あ、あとオリジナル設定がどーんと出てきますので、「嫌だなー…」って人はブラウザバック推奨です。
今回は少し長めです。
村長夫人の声に真理亜が顔を上げると、そこには周りに建っている民家の約3倍程の大きさがある建物が建っていた。
ヨーゼフカが持っていた鍵を使い扉を開けると、待っていたかのように村長が開いた扉の脇に素早く立ち、マリアを出迎える。
ヨーゼフカは村長の姿を見て「やられた」と言ったように苦虫を噛み潰しているような渋い顔をするのだった。
「ささっマリアさんお手をこちらに、そこは段差がありますので足元にお気を付けください。」
村長がどこか浮ついた表情で真理亜に手を差し伸べる。真理亜は村長の心遣いを無下にすることもできないので、その手を取った。
「んん?マリアさんのお手は
「!?」
村長のその一言を聞いて真理亜は思わず手を勢いよく戻してしまった。
後ろからは「デリカシーが無い」だとか「これだから男は」だとか聞こえてくるが真理亜の耳には全く入ってこない。
聞こえてくるのはさっきから頭の中をガンガンと駆け巡る五月蠅い思考の濁流だ。ここまで仮説の要素が集まってしまっては落ち着いてなどいられない、今すぐ確認をしなければ頭がどうにかなってしまいそうだ。
「…っ!」
「あ、ちょっとマリアさん!?待ってください!」
急に駆け出した真理亜を呼び止める声も、今の彼女の耳には届かない。
(確認しなければ…!早く、早く!)
そして必死に求めた姿見に映る自分の姿を見たと瞬間…
―――彼女は膝から崩れ落ちた。
「急に走り出されたのでビックリしましたよ…ど、どうかされたのですか!?」
後からやっと追いついてきた村長は、姿見の前に座り込んだ状態で両手を床へつき、肩を震わせている真理亜の姿を発見すると、先程までの彼女の態度とはまるで違った状態を何事かと思い、声を掛けずにはいられなかった。
すると、声がかけられた真理亜が凄まじい勢いで村長の肩に掴みかかってくる。
「村長様!私の目から
「いったいどうし…」
「早く!!」
そのマリアの細い腕からは考えられないような握力で掴まれ、指が食い込み肩はギシギシと軋む。
痛さに村長は顔を歪めながらも、必死の形相で訴えかけてくる彼女に何とかして答えるべく言葉を選んで事実を告げる。
「…わかりました。では、申し上げます。…私が見る限り、マリアさんの麗しい瞳から涙は
真理亜は村長の言葉を聞いた瞬間、美しい顔を絶望の色に染めた。
「っ!!…うわあぁああああああああああああ!!!」
真理亜は村長にもたれ掛かりながら大声で泣くが、その彼女の大きな瞳からは涙が零れることはなく、村長の服もまた濡れることはなかった。
マリアが泣く声を聞き、慌てて駆けつけて来たヨーゼフカと村長夫人はその光景を見るなり声を掛けようとするが、村長は無言の圧力で二人を止めさせ、おとなしくしているように言った。後ろに引き下った二人は心配そうな顔でマリアを見守っている。
彼女が泣き崩れた理由、それは彼女の仮説が実証されてしまったからだ。
彼女が立てた仮設の内容は至極単純なものだ。ただそれは『ここが《ユグドラシル》の世界なのではないか?』という常識を疑うような普通では考えられない内容だったのだが…。
彼女がこの仮説に至った要因は極めて少ない。それは真理亜がヨーゼフカから言われた「ゴブリン」と「瞬きをしない」という二つのキーワードがこの仮説を成り立たせるのに十分な要因だったからだ。
まず、ヨーゼフカの言った「ゴブリン」とは、ファンタジーの世界等で出てくるように現実には存在しない空想上の生き物の事だ。
だが《ユグドラシル》をプレイしたことがある人間ならば誰もがその存在をよく知っている一般的なモンスターである。故に真理亜は真っ先に《ユグドラシル》の事を思い出し、またこの世界が《ユグドラシル》であるならば、そのような存在が居たとしても不思議ではないと思ったのだ。
次に「瞬きをしない」だが、これは真理亜が使っていたアバターに関係がある。
彼女が《ユグドラシル》で使っていたアバターの種族名は〈
彼女は機械で出来た体とは言え、多額の課金により手に入れたデータクリスタルを使用して作り出したその人間然とした見た目を気に入っていた。だが周りのギルドメンバーも人間の姿とは大きくかけ離れた魑魅魍魎の異形種ばかり。少しくらい自分も何か人間離れしたことをしなければと考えた真理亜は『瞬きをしない』ことで、人間種にしか見えないその見た目が異形種のものであるという意思表示をしていたのだ。
そして姿見に映った真理亜の姿はまさしく《ユグドラシル》で遊んでいた時に彼女が使用していた『ローザリア』と言う名前をつけたアバターであり、『ここが《ユグドラシル》の世界なのではないか?』と言う仮説のほとんどが実証されてしまった。
この衝撃の出来事は彼女を一瞬で追い詰めた。
