学戦都市アスタリスク ~ 死神乱舞 ~   作:武者震威

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始めてしまいました。どうか見ていってください。



動ク炎

 (まばゆ )い光が視界を覆う。

 

 光が煌めくその中で、男は手を伸ばしていた。何を掴み、何をしたいのか、分からない。

 だが、必死に男は『なにか』を掴もうと必死だった。

 やがて視界が開けると、そこは赤々と燃え上がる《炎》が男を包み込んでいた。男は生物としての機能としてか、声を荒げるとその《炎》を消そうと必死に転がり回った。だが《炎》は消えることもなく、燃え盛る。

 焼け焦げた匂いが男を襲う……。そう脳が判断したように鼻から嫌な匂いが漂うが、これは人の肉が焼ける匂いではなかった。

 

 男は知っていた。その《炎の匂い》を。

 

 男は知っていた。その《炎》が己と共に数々の死と苦難を乗り越えてきたことを。

 

 男は知っていた。

 

 消えることは無いと思ったその《炎》と共に、世界から、解き放たれたのだと。

 

『いや、そんなことはない』

 

 男は告げた。

 疲れという簡単な言葉では片付けられないほど、疲弊し磨耗し、磨り減っていたことに。

 だがそこには後悔の文字など浮かぶことなどなかった。

 己が生きたその証は決して無駄ではなかったと、己が生きたその軌跡は決して後に残された者たちの助けになっていると信じている。

 

 《炎》がゆらゆらとまるで何かを語りかけるかのように、揺れる。

 

 年寄りとは、やはり後に残してきた者たちが心配でしょうがない。霊となり、出てやろうかなどと考える始末だが、この男だけはそれは冗談にはならぬものでもあった。

 

 男は笑う。

 

 久方ぶりに笑う。

 

 どうか、死んだ(・ ・ ・)身としては、安らかな、安寧の世になっていることを切に願いながら、眠りにつきたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふわりと舞い降りてきたそれを、綾斗(あやと)はほとんど反射的に掴んでいた。

 初夏ほ朝日を受けてまばゆく輝くその姿は、一瞬純白の羽のようにも見えたが───手にしてみればなんのことはない、ただのハンカチだった。

 

「……なんじゃそれは」

 

「風にでも飛ばされたのかな?」

 

 白髪の少年が首を傾げて聞いてくるが、綾斗にも当然分からないでいた。

 少し周囲を見渡して、苦笑する。

 

「綾斗や、お前が約束の時間までにと言うから暇潰しにこの星導館(せいどうかん)学園内を回っていたが、挙げ句迷い、更には落とし物まで拾って、落とし主まで探そうなどと言うわけが……」

 

「まぁ、でも探さないと持ち主が困るだろう? なんだよ、それが常識だろ」

 

「まずは自分が置かれた状況をなんとかせい」

 

「うんうん、仕方ない。あとで事務室にでも届けておけばいいだろ」

 

 綾斗がそう考えて、丁寧にハンカチを折りたたんでからポケットにしまった。

 周りをもう一度見渡してみるが、やはり早朝といっていい時間であり、青々とした木々に囲まれた遊歩道には小鳥のさえずりが響いている。

 自然豊かなその光景はとても人工島(・ ・ ・)のものとは思えないが、そこはそれ、なんと言ってもここは世界にその名を轟かせる《学園都市・アスタリスク》の一角だ。環境整備にも十分気を使っているのだろう。

 綾斗の目の前に居る着物を着た白髪頭の少年も、物珍しそうに木々を見ていることに笑みが浮かぶ。

 と、綾斗はそんな木々の向こうから、かすかに慌てた様子ほ声が聞こえてくるのに気がついた。

 鈴のように透き通り、それこそ小鳥たちの歌声にも負けないくらいに可憐で、鮮烈な強い意志を感じさせる声。

 

「…………ええい! よりにもよって、どうしてこんな時に…………!」

 

 白髪頭の少年はまるで最初から気付いていたかのように、声がした方向に目を向ければ、見上げた先に大きく窓を開いた部屋が一つ。遊歩道から一歩奥まった場所に立つ、清楚でクラシックな造りの建物だ。

 はためくカーテンの向こうから落ちてくる声には、明らかな焦りがにじんでいる。

 

「……なるほど」

 

「……こやつ、もしや」

 

