トランシルヴァニア地方、トゥリファスの『領王』はロシアの西方に位置する都市に喚び出された。
「ふむ、この地脈は……」
彼は彼自身のスキル、『護国の鬼将』により喚び出されたその都市の地脈を完全に確保した。なればこそ、わかったのである。
「この地脈は、いやこの地は、
他の地と明らかに異なっている、か」
そもそも、『領王』は現界したその直後より、“違和感”を感じていた。
いや、それが視えていた。
この地の“違和感”は地脈を支配し、力を得る彼だからこそ理解しえた……訳ではない。
彼でなくとも判るような、理性のない狂戦士でさえ解るような単純且つ、根幹的な“違和感”。
「やはりこの地に余のマスターは居らぬ、か。いや、それだけでは無いな。この地には“生命”が無いのか」
そう。この都市には“生命”が微塵もないのだ。けして小さな都市ではない。百万の人が闊歩する大きな都市であるはずなのだ。
しかし、鏖殺されたわけでもなくただ『無い』のだ。
「されども血の匂いはせぬ、と」
生前、彼は飽くほどに嗅いだのだ。
戦でかおる兵の血の匂い。
裁かれた逆臣の血の匂い。
そして、串刺しにされた帝国の兵どもの
血の匂い。
その匂いが一片たりともしないのだ。
「されど、されど。……匂うな、この地は」
そう。この“空気”に血は匂わない。
だがこの“地”には血が匂う。いや、血の匂いしかしないのだ。
マスターの居ない聖杯戦争。
“生命”のない大地。
無臭の宙。
血が色濃く香りたつ“地”。
依代無く現界し続けるこの霊体。
その答えの一端を『串刺し公』は諒解した。
「そうか、そういうことか。…この地の生命はこの地に喰われたのか」
彼は恐るべき事実を、畏るべき現実を口にした。
しかし其れはどうしようもなく現実。
故にこの地の地脈は、
百万もの人を喰らったこの地は
“奇蹟”を起こし得るのだ。
魔術師に限らず、只の人間でさえ生命力は魔力になるのだからーー
彼はその聡明なる頭脳に得た情報から推測し、確固たるものを纏めた。
「成る程。この地にマスターが
居らぬのではなく、“この地がマスターのようなもの”ということか。なれば、この地より出ることは叶わぬか。まぁ良い。しかし……」
そう虚空に言葉を発した彼の顔は
哀しみと自嘲が混ざった表情であった。
仮令、其れが自らの国でなくとも
其れが自らとなんら関係のない地で
あろうとも
領土を護るのが彼の英霊としての在り方
彼の『領王』としての在り方なのだ。
だからこそ、彼は虚空に発した言葉を継ぐ
「護る命が無いというのに『護国の鬼将』とはな、ふん、笑い話にもならぬな」
【シークエンス«カズィクルベイ»の遂行完了を確認。同刻、ネクストシークエンス«アレクサンドロス»の遂行準備完了を確認。現刻より、遂行を開始します】
FGOで“彼”が当たった人へ捧ぐ。
羨ましい……自分も欲しいなぁ……