思ってもいなかったのだろう。
非常に驚いた顔をしていた。大家は誰も使用していないはずの部屋から物音が聞こえたため様子を見に来ていたのだ。そしてそのまま捕まり今に至る。
「まぁまぁ。クロノスもこれだけ謝ってるんだしこれで一件落着ということで」
「めーんーすーけ。あんた覚悟はできてるんだろうね。」
大家がオーラを纏う。
「……本当にすいませんでした。」
命の危険を悟ったのか面助は地面に頭をつけ謝罪した。所謂土下座のポーズである。
「あんたは本当に……。いいかい別に私はここを使うなって言ってるんじゃないの。
鍵を勝手に盗んだことと黙って使った事に怒ってるんだよ。」
「もう今後このようなことは一切いたしません。面助ここに誓います。」
「その誓い。忘れるんじゃないよ。ところでなんでまたこんな時間にデュエルしようとしてたんだい?」
怒りが収まったのか大家は普通の声色で尋ねる。
「いやぁクロノスが元気なかったから先輩として元気づけてやろうと思ったのよ。」
えっへんと言わんばかりの態度で面助は大家の質問に答える。
「そうだったのかい……。あんたもたまには良いことするじゃないか。」
「たまにじゃねぇよ毎日だろ。」
「はいはい。クロちゃんどう?それで悩み事は解決したのかしら?」
威張る面助を無視し大家はクロノスに尋ねる。
「ええと。悩みというより決心といいますか、今日は色々あってですね。一つ悩みが消えたんですけどまた悩みができてですね。」
「そうだったのね。最近クロちゃん元気がなかったように見えたからもしやと思ったのよ。」
「気づいてたんですか。」
自分はあまり顔に出るタイプではないと思っていたクロノスだったがどうやら見抜かれてしまっていたようだ。
「財前さんも心配してたわ。仕事は頑張ってくれてるけどクロちゃん自身が全く面白そうじゃない。まるで機械のようにただ黙々と仕事してるだけだって。」
大家のいうとおりだった。デュエルをしなくなってからはレオ・コーポレーションで働く事だけが唯一の楽しみだった。その作業をしている間はデュエルの事を忘れられるからだ。
そして他の事には目もくれずただただひたすらに目の前の作業をこなす事がクロノスの日常になっていたのだ。
「三須さんがデュエル関係の事でクロちゃんが悩んでるだろうって言ってね。
何とかできないかってみんなで考えてたのよ。それでたまたまストロング石島戦のチケットが手に入ったからクロちゃんに見に行ってもらって気分転換してもらおうって考えたわけ。」
「そうだったんですか……。」
どうやら自分の知らぬ所で大家を含む他の人たちも心配してくれていたようだ。
クロノスは申し訳なく思った。
「ストロング石島戦を見に行った後のクロちゃんはものすごく元気になったって三須さん言ってたわ。それを聞いて私もほっとしたわ。やっぱり子供は元気が一番よ。」
「あんたは元気がありすぎるけどな。」
面助が大家に聞こえない声でぼそっと呟いた。
(ペンデュラムを見た次の日の事か……。周りからはそう見えてたのか。確かにあれからペンデュラムを調べるのに色々してたからな……。)
「そういやクロノス。お前さっきまた悩みができたって言ってたよな。いっそのことそれもここでゲロっちまえよ。デュエルの事なんだろ?」
「あんたねぇ……。でも確かに面助のいう事も一理あるわね。クロちゃん、一人で悩むのもいいけど困ったときに人に頼るってことも大切な事なのよ。もし今の悩みが自分一人で解決するのが難しいなら誰かに頼ってもいいのよ。」
クロノスは記憶を失っていた自分を助けてくれた大家達に非常に感謝していた。そのため日常の生活ではできるだけ心配をかけないようにしていたのだが逆に心配させてしまっていたという事実はつらいものだった。
「ありがとうございます。先輩、大家さん。改めてお願いがあります。俺の悩みを聞いてくれないでしょうか?」
クロノスは今の自分の悩みを打ち明け始めた。
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「なんだよ。そんな事で悩んでたのかよお前。」
「そんな事ってあんたねぇ。あんたにも迷惑がかかるかもしれないって考えてたのよクロちゃんは。いいじゃないクロちゃん。私は賛成よ。」