 白髪の少年が止める暇もなく、綾斗はポケットと視線を落とし、それからもう一度その部屋を見上げた。もとより綾斗はそれほど察しがいい方ではない。とはいえ、さすがにこれくらいわかりやすい状況なら話は別だ。

 

「四階か……まあ、足場もあるし問題ないかな」

 

 そう呟いた瞬間に、遊歩道と建物の間には二メートル程の高さがある鉄柵があったが、綾斗は助走もなしに軽々とその上へ飛び乗った。さらには手近な木の枝へと手を掛け

ひょいひょいの登っていく。常人からしてみればとても考えられないような動きだ。

 

「……何度見ても……驚きじゃな、《星脈世代(じぇねすてら)》というもんは」

 

 白髪は一人そんなことを呟いていると、後から続く不安感に襲われる。そう、このあとかなり面倒なことになりそうだと。

 

(退散するか?……いや、綾斗を置いていくのも気が引けるのう。はて……困った。考え無しに突っ込んだ小童(こぞう)にも困った)

 

 とそこで白髪の少年はその建物の入り口らしき場所を発見する。

 そこを目を凝らしてよく見ると、

 

「…………なんと、女子(おなご)の寮だったか」

 

 入り口から出てくるのは、誰もが目を引かれる美しき女の子たち。だが白髪の少年から向けられているのは、何処かの(おきな)の眼差しだった。

 朝からめかしこんでなにしとるか、朝御飯をしっかり食べたのかのう? 的なことしか考えていない。

 それを感じ取ったのか、何故か複数人の星導館学園女子生徒たちはその少年に恭しく会釈していく。

 何故女子生徒たちはそうしたのか、彼女たちも分からないでいたが、少年の雰囲気がそうさせたのだしか言えなかった。それに本当に年長者に対して挨拶する日本人特有の癖なのか、特に外国人も住んでいたその女子寮から出てきて少年に会釈していくのは誰もが日本人だった。

 

(……しかし、綾斗はどうしたのだ。えらく時間が……)

 

 そう思い、上に視線を向けると、

 

「───咲き誇れ、六弁の爆焔花(アマリリス)!」

 

 その声が聞こえた後には灼熱の花弁を揺らした爆炎が囲むように 綾斗が入っていった部屋から爆発したのだ。

 

「「「きゃぁぁぁぁあああ!!!」」」

 

「……なんじゃとっ!」

 

 先程感じた〝揺れ〟にも気になるが、余りにも周囲を考えないその突発的な破壊活動に白髪の少年は驚くよりも早く手にしていた『()』を瞬時に『()』にへも変換させた。

 白髪の少年は上階から落下してくる瓦礫を、普通の太刀よりも一つばかり長い長刀でそれを巧く〝斬る〟のではなく、流水の如く〝乗せる〟ようにして流れを作り、落下してくるすべて(・ ・ ・)の瓦礫を静水の如く払いどかせ、綾斗と同じであろう『星脈世代(ジェネステラ)』と思われる少女たちは、身動きができないでいたが、それを少年が助けた。

 一人が白髪の少年を一目見るが、少年はその少女の頭を一撫で、そして次の瞬間、まるで瞬間移動(テレポート)したのかと思うほどその場から居なくなっていた。

 

 

 

 少年はあの爆発の中に綾斗が避けて居たのを視認していた。更にはその後を追う美しき赤みのかかった美少女。

 

拳骨(げんこつ)でも喰らわせてやろうかと思うとったが……あの娘子(むすめご)、どこかで見たような」

 

 白髪の少年が綾斗たちが居るところまで追い付くと、既に野次馬騒ぎになっていた。

 

「……なぬぅ」

 

 白髪の少年はため息を吐き、先程《刀》にしていたものを《杖》に戻し、見物人たちに混ざる。その中心を眺めようと巧妙に人垣を掻き分けて進んでいくと、

 

「…………こんなところに居ましたか、山本(やまもと)重國(しげくに)さん」

 

「……ぬぐ、日番谷(ひつがや)か」

 

 いきなり名前を呼ばれたであろうその少年、山本(・ ・)重國(しげくに)は隣から発せられた声に一発で誰かを当てた。

 視線を向ければ、少しだけムスッとした顔をした銀髪碧眼の少年がそこに居た。

 整えられた顔に逆立った髪型が今時の若者を感じさせるのに対し、重國は真っ白な髪を短く切り揃えた程度であり、少しだけ嫉妬する。わけでもない。

 

