真剣で私に恋しなさい!―Existence of a duplicate―   作:輝雪

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003 マダオ

東西交流戦から数日。

交流戦は二年生の活躍により、川神学園の勝利で幕を閉じた。

 

 

それからというもの、雹は平和な日々を過ごしていた。

自由に遊び、自由に寝る、グータラ全開な生活を満喫し本人はいたって満足げだった。

そして今日も、何時も通り変わらない日々が過ぎていくはずだった――だが

 

 

この日は違った。

 

 

――いや、この日から変わった――

 

 

 

 

その日突如、朝のHRは中止となり、緊急の全校集会がとなり、生徒全員がグラウンドに集合していた。

朝礼台に立った鉄心がゆったりと話し始めた。

 

「皆も朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで朝から騒がしく川神学園で全校集会が行われている頃、雹は学校には居なかった。

朝、目を覚ませばあら不思議、時計の短針は九を指そうとしていた。

起こしてくれるはずの目覚まし時計は部屋の端で、何故かガラクタに成り果てていた。

 

もはや遅刻は決定、足掻いても意味はない。

よろしい、ならばあえてゆっくり行こう、という訳であった。

顔を洗い、川神学園の制服に着替え、外出の準備は完了。

 

「まずは飯食いにいくか。……そーだな、あそこでいいか」

 

とりあえず目的地は決定した。

腹ごしらえのために雹は家を後にした。

 

 

 

歩くこと数分……雹は目的地の前に到着。

そこで思わぬ人物と相対することになった。

 

「よぉ、お前か。何してんだ、こんな所で?」

 

雹が声をした方へ目を向けると、そこには無精ひげを生やした中年。

如何にも不審者然とした人物が――釈迦堂形部がそこに立っていた。

 

 

梅屋の前に。

 

 

「何って飯食いに来たに決まってるだろ」

 

見てわからないのか? と、雹は微妙に答えになっていないことを答えた。

釈迦堂が聞いた『何してる?』は、学校はどうした? という意味での質問だったのだが。

無論、雹もそれに気づいていたが、わざと見当違いを回答を選んだ。

 

「そうじゃねえよ……って判ってて言ってやがるな?」

 

「よく分かったな」

 

「おめーの性格の悪さは骨身にしみて、知ってるからな」

 

「失礼なマダオだな」

 

さらっと毒を吐きだす雹。

ちなみにマダオとは『真剣《マジ》でダメな男』の略称である。

定職にも就かず、ニートやってるという事で雹が付けたあだ名だ。

間違っても目上の人物に付けるあだ名ではないが、雹から長幼の序なんていう精神は逆さに振っても出てこないだろう。

 

「誰がマダオだ! って居ねーし……」

 

一瞬、目をそらしたスキに雹は釈迦堂の前から消えていた。

とは言っても、別に魔法を使ったわけでも、忍者になったわけでもない。

ただ、釈迦堂を放っておいて梅屋の店内に入っただけ、ただそれだけだった。

しかし、釈迦堂はそうは思わない。

自分は強い、それは自信を持って答えられる。

元とはいえ、川神院で師範代をやっていたほどに。

武神と恐れられる百代と正面から(勝てるかどうかは別として)やりあえるほどに。

そんな自分にこの青年(ガキ)は、

 

「研ぎ澄ませていた訳ではないとはいえ、俺にまったく気配を読ませねーとは……お前やっぱり――」

 

 

 

――おもしれーよ――

 

 

 

オチャラけた雰囲気が消え、その顔には狂気が滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、店内にて

 

「おい、なんか店員に変な目で見られてるんだが……?」

 

何した? と雹に視線で問いかける。

まず初めに雹を疑うあたりに二人の信頼関係がいかほどのものか、大体想像がついた。

雹を追い、店内に入った釈迦堂に向けられる視線は変、というより怪しい人物をみる、警戒した視線。

釈迦堂の注文を聞きに来た店員にも警戒されていた。

基本的に図太く、心臓に毛が生えた、鉄面皮の釈迦堂にしては珍しく、居心地悪そうに身体を攀じる。

仲良く? 横並びのカウンター席に並んで座る雹は、先に注文していた豚丼を口に運びつつ、隣の人物からの問いかけに親切に答えてあげた。

 

「いや、なに、店の前に怪しい人物が立ってます、って教えてやっただけだ」

 

「お前が原因かよッ!!」

 

釈迦堂のシャウトに対し、雹は冷静に応じる。

それも釈迦堂には微妙に腹立たしかった。

 

「いや、怪しいのは事実だし、何かキモくニヤけてたし? 弁解の余地はないな」

 

「おまっ、……本当に年上に対する気遣いが無いな。おじさんは悲しいぜ」

 

「なら、働けマダオ」

 

「だからマダオはやめろつってんだろ」

 

雹は何言ってんだこいつ、といった顔で、

 

「いい年こいて職に就いてないオッサンをマダオと言わずして何と言うんだよ? ええ、おい!」

 

「逆切れかよ!? いや、働いたら負けっていうかよぉ……面白くないと続かないんだよなぁ、オレ」

 

