お待たせしました。
今回は戦闘パート回でございます。
相変わらず語弊力がないもんで、同じ表現を使いまわしたりと安っぽい出来ですが、お楽しみいただければ幸いです。
あと結構長いので、御注意ください。
ではどうぞ。
第六階層の中央に存在する
ナザリックに居るほぼ全ての住民が集まっており、観客席は蟻の入る隙間もない程に埋め尽くされている。
まるでお祭り騒ぎだ。
「うわ~、みんなすごい盛り上がってるね。」
「そういうお姉ちゃんも、さっきから落ち着きがないよ。」
「だってしょうがないじゃん!模擬戦闘とは言え、ローザリア様が戦う様子が見れるんだよっ!?ワクワクしないほうがおかしいよ!!」
「えぇー…そうかなぁ…?」
闘技場全体を見下ろせる高い位置にあり完全な部屋となっているこの観客席は、所謂VIP席と言われている。
本来ならばここは至高の41人が座し、侵入者を生贄とした娯楽試合を観戦する場所なのだが、今はたった二人を除き身を隠してしまったため、代わりに守護者達の普段の優秀な働きからその褒美としてこのVIP席での観戦を許されたのだ。セバスを筆頭に、プレアデスも招かれている。
「マーレは楽しみではないんかぇ?」
至高の御方の勇姿を拝めると言うのはそれだけで光栄なことであり、同時に仕える僕としてこれ程胸が熱くなるものは無い。
だがどうしたことだろう、その僕であるマーレはあまり乗り気ではない。シャルティアがそんな彼に怪訝な表情を向けるのは当然だろう。
「別に楽しみではないわけじゃないよ?でも、その…ローザリア様ってすっごく奇麗でしょ?」
何故そんな当たり前の事を聞いてきたのか不審に思いながらも、火を見るよりも明らかな事実に二人は真顔で頷く。
「うん…だから戦う姿が想像できないっていうか、あまり血なまぐさい姿を見たくないなーって…。」
マーレの言い分に「あー…」と納得した様なしてない様な曖昧な返事が返ってくる。
「でも、確かにローザリア様がどんな戦いをするのかアタシ知らないかも。」
「そう言えば…あちきも知りんせんぇ。」
「おや、なかなか興味深いお話をしていますね。」
唸る少女たちの輪にやってきたのは、インテリチックな眼鏡をキラリと光らせるデミウルゴスだ。
「あら、その言い分だとデミウルゴスはローザリア様がどんな戦い方をするか知っているでありんすよねぇ?」
シャルティアはニヤリと、しかし僅かな期待のこもった一瞥をデミウルゴスに向ける。
「いえ、知りません。」
潔い彼の即答に三人は思わずずっこける。
「えぇい!紛らわしいでありんす!!」
「あら、勝手に勘違いをしたのはそちらでしょう?デミウルゴスは一言も知っているなんて言っていないわ。これだから教育のなってない脳みそ筋肉のバカは嫌なのよ。」
「あぁん!?」
新たに会話に加わったかと思えば、即効でシャルティアと火花を散らせるアルベド。
美女が決してしてはならない鬼の形相でお互い睨み合いながら暴言の限りを尽くすこのやり取りは、もはや恒例の漫才だ。そんな彼女たちの騒ぎを聞きつけ、続々と階層守護者達が集まってくるも、誰も止めようとはしない。夫婦ではないにしろ、痴話喧嘩は犬も食わないと言ったところか。
「ハンッ!!アインズ様のことになったらすーぐに女の顔しちゃうどこかの淫乱メスゴリラよりはましよっ!!」
「なんですってぇ…っ!!!」
いよいよ何かの拍子に取っ組み合いになりかねない一触即発の状況に、周りが「そろそろ止めようか」といった雰囲気で身構える。
「はいはい二人ともいい加減にして。論点がずれてるよ、もぅ。」
と思ったが、結局いつも通り女三人のまとめ役であるアウラが仲裁に入った。
「まったく、今話してるのはローザリア様の戦闘方法でしょ?いつの間にアインズ様の話になったのよ…。で、他に誰か知ってる人はいないの?」
やれやれと言った様子で脱線しかけていた話の本筋を戻したアウラだったが、結局分からずじまいなので、周囲へと問いかける。
