鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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今回もニグンさんのキャラ崩壊にお気を付けください。

ちょっと長めです。


次元眷属〈悍ましき子供達〉個体識別番号:第11番『機械魔人型』【Dina】

 彼女の一言でこの場全てが凍りついた。

 

 陽光聖典の魔法兵士たちはその一言を発した女を凝視する。その目は大きく見開かれ、瞬きを忘れた眼球は乾燥による充血で赤く血走っている。大きく開かれた口からは何の言葉も発しないが、誰もが一目で驚愕の表情を浮かべているのだと良くわかる。

 

 あの女が言った言葉の意味は「これ以上天使を出しても無駄だぞ」であることに他ならない。間違っても「辛いのでこれ以上出さないでください」と解釈するような馬鹿はこの部隊には居られない。

 

 (こいつ)にとって上位天使(アーク・エンジェル)なぞ、雨上がりによく飛んでいるそこら辺の羽虫と何ら大差ない存在なのだ。強いて言うなれば先程の出来事は自分に向かって飛んでくる羽虫を叩き落としただけに過ぎないのだろう。だが我々にはその叩き落とし方さえ分からなかった。ガゼフのように剣で切り裂くような野蛮な方法じゃない、一瞬だ、一瞬で全ての片がついたのだ。

 

 感じていたのは今まで味わったことのないような無力感だった。それはニグンだけではなくある者は項垂れ、ある者は膝から崩れ落ち、ある者は自分の信ずる神へ必死に祈りその庇護を求めた。

 あれだけの数が居た自分たちの上位天使(アーク・エンジェル)がこうも容易く屠られ、この信じたくも無い状況を作り出したその張本人は平然とした表情を浮かべている。

 多くの特殊任務をその卓越した追跡能力と完膚なきまでの追い込み能力でこなしてきた陽光聖典にとって目の前の女はその全てを否定したに等しい。

 そして彼らの死んだ魚のような眼差しは次第に移り、唯一の希望である隊長のニグンへと向かう。特殊部隊長を任されいくつもの任務を完遂して来た我らのリーダーならばこの化け物をなんとかしてくれると。

 

 しかしニグンは焦る、部下たちの希望のまなざしという思い重圧と何よりも信じられないことをしでかしてくれた目の前の女に。自分ですらこの状況が把握できていないのだ、あの圧倒的だと思っていた力量差が一瞬のうちに入れ替わってしまったのだから混乱するのは当たり前だろう。だがニグンはこれしきの事で心を折られるような肝っ玉の小さい男ではない、己の自尊心を守るためにそして仲間から不安を取り除くためにびっくりするような"言い訳"を吐き始めた。

 

「は、ハハハハ…お、面白いじゃないか。実に…実に素晴らしい"手品"を見せてくれてありがとう。いい余興になった、きっとこれもガゼフを何処かしらへやった時と同じ事なのだろう?あの天使が焼け落ちる姿は我々を怯えさせるためにお前が用意した"フェイク"だ、実際に倒されてはおらず何処かへ行ってしまったのだ、そうなのだろう?いや結構結構!種明かしなどはしなくて結構だ。次の観客に見せるときに我々が腹いせで種をしてしまうかもしれないからな、そうなっては困るだろう?…まぁ、君が次にこの手品を誰かに見せることは二度と来ないがね。」

 

 ニグンは鋭く女を睨みつける。

 

 彼の言い分はかなり強引且つ非現実的なものであったが、この状況を何とかするにはもう開き直るしかない。そういう意味では良い選択肢を選んだと言えるのだろう、流石頭脳明晰と自負するくらいの能力はある。そのお陰もあって魔法兵士たちも無理やりその言い訳を心に言い聞かせることで、墜落寸前の指揮を見事取り戻すことができたのだ。

 

 大した逸材だとローザリアは素直に感心する。

 ここまで見せつけて出した結論が、あくまでただの手品だと言うのだ、脱帽したと言ってもいい。

 人間も数人殺しておけば今のような無駄な時間を作らなかったと少しだけ後悔する。が、ビビらせ過ぎて逃げ惑うのを後ろから追って殺すよりも、こうしてまだ自分に意識を向けてくれているほうが後々処理が楽だからまあいいかと一人合点する。

