二期が楽しみすぎて夜しか寝られない これもアインズ様の御威光の所為
カルネ村に戻り、夜明けに漆黒の剣と合流、ンフィーレアの馬車の空きの分の薬草を更に採取し、カルネ村を発った。
「いやあ、大漁大漁!追加報酬も出してくれるそうだし、明日の夜はパーッと飲むかぁ!」
「町に帰るまでが依頼だぞ、ルクルット。…まあ、飲むのは賛成だ。」
「気を引き締めて、明日を楽しみにするのである。」
野営中は、ハムスケの補助による薬草採取の分の追加報酬の話で盛り上がっていた。
「当初の予定の10倍は採れましたし、皆さんの報酬も倍…いや、3倍にしてもいいくらいですよ!」
「3倍であるか!」
「3倍だといくらでありんすえ?」
「ああ、もともとの報酬がコレくらいですから、コレくらいですかね。」
「今の宿だと半月は泊まれるぞ、モモンさん!」
「いやあ、ありがたい。ハムスケが存外役に立てたようで良かったです。」
ハムスケはあれでも英雄級の化け物なのだが、モモンやニック達からすると5歳児と6歳児ぐらいの差でしかないので、評価は芳しくない。
それを薄々わかっている漆黒の剣の皆は、苦笑いしながらも同調し、且つハムスケに同情するのであった。
「では、我々は討伐証明を交換してきますね。モモンさん達は、ンフィーレアさんの荷物の運び込み、お願いします。」
「わかりました。では、行きましょう、ンフィーレアさん。」
「はい、モモンさん。」
漆黒の剣に、道中での成果の報酬受け取りを任せ、モモン一行はンフィーレアと共にバレアレの店に向かう。
この街一番の薬師の、リィジー・バレアレが経営する薬屋だ。ンフィーレアはリィジーの孫であり、優秀な弟子であるそうだ。
「父さん、中に気配が」
「アイリ、ティア、悟られぬよう警戒を。ニックさん、ンフィーレアさんの前に」
「あいよ。ンフィーレアさん、中に誰かがいる可能性は?」
「おばあちゃんが居…いや、この時間は外に居るはずなので、それ以外だと心当たりはないです」
ふむ。まぁそのおばあちゃんが歴戦の戦士でもないなら、ここまで楽しげな殺気は放たないだろう。つまり。
「ンフィーレアさん、鍵を私に。中の安全を確認後、みんなで入りましょう」
「あっ…はい、お願いします」
自分の特異性に気づいたのだろう。そして、何に狙われて居るかも薄々。
気配の主、クレマンティーヌは混乱していた。
目の前には、鍛えられた肉体を軽鎧で包んだ、偉丈夫。
いや、目の前でもあるが、更にわかりやすく言うのなら、
「ごめんなさい! まだなにもしてないんです! お願いします! 殺さないでください!」
「先に刺したのそっちだよ? もう、服が破れたじゃんか。結構したんだよこれ?」
「ごめんなさい! 弁償します! なんでもします!どうか、どうかお願いします! 許して…」
「ん?いまなんでも」「モモンさん黙って」
ニックは今、ビキニ風の鎧を着けた女のうえに跨っている。
下心はない。無いったらない。結構可愛いとか、胸もでけぇとか思っては…いるが、それよりもいきなり刺しにくるような女は割と苦手だ。ヤンデレとかちょっと画面の向こうだけにしててくれませんかね。
刺突は完全に避けたが、その際に扉に打ってあった釘に服を掛け、破れてしまった。
不覚。まさかこんな些細なミスで出費が嵩むなんて。こっちの世界ではまだビンボーなんだぞ。と、逆ギレに近い怒りを覚え、更に何度も刺突を繰り返す女に軽い殺気をぶつけた。
動きが鈍ったところで、拘束するために押し倒し馬乗りになったわけだが。
「ニックさん、衛兵呼んだらダメですかね」
「え、ああ。ダメですね。俺の顔見て言ってください」
ぱっと見はニックの婦女暴行の場面でしかない。いかにこの女が狂気的で、出会い頭に笑いながら刺突を繰り出してきたとはいえ、今は啜り泣く弱々しい女性である。間違いが間違いを呼ぶであろう。
「あー、とりあえず、名前、所属、目的、あとは言いたいこと。答えて」
「ぐすっ……な、名前は、クレマンティーヌ、元漆黒聖典、今はズーラーノーン……目的はンフィーレア・バレアレの拉致、あとは、兄を殺したい……うっ……助けてください……」
兄を殺したいとは穏やかではないな?まぁそれはいいや。
「ンフィーレアさんのタレントが目的か。」
「そうです……作戦全部教えます!スレイン法国とズーラーノーンの知ってること全部教えます!だからどうか……殺さないでください……うう」
いや、殺す気は…俺にはないよ。俺は許そう。だが、こいつら(アイリ、ティア)は許すかなッ!? って感じ。どうどう。落ち着け。この女は生かして活かすんだから。そんな殺気をぶつけないの。漏らしてるから!そんなに臭くないけど!あれだろう、作戦前にちゃんとトイレ行って水分取ってたんだろうね。透明に近いね。体型いいし、デトックスとか気を使ってるのかね。
小声で、続いて会話する。
「クレマンティーヌと言ったか。殺しはしない。だが、逃がすわけもない。どうだ、俺たちの配下にならんか?」
後ろで2人の女の子が動揺したのがわかる。
モモンさんは、まあ事前にある程度話していたし。
「配下になります! ならせてください! お願いします!」
まあそうなるわな。
で、配下には一方的な搾取をするだけでは破綻するのは自明の理。必要なのは対価だが。
