ルイズさんと灰色豚   作:キューブケーキ

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危ない人の方向性とは

 平民には一生縁がない煌びやかな生活を送る貴族の館。

 しかし館の主はご機嫌斜めです。

 ベットの上で苛々と落ち着きの無いモット。時おり、苦痛に表情を歪めています。

 水の秘薬で傷は治りつつありますが、体の痛みまでは取れていません。

 一番、過負荷が大きいのは自尊心を傷つけられた事です。

 小娘のルイズと亜人に貶められた誇り。我が身を省みず身勝手ですが、復讐心をたぎらせています。

 ベットで横になり考える時間があると、受けた恥辱に怒りがかきたてられます。お尻に入れられた椅子の脚を忘れません。今でも用を足す時はお尻が痛みます。

「まだ見つからんのか!」

 配下の者にヴァリエール公爵領に通じる街道を見張らせていましたが、一向にルイズ達が到着する兆しは見られません。部下が不甲斐なく感じます。

「モット様」

 扉の外から声がかけられました。

「入れ」

 待ち望んだ報告が届けられました。

「亜人に背負われた下着姿の娘が王都に現れたそうです」

 ルイズとムーミンである事は直ぐにわかりました。

「確認した所、王都にヴァリエール公爵の別宅があるそうで、十中八九そちらに入ったと考えられます」

 王都に入られた。それはモットの敗北を意味するのでしょうか。

「まだだ、まだヴァリエール公爵には伝わっていない」

 もしヴァリエール公爵が王都にいたのならモットに捕縛の手が迫っていた事でしょう。

「手勢を王都に集めろ」

 これは証言者を隠滅する最後の機会だと考えました。ヴァリエール公爵領に入られては手も足も出ません。

「はいっ!」

 手段を選ばない事に疑問の余地はありません。

 決戦の地は王都です。

 

 

 

 街から外れた森の中にある小屋。男が椅子に腰かけています。

 屋内だと言うのにフードを深く被って不審者です。町中で同じ格好をしていれば、間違いなく職務質問を受けるでしょう。

 外から砂利を踏む足音が聞こえ視線を向けます。扉を開けて緑の髪を持つ女性が現れました。

 彼女の名前はマチルダ・オブ・サウスゴータ。

 天空に浮かぶ浮遊大陸を統べるアルビオン王家に列なる出自の女性ですが、マチルダはフーケと言う偽名を使い裏家業で生計を建てていました。自分の幸せを奪った貴族社会に対する復讐です。

 時には依頼を受けて仕事をこなす事もありました。それも貴族を標的にした場合です。

 今回は大きな儲け話があると言う事で依頼内容を聞きに来ました。

「私の依頼主は貴方なの?」

 男はマチルダの質問を無視して自分の話を進めます。

「土くれのフーケだな」

 愛想の無い男は女性にもてません。マチルダは男の態度に思う物もありましたが表面に出さず頷きました。

「お前に依頼する内容は王都のヴァリエール別宅に居る者全ての抹殺だ。特にヴァリエール家三女は必ず始末しろ」

 マチルダは盗みをしても殺人はして来ませんでした。法を侵す犯罪者ですが、犯さず殺さずが自分なりの職業的倫理観です。

「それは大仕事ですね」

 平然とした口調のマチルダでしたが、殺人の依頼にマチルダの内心は驚愕していましした。

 高速回転するマチルダの頭脳。今回の仕事はテロとも呼べる物です。ヴァリエール公爵は襲撃者を絶対に許さないでしょう。お膝元で暴れられれば王家も体面を傷付けられる訳ですから捕縛に力をいれるでしょう。

「私だけでは無理ね。他にも人手が要るわよ」

 自分を見つめる相手の目が冷たく、この陰謀を聴いた瞬間から断るのは無理だと理解しました。口を封じられたく無ければやるしかない。

「必要なだけ集めろ」

 ならず者やごろつきを集めて襲撃と言うわけにはいきません。

 ヴァリエール公爵と言えば大貴族。別宅とは言えそれなりの警備が考えられます。

 警備を相手にするだけで済めば御の字ですが、王家のお膝元である王都で襲撃を行うのです。戦闘経験があり技能に習熟した傭兵を生業とする本物の兵士が要ります。

「わかったわ。手配は此方でやっておくわ」

 提示された報酬は裏家業を辞めて家族と過ごすには十分な金額でした。

 フーケには同じ年頃の妹が居ます。そんな少女を手にかける事に後ろめたさを感じましたが、今さら後には引けません。家族の為に手を汚して来た自分の人生。後悔するには汚れ過ぎていました。