 

 そんなローザリアの腹積もりなど露ほども知らないニグンは、上手く苦境を打破したのはいいものの、それ以降のことは全く考えていなかったので手当たり次第にやれることが無いかと探し自分の真後ろに浮かんでいる大きな天使に気付くと、ゆっくりと彼女に振り向き直った。それも表情に不敵な笑みを浮かべて。

 

「これだけ面白いものを見せてもらったのだ…そのお礼に、私も少しばかり本気を出すとしよう…。」

 

 ニグンはそう言うと、ずっと背後に浮かせていた大きな天使監視の権天使(プリンシパリティ・オブザべイション)を前に出す。

 今までこの天使が動かされなかった理由は、その固有能力である『自軍構成員の防御力を少しだけ引き上げる』という効果が動いてしまうと発動しないからだ。その能力を無視してまで動かした事はニグンの動揺が如何に大きいかを表している。それでもただ考えなしに動かしたというわけでもない、先ほどはこの天使よりも遥か格下の存在で、小さな存在であったから奴の術中に嵌ったのだと考えたニグンは、この高貴で神聖な輝きを放つ巨大な存在ならばあのようなことは起こるまいという結論に至ったからだ。

 

「行け我が僕、監視の権天使(プリンシパリティ・オブザべイション)!」

 

 主の命令を受けた監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)は急速にローザリアへと接近し、その勢いのまま手に持っていた巨大なメイスを振り下ろす。莫大な質量と加速度を持ったメイスは破壊の権化となり、対象を絶対に葬り去ることが決定した確殺の一撃となるだろう。

 

 余りの速さと力強さに動くことができない女の姿を見た陽光聖典達とニグンは、躊躇うことなく勝った!と確信した。この攻撃なら幾ら不思議な真似をあの女が出来ようと、さっきの天使やガゼフの時のようなことはできまいと。

 

 しかし彼らの喜びに染まった顔も飴細工の様にいとも容易く崩れ去る。

 

 …本当に信じられなかった。つい数分前に大量の天使を一瞬で消し去られたことなどどうでも良くなるくらいにはソレはありえなかった。

 

 女は自分の頭上に振ってきた巨大な鉄の塊を上に伸ばした左腕そのただ一本のみ(・・・・・・)で軽々と受け止める。あれだけの質量がぶつかったのだから衝撃は凄まじく、彼女を中心に地面にはいくつもの亀裂が走っている。にもかかわらずその女は足を動かして踏ん張ったような気配も無い。そしてそのまま受け止めたメイスを鷲掴み、あっけなく監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の動きは封じられてしまう。

 

 必死に落ち着けていた心は荒波の如く揺らいでいた。立て続けに自分の脳を疑うような信じられない光景を見せられれば、例え聖人であったとしても気が狂うだろう。

 思考が何にもまとまらないニグンは脂汗を額にびっしりと浮かべ、上ずる声で自分の使役する天使を救出しようと躍起になる。

 

「ひ、引きはがすんだ監視の権天使(プリンシパリティ・オブザべイション)!お、お前たちもぼおっと見ていないで早く援護しないか!!」

 

 監視の権天使(プリンシパリティ・オブザべイション)は必死に体を動かし、自分よりも何倍も体格差がある女の拘束から逃れようともがくが、いくら頑張っても抜け出せない。

 ニグンの命令を受けた魔法兵たちも持ちうる限りの魔力で女へ攻撃呪文を放っていく。

 

 放たれる衝撃波を全身に食らっているのが確認できるにもかかわらず、全くダメージの入っている素振りを見せない女は、衝撃音が鳴り響くの中で何故かはっきりと聴こえてくる声で喋り出す。

 

「どうやらあなた方を誇大評価し過ぎたようです。お相手するのも飽きましたので、そろそろご退場願います。では…〈次元召喚(ディメンジョン・サモン)(ハンズ)〉」

 

 彼女の死刑宣告のように聞こえる言葉と共に唱えられたまったく聞き覚えのない謎の呪文に、一体これから何が始まるのかと魔法兵士達は戦々恐々としていると、突如監視の権天使(プリンシヴァリティ・オブザバイション)の背後にグパッと斑の色をした穴が開き、中から黒く見たことも無い機械の腕やら金属でできた紐(コード)やらが大量に這い出て来て瞬く間に絡みついていく。

