証を刻む   作:リクルート

3 / 3
 お久しぶりです
 失踪する気満々でしたが、暇だったので少しずつ執筆していたら出来上がったので、投稿です。
 そして、やっぱりストックありません。




 少年が腕試しをして勝利した後日。

 「明日、我の元へ来い」という言葉通りに少年は森へとやってきた。

 シゾンタニア北方の森は始祖の隷長(エンテレケイア)の縄張りとなっているため、魔物は現れない。そんな森を歩くこと約1時間。僅かな木漏れ日の差す例の広場へとやってきた。

 少年を待っていたのは、広場の中心で横たわっている始祖の隷長(エンテレケイア)

 始祖の隷長(エンテレケイア)の前に突き刺さっている剣が気になりつつも、近づき言葉を待った。

 

「その剣を持て」

 

 言われた通りに地面に突き刺さった剣を抜き取ると、始祖の隷長(エンテレケイア)はのっそりと体を起こし、付いてこい、と一言だけ言って歩き始めた。事の詳細を求めたいところだが、始祖の隷長(エンテレケイア)のことだ。無駄なことではないだろうと少年は考える。今からやることは、きっとなにか大切なことなのだ。だから少年は、言われるがままに後を付いていく。

 しばらく歩いて始祖の隷長(エンテレケイア)が立ち止まったのは、彼の縄張りの端に位置する場所。その場に近づいてくる存在の気配を感じ取ったのか、数メートル先には魔物たちが目を、牙を鈍く輝かせている。狼系の魔物特有の呻き声が、魔物に襲われた時の記憶を呼び覚まし少年に恐怖を与える。

 二週間前、これと同じ状況で少年は始祖の隷長(エンテレケイア)に悟らされた。力もないのに結界の外にでるな、と。

 

「……5体か。人間、この先にいる5体の魔物を倒せ」

「…………」

 

 大方予想はついていた。だから少年はすぐに理解した。ここで魔物に勝てることを証明し、力を示さなければならないのだと。

 だが、この先には5体もの魔物がいる。一度だけ魔物と対峙し、運よく1体だけ倒せたことがある少年だが、15年という人生で魔物を倒したのは、その一回だけなのだ。魔物と戦うのは初めても同然だというのに、1体でも勝てるかどうか分からないのに、5体も同時に相手に出来るだろうか。そんな不安が少年に募る。

 しかし、きっと始祖の隷長(エンテレケイア)は少年になら倒せると分かっているのであろう。だからこそ力を示すチャンスを与えられたのだ。だからこそ少年は剣を持たされたのだ。

 覚悟を決め、一歩を踏み出す。その一歩で縄張りから出たのか、瞬間に魔物たちの標的は少年へと絞られた。少年も自分が完全に標的にされたことを感じ取り、恐怖で退こうかとしたが、後ろからかけられた声がそれを止める。

 

「止まるな」

 

 2歩目を踏み出し、そのまま地面を強く蹴る。

 ここら一帯には狼系の魔物がほとんどだ。この先にいる魔物も、全部狼系の魔物だった。

 一昨日の始祖の隷長(エンテレケイア)との稽古で、なんとなく4足歩行の相手の戦い方を掴んでいた少年は、飛びかかってくるウルフの攻撃を避けつつ、その腹に剣を突き立てた。このウルフより何倍もの大きさの始祖の隷長(エンテレケイア)と戦ったのだ。それに比べれば、今の少年にとって、これくらいは容易なことだった。

 ブシュウウ!と音を立てながら勢いよく血が噴きだし、ウルフは何も捉えることなく地面へと落ちた。その後同時に飛びかかってきた2体は避けずに、攻撃が届く前に斬り落とす。対魔物戦闘の素人である少年にはその2匹を完全にしとめることはできず、自分に突き出された前足を斬る程度の傷しか与えられなかったが、それでも十分に深い傷を与えた。キャンッという街にいる犬が鳴いた時と対して変わらない、その容姿からは意外と言える鳴き声をあげ、その2匹は血を垂らしながら森の奥へと逃げていった。

