鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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いつも閲覧していただきありがとうございます。

書いて置いた書き留を添削添削していたら、いつの間にか結構な時間がかかってしまいました。

全ては守護者達のキャラが濃いせいだ…特にデミデミ…。

キャラ崩壊はしてないとは思いますが、原作よりも自分の中のイメージで書いてしまっているので読まれる際にはご注意ください。

あと今回は普段の2倍くらいありますので気合を入れて読まれるといいと思います。(まぁ全部ビッチリ読む必要も無いので飛ばし読みでも全然かまいません。)

それではどうぞ。


謁見

 ナザリック地下大墳墓最下層、ギルド《アインズ・ウール・ゴウン》最重要箇所【玉座の間】

 

「階層守護者各位、御身の命により集結を完了致しました。」

 

 広いこの空間にスゥと溶けていくようで、しかしはっきりと聞き取る事が出来る若い女性の声が響き渡る。ナザリック地下大墳墓 全10階層あるエリアの各守護者達が集まったことが、女性の恭しい礼と共に水晶の玉座に深く腰を掛けた骸骨に告げられる。

 

「うむ、ご苦労。此度は皆忙しいところを良く集まってきてくれた。感謝する。」

 

報告を受けた骸骨は軽く手を挙げ、白いドレスを着た女性とその後ろに控える影達に礼をした。

 

 この巨大な水晶の玉座に座っている骸骨は、ここナザリック地下大墳墓の絶対の君主にして王と崇められる存在。彼の名はモモンガ、否、今は『アインズ・ウール・ゴウン』としてこの地を治めている。彼は強大な力を誇る魔法詠唱者(マジックキャスター)で、かつて仲間たちと共に数々の極悪非道RPと多くのワールドアイテムを保有したことで一躍有名となったギルドのリーダーを務めていた。

 

 そしてアインズの正面に立つ、階層守護者集結の報告をした白いドレスを身に纏ったこの女性は、ナザリック地下大墳墓守護者統括という重役を務めている『アルベド』。見る者全てを虜にしてしまうようなの美貌の持ち主で、人間の姿をしているものの、頭から天に向かって伸びる純白の巻角と腰から生えている堕天使を思わせる様な漆黒の翼が人間ではないことを如実に表している。彼女の種族は人を惑わすことに長ける小悪魔(インプ)だ。そのお陰でアインズは色々と苦労させられているのだが、それはまた別の話。

 

アインズが玉座から見下ろす階段の下には集められた階層守護者達が横一列に並んでいる。彼らはいつ誰が命令したわけでも、訓練したわけでも、教えたわけでもない筈なのに全員から畏敬の念がにじみ出ているのが分かる見事な立ち姿で君主の言葉を待っている。

 

 アインズは異世界に転移してからと言うもの、これまでに何度かこのような状況に直面してきた。現実世界ではただの会社員であった鈴木悟にとって、そうそう簡単に慣れるような状況ではなく毎回極度の緊張で失った筈の胃がキリキリと痛む思いをしている。だが、アンデッドの体になったことですぐに波一つ立たない湖面の様な平静さを保つことが出来る様になった。どうやら異形種特有の〈精神操作無効化スキル〉と言うパッシブスキルの影響によるらしい。《ユグドラシル》が異世界とすげ変わったことに関係があるかどうかは分からないが、人間の時に得られる過度な興奮状態や憔悴状態といった精神的に不安定な状態を強制的に平定させる効果が付与されたようだ。

 この効果のお陰でいくつもの窮地を何とか切り抜けて来たのだが、同時にまだ人間であった時の感覚が残っているので、大喜びしたい時でもスキルが発動してしまい、感動を素直に実感できなくなってしまった事がもどかしく感じる時もある。まぁともかく、こういう場面では非常に助かるので有効活用することにしよう。

 

「まずは…アルベド、私がナザリックを留守にしていた間に起きた事はあるか?」

 

