鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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どうも、テストが終わったら今度はバイトで死にそうな作者です。

なんだかんだ無事に夏休みに入ったので、結構はかどり早めの投稿です。

本当は戦闘パートまで一話でまとめる筈だったのが、書いているうちにどんどん長くなってしまったので仕方なく分けることにしました。

戦闘パートもほぼ出来上がっているので近日中に投稿できる筈です。


それと、別にこんな前書きに書くような事じゃないんですが、余りにも嬉しかったので書かせてください。

なんとお気に入り登録者数が驚異の400件越えました。

いやったああああああああ!!うわああああああああああ!!!ああああああああ!!ブチブリイ

…いやね?400件って大したことないように思えるかもしれないけど、別に本を書いてるわけでもない只の一般ピーポーからしてみれば、全国に名前の知らない400人の方が僕の作品を面白いと気に入っていただけたと言うのはもうそれはそれはすごいことなんですよっ!!!

前書きと言う場ではありますが、どうかお礼をさせてください。

僕の様なトーシローが書いた作品を支持し、お気に入りに加えてくださった皆様。本当に有難うございます。これからもできうる限り皆さんの期待に沿えるよう頑張っていきますので、どうぞこれからもジェラシー卑屈川をよろしくお願いします。


すみません、前置きが長くなりました。

今回は、前々回がふざけまくったのでちょっと真面目な、所謂シリアス回と言う奴です。

若干、アインズ様アンチの表現がございますが、気になるようでしたらブラウザバック推奨です。

ではどうぞ。


悲劇:序章

 暗闇。

 

 見渡す限りの深淵。

 

 光は無く、音すらも聞こえない暗黒。

 

 気づけばそこに自分(ローザリア)が立っていた。光のない場所でそれはそれははっきりと。

 

 そしてそれを私はただ傍観している。

 

 真っ暗な空間に二人きり。

 

 なぜだか自分がもう一人いることに対しては何の疑念も抱かなかった。

 

 それはピクリともせず、ひたすらに立っている。

 

 いや、立っていた。

 

 私に後ろ姿しか見せなかったそれは、いつの間にかこちらへと振り返り、歩いてくる。

 

 私は動けなかった。

 

 溶けた鉛で全身を固められてしまったかのように、指先一つ動かせなかった。

 

 それは歩いてくる。ゆっくりと、確実に。

 

 それが近づいてきて分かったことがある。

 

 それは何かしゃべっている。

 

 私はそれが何をしゃべっているのか聞き耳を立てた。

 

『…ス…セ……コ…ソウ…』

 

 どうやら壊れたスピーカーの様に同じことを繰り返しているらしい。

 

『コワ……コ…セ…』

 

 私は後悔した。聞き耳を立てるんじゃなかった、と。

 

『コワ…ス…コワセ…コ…ソウ』

 

 どんどん近付いてくるそれの声に混じる音があった。

 

ズル...ズル....

 

 何かを引きずる様な音だ。

 

ベチャ...ベチャ...

 

 それに湿っぽい音もする。

 

『コワス…コワセ…コワソウ…コワセバ…』

 

 音の正体はすぐに分かった。

 

 溶けていた。

 

 体表面を覆っていた筈の液体金属が、見るも無残に溶けて足元にボトボトと零れ落ちていく。

 

 皆が美しいと褒めてくれた眼も、鼻も、口も、火に当てられた蝋人形の様にドロドロと溶けてしまった。

 

 代りに顔をのぞかせたのは真っ黒な頭蓋骨。

 

 誰にも見せたくない私の醜い内部骨格だ。

 

 それは私のすぐそばまで来て止まった。

 

 相変わらずそれはブツブツと呟きを繰り返し、私は動けなかった。

 

 意を決して私は問うてみた。口だけは動くらしい。

 

「貴女は…一体何者なのです?」

 

 グルグルとカメレオンの様に忙しなく動いていた真っ黒な瞳は、私の問いに答える様にこちらへと焦点を合わせた。

 

『………。』

 

 沈黙。先程まで永遠と続いていたつぶやきも止め、それはジッと見つめてくる。

 

「もう一度聞きます。貴女は…」

 

『オマエダ。』

 

 喋った。しかしそれの声は私のものでは無かった。

 

 聞いたことのない悍ましい声。

 