周りが「うーん…」と唸る中、ガシャガシャと重そうな音を立てながら一人のメイドが前に出た。
「私…一回だけ…ローザリア様と…一緒に戦ったことがある。」
この会話が始まって以来の有力な情報を提供した発言者へと、全員が驚愕の表情を浮かべながら一斉に目を向けた先に居たのは、戦闘メイド集団《
「そ、それは本当なのシズ?」
すぐそばに居たプレアデスの副リーダーであり長女的存在の、ユリ.αがシズに真意を確かめる。
「うん…本当。」
「はえー、いつの間にそんな羨ましいことしてたっすかシズぅ~。」
うりうりと妹の柔らかそうなほっぺたを指でこねくり回すのは、アウラとマーレに続く褐色肌の持ち主ルプスレギナ.βだ。
「その時の事ぉ…詳しく教えて欲しいぃ。」
脳が甘くとろける様なゆっくりとした喋り方で当時の詳細を求めるのは、着物をモチーフとした和風テイストのメイド服を着たエントマ・ヴァシリッサ.ζだ。
「ね、ねぇふぁん(姉さん)…やめふぇ(やめて)……ふぅ…私…喋るの下手だから…きっとこれからやる模擬戦闘を…見た方が早い。」
確かに、彼女はその種族も相まって普段あまり喋ることが無く、表情も滅多に変えることはない。それを一番よく知っている彼女たちプレアデスは、少し残念そうな顔をしながらもそれ以上深く言及するのは止めた。
「でも…一つだけ言えることがある…。」
ぽつりと呟くように、しかしはっきりと聞こえる様に彼女は言った。
全員がそのあとに続くであろう言葉を聞き漏らさないよう集中する。
「…あの人は…
彼女は自身が体験した記憶を思い出し、震える両肘を抱えてさする。
“精確”とは、精密で正確であることを表す。普通ならばこんな何の変哲もない言葉で人を怖がらせることなど不可能だ。
だがその場にいた全員が背筋に冷たいものを感じた。自分たちの崇めるローザリアという人物はその“精確”というただ一点だけで、滅多に左右されない彼女の感情に“恐怖”をもたらせたのだ。
一体どれほどの経験をしたらそんな事が言えるのか、想像できる者は誰一人としていなかった。
「…。」
しばらくの間、誰も口を開けなかった。
「…ナレバ、己ノ目デ見テ確カメルトシヨウ。」
沈黙を最初に破ったのはコキュートスだ。
短くも的を得た彼の一言で全員は納得し、各々が思い思いの席へと戻り模擬戦闘の開始を待った。
一方そのころ、闘技場入場口では今回の主役であるローザリアと開催主であるアインズが最後の打ち合わせをしていた。
「しかし凄い人の数ですね…もしかしたら祝賀会の時より多いかもしれません。」
「みんなローザリアさんのかっこいいところを見たいんですよ。」
「もうっ!そうやって無駄にハードルを上げないでください!!」
「ははは、すみません。」
衰えない会場の盛り上がりを入場口付近で一身に受けるローザリアは、期待という未だかつて感じたことのない大きなプレッシャーに平常心を保てないでいた。
「全く、アインズさんが羨ましいです。もっとまともに精神操作無効化スキルが発動していれば、こんなにドキドキしなくて済むのに。」
わざとらしく不貞腐れた表情をするローザリアだが、美しい彼女が可愛くなるだけだ。
「それも含めた、今回の荒療治ですから。僕の予想が正しければ、終わるころには無事に完全な同期が完了している筈です。ただ、そのためにはいろいろなスキルを積極的に発動してみてください。今のところ分かっているのは、種族スキルを開放したときだけですから。今回は武器もありますし、職業スキルなんかも試してみるといいかもしれませんね。」
「わかりました、やってみます。」
まじめな会話をしている間に、気の抜ける子供っぽい声が割り込んでくる。
「やっとマーシーちゃんのカッコカワイイセクスィーナイスボディーを皆に見せる事が出来るんだね!いやーダイエットしといてよかったよ~」
「はぁ…貴女のどこにそんな要素があるんですか、全く…」
