ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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石器時代に戻してやるよ

「まあまあ、パパったら随分と懐かしい話をしてるのね」

 ムーミンママは洗濯物を取り込んでくるとパパとムーミンたちに飲み物を出してきました。

「ああ、私がママと出逢った頃だね」

 穏やかな雰囲気になるパパとママの姿を気にせず子供たちはジュースを飲んでいます。

「ママのクッキー美味しいね」

 お皿のお菓子をもりもりと口に運ぶスニフ。おやおや、そんなに慌てて食べると喉を詰まらせてしまいますよ。

「おい、スニフ。一人で全部食べるなよ」

 ムーミンは放っておくと完食しそうなスニフを一発ぶん殴って注意をしました。スナフキンは我関せずとマイペースです。

「ぶたなくても良いじゃないか。わかってるよムーミン」

 そんな子供たちの様子をムーミンパパは懐かしい日々に重ねて見ていました。

 

 

「本日未明、ゲルマニア大使の死亡を確認した。検死によると、夜食のラザニアの食べ過ぎで喉を詰まらせたらしい」

 ヴァリエール公爵と婦人を前にマザリーニは淡々と告げました。時刻は深夜。グリフォンを飛ばしてまで呼び寄せたにしては、いささか下らない事件です。

 宮廷は魑魅魍魎の徘徊する世界です。権力闘争で政敵を葬ってきたヴァリエール公爵はその言葉を鵜呑みにはしませんでした。

「その程度の事で、枢機卿がわざわざ私達を呼び出すとは思えん。本題に入っていただきたい」

 大使の遺体はゲルマニア本国に戻されます。外交上の儀礼として、それには同行者が必要です。

 勿論、それは名目で、目的は他にもありました。

「殿下はゲルマニアを石器時代に戻す事をお望みだ。使者には公爵の三女、ルイズ嬢にお願いしたいとの思し召しである」

 マザリーニはアンリエッタをいつまでも子供だと思っていましたが、ゲルマニアに対する仕置きを考えて自分は耄碌したと痛感しました。経済封鎖でお茶を濁すほど甘くは無く、最初からゲルマニアを滅ぼす考えでした。

「私の可愛いルイズをゲルマニアにやるだと」

 ヴァリエール公爵家にとっては因縁ある敵地。ルイズが害される危険は高く、公爵は顔を真っ赤にして激怒しました。ですがマザリーニは平然としています。

「貴方、落ち着いてください」

 カリーヌは冷静に夫を諌めますが、眼光は鋭くマザリーニから視線を離しませんでした。

「開戦は決定事項であり、戦後処理としてはゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の退位とゲルマニアの解体、連合国による分割統治で合意している。だがその前に形だけでも交渉はしておきたい。護衛はグリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが命じられている」

「ワルド子爵か……」

 含みのある表情を浮かべる公爵に、マザリーニはたたみかけます。

「ルイズ嬢の婚約者だそうだな。公爵も安心できる相手であろう?」

 ヴァリエール公爵がルイズの婚約相手に家柄でワルド子爵を選んだのは御しやすいと考えての事です。個人としてはそこまで評価はしていませんでした。

 トリステインやアルビオン、ガリアの様に古くから伝統の続く国は、王が君臨し貴族が支え、民は従うと言うのが本来の仕組みです。ですがゲルマニアのような成り上がりものの国から見れば、貴族の平民に対する扱いは農奴と言う物扱いで過酷を極めると言う感じです。全部が全部、そんな事をしていれば反乱勢力も多そうな物ですが、反王制派な人たちにはその辺りの現実が軽くスルーされていました。

 悪い王族を倒して平民を解放する。人は生まれによって差別される者ではない。才能が全て。上に立つ者として最低限の能力すらない王族、貴族は、統治者の地位に相応しくはない。その理念に共感したワルド子爵は、ゲルマニアと繋がる裏切り者(ダブルクロス)でした。アルビオンの反乱勢力との繋がりもゲルマニアの指令あってのことです。

 ゲルマニアは亜人を呼び出したアンリエッタ王女かルイズのどちらかを虚無の使い手と考えていました。でもアンリエッタは普通に魔法が使えます。

 ルイズの方が潜在的魔力も大きく可能性は高かったのです。そして今回、子爵に与えられた指令はルイズとムーミンを捕らえる事でした。

 ですがワルドは忘れていました。アンリエッタ王女に率いられたトリステインは、敵対する全てを一片の容赦もなく根絶やしにすると言う事を──。

 

 

 

 アンリエッタ王女の使い魔、フレドリクソンが王立魔法研究所の協力で建造した空石に頼らない空飛ぶ船「空のオーケストラ号」が艤装を終えて竣工しました。

 これから空のオーケストラ号、初の乗客である遺体とルイズ一行を乗せてゲルマニアに向かいます。アンリエッタの後ろで親指を立ててサムズアップするフレドリクソンにムーミンは頷きました。

 使い魔同士の交流に咳払いをして水をさす人が居ました。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを、トリステイン王国特使に任命する」