 

 女はメイスを掴んでいた手を離し、後は任せたとでも言う様に突如現れた手とも形容しがたいものに向かって手を振っている。そして監視の権天使(プリンシパリティ・オブザべイション)はそのまま身動き一つとれず成す術ないまま引きずられるようにしては斑色の穴へと消えていき、姿が見えなくなったところで空間に開いていた穴は静かに閉じた。

 

「この…化け物めェ!!」

 

 叫んだのはニグンだけではない、陽光聖典全員が口々に口汚い言葉を叫んでいた。

 数々の信じられない状況に自分を正当化するため目を瞑ってきたニグンだがもう無理だ。許容限界などとうに超過していた理性は監視の権天使(プリンシヴァリティ・オブザべイション)が突如として現れた穴の中から出て来た訳の分からないものに引きずられ消えていったことをきっかけに遥か彼方へぶっ飛んでいた。

 

 もうなりふり構っては居られなくなったニグンは最終手段として大事に胸ポケットに仕舞っていた『魔法封じの水晶』を荒々しく取り出し天に掲げると絶叫した。

 

「落ち着け、落ち着くのだぁ!私にはまだ秘策がある!見よこの輝きを!これは神官長から直々に賜わった人間の人智をはるかに超える第7位階の魔法が封印された魔法封じの水晶だ!!!その威力は魔神ですら一撃で沈めたとされている!!!」

 

「「おぉ!!!」」

 

 第7位階という人智を遥かに超えた魔法という本来ならば冗談話で済ませるような存在は、絶望しきった陽光聖典たちへ希望の光を送る。

 この化け物のような女にきっと致命的な一撃を加えてくれるだろうという期待が一身に集められた水晶が、正しい手順を経て破壊された。

 

「ハハハ!!感謝しろよ化け者ォ!!貴様にはこれを使うだけの価値がある!それを俺に認めさせたことも誉めてやろう!!だがお前に与える褒美は"死"だァ!!!さぁ括目して見ろよ化け物!最高位天使の尊き姿を、輝きを!!出でよ、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!!!!」

 

 周囲を埋め尽くす白い光と僅かに香る芳香の中から現れたのは、光り輝く翼の集合体だった。

 

 その神々しい姿に陽光聖典からは感嘆と歓喜の声が上がる。

 これならば、この最高位天使ならば、如何に奴と言えど耐えられる術はない!今に見ていろ化け物め!たった一騎で魔神を滅ぼした我らが最高位天使の一撃が貴様の全てを葬り去ってくれる!!

 陽光聖典はその圧倒的な輝きと人智を超えた存在の顕現という安心感に、誰もが笑みを浮かべていた。

 

(はぁ…。)

 

 そんな中、ローザリアは一人心の中で溜息をついていた。

 

 自分をぐるりと囲む男たちは口々にすでに勝ったような発言を繰り返しているが、召喚された天使が何なのか彼らは知っているのだろうか?

 この世界の魔水晶を見たのは初めてだったため、一体どんなものを秘めているのか真剣に身構えた自分が恥ずかしい…まぁ危機感を持つことはとても大切なことではあるから、するに越したことは無いだろう。しかし…今出て来た天使が《ユグドラシル》と全く同一の存在であるならば…非常に期待外れと言っていい。

 

「すみません。」

 

「な、何だ!?命乞いか!?ははは!やはり最高位天使を見たからには怖気づくのも仕方あるまい。だがもう遅いぞ化け物!!」

 

「いえ違います。その魔神と言う方は存じあげませんが、貴方が言うからにはきっと私も滅ぼせるのですよね?」

 

「あ当たり前だ!!お前など跡形も無く消し去ってやる!!!」

 

「そうですか…。」

 

 急にこれから倒される対象から話しかけられてギョッとするニグンだったが、女の弱弱し(く見える)い姿を見ると、流石にこの眩い神聖な輝きを放つ最高位天使に恐れをなしたようだと思ったのか勝ち誇った表情を浮かべ、嬉々として威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)に攻撃の命令を下す。

 

「さァ威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)よ、あの化け物に裁きの光を!〈善なる極撃(ホーリー・スマイト)〉を放てぇ!!」

