鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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今回で1章は最終回となります。

短いですが、よろしければ見て行ってください。


メメント・モリ

 巨大な餓者髑髏が放った雨のごとき破壊の光は獲物を蒸気に変え、緑豊かな大地を穿ち抜き、鼻孔をくすぐるのは全てが滅ぼされた死の香り。

 ローザリアの見る景色は、動く者、生きる者が存在しなくなった不毛の地へと化していた。それはまるで生前に過ごしていた時代を垣間見るかのようで彼女は表情を哀しみの色に染める。

 

 21XX年、地球は黒く淀んでいた。

 空気は一息吸っただけで人間を殺し、大地は汚染物質で穢され雑草一本さえ生えなくなり、海は多様な微生物ですら存在しない死の水溜めと成り果てていた。真理亜は生きとし生ける者を否定するそんな世界が大嫌いで仕方がなかった。真理亜が産まれた時には既に世界はガスマスクなしで人は外を歩けない状態だったため「ずっとこうなのだ」と思っていた。しかし学校に通うようになってから歴史の授業で過去の地球の姿を目にしたとき彼女は驚愕した。遥か昔の地球は、空気はガスマスクなど必要ないくらいに澄み渡り、大地は様々な草木に覆われていて、海は数えきれないほどの生物が生息する生命の源だったのだ。そして同時に美しい自然を破壊したのは何を隠そう自分達人間だと知った。教会の神父である父から常日頃「慈愛の心」を教え込まれてきた彼女は人一倍優しい心の持ち主であったため、美しい自然を破壊してしまったのは直接的に自分では無いにも関わらず、人間であるという理由だけで自分が許せなかったのだ。

 

 それから彼女は毎日自宅の教会の懺悔室で信仰する神へ人類が行った許されざる罪を懺悔し、少しでもあの美しかった自然を取り戻したいという思いで高級品であった花のプランターを今までずっと使わずに取っておいていた貯金で買えるだけ買い、丹精込めて育てた。その彼女の思いに答えるかのように手塩にかけて育てられた花たちはスクスクと成長し、いつしか町で『花の教会』と呼ばれるほどに教会は緑豊かになっていた。

 

 そして彼女は花を育てることと同じくらい大好きになったものがあった、それが《ユグドラシル》である。

 

 《ユグドラシル》は失われた遥か過去の地球のようなフィールドが舞台であったため、見渡す限りの緑豊かな自然が溢れていた。それがたとえCGで作られた疑似的な世界だったとしても真理亜の目を輝かせるのには十分だった。目に入るものす全てが美しいその光景は現実世界でいつも抱いていた夢の世界そのものだったため、一瞬で虜となった彼女は始めてから三日もたたないうちにその世界の住人と呼べる程にのめり込んでいった。

 

 そしてゲームの世界が現実となった今。実際に手で触れて本物の感触が実感できるこの世界で、彼女は人類の過ちを再び繰り返してしまったのだ。自分が大嫌いだった光景を彼女自らの手で作り出してしまったのだ。

 なんの贖罪にもならないだろうが、彼女は祈りの姿勢を取り己が犯した過ちを懺悔する。

 

メメント・モリ(死を忘れることなかれ)…これも神が与えし業の一つなのですね…。」

 

「…モシカシテ、ヤリ過ギチャッタ…?」

 

 彼女の悲しみに満ちた表情を見た【Dina】は不安が籠った声で話掛けてきた。その問いかけに答えるためローザリアは俯いていた顔を起こすと母が子を愛するような慈愛の表情で、それは違うと教える。

 

「いいえ、貴女のせいではないわ。これは全て私が招いた結果なのです。それよりも頑張ってくれてありがとう、やはり貴女は頼りになるわ。」

 

「エヘヘ照レチャウヨ~///ア、ソウダ。コレカラママハドウスルノ?」

 

「あぁ、そうねぇ…」

 

 言われて気づく、どうしよう…。

 最悪と言ってもいい別れ方をしたカルネ村にはもう戻れないだろうし、かといって周辺の国に行けるほど自分はこの世界の地理に詳しくない。自分は体に埋め込まれているデータクリスタル〈永劫炉心核〉によって食料を食べなくても力尽きることは無く、機械の体であるため疲れることなど一切ない。ついでに言えば飛行能力もあればステレス機能だって持ち合わせているからやろうと思えば三日も四日も休まずに次ぎの目的地も探すことは容易いだろう。しかしこの世界は広大だ、ゲームの世界とは訳が違う。今言ったことをやるならば、途方もなく膨大な時間がかかるだろう。それに帰るべき場所がないのも、いくら機械の心とは言え根っこはまだ人の心が残っている。いつかは耐えられなくなるだろう…んん?帰るべき場所…?

