戦海の守護者たち   作:瑞穂国

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明けましておめでとうございます!

新年第一弾は、こちらになりました。本編もそろそろ投稿できるといいんですが・・・

今回は、アメリカ艦隊編です


Eの海(米艦隊編序章)

えっと・・・何からお話しすればいいでしょうか。

 

私のこと、提督のこと、みんなのこと、この戦争のこと。話したいことが多すぎて、頭がパンクしそうです。

 

こほん。

 

まずは、自己紹介でしょうか。

 

私はエンタープライズ。BOB(ブルー・オーシャン・バトルシップ)と呼ばれる艦艇群のうち、航空母艦の一隻を操る、艦娘です。現在は、アメリカ第七方面艦隊に所属しています。

 

私たち艦娘の敵は、深海棲艦と呼称される謎の艦艇群―――第二次大戦級の兵器を搭載し、人類の船を襲う異形の軍艦たちです。

 

とまあ、こんな感じでしょうか。海洋を席巻する深海棲艦に対して、唯一対抗可能なのが、私たち艦娘なんです。

 

次に、第七方面艦隊の提督を紹介しましょう。パナマに展開する私たちを指揮しているのは、ウィリアム・ハルゼー大佐。米海軍随一の猛将と言われる、頭のてっぺんのくせっ毛がトレードマークの若き―――弱冠二十六歳の提督です。

 

提督―――モノローグでは、愛称であるブルと呼びましょうか、彼の指揮下、私たちは太平洋側のパナマ運河周辺の警備と、対豪州輸送路の護衛そして南方海域解放を目的とした作戦に参加しています。そのため、創設時から戦艦が少ない代わりに、空母二隻の集中運用が許可されていました。

 

私は、そんな二隻の空母のうちの一隻です。

 

 

 

昼下がりの執務室。給湯室で淹れたコーヒーをお盆に乗せて、私は慎重にそのドアの前に立ちました。木製の重厚なドアの前でそっと呼びかけます。

 

「提督、エンタープライズです」

 

「開いてるぞー」

 

中から声がします。ですが、慎重に慎重を期して両手でお盆を持っている私には、そのドアを開ける術は存在しません。ドアノブを付けただけの壁と何ら変わらないです。

 

「すみません提督・・・。開けてください・・・」

 

しばらくすると、私の目の前で、ゆっくりドアが開きました。怪訝な顔をしていたブルは、私を見るなり全て納得してくれたみたいです。

 

「おう、サンキューなエミリー」

 

エミリーは、ブルが私に付けたあだ名です。

 

「コーヒーとクッキー持ってきました。少し、休憩しませんか?」

 

私の持ったお盆を見て、ブルがニヤリと笑いました。

 

「わかった。少し待ってろ、すぐに終わる」

 

そう言って招き入れられた執務室は、ほとんどが処理済みとなった書類の積まれている執務机以外、非常に小ざっぱりとした印象を受けます。執務以外で艦娘の憩いの場(なぜかカードゲームが始まります)となった仮眠用のソファーが据えられているぐらいです。

 

一見大雑把なようなブルですが、実はかなり几帳面な性格なんです。もっとも、私が気づいたのもつい最近なんですけどね。本人もあまり前に出しませんから。

 

「これだけ書き込んで・・・っと」

 

すらすらと処理中の書類に万年筆を走らせたブルは、それを上から確認して、最後に判子を押して処理済みの書類の山に加えました。

 

「よし、終わった。コーヒー貰おうか」

 

「はい、どうぞ」

 

「サンキュー」

 

ソファーに腰掛けたブルは、私の淹れたコーヒーにブラックのまま口を付けます。普段は砂糖をスプーン二杯くらい入れるんですけど、こうして執務をする時は、目が冴えるからブラックなんだそうです。

 

「くうー、苦い。だがうまい」

 

舌を出しながらも、美味しそうに飲んでくれると、淹れた私も幸せな気分になります。自然と頬が緩むのを感じて、誤魔化すために私もコーヒーを啜りました。芳醇な薫りが、鼻孔をくすぐります。

 

「すみません、書類お任せしちゃって」

 

「気にすんなって。グアムも手伝ってくれたし」

 

後でパフェ奢らないとな、とブルが呟きます。

 

この艦隊の秘書艦は私ですが、今日は新型機の完熟訓練を行っていました。そのため、午前の執務はグアムにお願いしたんです。第七艦隊随一の常識人で、書類仕事もそつなくこなしてくれます。

 

・・・そういえば、どうしてブルは、秘書艦を私にしてるんでしょうか。書類仕事なら、私よりもグアムの方がずっと向いてますし。答えが怖くて、本人にはとても訊けませんけど。

 

「新型機はどうだった?」

 

「かなりのじゃじゃ馬ですよ。でも、私は好きです、あの子」

 

まるでブルみたいですし。

 

「開発できたのはうちが初めてだったみたいだな。後の奴らのためにも、しっかり頼むぜ」

 

「任せてください。一個小隊、しっかり錬成します」

 

ブルが口もとを歪めました。

 

「せっかくだから、俺も飛んでるとこ見たいんだがな」

 

「・・・見にきます?」

 

「いいのか?」

 

「書類は、あそこにあるので終わりですよね?」

 

執務机をちらっと見遣って、ブルに確認します。

 

「おう」

 

「それなら、夕食前にやっても終わりそうですね」

 

「・・・手伝ってくれるのか?」

 

「はい、もちろんです」

 

にっこり笑って答えます。私としても、新型機の飛行をブルに見てもらえるのは嬉しいです。

 

「OK。じゃあ、午後の演習は俺も見に行く」

 

「はい。待ってます」

 