 

 ニグンの命令により最高位天使は己の持つ最大級の魔法を発動した。

 第7位階と言う到底人間では到達することができない領域にある極限の呪文は、ゴシュゥと言う音と共に天空から光の柱を出現させる。

 絶対なる清浄の力は不浄の者に会心の一撃となりてその存在は霧散するが如くこの世から抹消されるだろう。

 

 不浄の者、数々の人間離れした業を見せてくれたびっくり人間こと黒い服の女を包み込んだ大質量の光はその輝きを衰えさせることなく、力の全てを放出し切るまで続いた。

 

 

 この圧倒的威力、圧倒的輝き、感じるのは悪を倒した愉悦のみ。

 

 

「あぁ素晴らしい!これぞ魔神を一撃で沈めた必殺の魔法!!なんていう輝き!なんという美しさ!これぞ勝者にして聖者たる我々にふさわしい祝杯の光だ!!」

 

 

 

 

 

「あの、私には少し眩し過ぎるのですが…」

 

「はぁああああああああああああああ!?!?」

 

 なんだ、なんで奴の声が聞こえるのだ!?〈善なる極撃(ホーリー・スマイト)〉は第7位階の極限的魔法のはず!この魔法を食らって形の残るものなどこの世に有りはしないのだぞ!?それを、それをこの女はいや、化け物と呼ぶのも相応しいかわからないこの存在はなんと言った!?「眩しい」だとぉお!?!?

 

「あ、有り得ない…有り得えてはいけない!!!」

 

「はぁ…いい加減お認め下さい。いいですか?今の攻撃で私に与えることができたダメージは0です。」

 

 ああもう駄目だ、お終いだ、と陽光聖典から絶望に打ちひしがれる者の声が後を絶たない。もうニグンにも目の前の化け物とも呼べない、訳の分からない、自分達とは存在していい次元が違うこの存在をどうしていいかわからなかった。

 

 ローザリアは帝国騎士(スレイン法国偽装兵)や手品と言わしめた天使の瞬殺劇は決して彼女が高火力技を使ったと言う訳ではなく、単にその圧倒的レベル差からくる能力の差が主な由来だ。だからと言って高火力技を持っていないわけでもない。彼女の最大火力技は大きなデメリットが発生する諸刃の剣だが効果は絶大で、発動した場合は地図を書き換えなければならなくなる程の威力と効果範囲を併せ持っている。ただこの技を使ったのは《ユグドラシル》で大人数の部隊がナザリック地下大墳墓に侵攻して来た時の一度だけある。では彼女の本領とは何か?

 

 それは限界を超えた物理防御力と魔法防御力だ。

 

 これが彼女が『鋼鉄のシスター』と呼ばれる由縁であり、多くのプレイヤーを恐れさせた原因なのだ。彼女にはギルド一硬いという自負があり、そのせいか仲間たちが神器級武器を作った際には了承の上でわざ攻撃を食らい、体力がどれくらい削れたかを指標とすることによりその武器の強さを判別していた位には硬いのだ。

 

 だから当然、ニグンのタレントによって強化された威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の更に固有能力で魔法の威力が強化し、その魔法の特性である攻撃対象の属性(アライメント)がマイナスに傾くほど威力が上昇する効果で更に更に攻撃力が上昇した善なる極撃(ホーリー・スマイト)だったとしても、彼女の装甲を貫通することは出来ず、極限の一撃は彼女にとってただの眩しい光でしかなかったのだ。

 

 目の前のバケモノは少し上空を眺めた後、つまらないものを見るような目でしかし残忍な輝きを孕んだ瞳でニグンを見つめる。

 

「残念ですがそろそろこの茶番も終わりにしましょう。どうやら貴方の行動を監視していた覗き者(・・・)も居たみたいですし、生きているかどうかは知りませんがずっと見られているのも嫌ですからね。さて、ニグンさん、先ほど貴方は"最高位"と仰られましたが、本当の最高位はこういうモノのことを言うのですよ。」

 

 一拍置いて、彼女は凛と透き通る声でスキルを唱える。

 

次元召喚(ディメンジョン・サモン)【Dina】(正裁)

 