「クレマンティーヌ、君を我らが配下に加えよう。希望にも出来るだけ添えるような契約をしてやる。詳しくは5日後、カルネ村で話す。それまでに身辺の整理をしてカルネ村の村長の家にいろ。合言葉は『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ』だ。他所に漏らしたらその地域ごと君が消し飛ぶ。5日後にカルネ村にいなくても同じく消し飛ぶ。わかったな?」
「は、はい! 5日後、カルネ村へ……! 絶対に行きます!」
「よろしい。じゃ、解放してやる。ンフィーレアさんに怪しまれないように、一応縄で縛って外に連れ出すけど、下手なマネはするなよ?」
ンフィーレアさんはこっちを伺ってはいるが、小声でのやり取りは聞こえていないようだ。さりげなくモモンさんがンフィーレアさんに会話を持ちかけているので、そっちに気をとられてもいる。
「ではンフィーレアさん、俺はこいつを突き出してくるので、荷物の搬入は他の3人にやらせます」
「わ、私もいくでありん……ついていきますわ!」
「ありがとうございます、ニックさん。では、モモンさん、アイリさん、お願いします」
やはりというかティアもついてくるようなので、3人で店を出、路地裏に入る。
「あの、ニック様、お伝えしたいことが」
「下賎な人間風情が尊き御方に話しかけていいとでも」
「ティア」
「申し訳ありません。」
「よいよい。ティアはいい子だ。自慢の娘だ。さてクレマンティーヌ。言ってみろ。」
また涙目になったクレマンティーヌを落ち着かせてから、問う。
「今夜、この街の墓地から、アンデットが溢れます。主犯はカジットという男。死の宝珠というマジックアイテムでアンデットをクリエイトします。数は千と少し。スケリトルドラゴンが二体、切り札として控えてます。目的は、負のエネルギーの収集。これの混乱に乗じて、私は街を出ようと思います」
アンデットの行進か。モモンさんに相談して、どう利用するか考えるかね。
「いい情報だ。ありがとう。じゃあ5日後、カルネ村で会おう。君には色々としてもらいたいことがあるからね。報酬も期待してていいよ」
報酬。兄を殺すお手伝いとかがいいかな? それなら武器と防具を貸し出せばいいだけなんだけど、多分。
「あとは、これを……」
「これは?」
クレマンティーヌが懐から……懐? そこってパンツの中じゃないの? 亜空間?
っと、懐から、小綺麗な装飾品を取り出した。
「これは、叡者の額冠といいます。スレイン法国の巫女姫の証で、着用者は自我を喪い、高位の魔法を使用する道具にするためのアイテムです」
「で、その危険物をどうするの?」
「是非、受け取っていただきたく……」
うーん、この世界のアイテムにしてはレアものなんだろうけど。俺は要らないなぁ。
と、そういえば前……ゲーム時代も、こういうことがあったな。レアドロップしたはいいけど、俺は必要無いものだったときとか。モモンガさんが、要らないなら交換してくれってうるさかったなあ。
「じゃ、遠慮なくいただいてくよ。スレイン法国に返さなくてもいいの?」
「あの国は……どうでも良いのです。私には新しい居場所が出来ますから……」
アインズ・ウール・ゴウンの異世界での配下一号。人間ではあるが、ギルドメンバーじゃなくて現地配下って立ち位置だから問題ないだろうと。この子の利用法は、のちのち決めるとして。
「じゃ、カルネ村で会おう。気をつけて言ってね。あ、これを貸しておこう」
カルネ村まで、一泊しないといけないのはめんどくさいからな。疲労軽減と敏捷増加の、初心者向けの指輪を投げ渡す。
「こ、これは……?」
「疲労軽減、敏捷増加の指輪。名前はメロスリング。雑魚ドロップだけど、在庫ないから失くさないでね?」
「な、失くすなんてとんでもないです!こんな、国の宝になってもおかしくないようなマジックアイテム……」
国宝級ってさすがに……60かそこらの雑魚のドロップだぞ。ドロ率は渋かったけど、高価ではなかったはずなんだが。
指輪をつけて屋根を走り抜けるクレマンティーヌを見送り、バレアレの店に戻る。
「おかえりなさい、ニックさん」
「ただいま、モモンさん。搬入お疲れ様です。ちょっと、いい噂を聞いたんですが……」
モモンさんに墓場の事、叡者の額冠の事を説明する。やはりというか、レアものには良い反応するね。ギルド倉庫にぶちこむことになったよ、叡者の額冠。
「アンデットの大群で街を飲み込んで負のエネルギーを集める……死の宝珠……楽しそうですね。ちょっと眺めにいきますか」
「そうですね。あわよくば、冒険者として派手に立ち回るのも良いかもしれません」
さて、次は墓場でひと暴れか。ティアとアイリは店の商品を眺めたりして待ってる。
ンフィーレアさんは帳簿付けに夢中なようだ。
「ンフィーレアさん、私たちは少し出てきます。漆黒の剣の方々が来られたら、待ってもらうか、お金だけ預かっておいていただけるとありがたいです」
「あ、はい、わかりました、ニックさん。依頼、ありがとうございました。またお願いしますね」
さて、対多数戦は苦手だが、モモンさんもアイリもティアもいるし、億に一つも負けはないだろう。
多少は骨のあるやつが居れば良いんだけど。アンデットだけに、な?
「ニックさん、いつのまに気象魔法覚えたんですか」
「え、口に出てました??」
久しぶりすぎて設定とか話し方とかに矛盾があると思います。この話の中ですら矛盾があるかもしれません。脳内補完でお願いします。オーバーロード二期、おめでとうございます。そしてありがとうございます。お久ぶりです。