ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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魔法学院に行くよ

 トリステイン魔法学院の教職員が詰める建物。

 その最上階まで階段を進むと、重厚な趣のある扉が待ち受けています。扉を開けると立派な机がありました。お値段は幾らぐらいでしょうか、平民の年収では買えそうもありません。

 そこにはこの国でも権威のあるオールド・オスマン学院長のお部屋があります。

 部屋の中では、水タバコのパイプをふかせる学院長と対峙するマチルダの姿が在りました。

「ミス・ロングビル。ヴァリエール公爵家三女の入学手配は万全かね」

「もろちんです、オールド・オスマン」

 長年培われた人格が威厳溢れた雰囲気をかもし出すはずですが、マチルダさんの眼差しは冷たい様子です。おやおや、どうしたのでしょう。

 学院を預かる者としてオスマンの発言はおかしな点はありません。あるとすれば、マチルダの視線の先でオスマン老人が下半身丸出しで椅子に座っている事です。痴呆症にでもかかったのでしょうか? いいえ、違います。いつもの性的悪戯行為です。

 微かに体を震わせるマチルダさん。内心は老人の粗末な物を捻じ切りたい思いで一杯ですが、見て見ぬ振りをしています。

「なにしろ公爵家だ。無礼の無いように徹底してくれ」

 オスマンは威厳を込めて言いますが決まらないです。

 そう言う台詞は身なりをきっちりしてから言うものですから、マチルダの頬がひくひくと動いています。

「学院長である貴方が一番無礼だと思いますが」

 怒りを押し殺してマチルダの冷たい視線を放ちます。愚息は芋虫のように縮んでいます。

 オスマンはマゾヒズムな快感を得て興奮するが表情には現さない。

「老人の細やかな楽しみ、ほんのちょっとしたお茶目じゃ。ミス・ロングビルは冷たいのお」

 ゴーレムの腕を錬成するマチルダ。殺気を遠慮なく放ちました。

「常識を考えてください。次はもぎ取りますよ」

 からかい過ぎたとオスマンは冷や汗で背中を湿らせながらローブを羽織ります。

「おお怖い、怖い」

「くっ……」

 オスマンのおどけた物言いはマチルダを刺激します。

 奥歯を強く噛み締め怒りを押さえようと努力する姿勢にオスマンは関心しました。

 

 

 

「頼みましたよ。ホセ、ロドルフォ、エレナ」

「はい、公爵夫人。道中の警護はお任せ下さい」返事を返す男女はマンティコア隊時代からの部下で、今は公爵家でカリーヌに仕える者達。公爵家よりもカリーヌ個人に忠誠を誓っているそうです。

 カリーヌが選んだ手練れの護衛に守られてルイズを乗せた馬車が、カタカタと車輪を響かせながらトリステイン魔法学院に向かって行きました。

 彼等はゲルマニアやガリア相手の秘密作戦にも従事したベテランです。ですが心配事は尽きません。もしまた襲撃でもされたらと心が休まりません。

 毅然とした表情で見送りをするカリーヌでしたが、ヴァリエール公爵には妻の不安が手に取るようにわかりました。公爵の腕にカリーヌが手を伸ばしました。

「学院であの子は上手くやって行けるのかしら」

 馬車が見えなくなった後に洩らしたカリーヌの言葉に公爵は表情を曇らせます。絶対と言えないのが心苦しいです。

「そうだな。打つ手は打ったが――」

 屋内に戻ろうとカリーヌの肩を抱き寄せながら公爵も唸ります。

 ルイズの男性恐怖症。魔法学院入学に当たり、言葉通り打てる手は打ちました。

 公爵としての地位、お金、使える物は何でもです。

 例えば、学院生活でルイズの周りを固める側近達。

 一門から年頃の娘をルイズと共に魔法学院へ入学させる事で、他の男子生徒との壁にさせようとしたのです。緩衝材ではなく完全な壁です。

「馬鹿な子供が居なければ良いが……」

 入学の少し前までルイズはムーミンの部屋に閉じ籠っていました。

「ルイズ、出て来なさい」

 何度呼びかけても返事をしないルイズ。業を煮やしたカリーヌは動きます。

 扉を破り部屋に入ったカリーヌ。薄暗い部屋に明かりを入れようとカーテンを開けたカリーヌが見たのは骨と皮になった娘の姿。

 叫び声を圧し殺し、風呂に入れ着替えさせると水の秘薬を与えました。

 体力こそ戻ったものの心までは回復していません。本来なら親心として学院になど上げたくはなかったのですが立場上それを許されはしません。出来る事は入学に備えて障害を少しでも取り除く事。これ以上、ルイズの症状が悪化してはたまりません。

(この子を守らなくては!)

 ルイズの側仕えをさせる者は、爵位は高く家柄の良い者を選びました。

 親元が下級貴族ではごり押しされた時に抵抗出来ず、いざと言う時に役に立たないかもしれません。

 修学期間の学費・生活費等の一切は公爵家が負担する。そんな条件で探しだしました。

 ルイズに何かあれば血を流す事も厭わない心積もりでいました。勿論、公爵もそれには同意します。ルイズの友人であるアンリエッタ王女も協力を厭わないでしょう。

 

 

 

 トリステイン魔法学院正門に入学者の馬車が列を作っていました。それぞれの家紋が描かれた馬車は列を乱す事なく行儀良く待っています。

 入学に当たり書類上の手続きは事前に終わっているので、本人確認の順番待ちです。

 寮の窓から眺める男子生徒達。

「おい、あれ見ろよ」

「ああ。何だあれは?」

 今年入学した一年生をチェックしようと集まっていた彼らは、女子寮に向かう集団を目に留めてざわつきました。見目麗しい乙女達。眼福です。

 集団の中心を歩く桃色の髪をした少女に視線が集まります。他の少女達と比べて発育が乏しい様ですが美少女と呼ぶには十分の容姿です。

「例のヴァリエール公爵家三女さ」

 気になったのはルイズの周りを固める女生徒達です。お揃いの腕章と杖を身に付けていました。

 腕章に刻まれた文字は、親衛旗ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ヴァリエール公爵家の家臣団から選ばれた子女達――学院内部に於けるルイズの警護部隊です。杖は公爵夫人から渡された物で『忠誠こそ我が名誉』と文字が刻まれています。

 主君への忠誠。子が親や家の為に滅私奉公する。貴族社会では疑問を挟む余地もありません。

 王族の様に囲まれ道を譲られ歩くルイズは王女の様に見えます。徒党を組んで注目を浴びるはずですが、注意しようとする教師の姿は見受けられません。

 その待遇は学院の王女と言っても良いでしょう。

「おいおい、あれじゃ御近づきにもなれやしないぞ」

「あのガードをどうにかしないと無理だな」

 立身出世の糸口と言う下世話な理由だけではありません。年頃の少年なら異性に興味を持ちお近づきに成りたいものです。ですがガードが固すぎます。難攻不落の要塞に挑む様な気分にさせられました。

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