「いえ、先の第10位階級の魔力検知した後、ナザリックの警戒レベルを最大に引き上げ警戒に当たりましたが周辺区域並びに内部での異常事態はございませんでした。…強いて上げるのならば…その…」

 

「ん?どうした、遠慮なく申して見よ。」

 

 順調に報告をしていたアルベドだったが、最後の方で何か言いづらそうに口ごもってしまった。それを不審に思ったアインズは全てを話すように促す。

 

「…はっ。大変申し上げにくいのですが…その、アインズ様が突如としてご不在になられたことを知った者達が少々取り乱しまして…。」

 

「そうか…やはりな…。」

 

 守護者だけではない、このナザリックに居るすべてのキャラクター達はアインズに絶対の忠誠を誓っている。それはもはや依存に近いレベルであリ、心のより所として崇めている存在が突然消えてしまったとなれば、ショックで情緒が不安定になることくらい考えなくても分かることだ。先ほどのアルベドが良い例だろう、事態は思っていたよりかなり深刻だ。…絶対に『〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉の扱いが煩わしくて、面倒だからそのまま行っちゃった。』なんて言える空気ではない。

 

「皆にはひどく迷惑を掛けさせたようだ、すまない…。」

 

「そんな!謝罪などなさらないでください!全てはその者達がナザリックに仕える身としての心構えが足りなかった事で起きた事態でございます!アインズ様がお気に悩む必要などありません!!」

 

 アインズの謝罪に真っ先に反応したのは眼鏡を掛け、ネクタイまでしっかりと締めた三つ揃えのスーツをバッチリと着こなしている1.8メートル程の男だった。

 この男は第7層『溶岩』エリアを守護する『デミウルゴス』。アルベド同様に人間のような出で立ちだが、腰から伸びる邪悪な造形をした尻尾には銀のプレートに包まれている。種族は悪魔だ。彼はナザリック随一の明晰さを誇る頭脳の持ち主であるため、重要な仕事を多岐にわたり行っている。

 

「畏れながら申し上げます。まず大前提にアインズ様の輩下である我々が主人の御行動の妨げになる事があってはなりません。御身自らが深いお考えの下で行動されているならば、それに干渉することなど下僕としてあってはならない愚の骨頂の行為にございます。ましてやそのお考えに『迷惑』などの感情を持ち合わせる様な不届き者がここに居ようものなら、今すぐにでも消し炭にして御覧に入れましょう。」

 

 先程とは打って変わったデミウルゴスの流れるように落ち着いた話し方と心地よい耳障りの声音には隠しきれない激情が込められており、彼の言葉によって守護者達を取り巻く空気がピンと張り詰められる。守護者達は表情を崩さないが全員がその見解に賛同し、デミウルゴスの言葉通りもしこの中にそのような考えを持つような者が居たならば例え仲間だろうと己の全力を持って殺しにかかるだろう。

 

 アインズは守護者達の間に張り詰める緊張感を刺激しないよう慎重に言葉を選びながらデミウルゴスの主張に異見する。

 

「お前の言いたいことは分かっているつもりだ、デミウルゴス。だがな?そもそも私が皆に何も言わずに消えたのがそもそもの原因なのだ。例えどんな位に属していようと、迷惑をかけたのならば謝罪するのが当然の義務と私は思う。」

 

 対するアインズの主張にまだ何か言いた気な態度をとるデミウルゴスだったが、アインズは右手を前に差し出して二の句を継がせない。

 

「だからこそ、けじめとして私は皆に誓おう。今後一切、私は皆に無断でナザリックから出て行ったり身を隠すような真似をしないことを、そして行動を起こす際は必ず報告することをここに誓う。」

 

 アインズが誓いの言葉を言い終わると同時に守護者とアインズとの間でゴォッ!!と一瞬だけ紫の炎が燃え盛り、開いた状態のスクロールが出現した。そしてその書面にはアインズの誓いの言葉が炎の焦げ目となって印字されている。

 中空に浮いているスクロールは丸まりながらアインズの正面に立っていたアルベドの手元へと移動する。

 