釈迦堂の完全に社会不適格者全開のセリフ。

これで元川神院師範代と言うのだからビックリである、人格も考慮しろよ、人格も、と思わずにはいられなかった。

釈迦堂に対して呆れると憐れみの成分を多分に含んだ視線を送る。

 

「……生きてる意味なくね?」

 

メンタルの弱い人間なら一発で自殺しそうなキツイ台詞と視線。

 

「仕事だけが生きる意味じゃねーぞ。若いの」

 

フッ、と何故かドヤ顔で雹の台詞を一笑。

そして何か突然、諭すようなことを言い出した釈迦堂に雹は無表情でさらに冷たく一言。

 

「働いてから言えや」

 

雹の口撃は釈迦堂にクリティカルヒットした。

視線を縦横無尽にバタフライさせる。

 

「……そのうちになぁ」

 

「こうしてマダオはマダオのまま、独り淋しく死んでいきましたとさ……お終い」

 

「おいおい、不吉な事口走ってんじゃねーよ。つーか、何か最近は川神(ここ)も住み辛くなってきたよなぁ。クリーンになってきたというか、アウトローには生きづらいぜ……」

 

億劫な表情で呟く釈迦堂。

 

「あれだろ、武士道プランのせい」

 

「武士道……何だそりゃ?」

 

雹の言葉に釈迦堂は疑問符を浮かべる。

雹はもはや呆れを感じるのがアホらしくなってきた。

こいつ、マダオすぎる……。

 

「知らないのかよ……。ニュースとかでやってるだろ」

 

「あぁ、俺がニュースなんぞ観るとと思うか?」

 

釈迦堂の大人として色々アウトなセリフに対して雹は、思わないな、と胸中で呟く。

この男が毎日、新聞を広げながらニュースに耳を傾けている姿などまったく想像できなかった――というか、そんな姿を見た日には雨どころか、大雪が降ってきそうである。

 

「で、何だその武士道なんちゃらって?」

 

特に深い考えも無く、世間話をするように問いかけた。

 

「……過去の偉人をクローンにして蘇らせましょう、っていうイカレたプロジェクトだ」

 

釈迦堂の何気ない問いに吐き捨てる様に雹は返した。

ずいぶん辛辣なコメントだった。

 

「……何だ? その武士道なんちゃらに何か思うところでもあんのか?」

 

何時もと違うナニカを雹のセリフから感じ取った釈迦堂。

普段のふざけた毒舌とは違う、心の底からの嫌悪と侮蔑を含んだ言葉。

何も映していないその無機質な瞳を見て、釈迦堂の背筋に冷たいものが奔った。

 

「別に何にも。ただ、今を生きてる人間に対して失礼だと思っただけだ」

 

が、それも一瞬ですぐに何時も通りの気だるげな雹に戻った。

恐怖とも、畏怖とも言うべきものを感じた自分自身に驚きながらも、釈迦堂は冷たく落ち込んだ空気を変えるように軽い口調で言った。

戦いの中ではこうゆう緊張感ある雰囲気は嫌いでは無いが、飯時に気にしないほど釈迦堂も壊れてはいなかった。

 

「まぁ、お偉いさんの考える事はわかんねぇからな。俺らみたいなのとは頭の構造が違うんだろ」

 

「俺ら? ……お前と同類に扱われるとは……俺も落ちたな」

 

真顔で落ち込み始めた雹。

 

もちろん上辺(ポーズ)だけだが。

 

「何ショック受けてんだよ。お前の方が言ってる事よっぽど、ヒデー事に気付け。俺の方が落ち込むだろうが」

 

結構本気でショックを受けている釈迦堂を見て、雹はからかいが成功した様子を見て軽く顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

店に入って約20分。

残っていた牛丼を平らげ、半分ほど残っていたお冷を飲み干した。

 

「俺はもう行く」

 

カウンター席から立ち上がる。

釈迦堂は追加注文もしていた二杯目の丼ぶりの中身がまだ残っていた。

 

「学校サボんなよ、不良生徒」

 

「お前は働け、マダオ」

 

互いに軽く悪態をつき、短く別れを告げて|金を払わずに≪・・・・・・≫店を出た。

食い逃げ? いや違う。

レジで釈迦堂にツケておいたので、食い逃げではない。

ツケ逃げ? である。

釈迦堂が気付いて、追いかけてこないようにそそくさと早足で梅屋から遠ざかる。

豚丼一杯、他人に押し付ける、セコい男であった。

 

「じゃ、後は任せた」

 

浮浪人であるマダオにすべてを押し付けて、雹は学校へと足を向けた。

遠くから『御崎ぃぃぃぃぃ!!』という中年の叫びのようなものが聞こえたような気がしたが、雹はスルーした。

 

「まったく近所迷惑なやつだ」

 

 

 

 

 





『待てや、コラ! テメーェェェエ!! ミサキィィィィ!!!』

『うおッ、マジか。もう追いついてきやがった。チッ、腐っても元師範代か!』

『豚丼の恨みヲォォォォ!!』

『ウルセェ! こちとら苦学生なんだよ! 豚丼一杯程度でキレるな、クソニート!!』

『オラァ! リング!!!』

『アブねェェェェェェェェ!? マジで殺す気か!?』



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