迷いの竹林の入り口に一軒の屋台があった。
その名は「夜雀飯処」。
今日も幻想郷の人々が、愚痴と少しばかりの金を持ってやって来る。
「私」ことミスティアローレライは今日仕入れた、牛スジ煮込みの研究をしていた。何回も試行錯誤した結果、如何やら味噌を入れると肉の旨味を引き立ててくれるらしい。
今日は合わせてこんにゃくを入れてみる。
「味がよく染み込むように」と包丁で切り込みを入れ、土鍋に入れてアクを取りつつ待つこと10分ほど。
出来た煮込みにネギと一味唐辛子を振りかけて、一口味見をば。
噛んだ瞬間、味噌の風味がしたスジとコンニャクの旨味が口一杯に広がった。
「う〜ん!我ながらいい出来!」
これはメニューに追加だな、とメモをしている間に、暖簾が動いた音がした。
「いらっしゃい!」条件反射で振り向くと、一人の少女が暖簾に手を掛けていた。
「あの〜やっていますか?」
少女は気まずそうに私に問いかけた。
「あっどうぞどうぞ!」
やばっ見られてたのかな、とちょっと顔を赤らめながら私は案内した。
「さて、何にしましょうか!」
仕切り直しに私は言った。
「じゃあ黒霧島の熱燗で」
少女はそう言いながら、椅子に腰を下ろした。
「お嬢さんには少しキツイかもよ?」
と私は笑いながら忠告すると
「いいんです、今日はこの位が。」
何かを隠しているな、と私は勘付いたが黙っている事にした。
その後少女は薩摩揚げとほっけを頼み、ちまちまと食べ始めた。
う〜む。食べ方といい、さっきの言葉といい
絶対何かあるんだよなぁ。
私の好奇心がとうとう理性に打ち勝ち、さっきの言動について聞いた。
「お嬢さん、何か悩み事でも有るの?」
「やはり気づかれていましたか。」と観念したかのように言い、コップを弄り始めた。
「ちょっと愚痴を零しても良いですか?」
「大丈夫!愚痴は最高のつまみだよ。」
私がそう言うと安心したかのように話し始めた。
「私白玉楼の専属庭師、魂魄妖夢と言います。」
「ああ、西行寺さんの。聞いた事有るわよ」
「実は、その幽々子様に関する話なんです。」
ほう、と私が興味を示したのを見ると
「あまり人様にお話ししたく無い事ですが…実は、幽々子様はよく食べるお方なんです。」
「よく食べるのはいいことじゃないか。何かあったのか?」
「食べ過ぎなんです。」
と溜息を吐きながら言った。
「朝にご飯三合と焼き魚十五匹、昼にうどん三杯に親子丼二杯、夜は…数えてませんね。」
それを聞いただけで料理人として身の毛がよだった。それが毎日続くとなれば…考えたくないものだ。
「分かった。つまり作りすぎで辛くなったって事だろ?」
「いえ、作る分には問題ありません。」
いやいやいや、おかしいでしょ、と私は苦笑いした。全く底知れない主人愛…いや、ここまで来れば狂気の沙汰だな。
「問題は味わって食べてない事なんです。」
ああ、そういう事だったのか。
「それは私にも分かる。味わって食べてもらえないと気持ちが届かないからね。」
「本当にそれですよ!!それ!!」
そう言った妖夢の顔は真っ赤に染まっていた。
「幽々子しゃまったら私が考えた新メニューを数秒で平らげてひまって…もう!!」
おっ面白くなって来たな、と思いつつ私はとある料理に取り掛かった。
「甘いほうがいいって幽々子しゃまが仰ったからハチミツを隠し味に入れたのに…今度は甘ったる過ぎて食べれないと言ったんですよ!!私…もうどうしゅれば良いんですか…」
と愚痴も下火になってきたとこで私は唐揚げを妖夢に差し出した。
「あの…私これ…」「良いっての。私からのサービスよ。楽しい愚痴も聞けたしね。」
そう言って差し出された唐揚げを、妖夢は申し訳無さそうに食べた。
「ん〜!!美味しいです!!」
一気に妖夢の表情が笑顔になったのを見て
せやろ、と私は自慢げになった。
「こんなに沢山の肉汁が出てくる唐揚げは初めてです!」
「フッフッフッこのレシピ、知りたいかね」
と聞くと、是非!と妖夢は身を乗り出した。
「秘訣はね、揚げる前に肉を水に付けるんだ。そうすると水が肉の中に染み込み、肉汁となって出てくるのだ!」
ほえ〜、と妖夢は感心した。すると私に
「でも何で唐揚げを出してくれたのですか」
と質問した。
「それはね、幽々子さんによく味わってもらう為なんだよ。」
「どういう事でしょうか?」
「この唐揚げを食べた時、肉汁が出てきてで一旦噛むのを止めたでしょ?」
はい、と妖夢は答えた。
「そこがミソなんだよ!肉汁を味わってもらう為のね。」
妖夢は感動したらしく、そのまま立っていた
「今度幽々子さんにそれを作ってみて。きっと普段とは「一味」違うことが分かってくれると思うわ。」
それを聞いた妖夢は腕で顔を拭って、ありがとうございました!と言い、会計を済ませて走って行った。
妖夢を見送りながら、私は暖簾を下ろした。
次は誰がどんな愚痴を持ってきてくれるだろうか。