 しかし、それに目をやっている余裕は少年にはない。更にもう1体のウルフが先の2体に隠れて飛びかかって来ていたため、返り討ちにすることはできなかった。剣で防ぐもそのまま押し倒されてしまい、襲いくる牙を横幅10センチ程の剣の側面でなんとかくい止める。このままではいつ5体目のウルフに襲われるかも分からない。剣と牙がこすれる音が目の前でなり、顔に垂れ落ちる魔物の涎に耐えながらも何とか横に飛ばし、すかさず立ち上がってウルフへと剣を突き刺す。

 今の一体のせいで少年は傷を負った。二の腕についた、その浅くも鋭い傷からは血がほんの少し滲み出て、服がそれを吸収して肌にへばりつく。その傷から出た血だけではなく、先の3体を斬った際の返り血だって動揺に服が吸収してしまって肌にへばりついている。

 切り傷が痛い。服がへばりついて、血が生暖かくて気持ち悪い。まだ死んでしまうかもしれないという恐怖が拭えない。

 それでも、恐怖を感じていながらも負ける気はしなかった。ほんの少しだけ、少年に気持ちに余裕ができてきたのだ。

 その小さな余裕で、思考の片隅にて考える。

 

(川で血を洗い落さなきゃ。母さんが心配する)

 

 残るは一体。少年は再びその足で地を蹴り、跳びかかってくる魔物と対峙する。

 

 

 * * *

 

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)の寝床である森の広場へと向かう者がいた。一人は騎士団シゾンタニア支部の鎧を身に纏った長身の煙管(キセル)を咥えた大人の男性。人間はこの男一人だけ。その男に付き添い、先導して歩いているのが、青い毛並みと犬用の鎧を身に纏った騎士団所属の軍用犬。この軍用犬は鼻を地面に添わせながら少しづつ進み、一人と一匹は確実に始祖の隷長(エンテレケイア)の元へと近ずいていた。

 一方で、例の如く草花を下敷きに横たわっている始祖の隷長(エンテレケイア)は、近づきつつある存在に気付いていた。例の少年ではないことも分かっている。

 時折、ここに近ずく者がおり、その気配に気づく度に始祖の隷長(エンテレケイア)は見つからないように移動しているのだが、今回はそうはしなかった。近づきつつある存在が、一応は知り合いだから。そしてその人間が、他の人間よりは賢明な者であり、ここに来るにはそれなりの用事があるのだろうと考えられたから。

 

 茂みから、一人と一匹が姿を現す。

 

「グルルルル」

「ランパード」

 

 犬は匂いで敵のだいたいの力を把握する。おそらく、敵わないことも理解していることだろう。それでも、この勇敢な軍用犬は始祖の隷長(エンテレケイア)を見つけた途端に唸り声を上げて威嚇する。しかし、騎士は至って冷静に軍用犬を宥めた。

 騎士は始祖の隷長(エンテレケイア)の前まで近づくと、声をかけた。

 

「久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」

「……なんの用だ」

「なに、ただ様子を見に来ただけだ」

 

 騎士の名は、ナイレン・フェドロック。シゾンタニア支部の隊長である。そして軍用犬は、ランパードという。

 ナイレンと始祖の隷長(エンテレケイア)の出会いも、少年と始祖の隷長(エンテレケイア)の出会いのように単なる偶然であった。ただ、命の恩人などという間柄ではなく、ナイレンと始祖の隷長(エンテレケイア)の出会いは、偶々遭遇し、警戒して剣を抜くナイレンをよそに始祖の隷長(エンテレケイア)が去って行っただけだ。ナイレンは襲われなかったことに疑問を抱いたが、これだけ大きな魔物を放っておくわけにもいかず、独自に調査を進め次に出会った時に話を聞くことに成功し、一応は知人の間柄となっている。ナイレンと始祖の隷長(エンテレケイア)が会ったのは、まだたったの2回だけ。今回で3回目となる。

