証を刻む   作:リクルート

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 最初、騎士団駐屯所へと訪問した少年を迎えたのは、赤い髪をポニーテールにしたシャスティル・アイヒーブという女性。木刀を持ってきた少年の頼んできたことは実に単純明快なことで、剣術を身に付けて強くなりたいということだった。

 彼女は聞いた。どうして剣術を身につけたいの?と。

 少年は答えた。認めてもらいたい人が……人?……相手がいるんです、と。

 

 シゾンタニアに在駐する騎士団の隊長は、ナイレン・フェドロック。剛胆且つ大雑把な性格だが、部下や市民から絶大な信頼を寄せられている。そんな彼が率いる騎士団は市民との交流も深く、少年の頼みを聞き入れた事も十分に頷けることだった。

 しかし、シャスティルが少年の頼みを聞いた理由には、もっと大きなものがある。それは、少年の意思の強さを感じ取ったから。シャスティルは、この街の子供達全員とはいかないが、大体は一度は見たことがある。灰色の髪のこの少年の事も例外ではなく、その時は、気弱な少年、という印象が強かったのだが、今の彼にはそう言った印象が全く見受けられなかった。

 ……しかし、実際はそうでもなかったかもしれない。

 

「それじゃ、取り合えず木刀を構えてみて」

 

 駐屯所の中庭へと案内し、少年に指示する。

 少年の構はどうだっただろうか?へっぴり腰、腕は縮こまっている、体全体にガチガチに力が入りすぎていて、構、というよりはただ木刀を持って怯えているだけだ。やはり、気弱な少年、という印象はまだ拭えそうにない。

 まずは構からしっかりさせる事に専念した。そして、基本的な素振りの繰り返し。初日はそれだけで終了。

 

 2日目。午後になり、少年は昨日と同じように両開きの扉に頭だけ突っ込んで声を出した。

 

「す、すいませーん」

「ん?おめぇは……」

 

 この日少年の訪問を出迎えたのは、たまたま正面入り口にいた煙管(キセル)を咥えた男性。この男性を少年は知っている。

 

「あ、フェドロックさん。あの、シャスティルさん、いませんか?」

「ああ、昨日の子か。生憎シャスティルは今出払っててな……」

 

 ナイレン・フェドロック。騎士団シゾンタニア支部の隊長だ。

 昨日の子か、と言った辺り、昨日の剣術指南を見ていたのだろう。少年は全く気付いていなかったが。

 

「そぉだなぁ……ちょっと待ってろよ~」

 

 待つこと数分、ナイレンが連れてきたのはシャスティルと全く同じ容姿を持つ別の女性だった。

 

「え?シャスティルさん?」

「こいつは、ヒスカ。シャスティルの双子の妹だ。今日はこのちっさい方に教えてもらえ」

「ちっさい、方?」

「気にしなくていいから!」

 

 と言われて気にならないわけがないのだが、とりあえず少年は気にしないことにした。

 

「昨日は、どのくらいやったの?」

「えっと、素振りしかやってません」

「じゃあ今日も素振りやって、適当に打ち合いしてみよっか」

 

 とりあえずはその方針に決定。

 素振りについて特筆すべきことはなく、すぐに打ち合いへと移行した。木刀を構え、そのまま素振りと同じ要領で木刀を打ちおろし、それをヒスカが弾いての繰り返し。(じき)にばてるだろうと思っていたヒスカだが、意外なことにも結構長い時間それは続いた。

 この少年、気は弱いが運動ができないというわけではない。実はこの少年、毎日走り込みをしているのだから体力には自信がある方だった。ただ、その体力に気迫が付いてこないだけ。

 

「明日はシャスティルが非番だから」

 

 次の日も、その次の日も、少年は駐屯所に通い、剣の指導を受けた。基本的にはシャスティルとヒスカのどちらか非番の方が指導してくれる。時にはナイレンが、その他の隊員たちが。

 

 少年が駐屯所で剣を教えてもらうのは、いつも午後からと決まっている。そして今日も、いつもと同じように騎士団駐屯所へと向かっていた途中、少年は声をかけられた。少年の友人に。

 

「お前最近、剣教えて貰ってるんだってな。どれだけ強くなったか俺たちが見てやるよ」

 

