ある意味それは必然であったのかも知れない。
願いを叶える器、それを求めた一人の人間の執念がそうさせた。
コレは語られることのない、誰にも知られない非公式の聖杯戦争。
寒風吹き荒ぶ広野。…生命の息吹が薄いのなら荒野と表現するべきか。
そこにポツンと、どこにでもあるようで、そんなところに本来存在し得ない街があった。如何なる道理かそこはガスも通い水も湧く。極めつけに電気設備も万全だった。住宅地も、工場も、オフィスも、駅も、空港も、公園もあった。だが1つ、その街には決定的に欠けているものがあった。
それは本来その街を成り立たせるものであり
それは本来その街を利用するものであった。
つまり人間である。
ロシアにあるシベリアの荒野。そこには人間なしで完全に機能する街があった。
70年程前、その地にまだその異界がなかった頃一人の男が現れた。男は優れた魔術師だった。しかしその男は魔術師になる前から生涯を通して追い求めているものがあった。
"聖杯"である。
幼い頃、男は小さな集落に住んでいた。しかし突然なんの前触れもなくその集落は焼かれた。たった数人の人間によって。男は親を殺されながらも命からがら逃げ出すことに成功した。逃げながら男の頭は襲撃者の言っていた言葉を反芻していた。
「願いを叶える器」
そうなんども言っていたのだ。その器をセイハイとも。
男は逃げおおせた後独学で魔術を学んだ。その時の男を突き動かしていたのは復讐心ではなく探求心だった。己の生活を理不尽に奪っていったものの正体を暴く。その想いは復讐とは別の次元にあった。
時は過ぎて男は聖杯戦争のシステムについて理解していた。それが自分一人では到底不可能なことも。
聖杯の具現に足る霊基もある。英霊の召喚に差し支えのない霊脈もある。…しかし最後のピースがなかった。
男は慟哭した。絶望した。だが諦めはしなかった。
その執念はどういう因果か何十年も後、実を結ぶことになる………。
その街の名はヴォルゴグラード。
本来何も存在しない場所に存在するユートピア。
そここそが今回の…"マスターのいない聖杯戦争"の舞台だ。
協会や教会、時計塔の干渉すらはねのける孤高の地で召喚される英霊達はどのような"英雄"なのだろう…
『聖杯戦争システム起動。同刻に英霊召喚システムFateを起動。オールグリーン。魔力貯蓄量規定値クリア。不干渉用結界作動。仮令呪の作動を確認。召喚システムに異常なし。セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー共に召喚に異常なし。これより聖杯戦争を開始します』