鋼鉄のシスター   作:ジェラシー卑屈川

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はい、どうもお久しぶりでございます。

どれぐらい自分のことを覚えている方がいるでしょうかねぇ…

最終更新日からどれだけ立っているのか怖くて計算できません。

いやね?言い訳しますと、完全オリジナルの話を作り上げるのが想像以上に大変だったと言う事なんです…ハイ。

今回の話を書き始めた当初から全然展開が思いつかなくて、それでも一日一行と頑張って書いては直しを繰り返していたら、あっという間に年が明けて。

正直自分も書く遅さにびっくりしているところです。

でも突然頭の中でストーリーが弾けて筆が進む進むなんてことがありまして、ようやく本日投稿する事が出来た次第でございます。

根気よく待ってくださった方、本当にご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございます。

あんまりにも期間が開いてしまったため、前回の話と脈略が合わないところが有ったりするかも(というか絶対ある)しれませんが、そういった部分は指摘して下さるととても修正しやすくて助かります。

大変長くなりましたが、前置きを終わらせたいと思います。

では本編をどうぞ。

※注意:本家を完全無視したオリジナルの要素を含みますので、苦手方はブラウザバックを推奨します。


悲劇:暴走の始まり

薔薇の教会(ローゼン・チャペル)』扉口前室

 

 教会の入り口となる巨大な木造の扉の前にアインズ、アルベド、そして少女の体に意識を移したローザリアが佇む。

 

「ローザリアさん、この扉を開ければ間もなく外ですが、その…少し覚悟をしておいてください。恐らくローザリアさんにとっては酷な光景だと思うので…。」

 

 きわめて力なくアインズは彼女に忠告する。

 

「…そんなにも外の状況は酷いのですか…?」

 

 アインズは顔を向けずゆっくりと頷き肯定の意を示す。

 

「アルベド、扉を開けよ。」

 

「はっ、畏まりました。」

 

 アルベドは前に進み出て重厚な扉のノブを握り、ゆっくりと手前に引いていく。見た目に反して扉は非常に滑らかに開き、木が擦り合わされて生じる軋むような不快な音は一切しなかった。

 

 扉の隙間から眩い光が漏れてくる。

 

「――っ!!」

 

 しかしその眩い光の先にあったものは晴天の青空などではなく、見渡す限り一面の焼け野原(・・・・)がそこには広がっていた。

 

 アインズの忠告は聞いていたつもりだ。だがあまりの想像を絶する光景にローザリアは膝から力なく崩れ落ちる。

 

「そ…んな…これを…私が…?」

 

 信じられなくて、信じたくなくて藁にも縋る思いでアインズに救いを求める。

 

 しばらくの沈黙の後、先程と同じようにゆっくりと頷く。一つ違う点を挙げるならば、彼の視線はしっかりとローザリアの目を見つめていたということだ。それはまるで「これはお前がやったのだ」と言われたような気がした。

 

 今すぐにでもこの凄惨な景色から両目を覆ってしまいたかった、しかしそれは自分の犯した罪から目を背けることとなる。

ギルドの中でも人一倍自然を愛したブルー・プラネット氏が環境汚染により現実世界では失われてしまった光景を熱い情熱をもって作り上げたのがこの第6階層だ。ローザリアも彼と等しく自然を愛する者の一人として彼の掲げる精神に大いに賛同し、第6階層の制作に携わった一人であった。

 

――――それを自らの手で破壊したのだ。

 

 多くの時間を費やして作られた自然を愛する者達の理想郷を見る影もない姿へと変えてしまった罪深さにローザリアの精神は押しつぶされそうになる。そしてその自覚がないことが悔やんでも悔やみきれない。

 

 しかし懺悔する間もなく重くのしかかっていた負の感情がフッと霧散する。

 

 それはあまりにも突然すぎたため一瞬何が起こったのかとパニックになりかけたが、一つの記憶を思い出しすぐに冷静になる。

 

(そう…これが〈精神操作無効化スキル〉なのね…。)

 

 だがそれでもじりじりと心の奥底で燻るように自責の念が余燼となって胸を焦がす。

 

「大丈夫ですか、ローザリアさん。」

 

 打ちひしがれたローザリアを案じ、アインズが手を差し伸べてくる。

 しかしローザリアは罪の意識から彼の好意を素直に受け止めきれず自力で立ち上がった。

 

「すみません、もう大丈夫です。アインズさんが仰っていた〈精神操作無効化スキル〉が正常に発動したようで、今は平常心です。」

 

「ということは…」

 

「はい。恐らくですが一度自我をマザーベースに保存し以前の機体とのネットワークを完全に遮断して、改めて新しい機体にアップロードし直すことででバグが取り除かれ、完全にこの世界とのつながりが確立しました。そのため以前の様な違和感はもう感じません。今では完全にこの機械の体が受け入れられて、今の自分こそが本当の自分だと言い切れます。」

 

 アインズはほんの少しだけ、彼女の言葉の端に苛立ちの様なものを感じたがあえて触れる事でもないと判断し会話を続ける。

 