「よくぞここだと分かった」

 

「それが人を待たせていた者に対しての言葉ですか」

 

「それは儂のせいではないぞ」

 

「はぁ……そうでしょうね。目の前の光景見て分かります」

 

 二人の視線は件の喧騒の中心地へ。

 

「おまえ、名前は?」

 

「……天霧(あまぎり)綾斗」

 

「そうか。私はユリス。星導館学園序列五位、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトだ」

 

 遠くから重國が『名前長いのうっ!』と一人呟いているが彼女はそれどころではないのか知らんぷりを突き通す。

 そして、ユリスと名乗った少女は、そのまま制服の胸に飾られた星導館学園の校章『赤蓮(せきれん)』に右手をかざす。

 

不撓(ふとう)の証たる赤蓮の名の下に、我ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは汝天霧綾斗への決闘を申請する!」

 

「決闘!?」

 

 それは綾斗ではなくとも驚かれた。まさかこんな公共の場で戦うというのか、と。

 だが、周りを見渡せば誰もが平然とした、いや楽しむ顔さえ並んでいる。

 

「世界最大の総合バトルエンターテイメント《星武祭(フェスタ)》。この学園も然り、そこら中がその舞台なんですよ」

 

「……なんとも、秩序というものはここにあるのかのう」

 

「一応はあるらしいです」

 

 日番谷(ひつがや)も碧眼を揺らしながら決闘を始めようとしている二人を観察し始めた。

 各学園の生徒は皆がその選手候補なのだと、事前に聞いておかなければ物騒極まりない。いや、聞いていた重國としてもこれは危険だと感じていた。

 

「……成長するであろう子供たちが考え得た結果がこの決闘かのう……」

 

 少しばかり不安になる重國だが、これも若い世代の考えなのだと改める。

 そんなことを考えている間にも、騒ぎを聞きつけてやってきた生徒たちが賑わいに溢れていた。女子寮の敷地内のためかその多くは女生徒のようだったが、チヤホラと遠巻きに見ている男子生徒の姿もある。

 そう、重國たちは堂々たる態度で女生徒たちの間にも立っていたのだ。決闘にも気になるが、女生徒たちは日番谷(ひつがや)の端麗な顔立ちに目を引かれ、重國も白髪と杖を持っていることだ注目の的となっている。

 

「ねーねー、なにごとなにごと?」

「《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》が決闘だってよ!」

「マジで!? 《冒頭の十二人(ページ・ワン)》じゃねーか! そいつぁ見逃せねーな!」

「肝心の相手は一体だれなのよ? あの《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》と決闘するくらいの者よ?」

「知らなーい。なんか見たことない顔ねぇ…………ネットは?」

「今見てるー…………けど、『存名祭祀書(ネームド・カルツ)』には載ってないなぁ」

「リスト外かよ。そりゃまた勇気あるチャレンジャーだな」

 

 等々。大半の単語が重國にとって魔法の呪文であった。いや、まったく分からないということではない。ただ純粋にそう思ったのだった。

 

「だがそれでも疑問には思う箇所が複数あるぞ」

 

「なんでしょう。山本重國さん」

 

「お主の呼び方に少し距離感を感じつつ聞くぞ。なぜこんなにも注目されておる?」

 

「理由など個々によって変わりますが、やはり多きく分けて二つ。一つは有力生徒の───つまり彼女(ユリス)のデータ収集目的です。学園に居る《冒頭の十二人《ページ・ワン》》でもありますから、隙あらば蹴落とそうとする心意気を持つ者たちがこいつらです」

 

「……ぺーじわん? (ページ)?」

 

「あぁ、えぇと……ですね。この学園都市アスタリスクの各学園には序列制度がありまして、学園によって細かな規則(ルール)が違いますが、それぞれ学園が有する実力者を明確にする為のランキングリスト……それが『存名祭祀書(ネームド・カルツ)』です。枠には全部で七十二名。そのな中でも上位十二名は、リストの一枚目に名前が連ねられていることから俗に《冒頭の十二人(ページ・ワン)》と呼ばれています」

 

「なるほどのう。〝ゆーもあ〟といえものじゃの」

 

