蒼の軌跡   作:A4

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 はい、今回は非常に難産でした。遅れて申し訳ありません。
バージルはコミュ取らせるのを考えるのは難しいのですが戦闘は書いていて楽しいです。
今回はレンの口調に悩まされました。というか自分は女性キャラを喋らすのは非常に苦手なのでそういった話を書くときは非常に時間がかかってしまうのが悩みですw


中級悪魔

「わたしじゃない、わたしじゃない、わたしじゃない、わたしじゃない、わたしじゃない、わたしじゃない」

 薄暗い部屋の中でレンは饐えた匂いのするシーツに包まり壊れたレコードのように繰り返す。冷静でリーダー格の少年クロス、活発でお転婆な少女エッタ、大人びて可憐な少女アジュ、何時も客に殴られているカトル。レンという人格を守っていた他の人格は既に擦り切れ消えてしまっていた。

 それ以降レンは「接待」に支障を来たすようになっていた。その事に頭を痛めた管理人はレンに仕事の前に『シロップ』と称するを飲ませるようになった。それによりレンは何時も通り客を接待した後シロップから覚めたレンは現実を拒絶していた。

 

 

 

「あーあ、またやってやがる」

 扉が荒く開けられ男が部屋の中に入ってくる。施設の男達から15番と呼ばれるこの少女は客からの人気は高いものの情緒不安定であり薬を投与する必要があった。しかし薬が切れると放言と自傷を繰り返す傾向があった。

 (何時もなら止めなきゃなんねぇが……どうせ処分するんだどうでもいいか)

 男は拳銃を少女の頭に向けた。

 「悪ぃな」

 

 

  

 

 「悪ぃな」

 自分に向けられた拳銃の銃口をレンはぼんやりと見つめた。

 (…もうどうでもいいわ)

 レンは乾いた笑みを浮かべた。両親に捨てられ、人体実験を受け、この「楽園」で客の相手をし続けていた彼女はもう限界であった。

 男が引き金に指を掛ける。レンは静かに目を瞑った。 

 (けっきょく騎士様は来なかったのね)

 まだ両親に捨てられる前に母に読み聞かせてもらった話を思い出す。捕らわれのお姫様を騎士が悪者から助け出すお話。

 レンはもう騎士を待つのに疲れてしまった。

 「?」

 銃の引き金が引かれるのを待つが銃声は何時まで経っても鳴らない。

 ガチャンと金属の塊が床に落ちる音と小さな呻きが聞こえる。

 レンがおそるおそる目を開けると男の胸から白刃が生えているのが見える。男の身体が崩れ落ちると青いコートを羽織った銀髪の青年が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 「立てるか?」

 バージルがにべも無く言った。少女はそれに応じ寝台から立とうとするがすぐにバランスを崩した。

 (…栄養状態は良好。傷はあるが歩くことは可能か)

 バージルは少女の肢体を分析し状態を推測した。目に付いたのは全身に着けられた浅い傷と自分で噛んだのだろう歪に噛み千切られた爪であった。バイルスターを少女に使い傷を回復させる。

 バイルスターは傷を回復させるだけでなく

 「…これでも着ていろ」

 バージルは最初寝台のシーツを引っぺがして地肌を晒している少女に被せようとしてシーツから漂う匂いに動きを止めた。バージルはカビ臭さと青臭さを発するシーツを被った少女を連れ回す光景を一瞬だけ想像し、想像を止めた。バージルは自分のコートを脱ぎ少女に渡した。

 「…名は?」

 「…レン。レン・ヘイソワース」

 レンが擦れた声で答えた。

 「行くぞ。大分時間を喰った」

 バージルは踵を返し歩き始めた。しかしレンは動く様子を見せない。

 「早くしろ」

 「…歩けない」

 見ればレンはへたり込んだままであった。

 (…精神的な問題か)

 バージルは思わず人間という種の弱さについて溜息を洩らした。

 

 

 

 

 

 バージルは廊下を大股で進んでいる。何時もバージルの眉間に寄せられている皺がさらに険しい事になっている。心なしか一歩、一歩、足を踏みしめると怒気が噴出しているようにも見える。

 (…何故こんな事に)

 バージルはコートに包まれたレンを荷物か何かの如く小脇に抱え、右手で抜身の閻魔刀をぶら下げていた。

 もし第三者がバージル達を見たら間抜けな光景とバージル自身が放出する怒気に言葉を失うだろう。

 そしてバージルの怒りを煽る事が他にも幾つかあった。一つは目的としている顧客リスト及び利用者が見当たらないのである。バージルはいくつか部屋を探したが書類は持ち去られるか焼却処分されていた。2つ目はこの売春宿を運営、統括に関わってきた者に行き当たらない事。3つ目はこの城館全体に漂い始めた悍ましい空気であった。