 

 

 

 トリステイン王国の歴史は古い。王家による長い統治は治安を一定水準で保っていました。そうでなければ国内の流通なども止まっています。

 支配者にとって、国内にごろつき同然の武装集団がのさばるのは好ましくありません。当然、傭兵の存在は抑制されています。

 傭兵の人的資源の供給源は、王国の正規軍や貴族の私兵から放逐された者。

 世渡りが上手ければ定年まで勤めあげたでしょうし、そうでなくても何処かに召し抱えられているのが普通です。つまり傭兵とは人生に傷を持つ者が集まっています。

 戦時下ではないトリステインで傭兵の存在意義は低い物です。

 生きるため、食べるため、人は極限状態になれば何でもするでしょう。

 集めたのは、そう言った者達でした。

 火事でしょうか、王都の空を黒煙が舞っていました。

「まず、役人の注意をそらす為に王都の各所で放火を行うのよ」

 マチルダの指示でそれぞれが破壊工作に動きました。

 防衛上の観点から、意図的に狭く入り組んだ造りの城下町。今回はそれが仇となりました。

「どけどけ。道を開けろ!」

 燃え盛る炎は隣接する家屋を巻き込んでいます。消化に向かおうにも人通りが邪魔で進めません。有事における貴重な教訓になりました。

 喧騒はマチルダの待機していた場所にまで聴こえてきました。

 平民を貴族が殺しにやってくる、貴族に平民が反乱を起こした等と流言を飛ばし不安を煽り混乱に拍車をかけました。一部では小競り合いから暴動が発生しており、予想以上に上手く行ってます。

「ふふ。陽動は巧くいった様ね。今度は私達の出番よ」

 貴族の居住区が手薄になった隙を突いてヴァリエール公爵別宅を襲撃する計画です。殺害後は館に火を付け痕跡を残しません。

「貧民街で火事だってよ」

「物騒だな」

 火事の喧騒に意識が向いていたヴァリエール公爵家の門番達。役目をこなしているとは言えません。

 治安の良い王都。ましてここはヴァリエール公爵の館。油断していたのも仕方がないでしょう。

 胸に激痛が走りました。喉元に込み上げてくる熱い物。口と鼻にむせ返る様な鉄の香りがしました。

「ぐふっ……」

 視線を下ろすとクロスボウの矢が刺さっています。視界が暗転して崩れ落ちる門番。

「行け、行け!」

 邸内に侵入する襲撃者達。各組ごとに分かれ所定の目標制圧に向かいます。

「お嬢様が見付かって良かった」そう言って洗濯かごを抱えたメイドが二人が出てきました。

「私なんて実家に帰省する所だったのに呼び戻されたのよ」

「それで明日から休暇を貰えるんでしょう?」

 その時、気配を感じてメイドが振り替えると剣先が迫っていました。「え……」と声を漏らしますが、容赦なく攻撃の手が振り下ろされます。

 悲鳴でようやく異変に気が付いた使用人や警備の者は慌ただしく動きます。

「賊だ! お嬢様方を守れ」

 先手を取られた遅れは大きい。一階厨房、応接室、広間。各個撃破で制圧されていきます。

 戦場騒音に気付いたルイズは体を硬直させました。脳裏に蘇る最初の襲撃事件。

 エレオノールはルイズの両肩を掴み視線を合わせます。

「ルイズ、貴女はこの部屋から出ては駄目よ」

 決意を込めた視線にルイズは戸惑う。

「姉様?」

 ルイズの背後に控えるムーミンに視線を向けるエレオノール。

「ムーミン、ルイズを頼んだわよ」

「はい!」

 ムーミンの返事に頷き笑みを浮かべると部屋から出るエレオノール。念のため、扉にはロックの魔法をかけておきます。

 階段を駆け上ってくる襲撃者達。廊下にその姿を認めるとエレオノールは口元に冷笑を浮かべました。

「ヴァリエール公爵家に喧嘩を売ればどうなるか教えてあげる」

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