『私ハ、オ前ダ。ソシテ、オ前ハ、私ダ。』

 

 私は否定した。こんな悍ましいものになったつもりはない。

 

「消えなさい、私の前から!」

 

 手足が動かないため、言葉の限りを尽くして目の前の私に罵詈雑言を浴びせる。

 

「ぐぅっ…!!」

 

 とてつもない握力で首を絞められた。メキメキと鳴ってはならない音が首から聞こえてくる。

 

 声が出せない。

 

『ハハハ!…サァ、コワソウ。…コワス…コワセ…コワソウ…コワセバ…コワス…コワセ…コワソウ…コワセバ…コロス…コワセ…コワソウ…コワセバ…コロス…コワセ…コワソウ…コワセバ…コロス…コロセ…コロソウ…コロセバ…コロス…コロス…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…殺す。』

 

 それの手から何かが首を伝って侵食して来る。

 

 そしてそれは、私の体を黒く黒く染め上げていく。

 

(いや…やめてっ!いやぁっ!!)

 

 苦しくても、もがくことすら許されない。

 

 だんだんと視界がぼやける。

 

 頭の先から爪先まで全身が黒に染まった時、私は意識を失った。

 

 

 

 

(うっ…ここは?)

 

 状況を確認するため体を起き上がらせようとするも酷い怠さで、体に全く力の入らない。それでも無理やり起き上がりあたりを見回す。

 

 人はいない。

 

 見知らぬ照明のない薄暗い天井、何処からともなく聞こえてくるモータの静かな駆動音、そして肌にまとわりつく乾いた冷気。

 

 目を覚ましてから感じたのはこの三つ。そして自分は背後にある巨大な機械に繋がれたカプセルの様なものに横たえられていたらしい。

 

 巨大な機械から伸びる部屋を埋め尽くさんばかりのコードから発せられる青白い光だけが部屋を照らしていた。

 

 それにしても状況が全くつかめない。そもそもなぜ自分がこんなところに居るのか皆目見当がつかない。

 

 何か原因になるような出来事が無かったか、一番近い記憶を思い出してみる。

 

「うぐっ…!?」

 

 祝賀会までは思い出せた。しかしその先を思い出そうとした途端、強烈な吐き気と頭痛に襲われた。強靭な機械の体を手に入れた筈なのに、これではまるで人間ではないか。

 

 が、そうではないらしい。全身に刺さる機械的なプラグとコードを見れば、自分の体が人間でないことは一目瞭然だ。

 

 一先ず記憶を遡ることはやめ、頭から脊髄にかけて刺さっているプラグを抜いていく。

 

「くっ…痛みまであるなんて、変なところで不便な体ですね…。」

 

 プラグを抜くたびに痛覚の神経を撫でられるような痛みが襲ってくる。

 

 ふと気づく。自分の声が、自分の知っているものでは無いことに。それにプラグを引き抜く手も若干小さいし、着ている服も違う…

 

 小さな疑念を抱くと同時にカシュッっと部屋の扉が開く音がした。

 

「ろ、ローザリアさん!!」

 

「ローザリア様!!」

 

 扉の方を見ると、そこにはアインズとアルベドが立っていた。

 二人はすごい勢いで近づいてくると、力強く抱きしめて来た。

 

「良かった…本当に良かった…」

 

 何故だか涙声のアインズは、抱きしめる力を更に強める。

 

「うぅ…い、いたい…。」

 

 アインズの職業はマジックキャスターだ。育て方で個性は出てくるが、それでも一般的なマジックキャスターの筋力ステータスは、その他の職に比べて低い傾向になることが多い。しかし、それがLv100ともなると、その筋力ステータスは人間の成人男性を遥かに凌駕し、そこらの中堅近接職よりよっぽど高い。

 

 更に、普段なら体格が変わらないため正面から抱きしめられるならともかく、何故だか今は、アインズが完全に覆いかぶさるようにして抱きしめてくる状態だ。そのため全身がギリギリときつく締められる。

 

 ここまで体格差があると、物理、魔法防御共に限界突破している身とは言え、感覚的に痛みを感じてしまう。

 

「はっ!すみません!大丈夫ですか!?」

 

 精神操作無効化スキルの影響で、感情の高ぶりは無理やり平常に戻されるはずなのだが、今の彼はやけに慌てた素振りを見せる。それだけ私が目覚めたことが彼にとってとても大きな出来事だったと言う事だろうか。