「それは良かった。では一応当初の目的は果たされたと言えますね。」

 

 しかしこの一言がローザリアの逆鱗に触れてしまう。

 

「…こが…どこが…これのどこが良いと言えるのですか!!」

 

 初めて見るローザリアの怒りにアインズは面食らう。かつてギルドで過ごしていた頃でもこんな激情を仲間に見せたことは一度も無かったからだ。

 

「確かに…確かにこの世界とのズレは解消されました!当初の目標も無事に達成されています!でも…でも!その代償としては余りにも失ったものが大きすぎるんです…!!!ギルドの皆が必死に作り上げたこの階層をこんなにも滅茶苦茶にして…そんなことをした記憶も無くて!!挙句の果てに手に入れたこのスキルのせいで後悔することも懺悔することもできなくて、これのどこが良かったなんて言えるんですかっ!!!」

 

 ロザリィの大きな瞳が若草色と赤色の点滅を激しく繰り返している。〈精神操作無効化スキル〉が発動しているにもかかわらず彼女の怒りの感情が余りにも大きいため一回では収まらずに連続で発動しているようだ。

 

「こんなの…私は耐えられません!!…いっそ〈自爆〉でもして…」

 

「ローザリアさん!!」

 

 アインズが強く割って入る。

 完全に自責の渦に飲まれていたローザリアは突然大声で名前を呼ばれ、思わず肩をビクリと震わせる。

 

 肩に優しく手を添えしっかりと彼女と目を合わせる。

 

「よく聞いて下さい、ローザリアさん。確かに第6階層を焦土にしたのは紛れもなくローザリアさんです。でもその中には暴走したローザリアさんを止めるために僕が放った魔法の流れ弾もたくさん含まれています。なによりローザリアさんを暴走させてしまったのは僕のせいなんです。これは全て僕の判断が間違ったせいで起きてしまったが故の結果なんです。ですからそんなに一人で抱え込もうとしないでください。責めるべきはローザリアさん自身ではなくこの僕です。」

 

 ローザリアの瞳の明滅が止まり、元の若草色に戻る。どうやら落ち着いてくれたようだ。

 

 それから暫くしてローザリアがポツリポツリと呟き始める。

 

「そう…貴方が…全部アインズさんのせいなんですね…」

 

 そう、それでいい。そのまま僕を責めてください。そうすれば僕も…

 

「それならやっぱり、アインズさんを責めることは出来ません。」

 

「えっ?」

 

 予想していたこととは全く反対の答えが返ってきたため、アインズは思わず呆けてしまった。

 

「だってそうじゃないですか。私は私の意思でアインズさんの言うことに従ったんですよ?もし無理やりやらされていたのなら話は別ですが、私はアインズさんの仰ることに納得し自分で判断して最終的にアインズさんの言うことに賛成したんです。だったらアインズさんを私が責められるわけないじゃないですか。」

 

 目に移るのは、先程までの怒りや悲しみに染まった負の感情がどこに行ってしまったのか聞きたくなる程彼女の顔には柔らかい笑顔が浮かんでいた。

 

 そうか、貴女はそういう人だと言う事を忘れていました。少し前まで罵倒してくれればどんなに気が楽になるかと思っていた自分が恥ずかしい。

 

「ですから、あくまで私たちの間では同罪と言う事にしましょう。やった、やらせたを言っていたら多分いつまでも終わらないでしょうから、奇麗にきっちり半分こです。」

 

 なんの屈託もない表情で言われてしまっては反論しようがない。ここは素直にローザリアさんの提案を受け入れることにしよう。

 

「それと、アルベド。」

 

「は、はい!」

 

 今までのやり取りを黙って傍でずっと見守ってきたアルベドへと急に話の矛先が向いたので、突然のことに戸惑いを隠せない。

 

「ごめんなさい。私が暴走していた時の記憶を全く覚えていないのだけれど、きっとたくさんの迷惑をかけたと思うわ。貴女だけじゃない、他の守護者達にも。アインズさんとはこうやって落としどころを見つけられたけど、貴方達は別。私を止めてくれた恩と、そして傷つけてしまった罰を私は貴方達へ償わなければいけない。」

 

 先程のアインズの時とは違い、打って変わって真剣な表情でアルベドに深く謝罪する。

 

「いいえ!ローザリア様が我々にそのようなことをする必要は全くありません!!我々にとってローザリア様が無事にご帰還された事だけで至上の喜びなのです。」

 

 これは本心だ。自分よりも立場が格段に上の者から謝罪、ましてや償いを受けるなど守護者の彼らにとってあってはならないことだと本気で思っている。

 

 当然ローザリアにはこの返答が予想できていた。だから前もって考えていたことを述べる。

 

「いいえ、それでは駄目なのよアルベド。例え貴女が許してくれても、主がお許しになっても、この私自身が絶対に許せないの。だからアインズさんにはずるいと言われてしまうかもしれないけれど、私は自身に賠償を設けます。」

 

「それは…?」

 

