鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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はじめましての方、はじめまして。お久しぶりの方、大変お久しぶりでございます。

ジェラ川でございます。

長らくお待たせしまして本当に申し訳なかったのですが、投稿を再開したいと思います。

ただこれからは前回と違い不定期投稿となりますのでどうかご了承ください。

それでは拙い文章ではありますが読んで頂けると幸いです。




第2章
追懐


 この場所を訪れた者はきっと、いや確実にその目に映る光景に息を飲むだろう。

それが例え目の肥えた貴族や美術家だろうが、美しい物とは無縁の生活を送る下級市民だろうが、この場においては全員等しく言葉を発することや息を吸うことを忘れてしまう。

 

 「素晴らしい」「なんと輝かしい」「風格がある」「荘厳だ」「煌びやかな」…対象を褒める言葉は数多く存在するが、此処はそれら全てを受け付けない、ましてや相応しい賛美の言葉なぞ見つけようがないほどに

 

――美しい

 

 見上げるように高い天井には精巧な金色の装飾が施され、吊り下げられた複数のシャンデリアは見たことも無いような七色の宝石で作られており、思わず目が釘付けになるほどの幻想的な輝きを放っていた。

 

 壁には天井付近から床にまで届かんばかりの長く大きな旗が計41枚かけられており、それぞれに至高の41人の一人ひとりを表す紋章が描かれている。

 

 そして巨大な空間の最奥には数十段の階段が設けられ、その頂にはまるで一つの巨大な水晶から切り出したかのような背もたれが高く天をつく玉座が鎮座している。その背後には、41人の素晴らしい仲間達と共に過ごした日々、記憶、歴史、誇り、そのすべての象徴であるギルドサインが施された深紅の大きな垂れ幕が悠々と垂れ下がっている。

 

 そう、此処こそが仮想現実体感型オンラインRPG《ユグドラシル》において数々の非道な悪行を好んで行ってきたゲーム内トップ9の悪名、誇り共に高きギルド、《アインズ・ウール・ゴウン》の最重要箇所である【玉座の間】だ。

 

 冒頭でここを訪れた者達は息を飲む、と記述したが少々語弊があったかもしれない。正しくは「心臓の鼓動を止めた者達」だ。なぜならば、ここは「生」を否定した暗黒の「死」が統治する世界。生きた者が存在することすら許されない聖域なのだから。

 

 その玉座の間に突如として二つの影が現れる。

 

 影の一つは大きく黒いローブを身に纏った2メートルを超すであろうかと言う程巨大な骸骨だ。その細くも逞しい白骨の指には一本一本に巧緻な指輪が嵌められ、その手にはこの世の全ての宝石を集めたとしても見つけ出せないであろう美しさを誇る石を9個もはめられた黄金のスタッフが握られている。

 そしてもう一つの影は、前者と比べて小さい人型をしている。これは女性のようだ。いわゆる修道服を着こなしたシスターの格好をしており、頭に被った黒いベールの間からは形容できないほど美しい碧眼の美女が顔を覗かせる。

 

「うわー!うわー!凄いっ!!」

 

 小さな影、もとい碧眼の美女は周囲をキョロキョロと装飾に彩られた巨大な空間を見渡しながら思いつく限りの賛美の言葉を発していた。

 

「見慣れていた筈なのに、現実になってみると一層美しさが際立って確かに凄いですよね。」

 

 キョロキョロする美女とは逆に落ち着いた雰囲気で骸骨は応える。肺も声帯も無いのにどうやって喋っているのかは甚だ疑問ではあるが、突っ込んではいけない。

 骸骨はこの美しさを共感できる存在が増えたことに喜びの表情(に見える)を満足そうに浮かべていたのだが、異変を感じ取り表情を訝しめる。

 異変とは、散々騒いでいた女性がピタリと動きを止め、且つ黙り込んでしまっていたのだ。

 

「ど、どうしましたローザリアさん?」

 

 骸骨から声をかけられたローザリアと呼ばれるシスターは反射的に振り向き、その表情は不安そうだ。

 

「いや、その…凄く興奮していた筈なんですけど、急に落ち着いちゃって…自分でも何が何だか…?」

 