 鳥の骨と呼ばれるマザリーニ枢機卿の手から任命状をルイズは受けとりました。

 王宮で貴族が参列する中の任命式でアンリエッタ直属の女官の地位を預けられ、特使に任命されたのです。

「始祖ブリミルのご加護が貴女にあらんことを」

 護衛はワルドの他にもムーミンが居ました。それだけで心配はいりません。

「頼んだぞムーミン」と公爵の言葉に頷くムーミン。両親に評価されている事を主人として嬉しく思うルイズです。

 見送りに来ていた才人は「俺はついていかなくて良いのかな?」とシエスタに尋ねました。

 才人の言葉に従者の自覚が出来てきたのか、或はルイズに異性として興味があるのかと考えてにやりとするシエスタは「才人さん、御嬢様と貴方は身分が違います。道ならぬ恋はいけませんよ」とくねくねしながら注意しました。

「何を言ってるんですか」と訝しげな表情を浮かべた才人は、単にルイズが女の子だから心配したのです。

 さて、ルイズが両親と別れを惜しんでいると、ワルドがムーミンに話しかけてきました。

「久しぶりだね使い魔君。ムーミンと言ったかな」

 しかしムーミンはワルドを覚えていません。正式に会ったのは一回、しかも食事に夢中でした。記憶に残るはずもありません。

「うん?」

 ただ、何となく嫌な感じがしました。エレオノールが来ていれば何かに気付いたかもしれません。ワルドはムーミンのぼんやりとした態度に、オーク鬼等の亜人は知能が低い事を思い出して気にも止めませんでした。

 

 

 どこまでも青い空を風に吹かれながら船は進んでいきます。雲の上は晴れ渡り気持ちの良い天気で、航海は順調です。え、空でも航海と言うのかですって? お船が基準なのですからそのままです。

 遺体はブランデーに浸されて固定化の魔法がかけられていました。なので引き渡す以外に気を配る必要はありません。

「ルイズ」

 居室にルイズの姿が見えない事からワルドは甲板に出ました。

「あ、ワルド様」

 くすくす笑いながらムーミンを膝枕して耳掃除をしてあげていたルイズが顔を上げました。起き上がろうとしないムーミンの態度は人型なだけにワルドを不快な気分にさせます。猫や犬ならそうでもなかったのでしょう。これが嫉妬と言う気持ちでした。

(亜人の分際で!)

 頬をひくつかせてワルドは近付きました。

「使い魔君、楽しんでる所で悪いんだが君の力を見せてくれないか?」

「今、忙しいので後で良いかな?」

 ムーミンに悪意は無かったのですが、ワルドは激怒しました。いずれは妻となる婚約者の使い魔。自分より格下の存在です。身分制度のある階級社会で、態度と言葉遣いは最悪です。

「相手を見て物を言え。君がルイズの使い魔であっても後悔させてやる。絶対だ」

 ワルドの言葉にムーミンは「何怒ってるの」と惚けた視線を向けました。ルイズは婚約者の豹変に目を丸くしていました。亜人の知能が低い事はワルドも知っていましたが、そんな事は綺麗さっぱりと忘却の彼方へ飛んでいました。

 ワルドは冷静さを失っています。ルイズの膝の上に居るムーミンに「死ね、この野郎」とばかりに斬りかかってきました。

「おお怖いね。凄いびびってきた」

 そう言いながらムーミンは、ルイズを抱き上げてマストの見張り台まで軽々とジャンプしました。

 ルイズはムーミンにそっと下ろされると手すりから身を乗り出して、下に居るワルドに声をかけて争いを止めようとしました。

「ワルド様、止めてください」

 ルイズの言葉にワルドは頭を振って断ります。

「ルイズ、君の為に僕が使い魔に礼儀と言う物を教えてあげよう。なあに、ゲームをするだけさ」

 他のグリフォン隊隊員は、隊長であるワルドに加勢しようとマストを囲みました。

「止めておけ、トラブルはごめんだ」

「ちょっと、ムーミン止めなさいよ!」

 役者になりきったムーミンの台詞ですが、この場合は完全に逆効果です。

 明確な敵意とワルドの殺意を受けてムーミンは動きました。

 短く息を吐き、先ずはワルドの腰巾着を叩きます。

 魔法の攻撃を放たれる前に打つべし、と殴打しました。

「ぐぇ!」

 こめかみを殴られてふらつく所を、捻り上げて杖を持つ手首を折りました。続けて胸を蹴りあげます。

 勢いで倒れた敵の背後に回り首を両手でへし折った手際は見事です。

 力を失い人形の様に崩れ落ちる様を全員が唖然と見ていました。喧嘩を吹っ掛けたのはワルド達ですが、まさか死者が出るとは考えていませんでした。

 ムーミンは何でも無いように尻尾の毛並みを直し始めました。その姿に怒りは一気に沸騰します。

「この豚が!」残るグリフォン隊員は、仲間を殺され怒りの声を上げて向かって来ますがムーミンは容赦をしません。

 あえてお腹でぼよん、と敵の攻撃を受け止めました。

「ちょいな!」

 金的を蹴りあげられた男は悲鳴を上げました。

「でゅるわぁあああああ、ぶるわっひゃあひゃひゃひゃひゃどぅる、わっはあああああああああぎゃあああああうわああああああああ」

 悲鳴をあげる敵に「いいぱんちだったよ」と声をかけました。

 そして顎を殴り気絶させました。

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