エヴァンゲリオンはじめました   作:タクチャン(仮)

71 / 221
14話 その2《機体相互互換試験》

 

 中学校を早退してネルフ本部にやってきたシイ達は、リツコから今日行われる実験について説明を聞いていた。大切な実験と聞かされていたが、ここでようやく詳細を知った。

「相互換実験……ですか」

「ええ。これからレイは初号機へ、シイさんは零号機に搭乗して貰うわ」

「ちょっと、あたしは?」

 一人名前を呼ばれなかったアスカは、目をつり上げてリツコに尋ねる。

「アスカは通常通り、弐号機の機体連動試験を受けて頂戴」

「え~何であたしだけ別なのよ」

 不満を隠そうともしないで、アスカはリツコへ文句を言う。『初めて』や『特別』と言った単語が含まれている実験に参加出来ない事は、彼女のプライドを刺激するのに充分だった。

「弐号機は初号機、零号機と互換性が無いわ。それだけの理由よ」

「ぶぅ~」

 唇を尖らせて不満を露わにするが理解力の高いアスカは、どれだけ文句を言っても状況が改善されないと分かっていた。それでも一言文句を言わずにいられないのは彼女らしいが。

 

「実験はレイから始めるわ。アスカは別の実験場で同時刻に。シイさんはその後ね」

「わ、私が最後なんですか……」

「ふふん、ならあんたがあたふたする様を、管制室からバッチリ見せて貰おうかしら」

「酷いよアスカ~」

「……大丈夫、私も見てるから」

「うぅ、もっと緊張するかも」

 他のチルドレンに見られながら実験を行うのは初めてで、しかも今回はレイの零号機に搭乗する。シイは早くも緊張で顔を引きつらせていた。

「ほら、アスカもレイもあまりシイさんを追いつめないの。今回の実験はとても大切なものなのよ」

「……赤木博士も同じだと思います」

「うっ……コホン。それでは二人は、早速実験の準備に取りかかって頂戴」

 自分の発言で一層萎縮してしまったシイに、リツコは一瞬たじろいだが、直ぐさま冷静な科学者の仮面を着け直して指示を下す。

「は~い、じゃあシイ、また後でね」

「……また」

「う、うん。二人とも頑張ってね」

 シイに見送られてアスカとレイは、それぞれの実験場へと向かうのだった。

 

 真っ白な壁に囲まれた実験場。拘束具によって壁に固定された初号機に、レイが搭乗したエントリープラグが挿入され、実験が始められようとしていた。。

「エントリープラグ挿入完了。起動プロセス、全て問題ありません」

「レイ、準備は良い?」

『……はい』

「では第一回機体相互互換試験、始めるわよ」

 リツコの開始宣言に管制室の空気が引き締まる。スタッフ達が端末を操作する中、祈るように目を閉じるシイに、ミサトは優しく声を掛ける。

「ねえシイちゃん。そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「でも、もし初号機が綾波さんに失礼な事をしたら……」

「失礼って……ま、何となく言いたいことは分かるけど」

 普段自分が操縦しているエヴァに他人が乗るのは、想像以上にストレスがかかるのかもしれない。被験者であるレイ以上に緊張しているシイを見て、ミサトはそんな事を考えていた。

「シイちゃんは初号機の事を信じてるんでしょ。ならドンと構えて見てあげなさいって」

「はい……」

 二人が会話をしている間にも、実験は順調に進んでいった。

 

「初号機起動完了」

「問題は無いようね……レイ、どうかしら。初号機に乗った感想は」

『……碇さんの匂いがします』

「えっ!?」

 リツコの問いかけにレイが答えると同時に、シイは自分の手を鼻に近づけて、自分の匂いを必死で確かめようとする。くんくん、と小さく鼻を鳴らす姿に、管制室のスタッフは思わず和んでしまった。

「み、ミサトさん。私臭いますか?」

「ん~いい匂いはするけど」

((葛城三佐めぇぇ~!!))

(ミサト……なんて事を)

(不潔。でも羨ましい)

 シイの首筋に鼻を近づけて匂いを確かめるミサトに、敵意丸出しの視線が集中する。それに気づいたミサトは、慌てて顔をシイから離すと、誤魔化す様に愛想笑いを浮かべた。

「で、でもリツコ。プラグ内に匂いなんて残るの?」

「……いえ、あり得ないわ。恐らくシイさんの残留パターンを、匂いとして感じ取ったのね」

「そうですか……ほっ」

 リツコの冷静な分析にシイは胸をなで下ろした。

「レイ、他には何かあるかしら」

『……いえ、特にはありません』

「そう。マヤ、数値はどう?」

「シンクロ率は零号機の時と、殆ど変わりません。ハーモニクスも問題なしです」

 マヤの報告にリツコは満足げな表情で頷く。シイと初号機の数値には及ばないが、レイの数値も実戦可能なレベルに達していたからだ。

「あの~リツコさん。それなら初号機は綾波さんも動かせるんですか?」

「一応ね。ただ、やはり専属搭乗者であるシイさん程は、上手くシンクロ出来ないでしょうけど」

(……そういや、あの時碇司令は、レイを初号機に乗せようとしてたっけ)