 彼女発言を聞き骸骨は「あぁ…」と胸をなでおろす。もし自分でも察知できない様な異変を彼女が察知して、それに対する反応だったらどうしようと考えていたのだがどうやら杞憂に終わったようだ。

 

「やはりローザリアさんも適用されていたようですね、精神操作無効化スキルが。」

 

「精神操作無効化スキルって、私達特有の?」

 

「そうです。」

 

 精神操作無効化スキルとは、異形種のみが持つ特有のスキルで、効果は主に人間種や亜人種などに有効な洗脳や魅惑等が一切聞かないと言うものである。

 

 精神操作無効化スキルが今の状態と何の関連性があるのかを少し理解しかねている彼女をよそに、骸骨は一人思慮ぶける。

 

(しかし…先ほどの外での会話では彼女は精神操作無効化スキルが発動していなかったように思えたんだけど、もしかしてナザリックに来たことに何か関係があるのだろうか…?まぁ時間はある、ローザリアさんとじっくり話して原因を探っていけばいい。)

 

 思考で俯きかけていた頭を起こし、これからの事を相談するため再び喋り出す。

 

「ローザリアさん、ひとまずは…「アインズ様っ!!!」ッぉお!?」

 

 突然、玉座の間に響き渡るほどの大きな声で会話に割り込まれたため、二人は思わず肩を震わせ勢いよく声がした方向に振り向いた。一瞬だったが白い影がこちらに向かって猛然と突っ込んで来ていたのは見えた気がする。

 

「アインズ様!よかった、本当によかった…もしアインズ様が居なくなられてしまったら私は、私は…」

 

 白い影は勢いのままドスンッという鈍い音が聞こえるほどにアインズと呼ばれた骸骨へと抱き着いて、小さく消え入りそうな涙声が漏れ聞こえる。どうやら骸骨の無事を喜んでいるようだ。

 

「あ、アルベドか?」

 

「はい!貴方のアルベドでございます!!」

 

 自分に抱き着いている人物を見紛う筈はないのだが、あまりに一瞬の出来事だったために思わず疑問形の問いかけになってしまった。対して抱き着いている白いドレスを身に纏った女性は、名前を呼ばれたのが嬉しかったのかローブにうずめていた顔をガバッと起こし涙目ながらも満面の笑みで応えた。少しその内容が引っかかるのだが今はおいておくとしよう。(貴方の…?)

 

「その、済まなかった。断りも入れずにここを離れてしまったことは深く詫びよう。それと、私はお前たちを置いてどこかに消えるような真似をしないことを誓おう。…だから、その…腕を離してくれると助かる…」

 

 もちろん心配を掛けさせた自分が一番悪いのだが、もう少し抱きしめる力を弱くしてくれると…お、折れる…

 

 いくら自分が100レベルとはいえ魔法詠唱者(マジックキャスター)という職業柄そこまで物理防御は高くないのに対し、アルベドも同じく100レベルで防御特化型の職業とはいえ攻撃は物理寄りであり、その数値はアインズの物理防御力を上回る。つまるところ何にも防御スペルを発動していない今、ステータスが100%影響するので許容圧力を超えた熱いハグは単純に…申し訳ないのだが『痛い』のだ。ほ、骨がきしむ…あとなんか甘い香りがするし何かはさっぱり分からないけど二つの柔らかい感触(・・・・・・・・・)がするしもう色々と不味い…

 

 白骸を全力で抱きしめるアルベドと呼ばれたこの美女は、このナザリック地下大墳墓の守護者統括という重要な役割をを任されているLv100の高レベルNPCだ。しかしゲーム世界が現実世界となった今、自我を持った彼女に対してNPCと呼ぶのはふさわしくないだろう。

 

 アルベドはアインズに言われて我を忘れていたこと気づき、素早く抱きしめていた腕を自分の胸元に戻して、先ほどまで嬉々と輝いていた大きな瞳は伏し目がちになり態度は歓喜から反省へと一転してしまった。

 

「すっ、すみませんアインズ様!アインズ様がナザリックにご帰還された嬉しさの余りとんだはしたない真似を…」

 

 ただ手を離してもらいたかっただけだったのだが、自分のたった一言だけでこうも態度を一変されてしまうと焦りとやりにくさを感じずにはいられない。

 