 (何が引き金になったのかは知らんが悪魔共が来たか)

 歪んだ欲望と大量の死者、悪魔が湧きそうな要素は揃っていた。何かがきっかけとなって悪魔が呼び出されたのだろう。

 ゼムリア大陸において悪魔という存在は今まで確認された事はなかった。調べた所、バージルがゼムリア大陸に来る数年前からその存在が確認され始めたとの事であった。魔獣とは段違いの強さを持ち、神出鬼没。当初は悪魔の対応に各国の軍隊や遊撃士協会は追われ混沌を極めたとの事であった。

 「来たか」

 悪心を催す雰囲気を纏った存在が壁をすり抜けてバージルの前に姿を現す。赤い外衣に大鎌を持った悪魔がゆらりと鎌を振り降ろす。

 バージルはそれを鮮やかに切り払うと絡めるとそのまま面に向け刺突を放ち、消滅させた。今のバージルはレンを抱えており十八番と言える居合を封じられてると言えどその実力は並の悪魔が束でかかっても相手にはならないだろう。

消滅させられた悪魔を呼び水に複数の悪魔の存在が近付いてくるのを感じるとバージルは駆け出した。

 「…ここでは不利か」

 バージル達がいるのはあまり広いとは言えない廊下でありこの場でレンを守りつつ悪魔を撃退するのは荷が重いと言えるだろう。だが廊下を走り抜きざまに壁を通り抜けてきた悪魔を斬り捨て走る。

 引っ付くな!動きづらい!」

 バージルは小脇に抱えているレンに怒鳴った。おそらくは悪魔の気に当てられ恐怖の感情が出て来たのだろう。 

 

 

 レンを抱えたバージルは通路を駆け抜け先程と比べると狭いもののそれなりに広い長方形の広間に辿り着いた。

 「ほう…」

 バージルが感嘆の声を漏らす。この組織を運営していたと思われるものが悪魔の鎌で壁に磔にされていた。壁が流れ出る血によって赤く塗りつぶされている。この贄によって魔界への孔を広げたのだろう。鳴動する肉塊を抱えたヘル=レイス、大鎌を持ち襤褸布を纏ったヘル=プライドがホール中を漂っている。

 「drop dead(目障りな)」

 バージルは剣先を悪魔に突きつけた。

 

 

 

 

 

 2体のヘル=レイスが前後から同時に鎌をバージルに振るう。

 『!』

 鎌が空振りし悪魔の驚愕が伝わってくる。振り切られた鎌の上にエアトリックで移動すると悪魔の顔面に突きを叩き込み消滅させもう一体が鎌を振るうより早く袈裟切りを振るう。

 「……」

 無言で広間を睥睨する。戦闘が始まりバージルが斬り捨てた悪魔は既に2ケタに及んでいる。普段ならばその数倍は斬り捨てているはずだが小脇にレンを抱えているので普段の機動力を削がれているのに加えヘル=レイスの投げてくる爆弾が問題であった。

 「チッ!」

 バージルがその場を飛び退る。一拍置いて先程までバージルのいた所に魔獣の心臓でできた爆弾が炸裂し高熱の肉片が飛び散る。

 そしてバージルの着地の隙を狙いヘル=プライドが殺到するも幻影剣を射出し勢いを殺した瞬間を狙い閻魔刀で斬り捨てた。

 

 その時ホール全体に不気味な鐘の音が鳴り響く、聞く者全てに震竦を与える音はゆっくりではあるが確実に大きくなっていく。

 (…こいつが出てくれるほどの孔が開けられたか)

 内心で呟き閻魔刀を構えなおす。ホールの中央に黒い霧が渦巻き、中からヘル=プライドの数倍の体躯と魔力で形成された大鎌を手にした悪魔が滲み出てくる。出現した存在の名前はヘル=ヴァンガードと呼ばれる存在であり人の七欲を司る下級悪魔を総べる中級悪魔である。本来ならば魔界への門が開かれていないゼムリア大陸において中級悪魔程の存在が出現することは稀である。しかしこの館の特殊な状況とバージルが斬ってきた下級悪魔の絶命の叫びにより呼び出されたのだろう。

