ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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雪風さんのアレ

 魔法学院の一年が始まりました。ルイズはイルのクラス、キュルケはソーンのクラスと別れていましたが、今回はソーン、イル、シゲルの3クラス合同の授業です。

 初めての授業は風系統のメイジ、ギトーの担当で助教として何人かの教師が付いていました。

 生徒達は授業初日と言う事で緊張しながらも話を聞いています。

「諸君はそれぞれの家で魔法の基礎やメイジの心構えを習ってきた事だろう。学院長が入学式でおっしゃった様に、本校では魔法だけではなくメイジとして更なる高みを目指して勉学に励んでもらいたい。我輩の担当する風系統は、知っての通り戦闘に特化している」

 ギトーは机の上に平民が使う武器を並べていました。

「剣、槍、弓、弩、銃。これらは戦争の主役となる一般兵、平民の武器だ」

 それぞれを浮かべて解説するギトー。魔法学院のカリキュラムに火や風系統が入っている以上、戦闘の基礎知識や概念の説明は欠かせぬ物です。

「魔法は便利な物だが戦争は数で大勢が決まる。複数の敵を相手にする場合、遍在やゴーレムと言う手段もあるが魔力が尽きれば、杖しか持たないメイジは無力だ」

 異論を言いたそうな生徒もいるがギトーは無視します。常備軍である衛士隊は貴族で固められており魔法が使えますが有事に動員される諸侯の兵は領民、特に平民が大半を占めます。これは他国でも変わりはありません。つまり戦場で対峙する敵はほとんど平民の兵士だと言うことです。

「敵を侮るな。敵の武器、敵の闘い方を学び敵の思考を読め」

 平民の操る火器の構造と利便性、部隊運用の解説を通して休憩時間を挟むと実技に入ります。

 校庭に集まった90人程の生徒達は幾つかの班に組分けされました。

「第一班」

「第一班」

 ギトーの号令に合わせて整列した一班の生徒達は復唱します。

「前方の堆土まで、前へ!」

 駆け足で走り匍匐へと移行する。頭上をかすめるウィンド・ブレイク。助教として加わっていた頭の薄い火メイジもフレイム・ボールを放ってきます。

「もっと頭を下げろ。平民の弓は、貴族だからと避けてくれないぞ」

 埃まみれになりながら体を引き摺り移動する生徒達。息を荒げながらも突撃開始線と指定された場所にたどり着きました。

 後ろに控えていた教師陣により突撃支援射撃が始まりました。頭上を越えて撃ち込まれる炎球や氷の矢。教師の力量を知らしめるだけではなく、戦場を仮想体験させるにも十分でした。

「最終弾着、5、4、3、2、1……今」

 魔法効力射が終わり突撃の指示が出ます。

「前へ」の声で立ち上がり魔法を放つと、敵の方向と指定された目的地に全員が突撃しました。

 一班が終ると次は二班と、授業が終るまで交代で繰り返されました。ルイズの失敗魔法による爆発もこの授業では目立ちませんでした。

 くたくたになって生徒達は居室に戻ります。着替えて食事ですが、午後の授業は座学と言う事で居眠りする者も少なく無いでしょう。

「ギーシュの家は軍人家系だろ。家でもああ言う事をするのか?」

「まさか。もっぱら座学と魔法の練習だけだよ」

 太った少年と薔薇の少年がわいわい言いながら歩いて行きます。

 男子生徒は戦争ごっこの様な物が好きで、比較的好評な野外訓練ですが女生徒には服や髪が汚れる、怪我をしたと不評でした。

 職員室に戻る教師達。生徒の泣き言にギトーは不満顔です。

「今年の生徒は不作揃いだなミスタ・コルベール」

「二週間あれば、それなりに成ると思います」

 コルベールと呼ばれた髪の薄い火メイジの教師は、中隊長に付き従う先任下士官の様な態度で答えました。

「期待しよう」

 貴族には国を守る義務がある。有事には戦場に立たねばならない。その事を認識してる生徒は少ないのが実情でした。

(こんな事で、ガリアやゲルマニアを相手に国を背負って立てるのだろうか)

 将来、領地や国を動かす貴族の子弟ですが、ギトーから見てまだまだ未熟でした。逆にガリアとゲルマニアからの留学生は良い動きをしていました。

 

 

 

 ヴァリエール公爵家別邸襲撃と王都トリスタンの騒乱を引き起こした「土塊のフーケ」こと、マチルダ・オブ・サウスゴータはロングビルとして魔法学院長の秘書を勤めていました。

 オスマンの決裁を受ける前に、入学手続き確認を行っていたマチルダはルイズの名前を確認して驚愕しました。

(あの小娘がやって来るのか!)