「いや良い、お前の全てを赦そうアルベド。それにさっきも言った通り悪いのは何も言わずに出て行った私の方だ、むしろこうして心配してくれるのだから感謝している。ありがとうアルベド。」

 

 自分の主人から感謝の言葉を送られて嬉しくない従者など、このナザリック大墳墓中をいくら探したって見つからないだろうが、特にアルベドは顕著で力なく垂れ下がっていた腰の翼は大きく広げられ、目は輝きを取り戻し果てには喜びの涙まで流している始末だ。

 

「命を捧げる主人を心配しない僕がどこにおりましょうか、それにアインズ様の行動には全て意味がございます、それを図り切れなかったのは私の失態。感謝などもったいないお言葉でございます!」

 

 彼女の言葉を聞いたアインズは、アルベドとは裏腹に少し気分が落ち込んでいた。

これだもんなぁ…。素直に感謝の気持ちを受け取ってくれればいいものを、わざわざ自分を蔑むような真似をするんだもの…非常にやりにくい事この上ない。

 

「…アルベド、時には自分をおとしめる様な発言はかえって相手にとって失礼に当たることがある。お前が主人の考えを図ると言うなら、その主人の言葉に含まれた意味も考えよ。」

 

 アインズの深い釘指しにまた失敗していしまったと謝罪しそうになるが、ハッと考えを改めてアルベドは深く礼をした。

 

「感謝のお言葉、痛み入ります。」

 

 アルベドの態度にようやく満足したのか、アインズは若干嬉しそうな声で頭を上げるよう指示した。

 

「よい頭を上げよ、次からは気を付けるのだぞ?さて、この話はもうお終いだ。ではアルベド、来てくれたのならばついでに頼まれてくれ、各階層守護者達をこの玉座の間に集合させよ。」

 

「はっ、御心のままに。」

 

 短い了承の言葉と共に行動を開始するべくアルベドは一瞬で姿を消した。

 しかしアルベドには転移能力は無い。ならば何故一瞬で消えることが出来たのか、それはアインズが守護者統括と言う役職において必要となるであろうと思いあらかじめ渡しておいた【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】の効果を使ったのだろう。この指輪状の魔法道具(マジックアイテム)は、外の世界に居る時一瞬でこのナザリック地下大墳墓に転移する機能と、ナザリック地下大墳墓内で好きな場所に転移することができる機能がある神器級アイテムだ。アルベドが突如として玉座の間に現れたのも、アインズの帰還をいち早く察知したアルベドが指輪の効果を使って転移して来たのが原因だろう。

 

「ふぅ…疲れた。あれ?そういえばローザリアさんは?」

 

 アルベドの突然の乱入により完全にローザリアの存在が思考外へと追いやられてしまっていたことに気づき、あたりを見渡すも彼女の姿が見えない。と、

 

「あ、ここです。」

 

 不意に真後ろから声が聞こえて来たのでこれまたビックリと肩を震わせるアインズだったが、また懐かしさを憶えもした。

 

「もう驚かさないでくださいよ、心臓に悪いです。って言っても《ユグドラシル》の時はよく驚かしてきましたもんねローザリアさんは。貴女のステルス能力は特殊すぎます…。」

 

 声がした方向にアインズが話しかけると、その空間が歪んだ様にもずれた様にもとにかく異様に形が崩れスゥーとローザリアの姿が浮かび上がってきた。

 

「えへへ、すみません。でもモモンガさんが悪いんですよ?私を無視して可愛い女の子とイチャイチャするんですから…」

 

 そういうとわざとらしくローザリアは頬を膨らませる。

 

「いや、そのイチャイチャしていたとかではなくてですね…」

 

 彼女の態度にアインズはアタフタと取り乱し必死に言葉を並べて取繕うが、その悍ましい見た目と身振り手振りの動作とのギャップが何とも滑稽だ。

 

 そんなアインズの姿を見てローザリアは頬に溜めていた空気をそのまま吹き出して笑う。

 

「ふふっ、冗談です。ホントはびっくりした癖で無意識にスキルを発動させてしまっていたようです。自分でも気づくのにちょっと時間がかかりました。」

 

「そういえば《ユグドラシル》でもステルス状態で居ることが癖でしたもんね。…あれ?と言うことはアルベドはローザリアさんの存在に気付けていない?」

 