「第一にこの森を私自身の手で復興します。自分で破壊したのなら、自分で治すのは当然の行いです。そして第二に、この森の復興が終わるまで、私はローザリアとしてではなく(・・・・)ロザリィとして(・・・・・・・)行動します。つまり、自分で言うのもなんですがナザリックの頂点に君臨するローザリアとしてではなく、アルベド達守護者と同等かそれ以下の存在として行動していきます。もちろんロザリィの中身が私だと言う事は秘匿してですが。」

 

「「なっ!?」」

 

 二人そろって驚きの声を上げる。

 話を聞く限りまだ第一の賠償は納得できたが二つ目が突拍子もなさすぎる。

 

「そ、そのようなこと無茶ですローザリア様!!どうかお考え直しを…」

 

 アルベドは何の脈略も無しにとんでもないことを言い出したローザリアに困惑し、アインズと言えば

 

「ず、ずるいぞローザリアさん!僕だってどうやってみんなに迷惑をかけた償いをしようか必死に考えていたのに!!」

 

 なんともまあ情けない。

 

 そんな二人の様子を見てどこか満足そうに、ローザリアはいたずらっ子の様にチロリと可愛く舌を出し、いたずらっ子のまねごとをする。

 

「だから、ごめんなさい。でもこれだけはどうしても譲れません。今の私に貴方達の上に立つ資格はないわ、だから自分が満足できるほど自分の事を許す事が出来たら改めてローザリアとしての立ち振る舞いをするわ。その時まで、元の体は封印しておきます。」

 

 ローザリアの言葉に絶対の意思を感じた二人は、もう一切の口をはさめなかった。

 しかしアインズは一つ重要なことに気付く。

 

「ローザリアさん。」

 

「はい、何でしょう?あ、言っておきますけど何を言われようと絶対に曲げませんからね!」

 

「それはもう口出しするつもりはありません。それよりも一つまだ重要なことをお伝えしていませんでした。」

 

 アインズは一拍置いて衝撃の真実を告げる。

 

 

 

 

 「貴女の元の体は、未だに暴走状態なんです。」

 

 

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第六階層:闘技場

 

 

 ドガンッ!!!

 

 

 

 突如として耳をつんざく爆音と共に一部の観客席が黒い硝煙に包まれた。

 

 爆発地点近くの観客席からは悲鳴が上がり、規律も統率も無い無様な逃走劇が繰り広げられる。

 

「何事だっ!!」

 

 その様子はVIP席に居たアインズからも明瞭に確認でき、ナザリックの防御面が極限まで薄くなったところを狙われた“外部からの敵襲を許す”という最悪の事態が頭をよぎった。

 周りにいる守護者達も不測の事態に顔を強張らせる。

 

 だが、アインズが危惧したその考えはすぐに改められることになった。

 

 なぜならば、アインズが考える外敵の襲撃を受けたであろう観客席は傷一つ無かった(・・・・・・・)からだ。

 

 しかしその代わりとして、爆発の起こった観客席近くの空中(・・)にガラスが割れた様な大きな亀裂が入っている。

 

 観客席にはあらかじめ闘技スペースとの間にある壁から普段は視覚化されない高度の魔力障壁が一面に張られてある。これは万が一にも闘技者達からの流れ弾が飛んできても観客席側に被害が及ばない様にするための安全措置だ。

 

 そして今、およそ並大抵の攻撃ではびくともしない筈の魔力障壁が先程の謎の爆発により大きく罅割れ、壁の形を保っているのが奇跡と言える状態になっている。もし次に何かしらの攻撃を受けたならその耐久限界を超え、音を立てて全てが崩れてしまうだろう。

 

 現状を整理すると、一撃で魔力障壁が機能不全に追い込まれ、観客席側に被害が出ていないことから魔力障壁の内側(闘技場側)から攻撃がされたということになる。

 

 ここまで要素が揃ったならば、思い当たる人物は一人しかいない。

 

 アインズはその真実に困惑しながらも混乱を引き起こした者の名を叫んだ。

 

「ローザリアっ!?」

 

 異形種(オーバー・ロード)となった鈴木悟の身体能力は人間の頃と比べると比較にならないほど向上しており、100メートルは離れているような距離でもハッキリと視認対象の全容を見ることが出来る。

 

 その優れた瞳に映ったローザリアの様子は明らかに―――おかしい(・・・・)

 

「ヴヴヴ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!」

 

 到底女性の声とは思えない絶叫をあげる彼女は何かに抗おうとしているように見える。しかし抵抗が厳しくなったのか力なく体勢を崩し四つん這いになりながらも、頭を激しく地面に打ち付け、更には銀色の液体の様なものがその動きに合わせて周りにまき散らされていた。

 

 仲間に向けて攻撃をしたという冗談にしても許せない行為に対しての怒りはすっかり鳴りを潜め、むしろ異常すぎる彼女の姿に無い筈のアインズの肝は冷え切っていた。

 

「なんだ…あれは…?」

 

 全く事態が把握できないでいるアインズをよそにローザリアのうめき声に変化が生じる。

 