 木刀を肩に担いで、挑発的な態度を取る友達。

 少年の目標としては、魔物を倒せるようになってエンテレケイアさんに認めてもらうこと、なのだが、自分と同じ子供に勝てないようでは魔物を倒すなんて到底無理なことだ。

 

「でもお前ビビリだから、いきなりじゃ実力出せないだろ。明日、またここに来いよ。まあ、結果は同じだけどな!」

 

 にげんなよ~、と言い残し、高笑いしながら少年に背を向け取り巻き的存在である者と一緒に去っていく。

 チャンバラ、というのは子供たちの中では腕試しでよく使われる方法だった。少年は彼らとは何度も戦ったことはあるが、勝てたことは一度もないのだ。

 しかし、それは今は昔の事だ。

 ここ数日毎日剣を教えてもらっているのだから、きっと勝てる。そんな自信が彼にはあった。

 

「ってことがあって。だから、何か技教えてください」

武醒魔導器(ボーディブラスティア)無しに出来る技と言ったら……瞬迅剣と虎牙破斬くらいかしら?」

「威力は全然でないけどね。形だけなら」

 

 今はシャスティルとヒスカ、どちらも非番の時間だった。そして、先ほど友達から挑戦を受けたことを2人に話している。

 少年は訓練初日とは見違えるほどに剣の腕は成長していた。それは彼自身よりも、彼を指導してきた2人の方が実感している。だからこそ、そろそろ技を教えてもいいだろうという判断を下した。

 彼女らは戦闘が得意というわけではないが、騎士団として学ぶ基本的な技はちゃんと習得している。

 まずは、シャスティルが見本を見せ、見よう見まねに少年も挑戦する。

 力を入れるタイミングや力の引き出し方など、細かいところもちゃんと出来るようになって、晴れて習得と言えるのだが、驚いたことに、少年は短時間で見事に習得してみせた。といっても、基本中の基本な技だから当たり前かもしれないが、ここまで早く完璧に習得するのは、難しいことだ。

 

 スポンジのように教わったことを素早く吸収する彼の成長ぶりには驚かされる2人。

 更には、彼はアレンジを加えてみせる。

 例えば虎牙破斬。

 

「なんか、斬り上げから斬り下げへの切り替えしが……逆の方がやりやすいです」

 

 虎牙破斬は『跳びながらの斬り上げ、着地しながらの斬り下げ』という順に流れるような2連撃を繰り出す技だ。それを彼は順序を逆にし『斬り下げ、跳びながらの斬り上げ』へと。とても単純なアレンジではあるが、それだけで力の入れ方やタイミングなどが変わる。そういう意味では、アレンジするだけなら簡単だが、アレンジ技の『習得』は難しいと言える。

 

「名付けて双牙斬!隙が大きいのが、難点ですが……」

 

 アレンジできても、強力な技になるとは限らない。

 

「じゃあ、今日はこれで」

「わかったわ。明日、負けちゃだめだからね!」

「はい!ありがとうございました!」

 

 少年はこの日はいつもより早めに切り上げ、自宅ではなく一直線にとある場所へと向かった。

 街を出て、結界の外へ。

 森の中へ。

 およそ2週間ぶりの結界の外。始祖の隷長(エンテレケイア)は、シゾンタニア北方の森の一部を自分の縄張りにしたため、魔物は近寄らないと言っていた。しかし、それに浮かれて安易に結界の外へ出たため、始祖の隷長(エンテレケイア)は少年に悟らせ、力を付けろと言った。

 今の少年には、まだ魔物を倒すほどの、身を守るほどの力は身につけてはいない。

 それでも、少年はこの森へと足を踏み入れた。

 

「……来たか、人間」

「エンテレケイアさん。まず最初に、ごめんなさい。まだ魔物に勝てるほど力は付けて来てないんです。たぶん」

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)が寝床としているであろう、例の広場。そこには、2週間前と同じように横たわっている黄色の獣がいた。

 始祖の隷長(エンテレケイア)は体をゆっくりと起こし、少年の前まで歩いて近づいた。殺そうと思えばいつでも殺せる距離。鋭く大きな爪の突いた前足を振り上げ、少年へと振り下ろす。

