蒼の軌跡   作:A4

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 とりあえず楽園篇はこれで終わりとなります。なおクロスベルの設定はオリジナルのものと考えてください。


依頼者

 城館の地下から続く坑道を10両近い装甲車が車列を成して高速で道を走っている。

 「脱出の状況はどうだ?」

 この城館を任されていたベルナンドが後部座席の部下に問いかけた。彼は客を誘導し装甲車に乗せると数分前に部屋を脱出したばかりであった。最も客の避難を優先させたために部下に欠損が出ていた。

 「20人ほどが脱出できなかったとの事です」

 「…ケースはどうなっている?」

 ベルナンドが気になっているのは客の脅迫の為、客の『行為』を盗撮した導力フィルムであった。それさえあれば今回の自分の失敗を補う事は十分可能であった。

 「一つを除いて回収が完了したとの事です」

 「ならいい」

 惜しくもあるがベルナンドは諦めを付けた殆どは自分の手の内にあるという事で納得した。

 「このままベルクの拠点まで走らせろ。向こうへの連絡は?」

 「クトロを先に使いに出しました」

 ベルナンドはそれを聞くと身を背もたれに預けた。心地は軍用故によくはないが文句は出ない。これらの装甲車は帝国の制式採用試験に落ちたものを幾つもの猟兵団を通して入手した物であった。制式採用に落ちたと言えども性能は十分なもので現在ゼムリア大陸においてこの高速機動車と速さで勝てる車輛はないだろう。

 ベルナンドは最後に遠ざかりつつある城館を狭い窓から一瞥した。

 

 

 

 

 

 バージルは悪魔を殲滅した広間で組織の男の死体を蹴り転がしていた。館内を探した結果は芳しくなく、残った場所はここぐらいなものであった。

 しかし先程から死体と血で彩られた広間で死体を引っくり返すているのに加え探し物が全く見つからない事に苛ついているのか眉間の皺がさらに深くなっている。

 そんな中蹴り転がした死体の陰に小型のアタッシュケースが隠れていた。見れば死体の手首と手錠で繋がれている。

 「何をしている?」

 レンを別室に寝かせに行ってきたレーヴェが言う。

 「……」

 バージルはそれに答えず閻魔刀で腕を切断し切っ先でアタッシュケースの取っ手を引っ掛け宙に放り、その瞬間閻魔刀を一閃させ留め金と鍵を破壊しアタッシュケースをこじ開けた。

 「それは?」

 レーヴェの問いにバージルがアタッシュケースの中から取り出したものを放る。

 「…これは…」

 レーヴェが言葉を詰まらせる。放られた導力カメラのネガには年端もいかない少女と男の『行為』が収められていた。アングルから考えると盗撮だろう。

 「…目的の物は見つかった。俺は行く」

 バージルは閻魔刀を鞘に納めて言った。

 

 

 

 

 「…俺たちはここまでだ」

 レンを抱えたレーヴェが言う。

 「待て」

 バージルが去ろうとするレーヴェ達を呼び止める。

 「?」

 「返せ」

 バージルがレンを睨む、正確にはレンの羽織っていたコートであった。

 「…やだ」

 レンの拒否を無視しコートを引っぺがすバージルをレーヴェは何とも言えない目で見ていた。

 「…お前の名を聞かせてくれ」

 コートを羽織り導力バイクに跨るバージルにレーヴェが問う。

 「…………バージル」

 沈黙の後バージルが一言返す。

 「そうか、バージル。またな」

 レーヴェが噛みしめるように名を呼ぶ。それを尻目に風防ゴーグルを身に着けたバージルがバイクを発進させた。

 

 

 

 

 

 バージルが去った後レーヴェは迎えの飛空艇の合流地点へ向かっていた。レンは疲労が重なっていたのか眠ったままであった。

 「レーヴェ、笑ってる」

 「笑っている?」

 レーヴェはレンを右手だけで抱えると左手で自分の顔を撫でる。すると確かに口周りが笑みを作っている。

 (…笑っている?俺が?)

 レーヴェは自問した。その時になり始めて自分の心が奮い立っている事に気付いた。ハーメルンで恋人のカリンを失ってから半ば老人の如く枯れ果てていた自分の心がである。

 『この世界は自分の愛した女の犠牲に値するほどの物か』それを問う為だけに身喰らう蛇に加担しその狗となれ果てていた自分の心がかって一人の剣士として遊撃士を目指していたころのように心躍っているのである。その理由はすぐに思い当った。

 (……バージル、か)

 心中でもう一度先程別れた男の名を呼ぶ。先刻の人間離れした剣技に自分は見惚れ、惹かれた。あの剣に追いつきたい、超えたいと自分の心が叫んでいる。

 「…ああ、俺は今笑っている」

 ヨシュアはそんなレーヴェを不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 「何故お前がいる?カンパネルラ」