「ア゛ア゛…ア゛ア゛ア゛…ア゛ア゛ッ…ア゛ハ…ア゛ハハッ…ア゛ハハハ、ア゛ハハハハハハハッ!!!!!――――――――――――――ッッッ!!!!!!!」

 

 うめき声は聞くに堪えない高笑いへと変わり、最後はもはや生物の出す音ではない完全な機械音の絶叫が闘技場全体を震わせた。

 紅く煌々と光る両眼に残光を迸らせ、慈悲の十字架然り、彼女の持つ全身に隠されたすべての砲門が赤く煌めき解放されたことが分かる。そこには「次こそは…」といった絶対の意思が感じられた。

 

「やめろ!ローザリア!何を考えているっ!!」

 

 おおよそ彼女が何を仕出かそうとしているのか直感的に感じ取ったアインズは、ことが及ぶ前に魔法による瞬間移動で彼女に肉薄し普段余らせている強大な魔力を彼女の胴体めがけて打ち込んだ。

 

 時間にして数秒も経たない速攻攻撃を受けたローザリアはその衝撃で闘技場中央から壁面まで吹き飛ばされ大きな砂煙を上げる。

 この騒ぎにより一層闘技場内が混乱の嵐に包まれる。

 

 アインズは彼女が沈黙している今のうちに通信(メッセージ)で守護者全員に指示を飛ばす。

 

『アウラ、マーレ!デミウルゴス!パンドラズ・アクター!プレアデス各員!お前たちはまだ観客席に残る者達を避難させよっ!!アルベド、コキュートス、シャルティア、セバスは私についてこい!!事態は急を要する、各員迅速に事に当たれ!!』

 

『『は、はっ!!』』

 

 アインズのひっ迫した声音に守護者達からは僅かに動揺の色が見受けられるがそれも一瞬で、すぐさま指示された通りに行動を開始する。

 

 命令により4人の守護者達が時を待たずしてアインズの背後に控える。

 

「アルベド、コキュートス、シャルティア、セバスの4名、御身の命により参上いたしました。あの、アインズ様…」

 

 代表して守護者統括であるアルベドが推参の旨を伝える。そして次に出るのは当然ローザリアの異変についての質問だろう。だがアインズはその問いに答えられるほど現状を把握できていないし、むしろ誰かに教えてほしいくらいだ。だからそれ以上先を言われる前に割って入る。

 

「あぁ、すまないが今はお前たちの疑問に答えている暇はない。…というよりは察しろ。お前たちも感じている筈だ、この重くまとわりつくような禍々しい殺意を…。」

 

 守護者達は一様にこくりと頷き、神妙な顔つきで額には冷や汗を浮かべている。

 

 そう、未だ収まらない砂煙の向こうから冷たい殺気が亡者の如く地面を這いずり回り、生きているものを見つければ全身に絡みついてくるその不快感は吐き気を催す。

 

 何故彼女がこうまでして殺意をまき散らしているのか皆目見当がつかないが、これを止めるのも悪化させるのも行動を起こさなければ始まらない。

 

 覚悟を決めろ、俺。

 

 アインズの覚悟とほぼ同時にガラガラと砂煙の舞う崩れた壁面から何かが立ち上がる様な音がした。

 

「「っ!!」」

 

 一気に緊張の糸が張り詰める。

 

 一層強くなる殺気にアインズ達が身構える中、ゆっくりと人影が歩み出てくる。だがソレ(・・)は自分たちが良く知る人物とは到底かけ離れた存在だった。

 

「ひっ…!」

 

 背後から小さく悲鳴が上がる。

 

ローザリアはナザリックでもアルベドやシャルティアを凌ぐ絶世の美女だった筈だ。

大きく調律の執れた切れ長の瞳には美しい若草色の輝きが讃えられ、その中心を通る鼻筋には一切の無駄な凹凸がなくスラリと伸び、薄くも形の整った唇は口紅でも指しているかのように健康的なピンク色をしている。更に一点のシミも無いまるで真珠を見ているのではないかと思わせる肌は純白を極め、それら全てを最も美しく魅せるパーツ配置と顔の輪郭はもはや神の領域だ。そして彼女は顔だけではない、女性にしては高身長な体は男女問わず誰もが唾をのむほど官能的で、神話に登場する豊穣の女神を彷彿とさせた。

 

 だが今はそのどれもが―――――――見る影もない(・・・・・・)

 

 強い火に当てられた蝋人形のようにドロドロと爛れ、惨たらしいまでに彼女の美しさは破壊されていた。

 

「なんと…言う事だ…」

 

 ナザリック地下大墳墓には異形種ばかりが集まるため、中にはかなりグロテスクな見た目のモンスターもいたりする。もちろんグロテスクな見た目だからと言って蔑ろにするようなことはナザリックの一員である以上決してないが、今回は別だ。

 

 今のローザリアは正直言って見るに堪えない。自分が作りだした亡者たちの中でもこうまで酷いのは見たことが無かった。

 見た者すべてを魅了するあの美貌は右目付近を残し全てが爛れ、その部分以外は人骨に酷似した真っ黒な頭部骨格がむき出しになってしまっている。顔だけではない、身に纏う修道服も溶けた部分が穴の様に広がり、そこから見える体も例外なくすべて溶け出して足元に大きな水溜まりを作っている。