「アルベドよ、守護者統括として今ここに居ない者達全てにその誓書を見せ、私の誓いを言い伝えよ。」

 

 スクロールを丁寧に受け取ったアルベドは軽く足を跪かせ了承の意を示す。

 

「はっ、我が命をもって必ず遂行いたします。」

 

「うむ、頼んだ。」

 

 一先ず己の後先考えない行為で招いた失態のけじめとして、絶対にやっておきたかった事が無事に完了し、心の中で安堵の溜め息を吐くアインズだったが、なにやら守護者達の様子がおかしい。ある者は俯き、ある者は目頭を押さえ、ある者は肩を震わせ…と、とにかくアインズの話の前と後で、守護者達の態度が明らかに違った。

まさか何かやらかしてしまったか!?と安心していたのもつかの間。またジットリとした嫌な焦燥感にかられるがすかさず精神操作無効化スキルにより何とか平静を取り戻す事が出来た。

 

「み、皆どうしたのだ?もしや今の誓いだけでは不十分だっただろうか…?」

 

恐る恐る問いかけた言葉に守護者達の動きがピタリと止まる。そして…

 

「いいえ!滅相もございません!!むしろわたくし達は歓喜に打ち震えているのでありんす!!」

 

 クワッと言う擬音が聞こえそうなほどの勢いで俯いていた顔を上げた小柄な美少女が威勢よく答えた。その手にはハンカチが握られ、目から零れ落ちる宝石のように美しい大粒の涙を拭っている。

 

 彼女はナザリック第1・2・3層『墳墓』の階層守護者である『シャルティア・ブラッドフォールン』。種族は吸血鬼の祖である『真祖』だ。肌は心臓が鼓動していないせいか蝋のように白く、生を感じさせない。服は黒にピンクのフリルがついたゴシックロリータ調の衣服を身に纏っており頭にボールガウンを被っているので、服と雰囲気が相まって等身大の西洋人形のような印象を受ける。あどけなさが残る顔立ちは、しかし何者をも寄せ付けぬ風格と気品があふれ出ている。それと作者は血を吸われて死にたくないので『胸』についての言及は一切しないこととする。

 

「輩下デアル我々ニ対シ、君主自ラオ隠レニナラナイコトヲ誓ッテ下サッタ。我々ニトッテコレ程喜バシイ事ハアリマセン!」

 

シャルティアに続く形で隣に居た青い大きな塊が、ゴシューと圧力弁から空気が漏れる様な音を立てて賛同の意を表した。

 

 彼はナザリック第5層『氷河』の階層守護者、『コキュートス』。今集まっている階層守護者の中で唯一人間離れした見た目をしている人物だ。種族は蟲王(ヴァーミン・ロード)である。全長は2メートルを優に超え、例えるなら悪魔が歪め切ったカマキリとアリを融合させ2足歩行にしたような外見をしている。全身は甲虫さながら青く輝く強化外殻に覆われておりその硬さは尋常の力では傷一つ付ける事さえ叶わない。表面には氷柱のようなスパイクが無数に突き出ており極寒の冷気が携えられている。

 

「アインズ様の誓いのお言葉は、今後いっそう我々の励みとなることでしょう。」

 

 深い敬畏に満ち溢れた眼差しと物言いのこのナイスミドルは、階層守護者ではないものの同格の力を持っている。主に至高の41人の生活面を支える最高責任者である家令、『セバス・チャン』だ。種族は竜人であるが人の姿をしており、見た目は執事服を見事に着こなした壮年の男性だ。彼には直属の部下として10人の男性使用人と戦闘メイド隊『プレアデス』を指揮下に持っている。

 

「お、おう…そうか。」

 

 守護者達から怒涛の賛辞を聞いてアインズの抱いていた不安は霧散した。心の中で張り詰めていた緊張の糸が切れ、思わず力が抜けてしまい伸びていた背筋を崩して少し深めに玉座にもたれかかる。

 

「アインズ様!失礼を承知の上で一つお聞きしても良いでしょうか!」

 