 ナイレンは胡坐(あぐら)を組んで座りこむと、再び口を開いた。

 

「……実は、2つほど、話があんだ」

「…………」

「最近、こっちの森に魔物が全く現れなくなってな。ここに来る途中も、一回も遭遇しなかった。どういうことだ?」

「ここら一帯、我の縄張りにした」

「やっぱりか。うちの部下も魔物が縄張りを作ったんだろうと予想していたが、お前で良かったよ。あー、でもなんて報告すっかなぁ」

「次の要件はなんだ」

「そうせかすなって。……昨日、街の子供が剣を持って結界の外に出ようとしていた。それも、こっち側の森にだ。昨日はたまたま部下が見つけて止めた。一応は家に帰らせたが、事情を聴いても答えてくれなかったらしい。まさかとは思うが……」

「ライガー!」

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)の名を呼びながら、茂みから木刀を持った灰色の髪の少年が出てきた。なぜ剣ではなく木刀かというと、「こんな物騒な物は没収だ」ということで昨日騎士に見つかった際に募集されてしまったのだ。だから、仕方なく木刀で我慢した。

 その声に、ナイレンとランパードが振り向く。

 

「って、あれ?ナイレン、さん?どうしてここに……」

 

 少年も近くに駆け寄り、ナイレンに気付いては驚きに疑問を投げかける。

 ナイレンは深くため息をついた後、ライガに視線を戻した。

 

「やっぱお前さんだったか。ま、これもお前で良かった、と言うべきか」

「どどどどど、どうしよう」

 

 ナイレンの話にあったように、少年は昨日結界の外に出ようとしたのを騎士団に止められた。それに、最近はよくこうして結界の外に出ていること自体、誰にも知られていなかったのだ。ここでナイレンに見つかってしまったから街に連れ戻されると思った少年は焦り、考えた。

 そんな少年に、ナイレンが声をかける。

 

「安心しろ。連れ戻したりしないさ」

「よ、よかったぁ~」

 

 2人のやり取りをよそに、ライガは体を起こすと歩きだした。少年もそれに気づき、ライガの後に付いていく。

 

「ちょっと待て」

 

 ナイレンの制止に少年は振り向くが、ライガは前を向いたままだ。

 

「あー、ボウズ。たまには、こっちにも顔出してくれ。ヒスカとシャスティルが会いたがってたぞ」

「わかりました」

「それと……お前、ライガって言うんだな。そんなにその子がお気に入りか?」

「…………」

「ま、いいさ。ちゃんと守ってやれよ」

「心配は無用だ」

 

 少年とライガは再び歩き始めた。

 

 少年は最近はよくこうしてライガの元に訪れては、噂の魔女を一緒に探していた。

 そもそも、少年が魔女を探しに結界の外に出たのは、罰ゲームのかかったジャンケンに負けたからだ。しかし、そんなものはとっくの昔に時効となっているうえに、その噂は既に自然消滅している。それでも少年が魔女を探しているのは、偏にライガと一緒にいるためだ。

 例の腕試しで子供間での少年の認知度は格段に上がった。よく一緒に遊ぶようになった。決してつまらなくない。

 それでも、少年は何か物足りなく思ってしまう。

 そう思うのは比較の問題で、ライガと一緒にいる時の方が、少年にとっては楽しい時間であるためだ。ライガは口数が少なく、無駄なことは喋らない。そうした経験から、少年は自分が静かな方が好きだと言うことを理解した。ライガが命の恩人だから、という理由が少なからずあるかもしれないが、ライガと一緒にいた方が落ち着きを覚えている。

 ライガはお喋りではないし、会話を膨らませようとはしない。一方的に少年が話しかけているだけだ。そんな会話ともいえない会話をするのも、日の光を浴びながら何もせずぼーっと寝っころがっているのも、少年は嫌いではなかった。それでも、さすがに飽きは来る。だから少年は魔女探しという名の探検をし、ライガはそれについて行っている。