どこで育て方を間違えてしまったのかとローザリアは頭を抱えそうになるが、彼女の訳の分からない言動のお陰で先程まで感じていたプレッシャーが薄くなっていたことに気付く。
(もしかしたら彼女なりの気遣いだったのかもしれませんね…)
心の中でマーシーに感謝する。だが決して口には出さない。なぜなら、確実に調子に乗るだろうことが手に取るようにわかるからだ。
「さて、そろそろ時間です。準備はいいですか?」
微笑ましそうに二人のやり取りを見ていたアインズが頃合いをみて入場を促す。
「えぇ、いつでも。」
「マーシーちゃんもだいじょーぶ!」
余裕を取り戻したローザリアの瞳には、いつも通りの母の様に優しい輝きが宿っていた。
それを確認したアインズは満足そうに「行ってらっしゃい」と告げ、入場口の鉄柵を上げた。
入場口が解放されたことで闘技場内のボルテージは一気に急上昇し、留まることを知らない。観客の視線が全てその一点に向けられる。
「行ってきます。」
そう短く返事を返し、ローザリアはいつの間にか出現させたカタパルトの滑走路に両足を固定する。
「固定よし。次、スキル発動〈エナジー・ウィング〉。」
ローザリアがスキルを発動すると、彼女の背部に幾何学的な亀裂が入りその中からいくつかのビットが射出され、それぞれが所定の位置で空中にとどまる。
「配置完了。ウィング、展開。」
彼女の言葉と同時にビットから高出力のエネルギーフィールドが発生し、大きな光の翼を形成した。
スキル〈エナジー・ウィング〉は、所謂魔法の〈
何故彼女がわざわざそんなものを使用したのかと言えば、ただ単にかっこつけたかったからだ。だって普通に歩いて入場してくるよりも、派手に飛び回った方がかっこいいでしょう?
「展開完了。背部、脚部スラスター正常駆動確認、出力上昇。」
普段閉じて服や皮膚と同化しているスリットを展開し、ゴォ!!という爆音と共に内部から高温の熱風が吹き荒れる。そのため彼女の修道服は、強風に煽られた旗の様にバタバタと耳障りな音を立てる。
しかし衣服が乱れるのも構わず、膝を曲げ体を前に倒し前傾姿勢をとる。
「発進準備完了。カウントダウン開始。5…4…3…2…1…ローザリア、出撃します!!」
叫ぶと同時にスラスターを最大出力で噴射させる。爆風を受けたカタパルトは大きく軋みガタガタと揺れるが、構わずローザリアは速度を上げ、一瞬でトップスピードに達したところで火花を散らす両足のロックを外しその勢いのまま外へと飛び上がった。
(相変わらず、女性にしては男心をくすぐる演出をわかってるなぁ…。さて、僕も上に戻るとしようかな。)
待ち焦がれた彼女の派手な登場に、観客席は大いに盛り上がりを見せた。
きっと高速で飛び回る彼女は、大きな翼とそこから発せられる眩い輝きでとても神々しく映ったことだろう。
ひとしきり観客を沸かせた後、ローザリアは闘技場中央に置かれた悪魔を模した小さな像の手前ヘとゆっくりと降り立った。出しっぱなしにしていると、魔力をただ浪費するだけなので、さっさと〈エナジー・ウィング〉は格納する。
(バッチリ決まりましたね。)
(えぇ、皆さん喜んでくれたみたいで良かったです。)
恐らく、もうすでにVIP席へと戻ったアインズとメッセージで言葉を交わす。
(これから僕が開会式をするんで、ローザリアさんはその間に諸々の準備をしちゃってください。)
(わかりました。)
メッセージの終了と共にアインズの声が闘技場内に響き渡る。同時に、一瞬で先程までの喧騒が嘘のように静かになった。
「今日は皆忙しい中出向いてくれてありがとう!今日はナザリックの・・・・」
アインズの演説が始まったことを確認したローザリアは、自分の事に集中する。
(しかし、よくもまぁあんな風にスラスラと言葉が出てきますね。やっぱりこう、上位者としてのキャリアの差なのかしら…?尊敬します。)
そんなことを考えつつ、首から掛けているロザリオの十字架部分を数珠から取り外す。
「いよいよマーシーちゃんの出番だね!」