クロノスの言葉を聞いた二人の反応は自身が思っていたよりもあっさりしたものだった。
「でも先輩にも財前さんにもせっかくLDSに誘ってもらってたのに」
「んなことで遠慮してたのかよ。んなもん自分がやりたいとこでやればいいじゃねぇか。」
面助に申し訳なく思っていたクロノスはとまどってしまった。てっきり怒られると思っていたからだ。
「財前さんがクロちゃんを誘ったのもクロちゃんを元気づけるための案の一つだったから大丈夫よ。」
「そうだったんですか。でもレオ・コーポレーションでのお手伝いもありますし……。」
「でも毎日じゃないんでしょ?なら両立もできると思うわ。財前さんもきっとわかってくれるわ。」
大家の言葉に胸がすっとするクロノス。ここ最近ずっと心のなかでもやもやしたものを抱えていた。遊矢との戦いで一つの決心ができ、今ここで自分の悩みを打ち明けることでもう一つの悩みも今消えようとしている。
「明日財前さんに会って話してみます。」
「おう、それがいい。てかもう決心しましたって顔をしてるじゃねぇか。」
今自分がどんな顔をしているかクロノスにはわからないが面助がにやつきながらこちらをみてくる。
「そうね。クロちゃん。若いうちは自分のやりたいことを思いっきりする。それが大切よ。私もそうだったわ。」
「大家の若い姿……だと……。」
面助が何か言おうとしたとき時計の音が鳴る。どうやら大分時間が立ってしまったようだ。
「あらもうこんな時間。じゃあそろそろお開きにしましょうか。」
「ねみいな。まあ俺様のレクチャーをちゃんと活かせよクロノス。」
「はい。ありがとうございました。」
クロノスは一礼をしそのまま部屋を出た。
「さて俺も戻るとするか。」
「ちょっと待ちな面助。」
面助が部屋を出ようとした時、大家に声をかけられる。
「何だよ?」
「あんたこの部屋においてあった、特製牛魔人風肉セット知らないかい?」
「……し…しらねぇな。」
大家の質問に一瞬びくつくも知らないと答える面助。
大家はその一瞬を見逃さなかった。
「あんた目が泳いでるよ。そういえばさっきあんたの部屋からいい匂いしてたわね。何を食べたんだい?」
「え、あれー何だったかな。最近記憶が怪しくてさ。」
「今日の朝に届いたのよねお肉。クロちゃんも三須さんも財前さんも今日は出かけてたからあんたしかいないのよねぇ。正直に話したほうがいいわよ。」
さきほどと同じように顔は笑っているが目は笑っていない。そしてオーラを纏っている。
「どこに消えたんだろうなぁ?俺の腹の中とか?」
「懺悔の用意はできているかい?」
大家と面助の夜はまだまだ長いようだ。
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朝になり外から鳥の鳴き声が聞こえる。クロノスもその鳴き声で目が覚める。
「ふぁぁ、朝か。」
あくびをしながら起き上がり、顔を洗いに洗面所に向かう。
顔を洗うと水の冷たさでボーっとしていた頭も冴えてくる。
「確か今日財前さんは休みだったはず。準備ができたら行ってみるか。」
朝食をとり、身支度を済ました後、クロノスは部屋を出て財前の部屋に向かう。
同じアパートのため特に何事もなく部屋の前までたどりつく。クロノスはインターホンを鳴らす。すると部屋のなかから物音が聞こえてきた。どうやら財前は部屋にいるようだ。しばらくすると目の前のドアが開かれた。
「おおクロノス君か。どうしたのかね?」
休みのためかいつものスーツ姿とは違いラフな格好をしている。
「おはようございます財前さん。少しお話があるんですが」
「ほう。立ち話も何だ。中で話そうか。」
そういって財前はクロノスを招き入れた。
部屋のなかは整理整頓されてはいるもののよくわからない機械や本が、机の上にはさきほどまで読まれていただろう新聞やコーヒーが置かれていた。
「散らかっていてすまないね。すぐに直すよ。何か飲むかね?」
「いえ、俺もさきほど食べてきたので大丈夫です。何か手伝いましょうか?」
「ははは、お客さん相手にそれは頼めないよ。適当にかけて待っていてくれ。」
新聞をたたみ、コーヒーの入ったコップをどける財前。その間クロノスは部屋に置かれている謎の機械をじっとみていた。
「それはソリッドビジョン展開システムだよ。といっても未完成品で動かないけどね。完成すればここで使ってもらいたいと思ってるんだが。」