「あー、そうかもしれないです。私が消えていたのが原因かもしれないですけど最初っからモモンガさんの方しか見ていませんでしたし目を離そうともしませんでしたから。彼女そんな性格の設定でしたっけ…?そんなことより、モモンガさんは何故彼女にギルド名を呼ばせているのですか?」

 

 彼女の問いかけにアインズは口ごもってしまう。僅か数分で黒歴史よりも恥ずかしい事態に陥った出来事を思い出し、頭を抱えそうになるアインズだがこれは自分が招いたことだ、当然説明しなければならない義務がある。(ただ…まぁ今じゃないだろう?)

 

「うぐっ…あー、そこらへんはえーっと…追々説明することにします。と、取り合えずローザリアさんも聞いていたとは思うんですが、此処に階層守護者達が集まってくるので、まずは彼らに挨拶と行きましょうか。」

 

 アインズがそう言うと、先延ばしの論点ずらしが功を奏したのかローザリアは了承と共に期待と不安が入り混じった複雑な表情を浮かべたのだった。

 

「さっきのアルベドさんもそうですけど、推測ですが他の皆さんも私たちしか認識できない異常事態によって自我が生まれ、自分の意志で動いているんですよね?」

 

「えぇ、その推測の通りです。この状況に陥ってしまった原因は自分も一切分かっていませんが、彼らが喋り出した時は相当にビビりました。」

 

「ですよねぇ…あぁ何だか不安になって来ちゃいました。みんなに変な風に思われないか心配だなぁ…それでも会って話してみたいなぁ…」

 

 アインズは彼女の抱いている不安に痛いほど共感できる。

 彼女に会うまで、彼はここナザリック地下大墳墓の主にして王という、つい最近まで一般市民だった階級の人間にとっては重すぎる立場に偶然にもなってしまった。会社の上司と部下ならまだしも、王として従者たちへの接し方など普段から考えることではない。それでも四苦八苦しながらも自分の事を王と崇める従者たちの期待に背かない様な振る舞いをせねばならないと必死になって努力して来た。しかしそのストレスたるや、アンデッドとなって疲れを知らぬ体になったとしても心労だけは増えるばかりで心休まる暇がないのが現状だった。

 だからこそ、彼女を見つけられたことはアインズにとって歌って踊りたくなる程に嬉しい出来事だった。まさに奇跡!!

 この辛さ苦しさを共感できる、愚痴る事が出来る、いやそれだけじゃない。この未知の世界において知っている存在が一人でもいるだけで心強さが段違いだからだ。

 

「ローザリアさんの気持ちは良っくわかります。安心してください、私がちゃんとサポートしてみせますので。それよりも彼らは、至高の41人の一人と言うだけで相当の忠誠心を見せてくるので、どうか彼らの気持ちに引いてしまわないよう気を付けてくださいね。」

 

「例えばさっきのみたいな?」

 

「えぇ…本当に苦労させられますよ…。」

 

「あはは…」

 

 苦労を思い出してまた気分が沈みかけそうになったアインズだが、払拭するようにわざとらしく大きく手を叩いて気分を一新させる。乾いた音が玉座の間に響き渡った。

 

「よし、では彼らが来るまでまだ幾ばくか時間があります。それまでにスピーチのレクチャーなどをしてしまいましょう。」

 

「はい、よろしくお願いします。先生♪」

 

「や、やめてくださいよ」

 

「ふふふ、モモンガさ…いえアインズさんは昔と全然変わってないですね。」

 

「それは、貴女もですよローザリアさん。…はははっ」

 

 アインズは幸せを感じていた。昔馴染みの仲間とこういった何の他愛も無い会話をすることがこんなにも楽しくて、懐かしくて。それに誰にも見せられなかった、見せてはならなかった本当の自分を安心して見せることができる人がこんなにも近くにいる。なんて幸せなことなのだろう。涙腺があったのならばアルベド宜しく涙を流していたかもしれない。

 

 

 各階層守護者達が玉座の間まで集合するまで時間にして残り5分。

 

 果てさてローザリアと彼らの邂逅はうまくゆくのだろうか。

 




ここまで読んで下さり本当に有難うございます。

宜しければ感想、ご意見を頂けたら嬉しいです。
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