「そうね、今回は貴女の力をどれだけ引き出せるかが重要だわ。」
「おぉっ!!いつになくご主人様が乗り気だぁ!これは張り切らないとね~。」
掌の上で、十字架がストレッチでもしているかのように体を伸び縮みさせる。
「マーシー。こちらの世界に来てから早速で悪いけれど、最初から飛ばしていくわよ。」
「おぉ~?と言う事は、〈単身突撃〉を〈クアドラプルモード〉でオラオラですか?」
「ちょっと言葉が足りないけれど、まぁそんなところね。」
二人の間でしか通じ合わない会話で模擬戦闘をどのように進めるか、短い打ち合わせが行われる。
「初期形態と弾種はどうしましょう?」
「とりあえず大口径拳銃(いつもの)でいいわ、慣れてきたら色々変えていくつもりよ。弾も通常弾で構わないわ。」
「ラジャー!後はー…そうだ!照準補助はいりますか?」
「うーん、そうね…最初はいらないわ。もし駄目そうなら、その時は頼むわね。」
「アイ・マム!!お、丁度アインズ様の演説も終わりそうですよ。」
意識をアインズの方へと戻すと、マーシーの言う通り演説は締めの部分に入っていた。
「―――さぁ、勇猛果敢なる悪魔に挑みし剣闘士よ。己の備えが万事完了したならば片手を挙げて示すがよい。」
アインズに指示された通り、右手をゆっくりと上げる。
「よし。では戦闘、始めっ!!」
アインズの力強い開始の合図で、悪魔像の目が赤く光り起動する。
起動した悪魔像を中心として暗い影が闘技場の地面一帯を覆いつくし、そこから這い出てくるようにして数えきれないほどの多種多様な悪魔が表れた。
小型の悪魔から巨大で大柄な悪魔、犬や蝙蝠と言った動物を彷彿とさせる悪魔がいれば、生き物と形容してよいか分からない程気持ちの悪い見た目の悪魔まで様々だ。
このアイテムは一定数の悪魔が倒されるまで永遠と悪魔を生み出し続ける代物であり、『悪』と言う言葉にこだわり続けた一人の男が、世界中を覆いつくすほどの悪魔を無限に召喚できるワールドアイテムに魅せられて同じものを作ろうとした時にできた試作品でもある。
生み出された悪魔たちはギラつく瞳で標的であるローザリアを嬲るように睨みつける。そこに理性や知性などは感じられない。あるのは決して潤わない喉の渇きをただ満たしたいと言う本能だけだ。
グアアァ!と身の毛もよだつような恐ろしい叫び声を上げながら、ローザリアの血肉を食らわんと我先に悪魔たちが突撃して来る。その勢いは凄まじく、人間であるならぶつかっただけで挽肉になってしまうだろう。
しかし、ローザリアはそれを避けるでもなく平然とただ待ち構えている。
「ちょ、ちょっとマーシー!早く武器へ展開しませんかっ!!」
…いや、どうやら待ち構えているのではなく、武器を出せずに四苦八苦している様だ。
「入力サレタ音声キーガ違イマス。」
「もうっさっきからそればっかり!!」
ローザリアはグイグイと無理やり武器への変形を促すが、マーシーはびくともしない。
「ほらほら~、もっとカッコイイ決め台詞があるでしょ~?早くしないと圧し潰されちゃいますよぉ?」
「くっ!!」
見ればもうそこまで悪魔の群れが迫ってきている。別に彼らの突進を食らったからと言って、かすり傷一つ負わないことは分かり切っているが、それでは至高の御方と呼ばれる者にとってあまりに格好悪すぎる。
観客席では、いつまでたっても動きを見せないローザリアに不安の声が上がり始め、どよめき立つ。傍から見れば、数百数千の敵にあっという間に囲まれてしまったようにしか見えない。黒く悍ましい無数の悪魔が、一人の聖女に襲い掛かる様は思わず目を瞑りたくなる光景だ。
余りの悲惨な光景で観客席の一人が悲鳴を上げそうになった時、天を貫く一筋の眩い閃光が迸る。
『聖なる十字架に秘めし内なる撃鉄を呼び起こせっ!!慈悲の十字架(ザ・クロス・オブ・マーシー)!!!』
「―――タキタキタキタキタキタァーーーー!!!!」
それは天高くほうり投げられた
(恨みますよ…ヘロヘロさん…っ!!)