 

 銀色の水溜まりだ。

 

この銀色に輝く液体は彼女の体表面及び衣服を構成する液体金属であり、普段は彼女の意思力(・・・)によってその決められた姿かたちを保っている。逆を言えば、いま彼女の体表面を覆う液体金属が形を保てず流れ出てしまっていると言う事は、彼女が“正気でない証拠”だ。

 

「ア、アインズ様…あの方は本当にローザリア様なんでありんすか…?」

 

 シャルティアが恐怖と混乱の視線をアインズに向け、震える声でアインズに問いかける。

 

 対するアインズも言葉がうまく出てこない。これまでの不可解な彼女の行動で頭を悩ませていたのに、今目の前で起きている目を瞑りたくなるような光景のせいでもう頭がパンクしそうなのだ。

 それでも頭の中を整理し、今できることを懸命に判断し、シャルティアの問いにアインズは答える。

 

「…あぁ、つい先ほどまで(・・・・・)はな。今の彼女はとてもではないがローザリアと呼べるほどの面影を見いだせない。彼女がああなってしまった原因は分からないが、一先ず私がコンタクトをとろう。まぁ、とても話ができる様子には見えないがな。」

 

「では、決裂した場合はどうなさるのですか…?」

 セバスがアインズの発言を受け、至極当然な質問を返す。

 

「耳が痛い質問だなセバスよ、だが尤もだ。寧ろそちらに転ぶ可能性の方が高いと言えよう。…その場合は十中八九戦闘になる。故に、お前たちを呼び集めたのはひとえに戦闘に長けているからだ。」

 

 守護者達の内心は酷く複雑なものに変わる。自分たちの生みの親であり、忠義を誓った偉大なる存在に自ら剣を向けなければならない、しかし戦わねば先ほど以上の被害が起きてしまうかもしれないのだ。

 

 だが彼らにも覚悟を決めてもらわねばなるまい。

 

 一拍置いてアインズは前に居る異形のローザリアに注意しながら、背後に控える守護者達を見やる。

 

「注意しろ、あれは彼女(ローザリア)であって彼女(ローザリア)ではない。戦闘になった場合確実に殺しに来るだろう。自分の身を守ることを第一に優先し、彼女の動きを止めることに集中してくれ。その間に私が何とかする。」

 

「はっ、畏まりました。」

 

 守護者達の目から迷いが消えた。どうやら彼らも決心してくれたようだ。

 しかしアインズの内心は彼らが覚悟を決めてくれた喜びよりも不安で一杯一杯だった

 

(…守護者達に覚悟を決めさせるため仕方なかったとはいえ、まだ何にもわかってないのに「私が何とかする」とか言っちゃったよ俺!くそっ、くよくよしてたって始まらない。わからないんだったらわかるようにするだけだ!)

 

 自信を鼓舞して胸中に渦巻く不安を払拭し、ローザリアと対話を試みるべく歩を進め始める。

 

「よし、では行ってくる。もし戦闘になったら、その時はアルベドを中心として各員臨機応変に対応してくれ。私もいちいち指示を飛ばしていられるほど暇ではなくなるだろうからな。頼りにしているぞアルベド。」

 

「は、はい!!アインズ様!必ずやこのアルベド、アインズ様のお役に立てることを誓います!!!」

 

 このナザリック史上最大の緊急事態でアインズ直々に頼りにしていると言われたアルベドは、大好きな人に認められたという興奮と幸福感に鼻息荒く目を輝かせ小さくガッツポーズをする。

 

「ドウカオ気ヲツケテ…。」

 

「あぁ、どうか話だけで済むように祈っていてくれ。」

 

 守護者達に背を向けゆっくりと確実に一歩一歩、歩みを進める。

 

 そしてローザリアに近づくにつれ、身にまとわりついてくる殺気はさらに濃度を増してくる。

 

 それにしても機械が殺気を放つというのも考えてみればおかしな話だが、やはりそこに意思があるならば可能なのかもしれない。

 

(なんて、今考える事じゃないよな。でも余計なことを考えていないと、このプレッシャーに飲み込まれそうになる。それに仲間から敵意を向けられるのがこんなに辛いことだとは思わなかった…。)

 

 歩きながらアインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを虚空へと仕舞い、数ランク低い戦闘用の杖を取り出す。

 

 友人、親、恋人…そういった親しい関係の存在から負の感情を向けられるというのは精神に掛かるストレスがかなり大きい。それこそ全く知らない異世界で奇跡的に再会する事が出来た友人からともなれば、そのショックの大きさは相当なものだろう。

 

だが次第に心で渦巻く行き場のない憤りは、いつまでも不快な殺意を振りまく彼女への怒りへと変化し、スタッフを握る力が強くなる。

 

(なぜ…なぜそんなにも僕たちに敵意を向けるんだ…ローザリアさん!あんなことまでしてっ!絶対に理由を聞かせてもらいますよ!!)