 

「……確かに、まだまだ未熟ではあるな」

 

 少年は木刀で防ぎはしたものの、力に耐え切れず踏みつぶされてしまった。

 

「……に、肉球的な、何かがっ!」

 

 痛くはなかったようだ。

 

「なぜここへ来た」

「今の自分の実力を、知っておきたくて」

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)に押しつぶされた時点で、少年の実力はその程度……なのだが、始祖の隷長(エンテレケイア)は魔物よりも遥かに強大な力を持っているのだから仕方のないこと。 

 始祖の隷長(エンテレケイア)は少年の言葉にしばしの黙考の(のち)、押しつぶしていた前足をどかし、数歩後退する。

 

「力を示して見せよ」

 

 少年は背中や尻についた草を払いながら立ち上がり、キッとした目つきで始祖の隷長(エンテレケイア)を見据えた。木刀を構えて相手の様子を伺うが、動こうとしている様子は全くない。

 それもそのはず、始祖の隷長(エンテレケイア)には少年を攻撃しようという気は全くないのだ。ただ少年が自分に斬りかかってくるのを待っているだけ。

 それに気づいた少年は駆け出して横薙ぎに木刀を振るが、始祖の隷長(エンテレケイア)の前足に難なく受け止められ、弾くのではなく押し出される様に後ろに飛ばされた。ふわっとした勢いで地面に着地し、もう一度地を蹴って始祖の隷長(エンテレケイア)に斬りかかる。

 その後も何度も斬りかかるが、すべて受け止められて決定打となった一撃は一つもなかった。それどころが、時々繰り出される始祖の隷長(エンテレケイア)からの攻撃に苦戦していた。しかしこっちは次第に受け流したり(かわ)せるようになっている。

 

「十分だ」

「はぁ、はぁ、はぁ……どう、でしたか」

「話にならぬ」

 

 その言葉に、少年は俯く。

 しかし始祖の隷長(エンテレケイア)は「だが」と言葉を続けた。

 

「2週間でこの成長は評価に値する」

「っ!?……へへっ、そうかな?ありがと」

 

 肩を大きく動かしての呼吸を落ち着かせ、少年は仰向けに倒れた。大の字に四肢を広げ、目を閉じて心を落ち着かせ、少年は再び口を開いた。

 

「明日ね、友達と腕試しをするんだ。まだ一度も勝ったことないけど、僕だって強くなったんだ。だから、絶対に勝つ。……エンテレケイアさんに見せてあげられないのが、残念…だけ…ど……」

「…………」

「…………」

 

 一定のテンポで上下する少年の胸。

 

「……寝るな。直に日が落ちる」

「う、うん」

 

 少年はゆっくりと立ち上がり、一度大きく背伸びしてから街へと帰って行った。

 

 後日。

 

「お?来たな」

 

 少年を公園で待っていたのは、4人の友人達。

 その内の一人が、少年に近寄って小声で話しかけてきた。

 

「おい、本当にやるのかよ。お前一度も勝てたことないだろ?」

「わかんない。だけど、逃げるわけにはいかないよ。一応、自身はあるし」

 

 この少年は一応はこちらの身を案じてくれているようだ。

 しかし、少年の自信は昨日と変わっていない。勝てる自身はあった。

 少年の相手は、一つ年上の髪を逆立てた少年。背も運動神経も力も、総合的に自分より上の相手。

 両者は互いに木刀を構え、相手を真直ぐ見据えた。

 今から腕試しが始まろうとしている雰囲気を感じ取ったのか、周りには年の近い少年少女たちがギャラリーとして集まりつつある。

 

 初手を繰り出したのは相手の方だった。

 単調な振り降ろし攻撃。今までの自分ならばこれだけで負けていたかもしれないが、今の少年は違う。怖がらず、しっかりとその攻撃を見据えて防いだ。そのまま弾いてこちらも木刀を振るが、こちらの攻撃も防がれてしまった。

 この腕試しは、どちらかが降参するか決定打を与えるまで続く。決定打と言うと、打撲などを負ってしまう危険があるため、一応はプレート防具を互いに付けてはいる。

 開幕互角かと思われた腕試しは、次第に少年の優勢に傾きつつあった。相手の攻撃はすべて防がれ躱され、少年の攻撃は相手の防御を揺らし、相手の体を僅かに掠める攻撃が続いた。