但し、その合言葉はいかにも厨ニ病を患った少年がノートに筆記体の英訳付きで綴っていそうな非常にこっぱずかしいものであり、今回無事に正しい音声認証キーを入力し終えたローザリアの顔は今にも火が吹き出そうなほど真っ赤だった。
(あぁ…これから皆さんとどんな顔をして会えばよいかわかりません////。)
赤面するローザリアとは裏腹に、空中でくるくると回りながらハイテンション極まるマーシーは銃形態へとようやく変形を始める。
「はいはーい、ちゅうもーく!!ここからはマーシーちゃんの生着替え大サービスショットの時間だよ~。みんなー!カメラの準備はいいかなぁ?」
一体誰に向けて発言しているのか分からないが、今の彼女はなんだか(物理的にも)とても輝いている気がする。
「じゃぁまずは、ちょっと大きくなりまーす!!」
おや?なぜだろう。背景がパステルカラーになり、まるで魔法少女が変身するときに流れるようなBGMが聞こえてくるぞ…。
「それからそれから、縦方向に半分に割りまーす!あっ、
様々な方向からカメラカットが入り、余すことなく魅力的な
「そしてそして、山折りしまーす!そうするとー、あらあら不思議!拳銃っぽく見えなーい?…見えるでしょ?見えるよねぇ?」
そう言われてみれば見えなくも無いような気がする(ゴリ押し)。だがそれだけではあまりかっこよくないので、マーシーちゃんの説明からあぶれた箇所もしっかりと手が加えられ、銃口部分に赤い魔法陣などが浮かぶようになったころには白と金が織りなす美しい拳銃の姿へと変わっていた。
「変身完了であります!!」
誇らしげに報告するマーシーは十字架の頃とは違い、とんだり跳ねたりしなくなったものの、喋るたびに中央部に露出したコア・ジェネレータが赤くチカチカと光る。
ローザリアの手の中にぴったり納まると、ローザリアの裾から伸びて来た魔力ケーブルが銃床と繋がれる。この魔力ケーブルによりローザリアから直接
「んあぁ…快♡感////」
「ふざけてないで、もう少し真面目にやれないのですか?」
「はーい、真面目モード入りまーす!ピーガガガ…ユーザー認証、至高の御方ローザリア様、使用許諾確認。適正ユーザーです。システム、執行モード。慎重に照準を定め、対象を排除してください。」
「…また変なアニメに影響されましたね?」
「変なとは失礼な!!アニメは保護されるべき過去の偉大な文化ですよ!!」
「はいはい…。さぁ、そろそろ来ますよ。」
前方へと目を見やると、先ほど吹き飛ばした悪魔たちが起き上がり、また消失した分を上回る数を新たに加えて再びローザリアへと突撃して来る。
ローザリアの目つきが真剣なものへと変わる。
捕食対象の雰囲気が明らかに変わったのを本能で敏感に感じ取る悪魔だったが、他に襲い掛かる術を持たない悪魔たちは、足を止めることなく更に走る速度を加速させた。
「
猛烈な勢いで肉薄して来る悪魔に全くひるむことなく、両手でしっかりと固定したマーシーを握り締め、ただ一点のみを狙い、撃つ。
―――バンッ!
射撃音と同時に銃口から赤い薔薇の花弁が舞う。花弁は地面に落ちると同時に消えてなくなった。これはアインズの持つスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに組み込まれているエフェクトデータ「禍々しいオーラ」と同類のもので、
見事に射線上にいた悪魔の脳天に撃ち放った魔力弾をヒットさせ、首から上を失った悪魔は力なく膝から崩れ落ちた。
それからは最初の一体を皮切りに、射撃速度を速めて次々と迫りくる悪魔たちの脳天を正確に貫き一撃で沈めるローザリアだったが、やはり拳銃一丁では分が悪いのか徐々に押され始める。
悪魔たちは好機が見えて来たのをいいことに、薄気味の悪い笑い声をあげ、ローザリアを煽る。だが彼女は一切動じずに、ただただ自分から一番近い位置にいる悪魔を倒すことに専念している。
「だ、大丈夫かなローザリア様…なんだか押されてるみたい…」
自分が戦っているわけでもないのにビクビクと体を震わせるマーレは隣にいる姉へと救いを求めるような目で話しかける。