そういうわけで、午後の飛行訓練にはブルも参加することになりました。やりました。

 

 

 

二千馬力を超える発動機は、五トン近い機体でも易々と前に引っ張っていくものです。現在、私の艦載機隊の主力戦闘機となっているF6F“ヘルキャット”よりも、幾分かスマートな印象を受ける特徴的な機影が、ブルと私のいる艦橋の上をフライパスしていきました。

 

「妖精さん、さすがだな。もう結構慣れてるじゃないか」

 

四機で編隊を組んで飛んでいく戦闘機隊を見て、ブルが感想を漏らします。

 

「まだ序の口ですけどね。最高速度の時なんかすごいですよ。ロデオみたいだって妖精さんも言ってました」

 

「ロデオか。そりゃすさまじい」

 

馬力の割にはのろのろと上昇していった四機の機体は、二つに分かれると鋭いターンをして、今度は正面方向から艦橋の上を通過しました。“ヘルキャット”とは見るからに違う、逆ガル翼の影がものすごい勢いで迫ってきました。

 

「あいつがF4U“コルセア”、か」

 

飛び回る戦闘機の名前を呼んだブルが、手元の資料を見ながら呟きます。

 

「“ヘルキャット”とはまた違った性格の機体ですから、あちらとうまく連携できれば戦術の幅はもっと広がります」

 

「爆装もできるんだっけか」

 

「馬力に相当余裕がありますので」

 

洋上を翔る“コルセア”は、ものすごい音を響かせていました。

 

『面白い機体を飛ばしてるわね』

 

と、スピーカーから声がしました。周辺海域では、確か砲撃演習も行っていたはずです。そのうちの一人だと、すぐにわかりました。

 

『逆ガル翼なんて・・・洒落てる』

 

「コニーか。どうだ、そっちは」

 

ブルが、件の艦娘のあだ名を呼びました。

 

『あら、提督も一緒だったのね。こっちは順調よ』

 

『何が順調なのよ、ランチ食べてないじゃない!』

 

『文句は言わない』

 

コニー―――巡洋戦艦“コンステレーション”の通信に割り込んできたのは、同じく砲撃訓練中だった模様のクリー―――軽巡洋艦“クリーブランド”でした。基地で最も新参の彼女は、少しでも早く先輩に追いつこうと、日夜訓練を繰り返しています。今日の教導役は、コニーだったみたいですね。

 

『それじゃあ、私たちは訓練に戻るわ』

 

『えー、サンドイッチ食べたいー』

 

『さっき言ったことがちゃんとできたらね』

 

容赦のないコニーの言葉に、ブルも苦笑します。自分にも、他人にも厳しい、第七艦隊唯一の戦艦です。

 

さて、巡洋戦艦“コンステレーション”についてですが・・・細かいことは、別の機会にしましょう。少し長くなってしまいますので。

 

「次は、編隊空戦です」

 

通信機から、訓練の段階を指示します。“コルセア”を操る妖精さんからは、すぐに返事がきました。

 

 

 

「で?お二人とも、何か言うことは?」

 

陽が傾きかけた基地の執務室。ブルと私は、なぜか床に正座をさせられていました。日本式っぽいですけど、今時の日本人だってやりませんよ、こんなベタなお説教。うう、私としたことが・・・。

 

「あー、グアム、これには深い訳が」

 

「そこ、誰がしゃべっていいって言いました」

 

グアムさんすごい理不尽!私たちの目の前に、フドーミョーオーのように立っているのは、グアムです。背後に、威圧的な「ゴゴゴゴゴッ」という効果音を従えているのが見えます。

 

「書類が残ったまま?執務ほっぽり出して?新型機の慣熟訓練?」

 

一言一言を発するたびに、身の縮まる思いです・・・。

 

「すみませんでした・・・」

 

二人してうなだれます。返す言葉もありません・・・。

 

「先程、午後の便で新しい書類が山ほど届きました」

 

うっ。

 

「次回作戦の日程と概要、輸送船団の手続き、役割の割り当て、その他諸々」

 

ううっ。

 

そこまですらすらと言い切ったグアムは、いっそ惚れ惚れするぐらいのいい笑顔で、私たちに続けました。

 

「今日中に終わらせてくださいね」

 

残業決定です。

 

 

 

「・・・こっち、判子お願いします」

 

陽もとっぷりと暮れてしまった執務室。夕食を採り終わった後も、私たちは書類とにらめっこをしていました。

 

うう、とっても多いです・・・。文字通り山のように・・・。

 

・・・でも。

 

ちらっと、横目にブルを伺います。時折唸ったり、目元を揉んだりしながら、書類に向かい合っています。

 

―――かっこいいなあ。

 

こうして、たまに見せる真面目な様子が、普段とのギャップも相まって引き立って見えます。

 

目鼻立ちは整っています。すっと通った鼻。堀の深い顔。くせっ毛勝ちな髪の毛。

 

眺めているだけで、幸せな気分になります。こういっては何ですけど、こうして遅くまで二人で書類と向き合って、少しだけ得した気分です。

 

「んんっ・・・。少し凝ったな」

 

万年筆を取っていた右腕をぐるぐると回して、ブルが言いました。

 

「・・・それじゃあ、少し休憩しましょう。コーヒー淹れますよ」

 

「そうか。頼むわ」

 

そんなブルに微笑んで、私はコーヒーを淹れるために席を立ちました。




いかがでしょうか

こちらはエンタープライズを中心にしていきます

それと、巡洋戦艦“コンステレーション”ですが・・・お気づきの方もいるかと思いますが、レキシントン級です、はい。もちろん、色々強化されてたりしますが

今回で、一応予告編は終わりです。これからも番外編は投稿するかも

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