 

「は、はい。私は大丈夫です。それよりもここはどこですか?」

 

 目覚めてからずっと疑問に思っていたことを二人にぶつけてみる。

 

「ローザリア様、記憶が…無理もありませんね…」

 

 アルベドが口元を抑え、同情の涙を流す。しかし彼女の言い方からどうやら事情を知っているみたいだ。自分が寝ている間に何かがあったことは間違いない。

 

「アインズさん。一体何があったのか教えてくださいませんか?」

 

「…わかりました。それと説明の前に、先に謝らせてください…本当に、すみませんでした。」

 

 そういってアインズは深々と土下座した。ナザリック地下大墳墓を統べる死の支配者、アインズ・ウール・ゴウンが土下座するなどただ事ではない。

 

「や、止めてください!そんな急に謝られても、こちらとしては何が何だか…」

 

「それでも!僕はローザリアさんに謝らずにはいられません!貴女に取り返しのつかないことをさせてしまったのですから!!」

 

「っ…!」

 

 アインズの余りの必死な訴えに気圧される。

 

「…わかりました。とりあえず今はアインズさんの謝罪を受け取っておきます。」

 

 ローザリアの許しを得て、ようやくアインズは床にこすりつけていた頭を上げる。

 

「ありがとうございます。では、僕が責任をもって全てをお話しします。ローザリアさん動けますか?」

 

「はい。まだ体は怠いですが、歩くぐらいなら何とか。」

 

「辛いようでしたらすぐに言って下さい。」

 

 大丈夫ですよと言いつつカプセルの中の拘束具から足を引き抜き、床へと足を下ろす。そのまま立ち上がろうとするが、上手く足に力が入らずによろけて転びそうになったところを咄嗟のアインズに支えられ、何とか立つ事が出来た。

 

「これは…重症ですね…」

 

 はははと軽く笑ってみるが、二人の表情は暗くなる一方だ。

それにしてもおかしい。自分はよろけはしたがちゃんと立っている。そして目の前にいるアインズさんも立っている。しかしどうしたことか、彼の顔を見るためには見上げなくてはならない。

 

「あの…一つお尋ねしてもいいですか?」

 

「!!、はいっ何でも聞いて下さい!」

 

「あ、いやそんな大したことではないのですが…その、もしかしてアインズさん大きくなりました?」

 

 暗い雰囲気を和ませるため、努めて冗談っぽく聞こえる様に言ったつもりだったのだが、どうやら逆効果だったらしく更に二人の空気を重くしてしまった。

 

「いえ、違います…」

 

 おもむろにアインズが虚空へと手を伸ばすと、その手首から先が消えてなくなり、ごそごそと暫く弄る様な動きの後、大きな鏡を取り出した。

 

 そこに映ったのは―――

 

「…ローザリアさんが小さくなった(・・・・・・)んです。」

 

 ―――小学校中学年ほどの少女だった。

 

「…え?」

 

 突然の出来事に一瞬頭が真っ白になる。

 だが、すぐに冷静さを取り戻しこの状況を分析する。

 

 目の前の鏡に映る少女を自分は知っている。いや、知らない筈がない。

 

 黒いレースのワンピースに身を包み、白銀のロングヘア―を揺らす頭には、深紅の薔薇をあしらったカチューシャをつけている。瞳はローザリアと同じ若草色、いやそれ以外も全てローザリアを幼くしたような外見を持つこの少女の名は《ロザリィ》。

 

 《ロザリィ》はある特定の条件を満たすことで起動する、黒須真理亜が創造した第二のアバターだ。

 

 終ぞこのキャラクターが起動することは《ユグドラシル》のサービスが終了するまで無かったが、今こうして実現していると言う事は、そのある特定の条件を満たしたからなのであろう。

 

 その条件とは…

 

―――ローザリアがナザリック地下大墳墓内で自害する。

 

 という特殊なものだ。

 

「…なんとなく、大雑把ですが…私が起動するまでにどれ程の事が起きたのかわかりました。アインズさん、どうか詳細をお願いします。」

 

 ロザリィに自分が意識を宿していると言う事は、それ相応の事がここで起こったことになる。焦る心とは裏腹に、語り掛ける言葉は冷たくなっていた。

 