 皆が思い思いに感動している中、一人の少年が意を決した表情で問いかけてきた。それを見たすぐ隣に居る少女はオドオドと慌てている。

 

「む?構わぬぞアウラ。」

 

 どう見たって男の子にしか見えない恰好をした『アウラ』と呼ばれたこの少年は正真正銘女の子(・・・)である。そしてその隣でオドオドしている割と短めのスカートを履いた少女はアウラの双子の弟『マーレ』、つまり男の子(・・・)…いや男の()である。なんでこんな格好を二人がしているのかは、かつての仲間であるこの二人の創造主『ぶくぶく茶釜』氏しか知りえない。

 

 二人ともナザリック第6層『ジャングル』の階層守護者だ。彼らの名前は正しくは姉の『アウラ・ベラ・フィオーラ』と弟の『マーレ・ベロ・フィオーレ』と言う。種族は共にダークエルフであり褐色の肌と横長で尖った形の所謂エルフ耳を持っている。外見は垢抜けない子供で、「活発」と言う文字をそのまま顔に張り付けた様なのがアウラ、「臆病」と言う文字を張り付けたのがマーレと言った感じだ。見た目こそ10歳そこいらの少年少女と変わらないがエルフは長寿とされているため、二人の年齢は人間に例えればもう立派なおじいちゃんおばあちゃんに匹敵する76歳だ。

 

「お、お姉ちゃんやっぱり失礼だよぅ…」

 

 消え入りそうな声で弟のマーレが姉にやめるよう促すが、アウラはびくともせずそのまま質問を続ける。

 

「あの、どうしてアインズ様はお一人で外の世界に行かれたのでしょうか?」

 

「うわわっ…お、怒られても知らないんだからね!」

 

 単純にして核心。守護者達のほとんどは「至高なる御方の深いお考えに基づいた行動」として、あえて誰も聞かずにいた。が、それでもやっぱり気になっていたことをアウラは臆しもせず質問したのだ。これが若さか…アルベドとデミウルゴスはその明晰な頭脳を用いてアインズの行動に含まれた意味をある程度推測し自分を納得させていたのだが、そうでも無い者たちにとっては些か疑問点が大きすぎるのだ。

 

『何故我らの君主は何も言わずに出て行ってしまったのだろう』と。

 

 無事に自分たちの下へ帰ってきたから良かったものの、もしそのまま帰ってこなかったらと思うだけで体の震えが止まらなくなる。そう、彼らが何よりも恐れるのは強大な敵対峙することでも、己の命が奪われることでもない。創造主たるアインズに見捨てられることなのだ。

 

 何か失望させるようなことをしただろうか、もしや見放されてしまったのではないだろうか…

 

 考えれば考えるほど負のスパイラルに陥ってしまう。短い時間ではあったが、アインズがナザリックを離れていた時の内部の荒れようと言ったら口に出すのもはばかられる程だった。それほどまでに『アインズ・ウール・ゴウン』という存在は彼らにとって決して失ってはならない存在なのだ。

だからこそアインズは今までの上司と部下のような甘い認識を改め、ナザリック地下大墳墓の主としての責任を再認識し、皆の前で誓いを立てたのだ。

 

「よい、マーレ。アウラが言うことはもっともなことだ、そのせいでお前たちに多大なる不安を抱かせたのだからな。答える義務があると言うものだ。」

 

 アルベドやデミウルゴスが畏れ知らずな発言をしたアウラに物申しそうな態度をとるが、それを見越して間髪入れずにアインズは言葉を続ける。

 

「…そうだな…ここまで迷惑を掛けさせたのだ、正直皆に話すことではないと思っていたがそれは錯誤なのだろう。そう、早い話が皆を試したのだ。」

 

「試す…?」

 

 アインズの「試す」と言う言葉に全員が疑問符を頭の上に浮かべている。

 

「あぁ。常日頃からお前たちの忠誠心には驚かせれ、また嬉しく思っている。だが良いことを思えば同時に悪いことを考えてしまうのが自然の摂理と言うものだ。ここナザリックの君主と言う立場なら尚更にな。『もし私が居なくなったとしたら彼らは大丈夫なのだろうか』…と。」