 ナイレンと別れた後も、まだ探索していないところを時折現れる魔物を倒しながら、ただ歩きまわっていた。少年は魔物との戦いはもう慣れたもので、たまに苦戦や傷を負いはするが、返り血を浴びないうまい戦い方というのを身に着け始めていた。やはり、わざわざ血を洗い流すのは面倒なのだ。それに、濡れた服を着ることを好む者もいないだろう。

 

「どうする?ライガ。街の周り一帯はもう大体見て回ったけど……探索範囲広げようにも、日が落ちるまでに帰れなくなっちゃうし……」

 

 先導して歩いていた少年が後ろにいるライガに振り返り、見上げながら相談すると、ライガはしばらく黙考した後、伏せてから言葉を発した。

 

「……乗れ」

「……え?」

 

 鳩が豆鉄砲をくらったような顔、というのは、まさに今の少年の顔の事を言うのだろう。

 少年は今までに、背中に乗せて欲しそうな視線をライガに送っても「乗せんぞ」と返ってくる、というやり取りを何度か繰り返すうちに半ば諦めかけていたため、今こうしてライガの方から背中に乗せてくれると言ったことが、驚きでならないのだ。

 ライガとて、好き好んで背中に乗せようとは思っていない。それでも、『どうでもいい』という区分に位置する人間に背中に乗ることを自ら許した。ライガの中で『少年』もしくは『人間』に対しての考え方が変わりつつあるのは明白だ。

 

「じゃ、じゃあ、失礼して」

 

 内心では、すごく嬉しく思っている。それと同時に驚きもあり、少し遠慮がちにライガの背中へとよじ登った。ガクンッと揺れ、少年の視界の位置が高くなる。

 少年を乗せたライガはゆっくりと歩き始める。いつもより高めの視界から見た森は、新鮮味があり、普段自分で歩くよりも速く景色が移り変わって行く。つまりは、ライガはいつも少年の歩調に合わせて付いて来てくれていたということだ。

 少年が今まで体感したことのない新鮮味に浸っていると、再び急にガクンッと揺れた。その揺れに反射的に目を閉じ、ライガの体毛を掴んで振り落とされないように引っ付いた少年が恐る恐る目を開ければ、少年の視界に飛び込んできたのは緑溢れる森林ではなく、山などによって凸凹としている地平線。この状況をなんとなく理解しつつも、ゆっくりと視線を右下方に移す。そこには、先ほどまで自分がいたであろう森。上を見上げれば、手を伸ばせば雲さえつかめそうなほど近くに感じる空。

 ライガが上下していることにより、少年も揺れる。視界が安定せず、上下に揺れる。

 

 空を飛んでいる。

 

 鳥のように翼をもっていないライガに、どのような力が働いて空を飛んでいるのかは少年には理解できない。それでも、ライガは飛んでいる。しかしその姿は『飛んでいる』というよりは『走っている』と表現した方が適切だろう。

 初めての体験に新鮮味があるどころではない。ここまで来ると感動すら覚える。

 その感動故に、無意識のうちにライガの体毛を掴む手の力を弱めてしまいバランスを崩した少年は、落とされまいと今度はライガに抱きつくようにへばりついた。体の前面がライガの体毛に触れ、これはこれで眠ってしまいそうな程とても気持ちいい。ただ、獣臭いと言うよりは犬臭いに近い匂いが少年の鼻腔を刺激し、睡魔に襲われるようなことはなかった。

 抱きつくような形でしがみついた姿勢のまま、後方へと目をやった。遠く離れたところに、シゾンタニアがある。

 普段ライガと共に魔女探しをしている時は、夕時までには帰れる、くらいの距離までしか街から離れたこととしかなかったが、今のこの状況は確実にそれ以上の距離、街から離れているだろう。

 馬を乗リこなす時は、こんな感じだろうか。などと考えながらも、何とか状態を起こす。視界の揺れも、バランスも安定してきた。

 

「ライガー!空飛べるんだったら、もっと早く教えてくれても良かったじゃないか!」

「…………」

 