誰にも話す事が出来ない事実にやり場のない感情が合わさって、悲しみの感情に苛まれても彼女が涙を流さなかったのは、その体が《ユグドラシル》の設定をそのまま引き継いでいたことを示し、機械の身体になってしまった彼女は涙を
暫くして泣き声がやみ、マリアが落ち着いたところを見計らって村長は声を掛ける。
「落ち着かれましたか?…その、大変失礼だとは思いますが、もしお話ししてくださるのであれば、あなたに何があったのか我々にお聞かせ願えませんか?」
しかし真理亜はうつむいたままフルフルと無言で首を横に振る。
「しまった」と村長は心の中で呟いた。
彼女は姿見を見ただけで泣きだしてしまうような、何か大事なことに気づいたのだろう。そうやすやすと他人に話せるような内容ではないはずだ。と、村長は好奇心が率先してしまい、彼女の気持ちをくみ取ってあげられなかったことを後悔した。
「わかりました…不躾な要求をしてしまい本当に申し訳ありません。…ですが我々はあなたの味方です。もし気が変わりましたらあなたの話しやすい方にお話しください。きっと誰でもあなたの相談に乗ってくれると思いますよ。」
村長はそう言いながらマリアの肩を優しく摩った。
どうにかしてこのお嬢さんを悲しみから救うことができないか模索していると、助け船を出したのは村長夫人だった。
「マリアさん、少し泣き疲れたでしょう?私達の家で休んでいきなさい。私は先に帰ってお茶の準備でもしておくわ。それからもっと別の話をしましょう、きっと気分が晴れるわ。」
村長夫人はそう言うと、未だに声を掛けあぐねているヨーゼフを強引に連れて先に村長宅へと帰っていった。
「ではそうするとしましょう、立てますか?」
村長が立ち上がろうとすると服の裾をキュッっと掴まれた気がした。
次に「村長…」と、か細い声で自分を呼んだのを聞き漏らさず声を掛けて来たマリアと同じ目線になるようにまた座り直した。
「…村長に…二つだけ伝えておきます…。これから私の名前を呼ぶときは『真理亜』ではなく『ローザリア』とお呼びください…私の
真理亜が村長に話した呟きは意味深長で、普通の人ならば理解に苦しむ内容だろう。
しかし長年カルネ村の村長をしてきた自分には人を見る目と、相手が何を考えているのかを察する能力を持っているという自負がある。その自信からマリアが今とても大切なことを私に話してくれたのだと直感的に理解していた。
「…そうですか。その言葉に秘められた意味を、思いを、私ではすべて汲み取ることができません…しかしマリ…いえ、ローザリアさんが今私に話してくださった言葉はとても大切な意味を孕んでいるということだけは理解できました。貴女が悲しみの中で振絞って出した言葉です、心して覚えておきましょう。」
真理亜は自分でも支離滅裂なことを言っているのは分かっていた。それでも村長は真正面から受け止めてくれ、出合って間もない真理亜のことを本気で思ってくれるその優しさに真理亜は深く感謝した。
「さて、そろそろ我が家帰るとしょう。きっと妻が何か用意してくれているはずです。かくいう私もお昼をまだ食べていませんでしてね?もうおなかがペコペコなんです。」
重たくなっていた空気を吹き飛ばすかの様に村長は明るい声で切り出して、家に帰ることを提案した。
「ふふっ…」
「お、やっと笑ってくださいましたね?美しい方は悲しんでいる姿も様になりますが、やはり笑った顔が一番ですな。」
村長の優しさと気遣いのお陰で真理亜の表情からは悲しみが消え、代わりに優しい微笑みを浮かべていた。その笑顔を見た村長は余りの美しさに見惚れそうになるも、お道化て誤魔化すのだった。
真理亜は決意した。
神よ、この世界で生き抜いて見せよというのならば、私は全力でそれに応えて見せる…と。
それから村長宅へ着くなり村中の人と言う人が集まってきて、大賑わいだった。どうやらマリアのことが目当ての様で、これはまた質問の嵐だろうなぁと悟りつつ真理亜はその輪の中へ飛び込んで行くのだった。
村長との話し合で、真理亜は自身を危機から村総出で救ってくれた恩を返したいことを伝え、村の住人として此処で生活をしたいことを希望すると、「喜んであなたをカルネ村の住人として迎え入れましょう」と村長は快諾してくれた。
それからというもの、一村人として真理亜は幾日を過ごし、その平穏な日々に村長があの日マリアから伝えられた言葉を忘れかけた頃
―――彼女(ローザリア)の運命を変える事件が起きるのだった。
皆さん既にお気づきだとは思いますが、この作品の独自設定であります異形種特有の『精神操作無効スキル』が発動しておりません。
色々理由は考えてあるのですが、そういったものは設定集のページを作ったときにまとめて書きたいと思います。
いずれ発動していくきっかけがありますので、それまでお楽しみに。
そういえばUA数ってなんねやろ?と思って調べたところどうやら閲覧数の事らしく、2000以上もの方が私のような素人のSSを閲覧してくれたのだと思うと、こう…クるものがありますね…。(滝の様に流れる涙
ご意見お待ちしております。