 そして、相手に決定的な隙が生まれた瞬間に……

 

「瞬迅剣!!」

 

 シャスティルとヒスカから教わった技が相手の腹の中心へと決まり、相手はそれに耐えきれずに尻餅をついた。プレートを付けているし、武醒魔導器(ボーディブラスティア)は付けていないし、木刀であったため怪我はないが、決定打となったことはその場の全員が認識した。

 今まで全戦全敗の少年が勝ったのだ。歓声が沸き上がらないわけがない。

 ワアアアアァァ!!と歓声が上がる中、少年もガッツポーズをした。

 次には、友人たちからの惜しみない賞賛が……と思われた次の瞬間、少年にやってきたのは衝撃波。地面を数回転して転がり、体制を立て直してその衝撃波がやってきた方を見れば、先ほど少年が腕試しで勝利したはずの相手だが木刀を振り終えた体勢だった。

 突然の出来事に少年の頭はついてこれず、周りの歓声も止んでいた。

 

「オラもういっちょ!」

 

 再び襲いくる衝撃波を横に跳んで躱す。

 

「お、おい何やってんだよ!もう勝負は終わっただろ!」

「うるせぇ!こんな奴に負けたなんて俺は認めねぇぞ!親父の部屋からこっそり持ち出した武醒魔導器(ボーディブラスティア)。本当は使うつもりじゃなかったんだがな」

 

 観戦していた少年が止めようとするが、相手の少年は聞き入れず暴挙に出た。

 先ほどまで何も付いていなかった相手の手首には、黄色の腕輪、そして赤い四角形の小さい魔核(コア)武醒魔導器(ボーディブラスティア)とは、装備者の能力を高める魔導器(ブラスティア)であり、一般人でも強力な魔術が使えるようになる。それは貴重な物で、普通は騎士団や一部ギルドくらいにしか手に入れることはできない。しかし、絶対というわけではないので、相手の少年の父親が武醒魔導器(ボーディブラスティア)もっていたことは珍しいことだが、まだ頷ける。

 相手が放ったのは、魔神剣。衝撃波を放つため、武醒魔導器(ボーディブラスティア)無しでは使用することができない。それだけでも強力なのだが、武醒魔導器(ボーディブラスティア)の恵みはそれだけにとどまらず、基本的な身体能力も格段に上がっていることだろう。

 腕試しどころでは済まなくなった勝負。力の無い周りの子供たちに止めることなどできず、圧倒的に不利な状況へと追いやられてしまった。必然と少年の体力が削られ、怪我も増えていく。

 

「はぁ、はぁ……くっそ……」

「やっぱお前じゃ俺に勝てないんだよ。これで(しま)いだ!」

 

 木刀を地面に突き立てて体を支えている少年に、衝撃波が迫る。躱すこともできず、目を瞑って衝撃が襲いくるのを覚悟したが、その衝撃波は少年に当たる寸前、紫電の光に阻まれ霧散した。

 

「なん……だと……?」

 

 相手にも、周りの子供達にも、少年自身にも理解できない現象だったが、緊張が解けた少年は木刀を突き立てたまま膝を地面へとつけた。

 

 大きく距離を取って観戦するしかなかった子供達の中に、一人だけ少年から僅か3メートルの場所に立っている青年がいた。黄色い髪に鋭い目つきをした青年。

 青年は両手をズボンのポケットに突っこんだまま少年に近づき、声をかけた。

 

「……人間。貴様の力はその程度か?」

「っ!?……エンテレケイア、さん?」

「魔女を探しに行くのであろう?ならば手始めに、あの程度の敵、倒して見せよ」

「……休憩してただけだよ。ちょっと待ってて」

 

 強がって、フラフラしながら立ち上がる少年。

 青年、もとい始祖の隷長(エンテレケイア)はそんな少年の肩に手を置き、耳元で囁いた。

 

「とは言え、相手は魔導器(ブラスティア)を付けている。少しばかり、我の力を与えよう」

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)が木刀に触れると、その木刀が雷を纏い始めた。時折バチバチと音を立てながら、木刀の周りを小さく飛び交っている。