 聞こえなかった、ということはないだろう。それでも、やはりライガは何も答えない。

 返事がないことに慣れはしたが、それでもたまには返して欲しいものだ。

 ムスッと顔をしかめながらも、少年の心は今嬉しさで一杯だった。

 しばらくして、ライガが少年に語りかけた。

 

「貴様は、魔女の存在を信じているか?」

「はっきり言っちゃうと、信じてない。でも、いたら面白いよね!」

「会いたいか?」

「会いたい!」

 

 少年は満面の笑みで即答し、再びライガは黙り込む。

 この質問の意図に疑問を持ちつつも、高度は次第に下がっていった。ライガの体力に限界が来たとか、そういったことではない。ライガの意思によって、地面に降りようとしている。

 眼下にはまだ森が広がっている。都合よくぽっかりと木が避けて穴が開いている場所に降り、やがてライガの四肢が地につく。そのままライガは地に腹を付けるように伏せた。つまりは、降りろと言うこと。それを悟った少年は、名残惜しみながらもライガから飛び降りる。

 

 森の探索時、基本的には少年が先導するが、時折ライガが少年を追い越して先導することがある。少年がその理由を尋ねたところ、見回りの騎士、その他の人間に出くわさないように、とのことらしい。

 今まさに、その状況にある。しかし今回は、人間に出くわさないように、という理由は考えにくい。シゾンタニアの騎士がここまで離れたところに見回りに来るとは考えにくいし、この付近に街があるとも聞いたことがないからだ。

 いずれにせよ、少年はライガについていく以外の選択肢はないのだが。

 時折、小さな杭の様な物が地面に刺さっていた。どうやら、ライガはこの杭の様な物に沿って進んでいるようだ。

 ライガが立ち止まる。その視線の先には、一件のボロ小屋が。

 

「……あれは?」

「噂の真相だ」

「噂って、もしかして魔女の?本当だったんだ」

 

 魔女が出る、という子供間で広がった噂。それが本当だったとしても、こんなに離れたところに住んでいる者の噂が、どうして遠く離れたシゾンタニアに広がったのだろうか。正直、少年にとっては別にどうでもいいことなのだが、謎が残る。

 それよりも、少年の思考の割合を大きく占めることがあった。

 

 なぜこの小屋があることを知っているのか。どうして教えてくれなかったのか。

 聞いたって、ライガはきっと答えてくれないだろう。だから、少年は敢えて聞かない。

 

「よし!じゃあ行こう、ライガ」

 

 茂みをかき分けて歩き出すが、ライガはついてこなかった。数メートル離れたところで、少年が問う。

 

「どうしたの?ライガ」

「我は行かぬ」

「えー、どうして」

「多くの者に我の存在を知られるわけにはいかぬのだ」

「人間の姿になれるのに?」

「それでもだ」

 

 ライガは頑固として行こうとはしなかった。

 ライガは始祖の隷長(エンテレケイア)だ。でもそれを知らない人は、巨大で危険な喋る魔物、という認識をするはずだ。

 確かに、そんな存在を知られるわけにはいかない。それは少年にもわかる。でも、ライガは人間の姿になれるのだ。なのに、なぜ?万が一のことを考えての事だろうか……少年には、ライガの考えがよく分からない。

 一方で、ライガが付いてこないとなると不安になる。

 魔女なんて呼ばれる存在だ。きっと恐ろしいに違いない。強力な魔術で一瞬で殺されるかもしれない。殺されないにしても、どんな目に合うか分からない。

 

 そんな少年の様子を見て、ライガは心の中で溜息をつく。

 やはり、この少年は自分に依存している。街の子供たちに自分の事を認めさせ、弱い魔物相手なら勝てる程の力を身に付けても、やはり子供。一人では、どうしても恐怖を拭い去れないのだろう。