 彼女の言葉に答えるかのようにして地鳴りのような低い音が鳴り響くと、彼女の後方にある空間が文字通り

 

―――罅割(ひびわ)れた。

 

 大きな亀裂が空中を走り巨大な斑色の穴が作られていく。そして中から現れたのは体長が恐らく30mはあるだろう機械で出来た黒い餓者髑髏(がしゃどくろ)だった。機体のいたるところから蒸気が吹き出し、何処からともなく歯車がガチャガチャと鳴る音が鳴り響いて、全身からは繋がっていない大量のコードがまるで生皮が剥がれたかのようにぶら下がている。余りの体の大きさに全てを外に出すのは難しいらしく、上半身だけが異空間から出てきている状態だ。

 

正式名称、次元眷属〈悍ましい子供達〉個体識別番号:第11番『機械魔人型』【Dina】(正裁)はローザリアが『子供達』と呼び使役する全13体の眷属の中の第11番目の子であり、一日に2度までしか召喚することのできないレベル90の超強力モンスターだ。

 

「ア!ママダ―!?元気元気☆?私ハスッゴク元気ダヨ!久シブリニ会エテ超嬉シイヨーー☆☆!!」

 

「あぁやっぱり!さっきの接続で薄々は感じてたのだけれど貴女"自我"があるのね!なんて喜ばしいことなのでしょう!!私も貴女に会えてとっても嬉しいわ!」

 

 動くたびにガッシャンガッシャンと鳴るその悍ましい姿の餓者髑髏は、ローザリアを見つけるとかなり明るい口調で親しげに話しかけて来た。実はこの餓者髑髏、こう見えて眷属の中で唯一の"女の子"なのである。眷属それぞれにはちゃんとした性格設定があり、《ユグドラシル》でつけられた【Dina】の性格は『可愛い物大好き!キラキラする物大好き!飛び散る血シブキ大好き!な、女の子』というギャップ萌えにしたって限界がある設定をつけられていたのだが、ギルドが誇るギャップ萌えの化身『タブラ・スマラグディナ』氏曰く、「だがそれがいい!」とのこと。

 

 ローザリアは《ユグドラシル》の戦闘でもこの眷属を何度となく呼び出し、また窮地を救われた経験が何回もあったため非常に思い入れのある眷属だった。ゲームの設定上、眷属は召喚してただ命令するだけの存在だったため、「もしお話しができたらなぁ」と考えたことも少なくは無かった。だからゲーム世界では喋ることなど考えられなかった眷属がこうして語り掛けてくれることに、何とも言えない感情がこみ上げてきてもし涙が流せたのなら大粒の嬉し涙を大きな瞳から流していたことだろう。

 

「ウッヒョー!ア、デモデモママ―、久シブリニオ外ニ出タラ何ダカオ腹ガスイチャッター…」

 

「ふふ、さっき起きたばかりだものね。それじゃあ威光の主天使(あれ)、食べてもいいですよ」

 

「ホントー!?ソレジャア、イッタダッキマース☆」

 

 そうして【Dina】はおもむろに威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)へ腕を伸ばすと、ガシッと鷲掴みにしそのままバリバリと食べ始めた。もちろん食べられている側も抵抗はしているのだが、逆らうことのできない強大な力の前では児戯に等しい。

 

「ナンカコレ、パサパサスルー…デモ、好キ嫌イハイケナイヨネ☆」

 

 文句を言いながらもちゃんと食べ切ろうとするあたり、性格設定の「根っからのいい子」もちゃんと反映されているようだ。

 

 へー、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)ってパサパサするんだーと、ニグンは知りたくも無かった情報を大きな声で教えてくれた巨大な骸骨を口から涎を垂らしながら見ていることしかできなかった。自分の理解を遥かに超える二人に目を背けたらどんなに心が楽になれるだろうか…。

 いきなり空間にバカでかい穴が開く時点でもう理解出来ないのに、そこから黒くてでっかい骸骨が現れ、自分たちの希望であった最高位の天使をムシャムシャと食べている(・・・・・)のだぞ?この状況でまだ意識を保っていられている自分は褒めて然るべきだろう。

 

 そうこうしているうちに、どうやら巨大な骸骨は威光の主天使(ごはん)を食べ終わったらしく両手を合わせて満足げな表情?を浮かべていた。

 