「大丈夫に決まってるでしょバカマーレ!相手は60レベルも無いような雑魚ばっかりよ?ローザリア様がそんなの相手に負ける筈がないわ!!」
観戦を邪魔されたためか、プリプリと半分怒りながらさっさとアウラはマーレをあしらう。
一方あしらわれたマーレは未だ不安そうにしている。
「安心しなさいマーレ。」
マーレの頭の上に優しく手が置かれ、泣く子をあやす様に撫でられる。
「アインズ様…。」
「アウラの言う通り、ローザリアさんはあの程度の相手ならば負けることは無い。それに一ついいことを教えよう。」
アインズの言った「いい事」と言う言葉に、マーレは不思議そうな顔を浮かべる。
「いいかい?今のローザリアさんは本来の力の
「!!」
信じられない射撃速度に加え、的確に相手を一撃で葬り去るなどハッキリ言って常人のなせる業ではない。しかし、これに加えまだ彼女は9割も力を残している事実を伝えられたマーレは唖然とするしかなかった。
「だからよく見ておくといい。彼女が隠している力の一端をね。」
一方で、いよいよ数の暴力に追い詰められてきたローザリアは旗色の悪い状況に渋い表情を浮かべている。
(全盛期なら、これ一本でもっとやれてたと思うのですが、やはりブランクが長かったせいで思ったようにはいきませんね。)
「そろそろ力を抑えたまま戦うのはキツイんじゃないですか~?」
心を見透かされたようにマーシーが図星を突いてくる。
「っく…えぇそうね。軽い準備運動ぐらいのつもりでいたけれど、これはそろそろ潮時かしらね…」
マーシーと会話をしたことで若干の隙が生まれ、それを見逃さなかった悪魔はすかさずその隙を突き、彼女の背後へと回り鋭い爪を振りかざす。その軌道は直撃コースであり、正面を向いている彼女が振り向いて撃つ頃には既に間に合わない。
悪魔は顔が歪むほど笑みを浮かべた。勝利の笑みを。
しかし、あぁ…可哀想に。
相手がどれほどの強者かも知らず、ただ己の爪を振りかざせば相手が肉塊になると信じて疑わない浅はかで哀れな悪魔に、鋼鉄の聖女から裁きの鉄槌が下される。
「
次の瞬間、パァンッ!という風船が破裂したような音と共に後ろに居た筈の悪魔の頭が無くなっていた。
間近で悪魔の頭が破裂するのを受けたローザリアは、その修道服を飛び散った悪魔の血でべっとりと汚す。
一体何が起きたのか、あまりの一瞬の出来事に観客席が色めき立つ。
よく見ると背後に居た悪魔に向けて片手が伸び、その手には
あれ?違う、そうじゃない…
持ち替えたであろうはずの手にも
「
簡単なことだ。一丁で対応できない、ならば“増やせばいい”と。
そう、彼女は誰に気付かれるでもなくいつの間にかニ丁拳銃となっていたのだ。
その事実に気付いた瞬間、観客席から一斉に大きな声援が上がった。
「ナ、ナニガ起キタノダ…」
「一体いつの間に増えたのでしょうか…全く見えませんでした。」
一時も目を離さず見ていた守護者達も、今さっき起きた出来事が把握できず狼狽えている。
そんな彼らを見てアインズはまるで自分の事の様に嬉しくなり破顔する。
「ははは!そう、あれが彼女の持つ
「そのような非現実的な事を可能にするとは…流石至高なる御方自らが創造された神器級アイテムでございます。」
デミウルゴスは普段薄く閉じている瞳をカッと開き、アインズとローザリア二人に対して深い敬意を見せた。
(素晴らしい!やはり、ローザリア様もアインズ様と等しく肩を並べるに相応しいお方だった!!いや、そもそも優劣をつけようとすることが間違いだったのだ!なんと自分は愚かで浅ましいのか。本当ならば守護者として余りにも愚劣極まるこの失態、死をもってしても償いきれぬものだが、全てをその慈愛で包み込むローザリア様は自害を禁止なされた…。なればこの己の恥辱を一生背負うことで戒めとしよう。あぁ…それにしてもなんと美しいのだろうか。普段からは想像もつかない荒々しさを感じさせる戦闘に、あのお美しいお顔を汚す飛び散った赤い血潮の背徳的コントラスト…堪らないっ!!)