 飛空艇の後部ハッチのタラップを登ったレーヴェが中を見るなり訝しげに口を開く。

 執行者No0『道化師』カンパネルラ。執行者とは『身喰らう蛇』の高位実働部隊の総称でありカンパネルラはその中でも異色の立ち位置を持っている。伝え聞く所によると『身喰らう蛇』の最高指導者である盟主の目であり耳であるらしい。

 とは言ってもレーヴェにとっては神出鬼没の胡散臭い奴という印象しかなかった。

 「口を開くなりそれはひどいじゃないかレーヴェ。せっかくいい知らせを持ってきた……あれ?その子何?」

 カンパネルラの喋りが止まる。

 「…少し訳があってな」

 レーヴェが呆れたように言う。バージルにレンの処遇を聞くも「知らん」という無責任な答えが返ってきたので自分らが引き取る事になった。考えてみればレンは客の顔を覚えている可能性があるので彼女自身の安全を考えると身喰らう蛇にいた方が安全だろう。

 「ふーん。ふーん。レーヴェがねぇ」

 カンパネルラが面白い物を見つけたの如く声を弾ませる。レーヴェはカンパネルラのこういった所が苦手であった。

 「…何が言いたい?」

 レーヴェがレンを座席に横たえさせ、ヨシュアがその隣に腰掛ける。

 「レーヴェってもしかしてロリコ……」

 「……」

 レーヴェが無言で剣を抜き払った。

 「まった!まった!ボクそういうの苦手だからストップ!」

 カンパネルラが爆笑しながらレーヴェを制止する。それを見てレーヴェが気をそがれ剣を納めた。

 「…てか何時もの剣はどうしたの?」

 「真っ二つに切られた」

 カンパネルラはそれを聞いて少し驚いていたレーヴェの使っていた剣は名剣というわけではないが鈍ではない。そしてレーヴェ自身も剣を折らせるのを許すほど甘い剣士ではない。

 「それも含めてレーヴェにいい知らせがあるよ♪レーヴェに少しでも早く知ってほしくてわざわざボクがここまで来たんだよ」

 「それを早く言え」

 レーヴェが呆れたように言いヨシュアの対面に座った。

 「執行者候補レオンハルトを今回の功績を以て執行者に任ずる、だって。やったね♪正式な辞令は後で下されるけど少しでも早くレーヴェに伝えたくてね♪」

 「……そうか」

 レーヴェはその知らせを僅かな驚きと共に受け入れた。身喰らう蛇に入って数年、戦闘能力を考えると執行者入りは確実であると目されているがそれを踏まえても異例のスピードである。

 執行者とは身喰らう蛇においてはただの実働部隊ではなく盟主直属の戦闘員であり幹部である使徒及び盟主も彼らに命令することはできない。極論を言うと一度執行者に任命されれば身喰らう蛇の意向に反する行動や敵対が許されるという事である。

 「それでレーヴェ、今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 腰掛けたレーヴェの顔を覗きこむためにカンパネルラがわざわざ屈みこんでくる。レーヴェはそれを無視し目を閉じた。

 (やはり俺はコイツが苦手だ)

 レーヴェは導力艇の振動に身を任せた。

 

 

 

 

 クロスベル港湾区にてクロスベル市長であるヘンリー・マクダウェルは懐中時計を見た後秘書であるアーネスト・ライズに声をかけた。

 「アーネスト君、カルヌチャペルまで紅茶を買ってきてくれんか?急に飲みたくなってしまっての」

 「は、はい。では今すぐに」

 つい最近老齢の者に代わり新しく秘書になったアーネストが訝しりながらもその場を離れる。ヘンリーの挙げた店名は中央広場にある買って戻るには少し時間がかかる。

 (……彼と会っている所を見られると面倒だからな)

 これから会う人物との密会をゴシップ記者にでも嗅ぎつけられると双方共に迷惑を被るのは確実である。

 そんな事を考えながら港湾を一望できる最も端のベンチまで歩いて行った。

 

 

 

 「…まだのようだな」

 茂みの陰にあるベンチに腰を下ろすと辺りを見回し待ち人がいないことを確認し再度時計を確認する。そろそろ約束の時間であった。

 (時間にはルーズな性格ではなかったと思うが…)

 『彼』には幾度か仕事を頼んだことがあるが一秒の遅れをも自分にも他人にも許さない男であった。

 「待たせた」

 視線を前に戻すと待ち人であるバージルが空間から滲み出たかのようにいつの間にかそこにいた。時計を見ると時間通りであった。

 「相変わらず時間通りか。それで成果はどうかね?」

 バージルは無言でアタッシュケースを差し出す。ヘンリーは受け取ると中から導力ネガを取り出した。

 「これは…」

 老眼鏡をかけると透かしてそのネガを見る。数人の男の『行為』を映したものであるがそれらの男の顔には見覚えがあった。一度現像してみなければ断定できないもののカルバート共和国外務省の高官と帝国の有力貴族、その他にも数人の各国の高級官僚を見て取れた。