 ヘル=ヴァンガードが短距離の転移を繰り返し距離を詰めバージルに魔力刃の一撃を振るうが片手で閻魔刀を振るい鎌を弾くと追撃をかけるがヘル=ヴァンガードはすぐに転移しバージルの斬撃を逃れる。視界を埋め尽くすヘル=ヴァンガードの巨体が消えるとヘル=レイスの投げた複数の爆弾が視界を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 「ぐッ!」

 バージルは一瞬の判断で身を捩じり閻魔刀を回転させ爆弾を防ぐ。レンを防ぐのには成功するが爆風と破片を完全に防ぎきれず負傷する。

 「お兄さん!?」

 レンが声を上げる。破片と爆炎で火傷と裂傷を負いバージルが血を流す。しかしそれを我関せず悪魔が追撃をかける。バージルは傷ついた身でそれを振り切ると大きく後退する。

 「…これは一体?」

 バージルが後退したのと同時にレーヴェが広間に駆け付け、驚愕の声を上げる。

 「丁度いい、持っていろ」

 バージルが猫でも扱うようにコートで包まれたレンを放り投げた。

 「お、おい」

 レーヴェが戸惑いと共にレンを受け止め、バージルを見るが既にその場所にはいなかった。

 

 

 

 

 

 一瞬で後方のヘル=レイスまで距離を詰めたバージルは高速の居合で討ち捨てる。これで厄介であった飛び道具を封じると残りの悪魔に向け切りかかった。

 苦悶の声を上げ悪魔が消え行く中、ヘル=プライドが周囲を囲み鎌を一斉に振るう。

 『!』

 「be gone (失せろ)」

 その鎌は全て空振りに終わる。トリックアップで上空に跳び上がったバージルが無数の幻影剣と放たれた幾重もの次元斬が残った悪魔に向けて放たれる。

 「あとは貴様だけだ」

 バージルは転移で次元斬と幻影剣を逃れていたヘル=ヴァンガードに向け言い放つ。そうしている間にもバージルの中の悪魔としての力が傷を回復させていく。

 ヘル=ヴァンガードが魔力刃で形成された鎌を連続して振るうが事も無さ気に打ち払われカウンターを叩き込む。閻魔刀の一撃を叩き込まれたヘル=ヴァンガードは悶き転移しようとするが撃たれた幻影剣がそれを阻む。

 ヘル=ヴァンガードは逃走を諦め周囲で転移を繰り返し翻弄するがそれに対しバージルは何をするわけでもなくただ閻魔刀を鞘に納め居合の構えを取った。

 

 

 レーヴェは眼前で展開される光景に目を奪われていた。そもそも近年発生するようになった悪魔という存在に会敵した経験が不足している上に下級悪魔より上位の存在を見るのは初めてである以上仕方の無い事であった。

 「!」

 ヘル=ヴァンガードが連続転移を終えバージルの背後、上空に出現し鎌を振るう。見れば形成された魔力刃は今までの比ではなくより長大で秘めた熱量もまた莫大であった。

 「後ろだ!」

 レーヴェが注意を喚起した。何せバージルは背後の悪魔に対し何のアクションを見せることなく居合の構えを取ったままであった。しかし次の瞬間さらなる驚愕に襲われることとなる。

 「遅い」

 バージルが一言呟くと同時に背後で鎌を振る被っていた悪魔が動きを止め、二つに分かたれ塵に帰って行く。

 (この俺が見切れなかっただと…)

 僅かに見て取れたバージルの動きから察するにおそらくは背後に向け兆速の斬撃が振るわれたのだろう。問題は自分がその初動を殆ど見切れなかった事であった。自惚れるわけではないが彼自身、所属している組織である『身喰らう蛇』において接近戦においては十の指に入ると自覚している。しかしそれよりも気になった事があった。

 (…速度が違いすぎる)

 レーヴェが最初に見た次元斬は予備動作及び初動を察することが出来たがゆえに防ぐことが出来た。

 (もし今の速度であの飛ぶ斬撃を放たれたら…)

 どういうわけかバージルから投げ渡された少女を包む外套を持つ手に自然と力が込められた。

 「お兄さん、痛い」

 「ああ、すまない」

 腕の中の少女の訴えにより考えは中断され、気を取り直したレーヴェは納刀したバージルに向け歩み寄った。

 




 最近、某バージル物のダンまちSSに影響されてダンまちの原作とアニメ見始めたら面白くてはまったw
 この話が終わったらダンまちものを書いてみたいんですが時間が取りづらい
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