一人悶える男を尻目に、アインズは意気揚々と続ける。
「今日は皆を前にした彼女の晴れ舞台だ。きっと最大数まで出してくれるだろうよ。」
手は二本しかないと言うのにあれ以上数を増やすとは、いったい何が起きるのか。守護者達は生唾を飲みながらその真相を探るべく、再びローザリアへと視線を釘付けにした。
二丁拳銃となった彼女は形勢を逆転させていた。一丁の時とは比べ物にならない速さで彼女を取り囲む悪魔たちを倒していく。二丁になったからと言ってその精度は落ちることなく正確に頭を撃ち抜き、円を描くように狙いを定めるその姿はさながらダンスを踊っているように見えた。二つの銃口から放たれる無数の花弁が
(このまま終わってしまうのもつまらないですね。)
一丁では補いきれない部分が補われことで悪魔を倒すことに余裕が生まれ、この状態が続くと普通に倒しきってしまう事を危惧した彼女はあえて射撃を緩め、自分の近くへと悪魔を招き入れ始める。
どうやら悪魔たちは彼女の射撃の手が緩んだことを疲労によるものと捉えたらしく、ここぞとばかりに彼女の術中にはまってくれる。
(そう、いい子ね。もっといらっしゃい。)
わざと両手を広げ、完全に真正面がガラ空きの状態を作り出したローザリアは、走ってくる子供を迎え入れる様に目の前を猛然と駆けてくる牛頭の悪魔を待ち受ける。
それを好機と見た牛頭の悪魔は、頭に生える太い角で突き刺してやろうと頭を低い位置へと下げ鼻息荒く突進する。
彼女の目の前まで迫った時
「わざわざ
と言う彼女の言葉を聞いた後、頭に凄まじい衝撃を受けた事だけを覚え死んでいった。
彼女は頭突きを食らう寸手で突進力を無かったことにするほどの踵落としを食らわせ、その踏みつぶした脳天に踵へ装着した
「
よく見ると、片足の踵に装着されている
「〈
「はい。やっぱゼロ距離は“オニキス”が輝きますね!あ、もう片方はどうします?」
「そうね、いい加減頭ばかり狙うのも飽きてきましたし、派手に“エメラルド”で行きましょう。」
「うっきゃー!楽しくなってきたーーー!!」
先ほどから彼女たちが口にする宝石の名前は、慈悲の十字架(ザ・クロス・オブ・マーシー)に登録されている銃の種類を表している。ローザリアが最初に言ったスキル〈形態変化(モードチェンジ)〉を発動させることでマーシーの姿を変える事ができ、両手に装備している赤い状態が〈ルビー・ローゼス(大口径拳銃)〉、右足の踵に装着しているのは〈オニキス・ローゼス(散弾銃)〉、“派手に”と表現されたエメラルドは〈エメラルド・ローゼス(ロケットランチャー)〉。他にも〈サファイア・ローゼス(狙撃銃)〉や〈アメジスト・ローゼス(重機関銃)〉、〈トパーズ・ローゼス(ビット)〉があり、いずれも彼女の任意のタイミングで変形させることが可能だ。
新たに左足の踵へと出現した
「
四肢全てに銃を装備するという異様な彼女の姿こそ、
「ご主人様!二時の方向より距離50メートルの位置に悪魔が多数出現!接近中であります!!」
「あら、丁度いいわね。まとめて倒してしまいましょう。」
「アイ・マム!」
ローザリアはエメラルド形態のマーシーをあえて敵の集団へと向けず、地に足をつけたままロケット弾を発射した。そうなればもちろんロケット弾が向かう先は地面であり、とてつもない爆風と衝撃波がローザリアを包み込む。しかし彼女はそれを逆手に取り、爆風の反動で大きく跳躍すると四つ全ての
「〈
「アイ・マム!」
ローザリアの掛け声と共にそれぞれ一つしかなかった砲門が、規則的に並んだ数十の小さな砲門へと変化する。
「全ターゲット捕捉、照準誤差±0.5%で補正完了、いつでもいけるよご主人様!」
「よしっ!ミサイル、発射!!」
「正義の雨に☆裁かれよ!!」
発射の合図を受け、数えきれない砲門から小型のミサイルが雨の様に悪魔たちの頭の上へと降り注ぐ。
地獄絵図と化した闘技場は熱と爆風が支配し、それをモロに食らう悪魔たちは悲鳴を上げる事すら許されずにその身を灰へと変える。もうまともに動ける悪魔は存在していなかった。運よく免れたであろう悪魔もすぐさま発見され、無慈悲に頭を撃ち抜かれる。
炎の中で揺らめく彼女の姿は、地獄の様な周りの景色とのミスマッチで逆に不気味に見える。
(あァ…楽しいなァ、たのしい、タノシイナァ…)
「ご主人様、もう少しです!段々と悪魔が湧くスピードが遅くなってきました!!あれ?…ローザリア様?」
マーシーに話しかけられハッと我に返る。
「いえ、何でもないわ。両足をトパーズに変えて湧いた傍からオールレンジ攻撃で潰していくわよ。」
「アイ・マム!」
両足から離れた
(さっき私は何を考えていたの…?)