「っ…はい。では現場に行きましょう。そこへ行けばローザリアさんも何か思い出せるかもしれません。」

 

 仲間から冷たい視線を向けられると言うのは、何事にも勝る最悪の失態だ。ギルドを束ねるリーダーの立場なら尚更に。

 このまま全てを明かせば最悪の場合仲間割れを引き起こしてしまうかもしれない。だが、それでも自分は説明せねばならない、全ては自分が招いた結果なのだから。

 

 三つの間隔の違う足音が、薄暗い通路に響きわたる。

 

「…事の始まりは、祝賀会でローザリアさんの不調とその治療方法をその場に集まった全員に伝えた事がきっかけです。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「―――以上の観点から、彼女に何らかの不調が起きていると思われる。」

 

 アインズの説明が終わると、賑やかだった会場が冷や水を撃たれたかのように静まり返る。

 

 自分たちの創造主であり、仕えるべき主人の体に得体のしれない不調が表れていると言う衝撃の告白を受けて、その場にいた誰もが言葉を発せないでいた。

 

 沈黙を破ったのは主賓席の近くにウェイターとして控えていたセバス・チャンだった。

 

「そ、それは真なのでございますかローザリア様…?」

 

 恐る恐る真実を本人に確かめるセバスだったが、ローザリアがその質問に答える前に入った横やりで無礼な発言をしたことに気付く。

 

「おやセバス、君はアインズ様のおっしゃることが信じられないと言うのですか?」

 

 横槍を入れたのは三つ揃えのスーツを見事に着こなした悪魔、デミウルゴスだ。

 

 そこにきてセバスはハッと我に返る。

 このナザリック地下大墳墓を創造した偉大なる至高の41人の中の頂点である人物が、決して嘘などをつく筈がない。

 ナザリックに仕える者であれば誰もが考えなくともわかることだ。だがセバスは動揺の余り我を忘れてしまった。

 故の発言。故の失態。戦闘メイド集団《六連星(プレアデス)》を指揮する者としてはありえてはならない所業だ。

 

 しかし逆を言えば、我を忘れてしまう程にセバスはローザリアの事が心配でならなかったのだ。

 アインズに続き、再び自分たちの前へと帰還して下さった慈悲深い御方を失ってしまうかもしれない可能性と言うのは、それだけで彼らの精神を著しく磨り減らしてしまう。

 

 セバスは己の醜態に顔を歪め、無数に刻まれた深い皺を更に濃いものへと変える。

 

「大変無礼な発言をしました…どうぞ何なりと罰をお申し付けください。自害も辞さない所存でございます…。」

 

 セバスの発言に、周りは当然だと言わんばかりの視線を向ける。

 

 普通の感覚の人からしてみれば簡単に『自害』などと言う言葉が出てくるこの異常すぎる光景も、彼らからしてみればこれが普通なのだ。

 

 セバスは深い謝罪の礼の姿勢を崩さない。その姿からはいかなる命令にも従うと言う彼の覚悟が伝わってくる。

 

「セバス、面を上げなさい。」

 

「し、しかし私は…」

 

「デミウルゴスの言う事は聞けて、私の言う事は聞けぬと申すのですか?」

 

 セバスはローザリアの言葉を受けて、素早くいつも通りの美しい立ち姿へと姿勢を直す。しかし顔には拭いきれない大量の脂汗が浮かんでいる。

 

「ごめんなさいセバス、意地悪な言い方をしてしまって。私は別に貴方を罰するつもりはありません、その代わりよく聞いて下さい。これから話すことはセバスだけでなく、ここに居る全ての者達へと向けた言葉でもあるのです。」

 

 ローザリアは主賓席から立ち上がると一歩前へと踏み出して眼下の者達へと言葉を投げかける。

 

「一つ。何か間違えを犯したのなら、正せばよいのです。その場で全ての責任を負うことはありません、次に同じ過ちを犯さぬよう気をつければ良いだけなのです。私は再びここを訪れてから気づいたことがあります。それは先程のセバスの様にあなた方はよく『自害』をもって過ちを償おうとしますが、それは絶対に許しません。例え神であろうと仏であろうと許しても、この私がいる限り絶対に自害はさせません!!よいですか?私やアインズさんはあなた方を生み出したいわば親の様なものです。それなのに、その娘や息子たちが自らの手で己の命を途絶えさせる様など誰が見たいものですか!!私のこの話を聞いても尚『自害』という言葉を口にした者が居たならば、私はその者に対して『自害』よりも恐ろしい罰を与えるつもりです。宜しいですね?」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 ローザリアの説教を受けた従者たちは一様に了解の意を示した。