 

 守護者達からゴクリと生唾を飲む音が消えてくる。アインズの行動に秘められた本当の意味を一言一句聞き漏らさない様に真剣に傾聴の姿勢をとっていた。

 

「だからあえて『異世界での第10位階級の魔力検知』という絶好の非常事態で行い、皆がどのような反応を示すのか知りたかったのだ。…しかし現実は私が思っていたよりもかなり深刻そうだ。先ほど皆の前から身を隠さないと誓いはしたが、この先何があるかは分かったものでは無い。いずれ近いうちに本当に消えてしまうかもしれない…。だから今のうちに皆の反応から何か対策を練っておこうと思っていたのだ。…これが私が何も言わずしてナザリックを留守にした理由だ。」

 

 アインズが事の真意を話し終えてから寸刻、静寂が続いた。暫くして口火を切ったのはアインズだ。

 

「皆もこのことは念頭に置いておいてくれ。…少し空気が重くなってしまったな、この話は今日はここまでにしておいて少し話題を変えるとしよう。お前たち、外で感知された第10位階級の魔力の正体が何だったか知りたくはないか?」

 

 そういえば、と守護者達は思い出す。アインズの失踪という余りにも大きなショックでそちらの存在を誰もが忘れかけていた。アインズが無事であったならば一先ず第10位階級の魔力などどうでも良かったのだ

 しかしアインズが戻ってきた今、言われて俄然興味が湧いてきてしまった。どうやらアインズはその正体について知っている様子だし、彼の口ぶりからそう悪い知らせではないことも読み取れる。

 

 彼らの雰囲気が暗いものから明るいものへと変わったことを感じ取りアインズは満足する。

 

「皆驚くと思うぞ、何故なら私も声に出して驚いたのだからな。」

 

 君主が声を上げるほどの存在…それだけで心の内に抑えきれない期待感があふれだしてくる。早く教えてくれないか、もったいぶらないでくれ、そんな声が聞こえてきそうだ。

 

「まぁそう焦るな。第10位階級の魔力の正体はな…」

 

―――ゴクリッ…

 

「…これだ。」

 

 アインズがパチンッと器用に骨の指で音を鳴らすと…何も…起きない。

 

 

 

『お久しぶりですね、皆さん。』

 

 

 

 すっかり油断していた守護者達は突如として虚空から声を掛けられてビクリッと肩を震わせる。しかし今の声…聞き覚えがある?

声の主を探そうと守護者達は思わずあたりをキョロキョロと見回す。

 

「あ、あれは…?」

 

 マーレが異変に気付き目を止めた。指がさされた先に守護者達が意識を集中させる。

 指が指された先、そこはアインズの座っている玉座のすぐ横にある空間だった。よく見ると空間が不気味に歪み始めている。守護者達はその異常さから目を離せないでいた。

 歪みはだんだんと規模を大きくしていき、形を成していく。それが人型だと分かるころに表れたのは黒い服を身に纏った身長の高い女性だった。

 

―――驚愕

 

 守護者全員が目を見開き口をあんぐりと開け金魚のようにパクパクさせている。他の者達ならば分かるが、アルベドやデミウルゴスがこんな表情をするのはなかなかに貴重だ。まぁ無理も無いだろう、彼らの前に現れた女性はナザリックに仕える者ならば誰しもが知っていなければならない偉大なる存在だからだ。

 

 彼女は至高の41人が一人、名を『ローザリア』と言う。

 

 驚愕に身を固まらせている守護者達をよそに〈通信(メッセージ)〉でアインズとローザリアは声に出さず会話をする。

 

(みんな驚いてますねぇ)

 

(そりゃそうですよ。私でも会えないと思っていた人に逢ったらああもなります。)

 

(ふふふ…しかし先ほどの『言い訳』は本当に思っていたことなんですか?)