 

「ああっ!!」

 

「ナ、ナニッ!?」

 

 今の今まですっぽり忘れていた。自分には帰るべき場所があるじゃないか!なんで真っ先に思いつかなかったのだろうか…?いや、そんなことよりも!

 彼女は急いでアイテムボックスを開くとあるアイテムを取り出す。それは赤い宝石が埋め込まれた豪華な指輪だった。名は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と言う。ナザリック地下大墳墓を拠点とする悪名高き最愛のギルド『アインズ・ウール・ゴウン』への転移を可能とするマジックアイテムだ。

 取り出し終えると人差し指に指輪を嵌める。彼女のその細い指に対して輪が大きすぎるのだが、指輪の特性で対象者の指の太さに合わせる効果が発動し、シュルシュルと丁度良い大きさに収まった。

 

 彼女は指に嵌めた指輪を不思議そうに眺める。

 

「なんで忘れてしまっていたのでしょうか…」

 

「忘れるなんて酷いですね、ローザリアさん。」

 

「!?」

 

「アッ!!」

 

 唐突に話しかけられたため肩が大きくビクリと撥ねる。

 

「その声は『モモンガ』様!?」

 

「骸骨ノオ兄☆チャン!?」

 

 ほぼ同時に女性陣が叫ぶ。

 

「えぇ、どうやらお元気そうでなによりです。ディナさんもこんにちは。貴女もこちら(・・・)と同じ状況の様ですね…。いや~しかしびっくりしましたよ、ナザリックの外で第10位階級の魔力を感知したので何事かと来てみればまさかローザリアさんにお会いすることになろうとは。」

 

 ローザリアの真後ろに現れたのは、豪華な黒いローブを身に包み、右手には黄金に煌めくこれまた素晴らしく豪華なスタッフを持った骸骨の異形だった。

 

「…そ、そうだったのですか。はぁ~びっくりした…。」

 

 モモンガはローザリアの言動に少し違和感を覚える。

 

「ん?ローザリアさんって精神作用無効化スキルが発動していないんですか?」

 

「精神作用無効化ってあの精神作用無効化?」

 

「そうです。」

 

 精神作用無効化スキルとは異形種が持つ特有スキルの一つで、人間種や亜人種などに有効とされる〈魅了〉や〈催眠術〉などの精神作用系スキルを完全に無効するというものがある。

 

「…すみません、仰っている意味が良くわからないのですが…?」

 

「フム…」

 

 モモンガは混乱していた。この世界において精神作用無効化スキルは精神の安定化を強制的に発動させる効果が追加されており、この効果のお陰で何度となく危ない場面を切り抜ける事が出来たのだが、目の前の女性はどう見たってアタフタと動揺している。さっき声を掛けた時の驚きようも人間そのものだ。

 もしかして発動しているのは自分だけなのか…?それとももっと何か違う原因があるのか…?…わからない…。

 

「とりあえず、ナザリックへ戻りましょう。いつまでもここに居ては何が起きるかわかりませんしね。詳しい話はそこで聞きたいと思います。」

 

「まぁ!ナザリックはこの世界にもちゃんとあるのですね、よかった~。さてでは、そういう事なので暫くお別れですディナ。」

 

「ウン分カッタヨ、ママ!帰ッタラ兄弟ニママノ事オ話シシナクッチャネ☆骸骨ノオ兄チャンモバイバイーイ☆」

 

 【Dina】はブンブンと元気よく手を振りながら次元の穴へと帰っていった。彼女が次元の穴の中へ引っ込むと、罅割れていた空間の穴は、時間を巻き戻したかのような動きで塞がって、跡形も無くなった空中は奇麗な橙色の夕焼けを映していた。

 

「指輪は持っていますか?」

 

「はい、此方に。」

 

「では帰りましょう、私たちの家に。」

 

 黒い衣を身に纏った美女と、豪華なローブに身を包んだ骸骨はその言葉を最後に、一面の焼け野原から忽然と姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 




一章が早くも終わってしまいました。そして終わったのは章だけでなく、書きあげるのに2か月もかかった書き留めも…

一応話の続きはあらかた考えてはいるのですが、まだ書き始めてもいないので次の投稿はかなり先になってしまいそうです。

こんな素人の作品を最後まで読んで下さり、本当に有難うございます!

次の投稿までどうか気長にお待ちください。それでは、また
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