一夜明けたヴァリエール公爵家。邸内に陽気な声が聴こえます。
「僕は海賊、キャプテン・ムーミン。各員がその義務を尽くすことを期待する!」
使用人は顔を見合わせて苦笑しています。
朝食の時にヴァリエール公爵から紹介されたルイズの使い魔。
魔法の才能がないと半分以上諦めていただけに、両親の喜びも一際大きかったのです。
「良かったわねルイズ」
そう言ってルイズを抱き締めたのは次女のカトレア。フォンティーヌ家当主であるが体が弱く実家暮らしをしています。
「ちい姉様!」
二番目の姉も我が事のように喜んでいました。ルイズは家族に愛されている事を強く実感しました。
自然とこぼれる笑顔と笑い声で、ヴァリエール公爵家は明るさに包まれていました。
さて話題の使い魔ですが――
声がするのは邸内の池。ルイズの小舟に手書きの海賊旗が翻っていました。
「ラム酒を持て!」
眼帯をして木剣を掲げるムーミン。気分はのっています。
そんなムーミンの傍らでルイズは魔法の練習をしています。
「フル・ソル・ウィンデ」
池に漂う葉を浮き上がらせようとレビテーションの魔法をかけますが1サントも浮きません。
吹き上がる水柱が池の水面に波紋を広げ小舟を揺らします。
「凄いよルイズ! 臨場感たっぷりだよ」
海戦シーンに砲撃は付き物。水柱と揺れにムーミンは大喜びです。
「そう、それは良かったわね」
ルイズはムーミンの言葉に淡白な反応をします。ムーミンの言動に一々反応していてはドニエ銅貨1枚の得にもならないと昨日学んでいます。
「詠唱も間違ってない」
前回、失敗魔法で使い魔を召喚するサモン・サーヴァントが発動しました。本人合意の上でコントラクト・サーヴァントも成功しました。
ルイズが魔法を使えないわけではない。この事にルイズも家族もほっとしました。
「何が足りないのかしら?」
難しく考え込んでいたルイズだが、爆発はいつもの物です。些細なきっかけさえあれば魔法が使える。これまでと違いルイズは確信していました。
「ルイズ、ルイズ!」
考え込むルイズをムーミンが呼び戻します。
「何よ、うるさいわね。落ち着きなさい」
「あれ何、あれ!」
ムーミンが空を指差します。翼を持った獣に乗って誰かが降りて来ます。
「あれはグリフォンよ……って降りてくる!」
ヴァリエール公爵に犯意を持つ者の襲撃かとルイズは緊張します。慌ててムーミンに声をかけようとしましたが、グリフォンの背に髭をたくわえた男性が映りました。
ルイズには面識があります。
「ワルド様!」
ルイズの声にワルドと呼ばれた男は笑みを浮かべ答えます。
「やあルイズ。久しぶりだね」
彼はジャン・ジャック・フランシス・ワルド子爵。ルイズの婚約者です。
「ごきげんようワルド様。ワルド様は、どうしてここへ?」
「僕の可愛い婚約者が亜人を使い魔として召喚したと聞いてね。いてもたってもいられず飛んできたよ」
父のヴァリエール公爵が吹聴してまわっていたと言います。
「お父様ったら……」
父の厳格なイメージが崩れ、子煩悩だと他人から知らされる。ルイズは気恥ずかしさを覚えます。
「何はともあれ、おめでとうルイズ」
ワルドの言葉に対してルイズは、複雑な心中で素直に喜べないが返事だけは返しておきます。
「……ありがとうございます」
ルイズを一瞥して、ムーミンを視界に納めるとワルドは話題を変えました。
「君がルイズの使い魔かな」
ワルドの視線の先では、ムーミンがバスケットの中をあさりサンドイッチを食べていました。これは練習の合間にルイズが軽くつまもうと用意した物です。
一瞬固まるルイズだが直ぐに気を取り直して動きました。
「この馬鹿豚! ワルド様に失礼でしょ」
頭を杖で殴られサンドイッチをこぼすムーミンですが、食べるのは止めません。
「痛いよルイズ」
「うるさいっ、食べるの止めなさい! ワルド様、躾がなっていなくて失礼致しました」
ぺこぺこ頭を下げて狼狽するルイズの姿をワルドは驚きの目で見詰める。
「ワルド様?」
ワルドの知ってるルイズは魔法ができず内にこもった女の子でした。
ですが、今目の前にいるルイズは感情を発露させ亜人を殴る活発さがあります。
「はっはつは。構わないよルイズ」
一見、愚鈍に見える使い魔。ワルドは、ルイズが良い方向に影響を与えたのはムーミンであると見当しました。
ルイズの心にあった負の感情を、外に発散させると言う事で昇華させた使い魔に感心しました。
「ふぅ。げぷー」
ルイズがワルドに注意を向けてる間にムーミンはデザートのブドウまで食べていました。
「美味しかったよ」
「当然よ、私が作ったんだから……って全部食べちゃったの?」
ルイズがムーミンの腕を掴みます。
「これは……」
ムーミンの腕に描かれたルーンを見てワルドは目の色を変えます。
ガンダールヴ。ハルケギニアの伝説となった始祖ブリミルの使い魔と同じです。
ムーミンの力を見てみたくなりました。