 

 アインズ程度が本気で握ったところでへし折れることなどないが、それでもミシミシとスタッフが軋み悲鳴を上げる。しかしながらいつもの如く〈精神操作無効化スキル〉によって昂ぶった心が強制的に鎮められ、強く握り締められていた拳はすぐに緩められた。

 

(…まぁ、冷静さを取り戻す分にはすごく便利なスキルだけど、こうも唐突に発動されると何とも言えないな…。それにしても、ここまで近づかれておきながらアクション一つ起こさないなんて、ますます何を考えているかわからない。)

 

 もうすでに、ローザリアとの距離は10メートルも無い。これだけ殺気を漂わせているなら近づいてくる脅威に対して真っ先に攻撃しそうなものだが、一向に吹き飛ばされて激突した壁の付近から動こうとはせず、ただただ体を爛れさせている。

 

(笑っている…のか?)

 

 もうほとんど顔の液体金属は剥がれ落ちており表情を見ることが困難だが、よく見ると肩が小刻みに上下している。こういった動きは大抵笑っているときに見られるものだ。

 

(くそっ!何がおかしいって言うんだっ!!)

 

 彼女の混乱を招いたと維持者として相応しくない態度に先ほどの怒りが再燃し感情が爆発する。

 

「ローザリアよ!貴様一体何を考えている!!なぜあんなことをした!!例え私と同じくナザリックの頂点に立つ者だとしても、仲間を傷つけるような真似は決して許される行為ではないぞっ!!!」

 

 普段から温厚なアインズの本気の怒号は会場内をビリビリと震わせる。

 

 だがそれに答えたのは静寂と沈黙。

 一瞬だったのか、それとも数分、いや一時間にも感じられるほど沈黙を続けるローザリアの態度はアインズの神経を逆なでる。

 

「答えろっ!!!」

 

 再び沈黙が訪れるかと思われた。

 

「フフ…フふフ…ふフフふfu………アァ…嗚呼?……何故?…何故でスッテ…フフ、アハハ…面白イわ…愉快daワ……えェ、エぇ…知ラnaイのね…可哀想、カワイsoウ…ソゥ、教えルのネ?…教えてアゲまショう…迷えル子羊には救済ヲ…高慢ni、強欲ニ…怠惰no牛の四肢wo捥ギ、嫉妬の蛇は果実を求メ、暴食の蠅ha理性を貪り食らウ…なンて素晴ラシイ…フfぅ、フフフfu…我が主no思召しを…」

 

 聞こえてきた声は完全形態の時とはまた違う不気味さを持っていた。普段の凛とした声に被さるように第三者のまったく聞き覚えのない低い合成音が重なり、生物的でありながら非生物を連想させるこの矛盾が実に気持ち悪い。

 喋る言葉も支離滅裂で、第一目標であった対話は不可能だ。

 

(ちっ、やはり理性が飛んでしまっている。これでは会話など不可能だ。他に何か手はないか…?)

 

 解決策を模索したことによってローザリアへの注意が一瞬疎かになる。

 

「主は仰riまシた…」

 

 その一瞬のうちにローザリアが視界から消える。

 

「しまった!!」

 

 気づいた時にはもう遅い。

 

壊したいからに決まっているじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

 その時は、その時だけは酷くうっとりとした恍惚的な声音が耳元で囁かれた。

 

 …これが背後から後頭部に銃口を突き付けらている状況でなければ、もっと扇情的に聞こえたのかもしれないな。

 

 ダァンッ!!と銃声が鳴り響くが、アインズは間一髪で躱し反撃のため反射的に射線外へと距離をとる。

 

「ぐあぁっ!」

 

 しかしその行動は読まれていたらしく、飛びのこうとした方向から回し蹴りを食らい凄まじい力で弾き飛ばされる。

 そのまま闘技場の魔力障壁にぶち当たり、ついにガラスが割れる様な音と共に砕け散った。それでも衝撃を殺しきれなかったためそのまま観客席へと激突し大量の砂煙を上げる。幸いに、闘技場の避難は既に終わっていたため他に被害を受ける者が居なかったことが救いか。

 

「「アインズ様!!」」

 

 目の前で行われた一瞬の攻防に守護者全員が悲鳴を上げるが、それも一瞬で言われた通りアルベドを筆頭として迅速に行動を始める。

 

「ではアインズ様の命により、ここからは私が指揮を執ります!まず私はアインズ様の安否確認のためアインズ様の下へ向かいます。そのままアインズ様の守護防衛に就きます。」

 

 アルベドの指示にシャルティアが咬みつく。

 

「ちょっと!アインズ様に任されたからってずるいんじゃありんせん!?わたくしもアインズ様と一緒が良いでありんす!!」

 

 全くこんな非常事態にコイツは何を言っているんだと、怒りを通り越して呆れてしまう。その思いを代表してアルベドが怒りの形相で説き伏せる。

 

「脳筋を通り越して本物のバカねあなたは!いいかしら、アインズ様は自分の身を第一にとおっしゃったけれど、それでアインズ様を失いでもしたらこの先どうするつもりなのかしらシャルティア!!自分の身の前にアインズ様の御身を護ることが大前提よ!そしてこの中で防衛能力に長けているのはこの私!少しでもアインズ様を安全にお守りするためには私が行かなくて誰が行くのよ!!」