 「顧客名簿、客の確保はならんかった」

 「いや、元々この話自体が急な物だった。施設を潰せるだけでなく客の一部を知ることが出来た。君は良くやってくれた」

 ヘンリーが元々この売春施設の壊滅を依頼した目的は二つ、各地で誘拐された少女の解放とその組織と深く繋がっているクロスベル議会議員の特定であった。

 本来こういった仕事は警察などが行うべき仕事であるのだがクロスベル、エレボニア帝国、カルバート共和国の各国の議員に関係があるが故に警察に圧力が掛けられ動かせなくなったが故どこにも所属していない便利屋のバージルに依頼したのであった。

 「…それで捕らわれていた少女たちは?」

 「一人を除いて皆殺された」

 「…………そうか」

 長い沈黙の後ヘンリーは言葉を絞り出した。

 「…それで生き残った娘は?」

 「別の奴に預けた」

 何時もの如く端的で一切説明する気のない返事であった。だが彼がそう言う以上問題はないのだろう。冷酷ではあるが道に外れたようなことはしないとヘンリーは考えていた。

 「これは私の罪だよ。半ば知りながらも放置していた私の」

 この施設に関する噂は昔から聞いていた。だが関わっているクロスベル議会議員が多く、それを暴く問う事は自分の派閥にも罅を入れつ事になるのでは?その思いが彼を留めていた。今回バージルに依頼したのはその施設の活動があまりにも目に余る物になったからでしかない。

 「お前の事情など知らん。それよりも残りの金だ」

 ヘンリーはその身も蓋もない言葉に苦笑しつつベンチの下から小型のアタッシュケースを取り出し渡す。

 バージルはそれを開けると中に詰まったミラ札を検め始めた。

 「……だがお前は行動した」

 ヘンリーが顔を上げるとバージルは既にアタッシュケース片手に去るところであった。少しの間その姿を追うがすぐにその姿が掻き消えた。

 「先生!ここにおられましたか」

 秘書のハーネストが保温カップを片手にこちらに歩いてくる。それに片手をあげ応じながら傍らにあるアタッシュケースの存在を確かめた。目的である売春宿と関係のあるクロスベル議員の特定はならなかったもののこのフィルムは今後のエレボニア帝国とカルバート共和国との交渉に役に立つだろう。

 

 

 

 「先生。今度の派兵の話をお聞きになられましたか?」

 「ああ、正式に決定したそうだ」

 二人でベンチに座り紅茶を啜る。このクロスベルという土地はエレボニア、カルバートという二つの大国に挟まれているが故にこの二国が代わる代わる保護という名目で進駐しているのが現状である。現在は帝国が進駐しており行政は帝国の総督府が軍事・警察は駐留している帝国軍がこなしており、クロスベル議会と警察は殆ど機能していなかった。

 「では戻ろうか、アーネスト君」

 空になった保温カップをゴミ箱に放り立ち上がった。足を視聴者の方に向ける。

 「先生、今日は家に戻られてはどうですか?エリィお嬢様もせっかく留学先から戻られているのですよ」

 アーネストがヘンリーを諌めた。ヘンリーはここ数日働きづめだったが故その制止は強かった。

 「……仕方ないか」

 今となっては唯一の心の支えである孫の事を思いその足を止めた。身体の疲労が限界に達しているというのも確かな事実であった。

 二人はヘンリーの邸宅がある高級住宅街に向け歩き始めた。

 

 

 

 

 

 バージルは金の詰まったアタッシュケース片手にクロスベル上空を跳んでいた。地上は悪魔の出現を警戒する帝国軍の警邏で埋め尽くされている、そんな中帯刀し大金の入ったアタッシュケースをもったバージルは間違いなく不審人物であるだろう。

 屋根から屋根を飛び裏通りのある建物に降り立つ。表には帝国のパトロールチームがいたので半地下の裏口から入る。半地下の部分はガレージになっており導力バイクが停められていた。

 階段を上がり一階の事務所の椅子に座りアタッシュケースを机の上に置いた。

 こうして便利屋バージルの一日が終わった。

 

 




 取りあえず書きたかった事は終わったのですが他にも二刀流やベオウルフ装備のものも書いてみたいのですが閃の軌跡シリーズやDMCシリーズも全てやっているわけではないのに加えこれからしばらく時間が取れそうにないのでひとまずこれで終わりとさせてもらいます。
 とは言っても書きたい気持ちはあるので投稿するとしたら短編を投稿するという形になると思います。短い間でしたがありがとうございました。
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