「ゴチソーサマデシタ!」

 

「残さずに食べて偉いわ、ディナ。お腹いっぱいにはなったかしら?」

 

「ンー、マダ食ベラレルケド他ニ食ベラレソウナノガ無イカラ大丈夫。」

 

「それもそうね、そしたら次はお仕事の時間よ。」

 

「ナニスレバイイノー?」

 

「簡単よ、ここに居る人間を一人残らず焼き払いなさい。」

 

「アイ、アイ、マムッ!」

 

 【Dina】は母の命令に元気よく答えると、両手をアバラ骨にかけガパッとそのまま開く。そして胸の中央に収められていた球状の水晶らしき物体はそのまま真っすぐ飛び、陽光聖典の上空で滞空する。

 

 明確な殺害予告を聞かされたニグンは心ここにあらずだった意識を急速に引き戻して必死に思いつく限りの謝罪の言葉を羅列しながら頭が地面につきそうなくらい命一杯下げて陳謝する。

 

「すみませんでした!ごめんなさい!お赦しください!私しめが浅はかでございました!貴女様のその偉大なるお力に唾を吐くような真似をしてしまったことをどうかお許しください!ここに居る人間は全て貴方様に捧げましょう!足りなければ金でもなんでもお出しします!ですからどうか命だけはお助け下さい!!」

 

 自分たちが今まで信じて来た優秀な隊長のあまりにも情けない姿と身勝手な言動にそ、陽光聖典の兵士たちは驚愕の表情を浮かべるが今のニグンは脇目もふらない。

 

「そうだ!取引をしましょう!偉大なる貴女を我が法国でお迎えいたします!きっと国から膨大な契約金で雇い入れていただけるはずだ!!それに貴女様のお力ならば、すぐに国の官僚にまで上り詰め、その手に国を治めることができるでしょう!!素晴らしい!実に素晴らしいではないですか!?貴女に損は無い筈だ!ですからどうか私の命ばかりはお見逃し下さい!!お願いします!!!」

 

 自分が助かりたい一心で自分部下と祖国すら売ろうというのだ、このニグンと言う男は。本当に人間の心と言うものを持っているのかと疑いたくなるほどに下劣で最低な男だ、全く反吐が出る。

 

「慈悲、ですか」

 

「お考え下さいますか!?」

 

「…えぇ、宜しいでしょう。」

 

 ここまでの優待をしたのだ、きっとこの偉大なるこの御方は私の素晴らしい提案を受け入れてくださるに違いない!

 ニグンはそう信じることでしかもう正気を保たせることが出来なかった。少し油断をすれば白目をむいて、意識を失い糞尿を捲き散らしてしまうだろう。

 

「おぉ!そうですか!ではすぐに手配を…」

 

「黙りなさい人間。あなたご自身でおっしゃられましたよね?『無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる。』そっくりそのままお返しいたします。さぁやりなさい、ディナ。」

 

「待ァッテマシタァ!!食ラエッ!目カラ強イビーム!!!」

 

 【Dina】が元気よく叫ぶと、大きく窪んだ虚ろな眼孔から赤い光の線が射出され、滞空させていた球体にぶつかると光は水晶の中で複雑に反射を繰り返し、水晶から拡散して雨の様に陽光聖典へと降り注ぐ。

 この赤い光は、ローザリアが機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の完全形態で帝国騎士を葬ったときに使った物よりもさらに数十倍の熱量を誇り、直撃せずとも掠っただけで、対象は跡形も無く蒸発する。

 

「嫌だァああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 ニグンは死刑宣告をされたことで遂に発狂し、奇声を上げながら腕をブンブンと滅茶苦茶に振り回して脱兎の如く逃げるが、【Dina】の放った光線が命中し跡形も空く消し飛んだ。隊長を失った陽光聖典たちは蜘蛛の子を散らしたかのように規律も統率も無い蜘蛛の子を散らしたようにバラバラな方向へ持ちうる限りの力を使って全速力で逃げだした。

 

 だが空から雨の様に降ってくる光の速さから逃げ切れるような術を持たない彼らは、奮闘空しくニグン同様に次々と蒸発していくだけだった。




「掠っただけで⁉︎」byアンジェロ

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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