 

「ぐ…わ、わかったわよ!!」

 

 鬼の形相で詰められたシャルティアは渋々引き下がる。

 

 コホンと軽く咳払いしアルベドは再度指揮を執る。

 

「残りの貴方達は私がアインズ様の安否確認と防衛に就くまでなんとしてもローザリア様の注意を引いておいて。今のローザリア様の戦闘能力は未知数だけれど、3人がかりならある程度は持ちこたえられるはずだわ、というか持ちこたえなさい。では各員行動に移れ!!」

 

 アルベドの号令によって各々が散開する。アルベドは未だに動く気配がないアインズの下へ。セバス、シャルティア、コキュートスは猛スピードでローザリアの下へ駆ける。

 

「では、一番手は私が頂きましょう!!」

 

 セバスの役職はモンクであり近距離戦闘に長け、それを補助するスキルも多数持つ。

 

 中でも“気功”と呼ばれる体の内に秘める生命エネルギーを直接打ち込むことで、対象の体内の“気”を強制的に変化させることにより、破壊や逆に怪我の治癒などができる技を得意としている。他にもまだまだスキルは所持しているのだが、それら全てに共通するのは(こぶし)または(てのひら)に関係があるということだ。つまり、傷つけるにも癒すにもその手が直接触れなければならないため、必然的に戦闘範囲はほぼゼロ距離になる。

 

 射撃による遠距離戦を得意とするローザリアに対しては戦術上かなり不利を取るが、懐にさえ入ってしまえば逆に有利に持ち込めるため、撃たれる前にセバスは一瞬だけ構えの姿勢をとると、更に早い速度でローザリアとの距離を一瞬にして縮める。

 

「参るっ!!」

 

 牽制攻撃をさせる間もなく詰め寄ったセバスは、アインズに命令通りローザリアの拘束を試みる。

 

「ローザリア様、ご覚悟を!〈地縛掌〉!!」

 

 一気にローザリアの至近距離へと詰め寄ったセバスは腰付近で握り拳を作り、両拳に光が宿ったかと思うとローザリアの腹部めがけて弾丸の如きスピードの掌底が叩き込まれた。

 

 〈地縛掌〉は近接打撃ダメージ+気功を打ち込み相手の動きを封じるデバフ効果があり、気功の特性上特に生物に対する効果が大きい。

 

 ドンッと鈍い音が鳴り、衝撃波はローザリアを貫通し反対側で砂煙が舞う。手には確かな重みと手ごたえを感じた。

 

 だが――――

 

(くっ、やはり無機物生命体であられるローザリア様には効果が期待できませんか…!)

 

 反面、生命エネルギーがもともと少ない無機物生命体は気功などと言った体内の生命エネルギーに直接干渉してくる攻撃に対して耐性を持つ。それは無機物生命体の頂点に立つローザリアも例外でなく、〈地縛掌〉を受けても尚微動だにしていない。それどころか攻撃を受けたにもかかわらずその攻撃者に対して見向きもしていない。

 

 少しでもこちら側に注意を向けさせるため、セバスは動きを止めるのではなく危険対象と認識されるようダメージを与える方針に転換する。

 

「ならば!〈白虎口〉!!」

 

 半歩引いたところから繰り出される猛烈な突進と共に上下から双手突きが放たれる。

 

 〈白虎口〉はセバスの持つ攻撃の中でも特に火力の高いものであり、強烈な突進力が合わさった双手突きは万物を破壊する威力を持ち、更に高密度に練られた気は牙の幻影を作り出し、打撃と斬撃の両属性を与え相手に重度の出血効果をもたらす。

 

 金属を強く叩きつけた様な先ほどよりも大きい音が辺りに鳴り響いた。

 

 衝撃によりローザリアを覆う液体金属が激しく飛び散る。

 

「なっ!?」

 

 しかし聞こえてくるのはセバスの驚嘆の声。

 

 渾身の一撃で放たれた〈白虎口〉は、ほぼ剝き出しの骨格だけになったローザリアの細い胴体へ見事に命中していたにもかかわらず(・・・・・・・)、ダメージはおろか本当に攻撃が当たったのか疑いたくなるほどに攻撃を食らった仕草も形跡も見当たらない。

 

 少し、ほんの少しだけ、王女へ攻撃をするという罪悪感から力を抜いてしまったのは逃れようのない事実だ。だが、手加減をしたと言っても今と同じ力加減で別の対象を攻撃していたなら間違いなくそれは原型を留めぬほど大破していた筈だ。

 

 ―――――ゾッ(・・)…!!!