 後ろに控えているセバスは彼女の寛大な措置を間近で受け、感動の余り涙を流している。

 

 数刻の後、あぁ、とローザリアは思い出したようにくるりと再びセバスへと向き直す。

 

「そうだ、セバスの質問に答えていませんでしたね。えぇ、確かに私はアインズさんのい言う通り、彼とは少し様子が違うみたいです。」

 

 再び会場が凍り付く。しかしローザリアは笑顔を崩さない。

 

「でも安心してください。ほんの小さな誤差の様なものです、決して命を落とすような問題ではありません。」

 

 彼女の『命を落とすような問題ではない』と言う部分に、全員がホッと胸を撫で下ろしたように思えた。

 

―――だがこの言葉を覆すような出来事が近い未来に起ころうとは、誰も思いも疑いもしなかっただろう。

 

 隣に座っていたアインズも立ち上がり、ローザリアの言葉に続けて説明を加える。

 

「それに、彼女の不調は治療をすることが可能だ。」

 

 おぉ!と会場がどよめく。

 

「でも、どうやってローザリア様の不調を治すんですか?」

 

 もっともな質問をアインズにぶつけたのは、活発、天真爛漫と言った言葉が良く似合うダークエルフのアウラだ。

 

「うむ。彼女にはこの祝賀会の後、第6階層の円形闘技場(アンフィテアトルム)でかつてウルベルトが作り上げた大災厄(グランドカタストロフ)を封じた魔像の試作品を用いて模擬戦闘を行ってもらおうと思っている。」

 

 「ナント!ローザリア様ノ模擬戦闘ガ行ワレルノデスカ!」

 

 真っ先に反応したのはナザリックが誇る武闘派守護者、水色の美しい外部装甲を極寒の冷気で覆う蟲王コキュートスだ。

 戦いを大いに好む彼にとって、至高の御方が戦う姿はとても興味があるのだろう、小顎を短くカチカチと鳴らし、腹にある複腕が落ち着きなく動いている。

 

「しかし、なぜ模擬戦闘をすることが治療に繋がるんでありんすか?」

 

 再びもっともな質問をぶつけて来たのは、少女ながらもその蝋のように白い肌に妖艶な美しさを携える吸血鬼、シャルティアだ。

 

「簡単に言うと、彼女は恐らく我々とは違う方法でこちらの世界に来てしまったがために、上手く精神と体が馴染めていないのだ。そして彼女が外の世界で自らのスキルを開放したとき、意識の変化があったと言う。つまり積極的にスキルを開放して行ける環境を作り出せば、此方の世界の体に馴染む事が出来るのではないかと私は考えたのだ。故に模擬戦闘を行い、彼女にスキルを開放していってもらう。だが、あくまでこれは実験に過ぎない。この方法で完治できると言う保証はどこにもないからな。もし上手くいかないようであれば、また別の方法を探さねばなるまい。」

 

「その時は我々が全霊をもってローザリア様の治療法を探す補佐をさせていただきますわ。」

 

 ナザリック階層守護者統括、純白の小悪魔アルベドが胸に手を当ててアインズとローザリアに礼を捧げる。他の守護者達もアルベドに続くように頭を下げた。

 

「皆さんありがとうございます。もしもの時は宜しくお願いしますね。」

 

「「はっ!!」」

 

 主人の役に立てることが彼らの至上の喜び。ローザリアから直々に、不確定ではあるが彼女の助けとなれることを約束された守護者達は、キラキラと満足そうに眼を輝かせていた。

 

「あのぅ…アインズ様?」

 

「ん?どうしたマーレ?」

 

 おずおずと尋ねて来たのはアウラの弟であり、ナザリックが誇るダークエルフ生粋の男の娘マーレだ。

 

「えと、その…ローザリア様の模擬戦闘は、僕たちも見ていいんでしょうか…?」

 

「…ふむ。」

 

 アインズは一瞬だけローザリアに視線を送る。それに気づいたローザリアはニッコリと笑い返した。

 