「ということは大家さんのために?」
「大家さんにはお世話になってるからね。クロノス君も知ってるかも知れないけどうちは色々開発してるからね。もしかしたら将来デュエルディスクからソリッドビジョンシステムを展開してアクションデュエルを行えるようになるかもしれないよ。」
確かにとクロノスは思う。レオ・コーポレーションの技術力にはクロノスを目を見張った。
常に最新の情報を取得し、人材や機器も最高クラスのものをそろえている。
レオ・コーポレーションが本気をだせばペンデュラムでさえ解析できるかもしれないと思ったことさえある。
「それで話というのは?」
「実は……」
クロノスは財前にここ最近あったこと。自分の思いをすべて話した。遊勝塾、榊遊矢、デュエルをしたいという渇望、誘ってくれた事に対する謝罪。自分でも何を話したのかわからないぐらい多くの事を話した。
「そうか……。」
財前の一言を聞いて目をつむるクロノス。クロノスは財前に怒られる、または落胆される事を覚悟していたからだ。
「良かったじゃないか。それがクロノス君の望むことなら思う存分やればいい。」
「いいんですか?」
財前の言葉に対して聞き返すクロノス。
「実は最近クロノス君が落ち込んでいるように見えてね。何か力になれないか考えていたんだ。」
「でも仕事の事もありますし。」
「デュエルを学ぶのも大切なことだよ。こっちの事は心配しなくていい。私の方からうまく言っておくよ。」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!財前さん!」
大家の言うとおりだった。自分が思っていた以上に周りの人は自分の事を考えてくれていた。心配をかけていた事にする申し訳なさと自分の事を心配してくれていた優しさにぐっとくるクロノス。ここで泣いてしまうとしばらく泣いてしまいそうなので、何とか抑え込んだ。
「おっともうこんな時間か。クロノス君塾の方は大丈夫なのかね?面助くんはもうLDSに向かってる頃合いだと思うが。」
「あっ、そろそろいかないと。財前さん本当にありがとうございました。」
深く頭をさげ部屋を後にするクロノス。財前はふっと笑みをうかべる。
「ペンデュラムを解析してペンデュラムカードを作成するという話が出ていると言えば
クロノス君も興味を持ってくれると考えていたが、あれほどの熱意を見せられてはさすがに言えんな。さて中島さんに何と報告すればよいか考えなくては。」
吹っ切れたクロノスとは反対に考え事が増えた財前であった。
そしてクロノスは自分の部屋で準備をし、すぐに遊勝塾に向かった。
「入塾届もばっちし持ってきた。男クロノスいざゆかん。」
そのまま建物に入り部屋を開けるクロノス。そこに一人の男が立っていた。今度はパンツ姿の少年ではなくリーゼント、学ラン、下駄という非常に目立つ格好をした大男が立っていた。クロノスは何も見なかったようにバタンとドアを閉めた。
「部屋を間違えたな。うん。」
独り言を呟いているとドアが開き、部屋からさきほどの大男が現れた。
「もしやお前がクロノスか?」
大男にいきなり名前を呼ばれて一瞬びくついてしまうクロノス。気づかれないよう一呼吸する。
「ああ、俺の名前はクロノスだけど」
「おーい権現坂。あっクロノス。来てたのか?」
「めずらしい組み合わせだね。」
その声とともに遊矢、素良が現れる。
「クロノス紹介するよ。」
「権現坂道場の権現坂昇だ。」
「クロノスだ。よろしく。」
クロノスは権現坂と握手を行う。
「遊矢との一戦。見事なものだったと聞いている。この男権現坂、ぜひデュエルの手合わせを願いたい。」
「えーずるいよ。僕もクロノスとデュエルしたいんだから。ね、いいでしょ?」
権現坂と素良からデュエルを申し込まれる。
「ははは。その前に塾長に話したい事があるんだけど。」
「塾長に?ってことはクロノス。」
「ああ、決めたぜ遊矢。俺は遊勝塾に入塾する!」
この後修造に大泣きしながら抱きしめられ、
権現坂、素良との連続デュエル、それを見て他の子供たちからもデュエルを申し込まれたクロノス。連戦による疲労でばたりと倒れてしまうのはまた別のお話。
ゴンちゃん、素良すまぬ。
おぬしらのデュエル披露はまた明日じゃ