 

 時間にしてコンマ一秒も立たない一瞬の戸惑いの中、彼女と目が合った。

 

 動けなかった。

 

 黒く濁った中に煌々と浮かぶ真っ赤な瞳に見られた瞬間、足はすくみ上り、全身の筋肉は体感したことのない恐怖に強張り、奥歯はガチガチと太鼓をたたく壊れた玩具の様に鳴りやまない。

 

「…―――。」

 

 もはや人語ではない機械が発する音。だが分からずとも伝わってくる

 

――――――――死ネ、と。

 

 硬直し動けないでいるセバスへと、アインズの時と同様に回し蹴りが炸裂する。

 

「サセルカッ!!」

 

 そこへ追いついたコキュートスが割って入り主腕で持っていたハルバードを深々と地面に突き刺してローザリアの回し蹴りを受け止め、副腕でセバスを力任せに投げ飛ばした。

 

(クッ、何ト重イ一撃ダ…!)

 

 回し蹴りを受け止めた衝撃がハルバードから両手に伝わり、強い振動が掌を痺れさせる。その衝撃から今の回し蹴りの威力の高さがうかがえた。

 

「背中がガラ空きですわローザリア様!〈ブラッディ・クロス〉!!」

 

 攻撃後に硬直しているローザリアへといつの間にか背後へ回っていたシャルティアが自身の能力により血で強化した両手の爪で致命の一撃を与える。

 

 パリンッと皿が割れる様な音がした。

 

「えっ!噓でしょ!?」

 

 シャルティアの驚きの先にあったのは、血で形成された長い爪が粉々に砕け散る光景だった。

 

 ローザリアには致命傷どころか傷一つすらついていない。

 

「攻撃ノ手ヲ緩メルナ!」

 

 攻撃の通らないローザリアに戦意が下がりそうになる二人にコキュートスは発破をかけて立ち上がらせる。

 

「ウオオオオオオ!!」

 

 ローザリアに肉薄し、目にも止まらぬ速さで巨大なハルバードを振り回しながら攻撃するコキュートスだったがそのすべてが軽く手で弾かれ、有効な一撃が一向に与えられない。

 

 そこへ突如として大量の蝙蝠がローザリアの視界を遮る。

 突然のことに動きが止まった所をすかさずセバスが背後からローザリアの姿勢を崩し上方向に掌底をくらわすことで大きく体を浮かせる。

 

 何の打ち合わせもアイコンタクトも無かったが全てを悟ったコキュートスは渾身の力をハルバードに溜め、宙に浮いたローザリアめがけ―――――放った。

 

「クラエ、〈不動明王撃〉!!!!!」

 

 その一撃は見事にローザリアの腹部に命中し、金属が強く擦れる音と共に凄まじい速度で闘技場の壁にぶち当たり、辺り一帯がその衝撃で原型を留めないほど大破した。

 

「「…。」」

 

 大量の砂煙を上げるその先を三人はじっと見つめる。

 

「やった…で、ありんすか…?」

 

 動く気配がしないことから、ぼそりとシャルティアが独り言を漏らした。

 

 しかし―――

 

「イヤ…」

 

 コキュートスが手に持つハルバードを強く握りしめ直す。が、握り締めた拍子にハルバードに無数のひびが入ってバラバラと砕け散る。

 

「…マダダ。」

 

「「…っ!!」」

 

 だんだんと砂煙が晴れる中でそいつは立っていた。ガラガラと瓦礫が崩れる中でそこだけ時間が止まったかのように静かに屹立する黒い人の形をした塊が。

 

 先ほどのコキュートスの一撃で体に纏う全ての液体金属が四散したのだろう。人骨を模したローザリアの内部骨格が全て露わになっている。

 

 その体に傷や凹みといった外傷は一切見受けられず、崩れた瓦礫の隙間から差し込む光を反射して鈍く光り輝いている。

 

 信じがたい光景に三人は思わず呼吸をするのを忘れてしまう。

 

「ああいうの、何て言うんでありんしたかねぇ…」

 

 不意にシャルティアがまたポツリと小さく呟く。しかし静寂の中でそれは独り言というには少しばかり声量が大きいようで、全員の耳に届いた。

 

 走馬燈の様に在りし日の小耳に挟んだ創造主達の会話を思い出す。

 

 そして一つのワードに思い当たる。

 

「あぁ…そうそう、思い出したんでありんす。」

 

 ローザリアの赤く煌々と光る両目が、目前の三人をようやく捉える。

 

「確か」

 

 前傾姿勢になったローザリアが声にならない雄叫びをあげながら三人の所へと猛スピードで突進する。その姿はまるで血に飢えた獣のように狂気に満ちていた。

 

「“ちーと”って言うんでありんしたかぇ…。」

 




いつものことながら、最後まで読んで頂きありがとうございます。

どうでしょう、楽しんで頂けましたでしょうか?

もし楽しんで頂けたのならこれ以上ない喜びです。

大変恐縮なことではありますが、読んで頂いた際の感想などを頂けるととてもうれしいです。

感想ではなくても、「オイっ投稿ペース遅ぇぞどうなってんだボケェ!!」とか「アホ!バカ!○ね!!」でも構いません。一言いただけるだけで作者は豚の様に喜びます。

最後になりますが、次話については前回同様未定となります。

今回の様に運よく筆が乗ってくれたら早めに投稿できるかもしれないですね。

それではありがとうございました。
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