「えぇ。私は一向に構いませんよ。ただ私も体を動かすのは久々ですから、少々お見苦しいところを見せてしまうかもしれません…それでもよいと言うのなら、どうぞ見学に来てください。」

 

 会場全体がうおお!と興奮の波に包まれる。

 守護者とは違い、普段あまり至高の御方と接する機会の少ないメイドや、その他の従者たちは自分の仕えるべき主の勇姿を見る事が出来るビッグチャンスの到来に、沸き立たずにはいられなかった。

 

「ではデミウルゴス、お前にはナザリックの防衛面に最小限の影響しか及ぼさぬようなプランを考え、実行することを命ずる。それが終わり次第、此方も模擬戦闘の準備を開始しよう。できるな?」

 

「はっ!不肖デミウルゴス、持てる力の全てをもって任務に当たらせていただきます。」

 

「うむ。それと、アウラとマーレ。二人は円形闘技場を使えるように準備をしておいてくれ。」

 

「「はいっ!畏まりました」」

 

「よし、頼んだぞ。では皆の者よ、祝賀会の閉会時間まで、もう暫しの間存分に楽しむがよい。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――

 

 

 狭い階段を上る三つの影を、通路脇に設置されたフットライトが淡く照らす。

 

「成程、話を聞く限りでは私も乗り気だったようですね。」

 

「えぇ。でも、やはり模擬戦闘を公にしたのは止めておくべきだった…祝賀会の雰囲気にのまれて、冷静な判断を欠いた自分が恨めしくて仕方がありません。」

 

 階段を上りながらも、二人は全く息を切らすことなく会話を続ける。

 

「アインズさん、それは違います。後悔とは、先に悔やむ事が出来ないから後悔なのです。少なくとも、その時のアインズさんの中ではそれが最善の判断だった筈です。それに私も同意したのですから、もし罪があると言うのなら私も同罪です。」

 

「…はい。」

 

 骨であるがゆえに顔に感情を表すことは出来ないが、それ以上に彼の纏う雰囲気から悔しさがひしひしと伝わってくる。

 

 沈黙が場を支配する。誰一人として口を開くことなく、ただ階段を上る。

 

 ようやく出口である地上の光が見えて来た。

 

 地上へ出ると、そこは建物の中だった。しかし一目で一般的な建物ではないことが分かる。

 

 そこは教会だった。

 

 バロック調の荘厳な建築様式の教会は静寂に包まれており、訪れた誰もが息を飲む美しい輝きを放っていた。。

 

 この教会の名は《薔薇の教会(ローゼン・チャペル)》。

 

 ローザリアがかつて仲間たちと共に長い月日を経て作り上げたものだ。そのメンバーの中にはもちろんアインズも含まれている。

 

 名の由来は、文字通り薔薇の花弁が教会のいたるところに散りばめられていることからだ。また外では絡みつく蛇のように薔薇の蔓が教会を覆い、年中色とりどりの薔薇を咲かせているところからも来ている。室内を歩けばそれに合わせて花弁が空中に舞い上がり、幻想的な景色を作り出す。そして花弁から薫るほのかな薔薇の香りが落ち着いた雰囲気と合わせてとてもリラックスのできる空間を生み出している。

 

 そんな教会の最奥に位置する聖堂に置かれた十字架像の下から自分達は出てきたようだ。

 

「そういえば、ナザリックに来てからここにはまだ訪れていませんでしたね。またこうしてこの教会を見る事が出来るなんて、夢を見ているみたいです。…ただ、少し残念な形となってしまいましたが…。」

 

 

「ローザリア様…」

 

 今となっては少女の姿になってしまったその幼い横顔に、やるせなさと悲しみのこもった表情を浮かべる。

 だがそれも瞬き一つするころには、いつもより幾分か引き締まった顔があった。

 

「ではアインズさん。続きをお願いします。」

 

「わかりました。ではまた歩きながら…」

 

 そうして三人は再び歩き出す。

 

 ひらひらと舞い上がり落ちてくる花弁は、流せない涙を体現している様に思えた。

 




いつもながら、ここまで読んでくださいましてありがとうございます。

と言う訳で超展開第二弾目でした。

次回こそは本当に戦闘パートです。が、また長くなりそうなので前半と後半に分かれる予定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
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