ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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ヨシェナヴェの夜に

「よろしければ私の家に来ませんか」

 ルイズがヴァリエール公爵の娘で道に迷った事を知ると、シエスタと名乗る少女は親切にも自分の家に泊めてくれると提案してきました。

「そうね。しもじもの暮らしを知る事も貴族の勤めね」

 偉ぶるルイズが幼子のように見えシエスタは笑みを浮かべました。実際にルイズはシエスタより年下で身長も低い為、そう見えてしまうのも仕方ありません。

 シエスタの温かい視線に気付いたルイズは、虚勢を張っているのが気恥ずかしくなって怒鳴ります。

「か、勘違いしないでよね! あんたが、どうしてもと言うからよ」

 道を進むと草原に出ました。その先に村が見えます。

「なんだ、もう少し歩けば村があったのね」

「はい。あれがタルブ村です」

 村に着くと、ルイズの貴族然とした雰囲気から村人は遠巻きにしていますが、亜人が珍しいのかムーミンは注目を浴びました。

 ですが、そんな事で臆する様なムーミンではありません。

「僕、お腹ぺこぺこだよ」

 お腹を擦りながら歩くムーミンを見下ろしながらシエスタは微笑みます。

「ふふ。少し待って下さいね」

 たどり着いたシエスタの家は質素な農家でした。家族は王都トリスタニアに収穫物の納品に行っていて留守だそうです。

「たいしたお構いも出来ず申し訳ありません」

 シエスタが恐縮していましたがルイズも自分が助けてもらった事は理解しています。一晩お世話になるのに文句など言えません。

「かまわないわ。気にしないで」

「貴族様にお出しするには粗末な物ですが……」

 申し訳なさそうにシエスタはシチューと硬いパンを机に並べます。

「いただきます!」

 さっそくムーミンはパンにかじりついています。ルイズもシチューの具材をスプーンですくい口元に運びます。

「美味っ! 何これ、美味!」

 シチューの味は今まで食べた事の無い物でした。

「私の曾祖父が教えてくれた料理でヨシェナヴェと言います」

 野菜だけですが空腹は最高の調味料と言います。ルイズとムーミンは夢中でヨシェナヴェをかきこみます。

「ふぅ」

 食べ終わったルイズとムーミンは幸せそうに笑みを浮かべました。

「明日はヴァリエール公爵様の御領地まで御案内させて頂きますね。今日はゆっくりとお休みください」

 タルブからヴァリエール領までかなりの距離になる。打算ではなく純粋な親切心からだと感じ取ったルイズは、素直にお礼の言葉が出ました。

「ありがとう」

 貴族からお礼を言われるなんてシエスタは思っても見ませんでした。ルイズの素直さに笑みを深めます。

「いいえ。困っている人を助けるのは当然ですから」

 

 

 

「ん……」

 ルイズが目を醒ますと硬い床の感触が背中にします。口元が何かで塞がれていて呼吸が苦しいです。取り除こうと手を動かしますが腕が動きません。

「んんんっ!」

 体の異常に一気に覚醒しました。

 薄暗いながら自分が縛られて馬車に乗せられている事に気づきました。

「んーんん!」

 ムーミンも床に転がっていました。なぜ、どうしてと言う疑問が沸き出します。

 ごそごそ身動きをする音に御手が振り返りました。

「目が覚めたようだな」

 下着姿のルイズに下卑た視線を投げかけてくる男。ルイズは体をこわばらせます。

 ルイズの記憶にありませんが男はタルブ村の住人です。

「残念だったなお嬢ちゃん。これからあんた売られるんだよ」

 男は村に立ち寄る女性を拐かしては付き合いのある貴族に売り付けていました。

 今回も見た目だけなら美少女のルイズに目をつけ、シエスタの家に侵入したのでした。

「んん!」 

「せいぜい、良い子にして可愛がってもらいな」

 そう言うと前を向きました。

 どれくらいの時間が経ったのでしょうか。ルイズは緊張感と疲労からいつの間にか眠ってしまいました。

 貴族の館に馬車が停まりました。門番は顔馴染みとなっており素通りです。

 ルイズは収穫した穀物を入れるような袋に入れられ館の中に運び込まれました。

「モット様、今日は極上の娘を手に入れました」

「ほおほお、それは楽しみだな」

 ジュール・ド・モットは地方役人の地位に過ぎない下級貴族だが、高等法院の長リッシュモンに賂を贈る事で恩恵を受けていました。誘拐や死体遺棄を揉み消すなどリッシュモンにかかれば楽な物です。今回の様な人身売買の目こぼしもその一つです。

「この娘です」

 袋から出てきたピンクの髪。日に焼けていない白い肌。ルイズを見てモットは目を丸くしました。

「ん、この娘、もしかしたらメイジか」

 着ている下着は平民の物より上質でした。

「はい、迷子になったと村にやって来ました」

「なるほど、それならば問題なかろう」

 無理やり拉致してきたわけではないと知りモットは安心しました。家族の居る家から誘拐をしたら貴族の面子にかけて捜索するでしょう。

「んー! んー!」

 抗議の声をあげるルイズですが、猿ぐつわで言葉になりません。

「ははは、いきの良い娘だ。これは楽しみだな」

 猿ぐつわを噛まされ唾液をたらしながらも何かを訴える美少女の姿にモットは興奮しました。

 本来、手を出せない貴族の令嬢と言う背徳感も加味され期待で胸を膨らませます。

 例え相手がメイジであっても、エルフの秘薬を使えば相手の心を破壊できます。証拠は残らずモットのコレクションと言うべき奴隷が増えるだけです。

「それで、こっちの豚は何だ?」

 いびきをかくムーミンにモットは視線を移し尋ねました。

 眠り薬が効いているのでしょうか、乱暴に下ろされたのにまだムーミンは寝ています。

「この娘の使い魔だそうです」

「ほう、灰色の豚とは珍しいな。味は普通の豚と比べてどうであろうな」

 食べる気の言葉にルイズは顔色を変えました。

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