 それに、今回は相手の問題もある。どうせここに住み着いた魔導師の類だと思われるが、少年にとっては魔女などという未知の存在なのだ。怖がるのも、仕方のないこと。

 ライガに頼らず自分の力で切り抜けられるようになって欲しいと、親の様な思いが今のライガにはある。だから、ここは一人で行ってほしい。

 少年は剣を没収されているため、今の武器は木刀だ。さすがにただの木刀では魔物と渡り合うのは難しいため、ライガの住処を出た時、すでにその木刀には雷が纏わせてある。大抵のことは、それで乗り切れるだろう。

 とは言え、少年に何かあればすぐにでも助ける気ではいる。中で何が起こっているかは、匂いと音と気配で大体は分かるのだから。

 

「いざとなれば、我が手をかそう」

 

 そう、手を貸すだけ。根本的な解決は、少年自身にやらせる。

 

 少年に不安は残る。

 それでも、好奇心がある。いざとなったらライガが助けてくれる。その二つが、不安を上回った。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

 ライガに見送られつつ、少年は歩き出す。木製の扉には、掛け軸も表札も何もない。

 ノックをするが、返事は返ってこない。留守だろうか。もしそうなら、助かった言えるし、残念でもある。

 不法侵入になっちゃうけど、いいよね?などと軽い考えで、ギィ、と音を立ててゆっくりと扉を開き、頭だけ突っ込んで小さな声を絞り出す。

 

「す、すいませーん」

 

 やはり返事は帰ってこない。何かしらの機械がプシューと一定のテンポで白い気体を吹き出す音しかしない。

 今度は、体全体を小屋の中に入れる。

 もう一度、声を出す。さっきより、大きめの声を。

 

「すいませーん。誰かいませんかー?」

 

 その時、右奥で何かがもぞっと動いた。

 反射的にそっちに目が行き、人であることを確認できたと同時に少年は声をかけた。

 

「あの、すいません」

「泥棒はーーー」

 

 無数の赤くとても小さな光が、右奥の、おそらく魔女であろう人物を中心に広がる。

 

 まずい。

 魔女と呼ばれるくらいだ。恐らく魔術と呼ばれるものが放たれる。

 以前の腕試しの時、この雷を纏った木刀で魔神剣を防いだことがあるのだが、それは子供が放った未熟な魔神剣だったからできたことだ。魔術を防げる保証なんてものはない。

 右手の木刀をかざすだけでは完全に防ぐことは出来ない。相殺するように木刀を振ればなんとかなるかもしれないが、どんな魔術が放たれるかも分からない。火球のように相殺できるものならいいが、少年の反射神経では、この距離で反応して相殺することはできないだろう。範囲を指定して放たれる魔術なら、もう打つ手なしだ。

 だから今の少年には助けを求めることしか出来なかった。

 

「ライガ!!」

「ーーー出ていけぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキット

 『弟子、音沙汰なし』  ヒ→ヒスカ シ→シャスティル

 

ヒ「……最近、あの子全然来なくなっちゃったよね~」

シ「認めてもらいたい人がいるって言ってたし、認めてもらえたってことじゃないかしら」

ヒ「でも私達は剣の師匠(せんせい)なのよ?それなのに一言もなしに来なくなるなんて……街でも全然会わないし……」

シ「寂しいんだ」

ヒ「なっ!?シャスティルだって、入り口でそわそわしながら待ってる時あるじゃない」

シ「ちょっと、見てたの!?」

ヒ「自分は平気ーって顔してるけど、そっちだって寂しいんじゃないのぉ?」

シ「くっ……でも、今はそんなに寂しくないわよ。さっき街で会ったし」

ヒ「え?」

シ「ふふん」

ヒ「……ちょっと街の見回り行ってくる」

シ「言い訳とかいいから」

 

 

 




 スキットを付けてみました。これから先、全話付けてみようかと思います。まぁ、次の投稿がいつになっちゃうかわからないんですけどね。

 ライガの口調が安定しない……そして、フェドロックってこんな感じで会ってますかね?
 ヒロイン予定のリタの登場です。予定であって、確定ではありません。
 
 アドバイスなど頂けたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。