 

(『言い訳』って言うのやめてくださいよ、実際そうなんですけど…でも彼らとこれからどのような関係を築いていくのが理想的かいい判断材料になったので結果オーライです。)

 

(…確かに、深い依存の関係は非常に危ういですからね。しかしそろそろ何か言ってあげなくていいんですか?彼らまだフリーズしてますよ。)

 

(おっと、いけないいけない…。)

 

 ローザリアに言われ、未だに固まっている守護者達に声を掛けるため視線を彼らに戻す。

 

「あーゴホンッ、驚くn「素晴らしいっっ!!!!」ッぉおお!?!?」

 

 …本日二回目。なんだろう、話すタイミングが悪いのか彼らが話を聞いていないのかは分からないがよく割り込まれる…。凄く興奮しているみたいだし水を差すような真似はかわいそうなので注意するのは今度にしよう。…はぁ

 

「やはり…やはり我らが君主は偉大なるお方だ!そこまでお考えになられていようとは!あぁ…素晴らしい…アインズ様は到底私のような者の頭脳では計り知れない領域にいらっしゃられる!!そもそもいち下僕である存在がアインズ様のお考えを図ろうとなどと言うのが間違いなのだ…!!私デミウルゴスはアインズ様にお仕えする事が出来て恐悦至極にございます!!!」

 

 デミウルゴスの眼鏡の奥にある普段は閉じられた瞼はカッと見開かれ、宝石の瞳が大きく覗いている。顔には恍惚とした表情を浮かべ両手は天を仰ぎ全身で喜びを体現している。自制心が働いていなかったら腰から伸びる長い尻尾は興奮で今頃ブンブンと音を立てながら大きく左右に振られていたことだろう。

 

 お、おう?一体どんな誇大妄想をしてくれたのか気になるが、なんかアルベドも頷いてるし…まぁ悪いことは考えて無さそうだから放っておくことにしよう。うん。

 

 アインズが人知れずそんなことを考えていると、いつの間にかローザリアの正面へと進み出ていたアルベドがゆったりとした優雅な動きで跪き、感謝の言葉を述べる。

 

「再び我らの前にローザリア様が帰還して頂けたこと、誠に喜ばしい限りでございます。もう二度と対顔叶わぬものだと思っておりました…さぁ皆の者!ご帰還なされた至高なる御方へ『忠誠の儀』を!」

 

 アルベドの言葉で、各階層守護者達が改めて自己を名乗り順々に跪いていく。そのなんと丁寧な仕草の事か。ローザリア自身も教会と言う場所に勤めていたので礼儀と言うものは厳しく教えられてきたものだが、彼らを見ていると自信を無くしてしまいそうだ。

 

(これは…なんとも凄いですね…。)

 

 目の前で繰り広げられる光景にローザリアは思わずアインズに目配せしてしまう。

 

(でしょう?私も最初ちびりそうでしたよ…さぁ、準備が出来たみたいです。声を掛けてあげてください。)

 

 アインズに促され守護者達へ向き直ると、彼らは深々と首を垂れている。何も言わなかったらきっと彼らは何時間でもその姿で居続けてしまうだろう。

 

 心が緊張と平静の狭間を行ったり来たりして落ち着かない。集中が乱れる、だがいつまでもこうしているわけにもいかない…。静かに深呼吸をして「よしっ」と覚悟を決めたローザリアは謁見の前に二人で決めていたある作戦を決行する。

 

ローザリアが右手を横に振るとパシュンッと言う音が鳴ると同時に、完全形態へと姿を変えた。

 

 先程まで修道服を着た優し気な雰囲気を携える女性の姿は微塵も無くなり、深紅の薔薇をモチーフにして作られたその姿は、薔薇の棘を思わせる鋭利で攻撃的なフォルムに包まれている。そしてあたりには禍々しい死の香りが漂い、幾分か照明が落ちた様に暗く陰る。…もしも心の弱い者が彼女の姿を見たならば、彼女の発する圧力(プレッシャー)に耐えきれず命を落としてしまうだろう。

