ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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お外にお出かけ

「領地の視察ですか」

 夕食後、ルイズは父の書斎に呼ばれました。ここには家族以外入らず使用人の出入りが禁じられています。本棚に並んだ書籍は仕事関係の資料だけではなく子供向けの童話や禁書の類いもありました。雑然としていますが公爵の私的な顔が見られます。

「お前も来年にはトリステイン魔法学院に入学する。ヴァリエールの娘として領内を観ておくのも悪くないだろう」

 家を継ぐ、継がないに拘わらず貴族にとって領地や領民がどういう物であるか学ばせようと言う考えでした。

「わかりました」

 ルイズにとっても父の治める領内を見るのは勉強になると理解できます。ルイズの目指す「立派な貴族」にとっても知識の吸収は良い機会でした。

 ヴァリエール公爵は王都での仕事があるために同行できないが、代わりに姉のエレオノールが同行すると告げました。

「ええっ! 姉様ですか」

 顔色を変えるルイズ。ルイズにとって長女のエレオノールは苦手でした。

「お前はあれを苦手に思っているようだが、あれはあれなりにお前を愛している。それは分かってあげなさい。あとは、あれに任せている。しっかりと学んで来なさい」

「はい……」

 父の言葉は理解できる。家族なのですから。でも苦手は苦手、幼い頃に植え付けられた苦手意識は簡単に変わりません。部屋を出たルイズの表情はすぐれない物でした。

 

 

 

 ヴァリエール公爵家はトリステイン王国において大きな権勢を誇ります。家族に言えない事もしてきました。ただのお人好しでは宮廷で生き残れませんでした。

 王家から与えられた領地も広大で、帝政ゲルマニアのツェルプストー領と接しておりました。位置的に緩衝地帯である為、紛争の火種に事欠かない状態です。

 両家の因縁は根深く流された血も多いと言います。

「――と言うわけでヴァリエールにとってツェルプストーは不倶戴天の敵なの。わかった?」

「ルイズ、ルイズ。このクッション、ふかふかだよ」

「はぁ……。わかってたわよ、このパターンも」

 ムーミンの反応に慣れ始めたとは言え、ため息をはくルイズの顔は疲労感が浮かんでいます。

 ルイズとムーミンを乗せた馬車が田園風景が一望できる小高い丘に停まっていました。砲兵の弾着観測に最適ですがルイズにはわかりません。

 馬車の中で陽気にムーミンが跳ねて、ぎしぎし揺らしています。羽毛が入ったクッションはムーミンを眠りに誘います。

「感謝しなさいよね。私の使い魔じゃなければ、馬車に乗るなんて出来ないんだから」

 ここでエレオノールと待ち合わせをしていました。

「お姉様、遅いわね」

「ルイズ、おやつを食べても良いかな?」

「お姉様の前で行儀良くしてるなら食べても良いわ」

「うん、するする」

 おやつのクックベリーパイを食べ始めるムーミン。使い魔のルーンの効果もあるのか、すっかり飼い慣らされているようです。

「食べる時も綺麗にしなさい」

 口元に付いたベリーソースを拭ってあげるルイズ。馬が何かを感じたのか騒ぎました。御手が馬を宥めますが馬車は揺れました。

「ちょっと、何よ。騒がしいわね」

 ルイズが窓から顔を出して苦情を言った瞬間、御者の頭に矢が生えて倒れました。

「……ひっ!」

 矢が降り注ぎ外に立っていた従兵が倒れます。

 騎乗していたメイジは下級貴族とは言えヴァリエール公爵家の家臣団から選ばれた猛者。直ぐに反応しました。

「敵襲だ、馬車を守れ!」

 奇襲を受けたとはいえヴァリエール公爵家の私兵。公爵夫人のカリーヌに鍛えられた錬度は高く魔法衛士隊に匹敵します。敵に備え素早く円陣を組みました。

「糞、どこのどいつだ」

 ヴァリエール公爵の領内は比較的治安が良く、盗賊の類いはほとんど見かけられませんでした。

 単純に考えればツェルプストーに雇われた外国の傭兵です。しかしヴァリエール公爵の政敵がルイズの誘拐を狙っているとも考えられます。

 矢が止むと魔法が放たれてきました。敵にメイジが混ざっています。

「こいつら手練れだぞ」

 護衛のメイジと下士官が狙い撃ちにされます。指揮系統の寸断を狙っているようです。

「何なのよ!」

 怯えるルイズをムーミンは抱き締めます。

「ルイズは僕が守るよ!」

「あんたに何が出来るのよ」

 強がりを言いながらもルイズの腕はムーミンの背中に回されます。

 ムーミンは耳を立てて馬車の外を警戒しました。聴こえてくるのは剣戟の音と悲鳴です。

「へへ、ご尊顔を拝見といこうか」

 護衛が最後の一人になりました。血塗れになりながらも指揮官は馬車を守ろうとします。

「ルイズ様には指一本触れさせん」

 気迫と心意気は大したものですが戦況は覆りません。

「ほざくな死に損ない」

 矢と魔法の攻撃が襲います。使命をまっとう出来ず無念と苦悶の表情を浮かべ護衛指揮官は倒れました。

「クズが。手間取らせやがって」

 馬車の扉が乱暴に開かれ顔を覗かせます。

「何でえ、公爵の娘と言ってもただのガキかよ……出ろ」

 男がルイズの腕を掴み強引に引きずり出そうとします。

「嫌っ!」

「ルイズに触るな!」

 ルイズの悲鳴に反応してムーミンは男の腕に噛みつきます。自分よりも格下と舐めていたムーミンの反撃に男は逆上します。

「うるうせぇ、邪魔するな!」

 振り払われたムーミンは馬車から外に叩き出されます。

「ムーミン!」

 ムーミンの手が倒れた護衛の武器に触れました。アドレナリンが分泌されて痛みは感じていません。ムーミンの頭にあったのはルイズを守ると言う事だけです。ルーンの輝きに気付く事無く剣を握ります。

「ほお、亜人がその剣で俺達を相手に戦おうってのか」

 ムーミンが剣を手にした姿を見て警戒感を持つどころか、襲撃者の指揮官は嘲笑います。

 ルイズの腕を掴んでいた男も笑いますが、直ぐに誤りだったと身をもって知る事になります――

「何……」

 ムーミンは素早い動きでルイズを掴んでいる男の懐に入りました。熟練の剣士も真っ青な動きです。

 鈍い音を立てて地面に男の腕が切り落とされました。

 痛覚と言う物は自覚症状が無いと鈍いのでしょうか。

 地面を見て始めて、自分の腕が落ちてる事に気付きました。

「うああ!」

 絶叫をあげる男。ムーミンは返り血が吹き出る前にルイズをお姫さま抱っこして駆け出しました。

「野郎、逃がすか!」

 ムーミンの背中に魔法や矢が迫りますが、またたく間に引き離されてしまいます。

 ルイズはムーミンの腕の中で抱かれながらも風圧で髪の毛はぼさぼさです。顔から涙に鼻水やよだれ、汗と言った体液を流しながら叫びます。

「早すぎるうううううううう!」

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