 

「さぁ、行け」

 

 背中を押され、少年は気迫を宿した目で相手を捉えた。

 

「よくわかんねぇけど、今度こそ!魔神剣!」

 

 迫りくる衝撃波。少年が木刀を一振りすれば、その衝撃波は先ほどと同じく霧散した。

 これならいける!少年は今一度地を蹴り、相手に迫った。

 

「くっそお!魔神剣!魔神剣!魔神剣!!」

 

 何度も放たれる魔神剣は、少年の地を駆ける足を止めるには至らない。

 

「魔神っ!」

「させないよ!」

 

 少年が放つのは双牙斬。斬り下げで魔神剣が放たれる前に木刀を弾き、無防備となった相手の顎にジャンプしながらの斬り上げを叩き込む。少年の木刀が相手にヒットするたびに電撃が流れ、バチンッ!と激しい音を響かせ、相手の体が僅かに宙に浮く。

 

 しかし、少年の攻撃はこれだけでは終わらない。

 

 斬り上げながらのジャンプの頂点から、さらに雷を纏った木刀を斬り降ろす。

 

「襲爪、雷斬!」

 

 トドメの一撃が相手の頭頂に炸裂。

 相手の少年は地面へと力なく倒れ、気絶した。

 怒涛の3連撃と逆転劇に周りは静寂に包まる。

 しかしその静寂はすぐに破られ、次いで激しい歓声が再び湧き上がった。

 

 ワアアアアァァァ!!

 

 少年も、本日2度目のガッツポーズ。

 しかし、少年の視線が倒れている相手に向けられた瞬間、少年は青ざめた。

 

「ど、どうしよう……」

 

 気絶している少年の顎には、打撲と火傷の跡。そして頭頂の髪がチリ焦げていた。

 要するに、ついやりすぎてしまったのだ。下手したら火傷の跡が残るかもしれない。ひびが入っているかもしれない。少年の方も傷を負っているが、目の前で倒れている少年ほどではない。

 

「落ち着け。そう慌てるでない」

 

 激しく動揺する少年に声をかけたのは、青年の姿をした始祖の隷長(エンテレケイア)

 彼は気絶している少年の傍らにしゃがみ、顎に手を当てると、手に柔らかな光が灯った。

 

「これは……治癒術?」

 

 気絶している少年の顎にあった打撲と火傷の跡はなくなり、次いで頭にも同じく治癒術をかける。

 

「これで怪我も、傷跡の心配もない。安心しろ」

「あ、ありがとう、エンテレケイアさん……でも……」

 

 少年が言い淀みながら向けた視線の先は、気絶している少年の頭。怪我は治っているだろうけど、髪の毛がチリ焦げたままだ。これではいい笑いものになってしまうだろう。

 

「時期に髪が伸びてなおる。それに、こやつにはちょうど良い罰だ」

 

 喋り方も表情も決していつもと変わっていないが、内心ではわずかに楽しんでいるのかもしれない。

 

「……人間、見事であった。明日、我の元へ来い」

 

 そう言い残してこの場を去ろうとする始祖の隷長(エンテレケイア)。少年としては、いろいろと聞きたいことがある。なぜこんなところにいるのか、どうして人間の姿なのか、今の言葉はどういう意味か。後を追おうとしたが、押し寄せる子供たちがそれをさせなかった。

 

「すげえよお前!いつの間にこんな強くなったんだ?」

「俺も騎士団の人に教えてもらおっかなあ」

「ぷぷっ。見ろよあいつの髪。てっぺんだけ焦げてやがる」

 

 賞賛の言葉が送られ、囲まれ、そのまま胴上げへと移った。

 宙に浮いては落ちての繰り返しの中、少年は去っていく始祖の隷長(エンテレケイア)の背を見送った。

 

 




 週一で更新できたらいいなぁ、って思ってたら、できませんでした。ストックが全然たまらず。

 少年VSガキ大将的な少年
 少年の名を明かしてないので、すごく書きづらかったです。読んでいて分かりにくかったかもしれません。だったら少年の名を明かせばいいと言う話になりますが、そこはちょっとしたこだわりがありまして……


 アドバイスなど頂けたら、嬉しいです。
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