 自分の正体が万が一発覚すれば、帰りを待っている妹や子供達に類が及ぶ。

 かと言って今更、学院を辞める事は出来ない。ヴァリエール公爵家が入学に当たり徹底的な調査を行っているはずですから。急に辞めれば逆に注目を浴びる事になり、何処からほころびを見つけられるか分かりますせん。

(覚悟を決めて勤めるしかないか)

 ルイズの在学中は活動を自粛し、ルイズと遭遇しない様に注意を払うと決めました。上手く行くかは別ですが。

 教職員と学生は同じアルヴィーズの食堂を利用します。教える方も教わる方も貴族だからです。

 マチルダは没落した貴族の子女、平民メイジと言う仮りの経歴と身分をオスマンに語っていました。その為、平民と同じ賄いを食べる事になります。ルイズとの接触はさらに限られる訳です。

(こうなると、あのエロ爺に感謝だね)

 料理長のマルトーが作った賄い料理は残り物とは言え、良い材料を使っているだけあってシチューやスープ一つを上げても、マチルダの舌を満足させる代物でした。

「ごちそうさまでした」

「はいよ」

 料理長のマルトーが忙しく作業をしながら返事を返してきました。

 邪魔にならない様に洗い物を片付けて席を立つマチルダ。食事をする場所が違うとは言え、昼休みのルイズと遭遇するかも知れません。速やかに脅威から離れるべきです。

 秘書らしく落ち着いた笑みを浮かべて調理場から出ようとした瞬間、怒声が聞こえました。

『――決闘だ!』

 顔を見合わせるマチルダとマルトー。続いて学生の歓声が聞こえました。

 そっと食堂を伺うと、小柄な少女と少年が向き合っていました。

(あの子はガリアからの留学生の――)

 提出された必要書類に、青い髪の少女はタバサと記載されていた。その髪はガリアの王族しか有り得ない物で、王家の血筋の者だと判断出来ました。

 相手の少年はヴィリエ・ド・ロレーヌ。風系統のラインメイジとマチルダは記憶しています。子供同士の喧嘩とは言え、他国の留学生に怪我を負わせれば大事になります。

(面倒な厄介事ばかりやって来る)

 囃し立てる周りの生徒を見て溜め息を吐きながら、マチルダは止めさせ様と教師の姿を探します。

 廊下を歩いて来る男性が目に留まりました。

「ミスタ・ギトー」

 風系統の教師で常々、風は最強だと自負してる人物です。

「ミス・ロングビル、いかがされました」

 マチルダから話しかけてくる事は珍しいのでギトーは戸惑っています。それ以上に、女性との接触が少ない為、会話も不慣れです。

「子供達が決闘を行うそうです!」

 下手な騒ぎになる前に手を打ちたいマチルダ。教師の管理責任が問われる事は間違いありません、もし学院長の責任問題にまで発展すればと怯えています。

「ほう。それでどの生徒ですか」

 そんな事、どうでも良いだろうと思いながらも説明します。

「留学生のミス・タバサとミスタ・ロレーヌです」

 返って来た反応は予想の斜め上を行ってました。

「風同士の対決とは面白い」

 普通は教師が止める立場ですが、風の話になるとギトーさん、ちょっとおかしい様です。

「そんな、ミスタ・ギトー! 他国の留学生だと外交問題に発展しますよ」

 無責任だとマチルダは語気を強めますが、ギトーは動じません。

「危なくなったら我輩が止めますよ」

 実際問題、留学生を傷つければ程度の差はあっても国際問題に発展するでしょう。特に大国のガリア相手だとどんな無理難題を突きつけてくるかわかりません。

(話に成らない!)

 マチルダは学院長室に走りましたが杞憂に終わります。

 

 

 

 広場には少年と、小さな身体に似合わぬ大きな杖を持った少女が対峙しています。

 事の発端は単純でした。

 授業で自分より目立った少女に嫉妬した少年が絡み、喧嘩を吹っ掛けたのです。

 しかし少年にとって不運な事に、少女は普通の一年生ではありませんでした。ガリア王家直轄の北花壇騎士第七号として不正規特殊作戦に随時した経験から闘い慣れていました。

 タバサは冷めた目で少年の動きをみています。既に周りの喧騒を意識から遮断しています。

「それではミス・タバサ、僕の杖を奪うか降参させれば勝ちだ。良いかね」

 こくんと頷くタバサは、幼さがさらに目立ちます。「あんな小さな子になに考えてるんだ」と言う声がちらほらと聞こえてきます。

 ヴィリエ・ド・ロレーヌはラインメイジの誇りがあります。家名を名乗らぬ、何処の出自か解らぬ少女に負けるつもりはありませんでした。

 何より周りを囲む群衆の目を考えれば、無様な戦いは出来ません。

「いざ!」

 ド・ロレーヌが杖を突き出しウィンド・ブレイクを唱えようとした瞬間、ウィンディ・アイシクルの詠唱を終えたタバサは空気中の水蒸気を凍らせた氷の矢を何十本も浮かべていいました。

「な……」

 タバサの詠唱の早さにド・ロレーヌの動きが固まりました。観衆の中からドットメイジじゃなかったのかと言う言葉も聞こえてきます。

 ウィンディ・アイシクルは、水、風、風。導き出された答えは簡単です。

(トライアングルメイジ――)

 実力の差をはっきりと感じたド・ロレーヌはがっくりと膝を着きました。

 それを見たタバサは構えを解いてド・ロレーヌに近付くと手を差し出しました。

「僕を許すのか、ミス・タバサ……」

 驚きの表情を浮かべながらも手を握るド・ロレーヌ。何と清々しい少女なんだろうと全員が思いました。

 タバサは顔を近付けてそっと囁きました。

「次は殺す」

 周りの観衆からは決闘の結果、二人に友情が生まれたように見え歓声を上げていました。固まるド・ロレーヌを立ち上がらせると、タバサは教室に向かいます。

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