闘技場を歩きながら、一瞬無意識状態に陥った時のことを思い返す。
(こんな殺戮が楽しいですって?なんてことを考えているの私は!!例え相手が悪魔であろうと命を授かった生き物なのですよ?それを楽しいなどと…言語道断です!神に仕える身としてあるまじき行為だわ!!)
彼女は例えゲームの世界であろうと、現実世界の職業であるシスターの精神を忘れなかった。その精神は他人からしてみれば少し異常であり、データでしかないレベル1の雑魚モンスターを倒すときでさえ、その倒したモンスターの死後に祝福が訪れることを本気で祈っていた。
だから今模擬戦闘で相手にしている悪魔にも自分の糧となってもらっていることに感謝をし、敬意をもって弔っている
湧いてくる悪魔はビット形態のマーシーに相手をさせ、自分は立ち止まり自問自答を繰り返していると、何者かに足を掴まれた。
視線を落とした先に居たのは、腰から下を失った悪魔が最後の力を振り絞って襲い掛かってくるでもなく、まるで懇願するかのように救いを求めていた。
(なのに、それなのに私は…)
しかしローザリアは無言でその悪魔の眉間に銃口を突き付け、引き金を引く。
同時に背筋をゾクゾクとしたものが勢いよく駆け上がる。
(殺めることに快感を感じてしまっていると言うの…っ!?)
自覚すればするほど彼女の精神に逆らう様に体が殺戮を求め、手当たり次第に悪魔をねじ伏せていく。
(駄目!駄目よこんな、快楽を求める為だけに人を殺めるだなんて!!)
しかし引き金を引く指は冷えた鉄の様に固まり、離す事が出来ない。
そして悪魔を撃ち抜くたびに得られる逆らえない快楽の波に、だんだんと理性が支配され始める。
(あぁ、でも…たりない、足りない、タリナイ…。)
貪欲に悪魔をいや、ただ己の欲望を得る為だけに屠る対象を求めだしたローザリアの瞳が黒く濁る。
気がつけば闘技場内にいた全ての悪魔が狩り尽くされ、中央に置かれていた悪魔像にひびが入っている。つまり模擬戦闘の終了を表していた。
観客席から大きな祝福の歓声が上がる。
だがそれももう彼女には騒音にしか聞こえなかった。
(ウルサイな、五月蠅い、うるさい、ウルサイウルサイウルサイ…)
煩わしそうに声のするほうへと目線を上げる。
(もっと、もっとモットモットモットモット快楽ガ、欲シイ…)
目線の先にはスタンディングオベーションで拍手喝采を送るナザリックの仲間達だ。メイドや、異形のモンスター、守護者にアインズさんも見える…。
不意に、未だ握り締めている
「…アハ!アハハハハ!!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
狂喜。
目は針金の様に細く垂れさがり、口は大きく横に裂け三日月の様な笑みが顔に張り付けられる。
「ご、ご主人様?何だか様子が…って、なにこれ!?なんかドス黒いものがご主人様から流れ込んでくるっ!あっあっ、や、らめぇぇ////」
マーシーに話しかけられたことで辛うじて意識を再び取り戻せたローザリアはその黒く濁った眼を見開いて驚愕する。
その瞳に映ったのは
―――仲間を対象とした無数のロックオン表示だった。
(何よ、これ…!?何を考えているの!?それだけは駄目!絶対にダメよ・・・やめて、やめなさい・・・やめてぇっ!!!)
―――バキンッ
頭の中で何かが壊れる音がした。
「アァ…ナンダ、マダ沢山“有ル”ジャナイカ。」
ズル...ズル...ベチャ...
最後まで読んで下さりありがとうございます。
以上、ローザリアさんの闇堕ち回でした。
闇堕ちってなんかすごい興奮するよね!!
次回はアインズさんとのガチンコバトルを予定しています。
ご意見、ご感想お待ちしております。