 日番谷(ひつがや)が微妙な顔で頷いてくるが重國からしてみれば、それこそ心抉る優しさだった。

 そして、どうやらユリスと戦うこととなった綾斗も詳しいことを知らなかったからか、ユリスが丁寧教えていた。

 

「して、二つ目は?」

 

「二つ目は、ユリスが暴れるのを野次馬精神で見にきたアホたちだからです」

 

 周囲で見ていた女生徒たちがピシリと固まった。

 

「お主なぁ……」

 

「なにか不味いこと言いましたか?」

 

「な、なんて綺麗な眼差し……! 今の言葉も純粋な言葉だったということかっ!」

 

 プルプルと震えて日番谷(ひつがや)の冷眼に戦慄を覚える。だがそれよりも危機的状況に陥っているのは綾斗もであった。

 

「まぁ、どうしても嫌だというのなら仕方がない。おまえにも決闘を断る権利はある。ただ、その場合は女子寮の自警団に突き出すことになるな。私としては自分の手で始末をつけたいので残念であるが」

 

 綾斗はいつのまにか逃げ場がなくなっていた。

 

(断った方が穏便に終わるじゃろう。何しろ編入生なのじゃからそこらを考慮してもまだ穏便に終わる。じゃが……小童な綾斗のことじゃ、若気の至りであったり、正当性を考えた結果として『何故悪いことをしていない自分が自警団に捕まらないといけない』となることに安易に繋がるかもしれないのう……)

 

 はっきり言えば、はた迷惑であるユリスの決闘に、重國は少し思うところがあったが、綾斗が『あー、でもほら、俺、武器持ってないし』と告げたことでやる気はある、と受け取ってもおかしくなかった。

 だがこれにも理由がある。なんとこの学園には事前に武器武装を持って入学してくることを許可しているのだ。重國にとって考えられなかった。

 

「おまえ、《魔術師(ダンテ)》ではないな。使う武器は?」

 

「……剣」

 

「誰か、武器を貸してもらえないか? 剣がいい」

 

(答えればそうなると分かっておるじゃろうが……まったく)

 

 重國はポリポリと頭を掻いて成り行きを見守ることに徹した。重國も自ら面倒事に突っ込むことなどしない。

 隣を見れば日番谷(ひつがや)も少し呆れた様子で綾斗たちを眺めていた。

 すると、ギャラリーから反応が帰ってくると、剣が投げられた。

 

(……今の者、少し出来すぎと考えるのはおかしいかのう……)

 

「……『隠密機動』……ではありませんが、草の者かと」

 

「……ホッホ、よく読み取れた。表情がわかりやすくなったかのう。しかしそれは中々有益な情報(はなし)じゃ」

 

 日番谷(ひつがや)は表情を変えず、唇だけを動かして教えた。

 そして、すぐにユリスと綾斗と決闘にへと目を向けた。

 綾斗が受け取ったのは短い棒状の機械だった。片手で握るのはちょうどいい大きさで、先端には緑色の鉱石───マナダイトがはめこまれている。

 煌式武装(ルークス)の発動体だ。

 

「そいつの使い方もわからないとは言わせんぞ」

 

 ユリスはそう言って不敵に微笑んだ。

 

「はぁ……」

 

 綾斗は大きく息を吐くと、手にした煌式武装を機動させた。

 マナダイトに記憶させてある元素パターンが再構築され、鋭角で機械的な〝(つば)〟が何もない空間から瞬時に出現する。

 さらに待機状態(スタンバイ)から稼働状態(アクティブ)へのモードを移行(シフト)させると、万応素(マ ナ)が集約・固定された眩い光の刃が虚空に伸びた。

 刀身の長さは1メートル程度。ほとんど調整されていない。ノーマルな煌式武装(ルークス)だった。

 それを見たユリスも制服の腰につけたホルダーから発動体を取りだし、煌式武装(ルークス)を起動させる。もっともこちらは綾斗と違って、細くしなやかな光のレイピアだった。

 

「……雀部(ささきべ)のものと似てるのう」

 

 重國が言う雀部という者と、ユリスが使う武器が似ていることにか関心がそちらに向かう。

 そして、この二人の学生が対決している時には既に、《死神》たちが学戦都市(アスタリスク)に入り込んでいることには、誰にも気付かれていなかった。

 

 

 

 




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