 

そう、ある作戦とは何のことは無い、あえて厳つい姿となり、《ユグドラシル》のRPで仲間達から半強制的に会得させられた(・・・・・)仰々しい話し方をすることで、守護者達に強者の印象を少しでも与えようと言うものだった。これはアインズの姿を見てローザリアが閃き、発案したものだ。

 

「我ニ忠誠ヲ誓ウ者アラバ、面ヲ上ゲヨ」

 

 ローザリアの指示で全員が一斉に顔を上げ、守護者達から畏敬の念が込められた熱い眼差しを向けられる。

 

「ウム、皆元気ソウデ何ヨリダ。シカシ会ウノ本当ニ久シイ、心嬉シク思ウゾ。」

 

 人間なのか動物なのかもわからない音で無理やり声にしたノイズ交じりの機械音でローザリアは守護者達に声を掛ける。雰囲気と声音の不気味さも相まって、なかなか様になっているんじゃないか?と、ローザリアは満足そうだ。

 

 代表として守護者統括であるアルベドがローザリアの言葉に答える。

 

「はっ、我々はこうして再び至高の41人の御一人であるローザリア様にお逢いする事が出来て、幸甚の至りでございます。」

 

「ソウカ、ナラバ聞コウデハナイカ、忠誠ノ儀トヤラヲ。」

 

 ローザリアから忠誠の言葉を求められると

 

「御意」

 

 とだけアルベドは短く答える。そのあとアルベドは本当に僅かな時間だが守護者達と目配せをしたように見えた。そして…

 

『階層守護者各員、ローザリア様の御下命とあらば、例えいかなる難行と言えども、全身全霊をもって造物主たる至高の御方々に恥じない働きをすることを誓います。』

 

 一言一句全くずれることなく、全員が誓いの言葉と共に忠誠を立てた。

 

「ア、アリガトウゴザイマス…」

 

 流石にこの演出には度肝を抜かされたらしく、ローザリアは完全に素が出てしまっていた。頭が真っ白になってしまったが、何か答えなくてはと必死に頭を巡らせ言葉にしていく。

 

「ハッ!…ゴホンッ…エー、ウム…。ソ、ソナタ達ノ忠誠シカト心得タ。今後ハアインズダケデ無ク、我ガ命ニモ従イ共ニナザリックノ発展ヘト励モウゾ。」

 

『はっ!!』

 

 ローザリアに自分たちの忠誠を受け取ってもらえたのが嬉しいのか、各々満足気な表情を顔に浮かべている。

 

 無事に忠誠の儀が終わったことを確認したアインズが、改めてこの場を仕切り直す。

 

「実に見事な忠誠の儀であった。これはローザリアの言葉を借りるようだが、今後は私たち二人がナザリックの運用方法を指示していく。だがこれはあくまで議題に過ぎず、最終的な運用決定は全員の意見を取り入れたうえで行う事とする。この後私とローザリアは今後の話し合いをするので9層の円卓の間に移動する。皆は各自の仕事に戻り作業に励んでくれ。」

 

 そういうとアインズは指輪を使いナザリック地下大墳墓第9階層『ロイヤルスイート』にある【円卓の間】へと転移した。

 ローザリアもアインズに続いて転移しようとしていたのだがふと思いとどまったらしく守護者達に向き直る。

 

「皆さん今日はお疲れ様でした。アインズさんが言っていたとおり暫く話し合いをしてきますが、まだまだ名残惜しいので皆さん後でいっぱいお話をしましょうね。それでは失礼します。」

 

 女神顔負けの美貌と、性格から来るお茶目な笑顔で守護者達と後で話す約束を取り付けたローザリアは、指輪の力を使い彼らの前から去った。

 

 そんなローザリアの姿に男性陣からひと言。

 

『可憐だ…。』

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。

いやキャラクター達の表現の難しい事…早くアインズとの二人旅まで持っていきたいところです。

宜しければご意見ご感想など頂けると作者はとても喜びますので、どうかよろしくお願いいたします。
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