 第三使徒襲来時にシイがエヴァ搭乗を拒んだときの事を思い出し、ミサトは僅かに顔をしかめる。

(碇司令は知っていたの? 一度も実験していないのに、レイが初号機に搭乗出来る事を……)

 抱いていたゲンドウへの疑惑は、ここに来て一層強くなっていった。

 

「データは充分取れたわね。実験は終了します。レイ、お疲れさま。あがって頂戴」

『……はい』

 第一回機体相互互換試験は問題なく終了した。緊張の面もちで見守っていたシイも、大きく息を吐いて無事終わった事に安堵する。

「よかった……。リツコさん、アスカの実験はどうなりましたか?」

「……あ゛!」

「あんた、まさか忘れてたんじゃ」

「ば、馬鹿言わないで。当然覚えていたわ。そちらも問題ないわよ、ねえマヤ」

「え!? あ、えっと……はい、問題無く終了しました」

((忘れたんだ。絶対そうだ))

「コホン。では引き続き、零号機とシイさんの実験準備に取りかかりなさい」

 部下達から向けられる疑惑の視線に、リツコはこっそり冷や汗を流しながら指示を出すのだった。

 

 

 第一回機体相互互換試験は、零号機とシイの実験へと移った。実験を終えたレイとアスカも管制室に姿を見せ、シイの実験を見守っている。

「パイロット、エントリープラグに搭乗完了」

「了解。プラグ挿入開始……終了」

「全システムオールグリーン。起動準備完了しました」

 スタッフからの報告にリツコは軽く頷くとシイへと声を掛ける。

「シイさん、実験を始めるけど……準備は良い?」

『は、はい』

 管制室に届くシイの声は、姿を見なくても分かるほど緊張でガチガチだった。これでまともに実験が始められるのかと、アスカは呆れたようにため息をつく。

「ったく、そこまで緊張する事無いでしょうに」

「まあ、シイちゃんらしいじゃない」

「ま~ね。このあたしが見ててやるんだから、精々頑張りなさいよ」

「……落ち着いて」

 アスカとレイの励ましに、シイの不安定だった精神状態は落ち着きを取り戻す。注目されていると思えば緊張の元だが、見守られていると考えれば安心感に繋がる。

 仲間の助けを受けたシイは、小さくお辞儀をしながらお礼を告げた。

『うん、ありがとう』

「では、第一回機体相互互換試験、始めるわよ」

 リツコの合図で零号機の起動が始まった。

 

「零号機、第一次接続開始」

「順調ね。シイさん、どうかしら零号機は」

『……不思議な感じです。身体がふわふわして、自分じゃ無いみたいで……』

 リツコからの問いかけに、シイはぼんやりとした声で答える。同じエヴァンゲリオンなのだが、初号機に搭乗したときとはまるで違う感覚に、何処か戸惑っている様だ。

「マヤ、数値はどう?」

「初号機ほどの数値は出ませんね。ただ、ハーモニクスは問題ありません」

 リツコはディスプレイをのぞき込み、シイの実験データを確認する。マヤの言うとおり初号機とのシンクロ率には及ばないが、起動出来るレベルには充分達していた。

「……悪くないわ。これなら、あの計画を実行出来る」

「ダミーシステムですか……先輩に言うのも何ですが、私はあまり」

「感心しないのは分かるわ。私自身ですら好ましく思っていないもの」

 予想外のリツコの言葉に、マヤは驚いたように目を見開く。

「えっ、ダミーは先輩の発案だと聞いていましたが……」

「いいえ、発案者は碇司令よ。実際に計画を進めているのは私だけどね」

「そう、だったんですか」

「ただ備えは必要なの。例えその結果、人を傷つける事になっても」

 寂しそうに呟くリツコ。それはマヤに対してと言うよりは、自分自身に向けている様だった。

 

 マヤとリツコは小声で会話をしているため、少し離れた位置に居るミサトには殆ど声は届かない。だが断片的に聞こえてくる単語に、ミサトは険しい顔を作る。

(ダミーシステム? パイロットに万が一の時の備えか……それがこの実験の目的?)

(だとしたら、何故それを隠すか。……他に目的があるから、かしらね)

(少なくともリツコはその目的を知ってる。碇司令も、多分副司令も)

(……何か企んでるわね。私達に知らされていない何かが、ネルフにはあるんだわ)

 ミサトは腕を組んだ姿勢のまま、ネルフへの疑惑を深めていった。

 




このあたりから、物語がきな臭くなって行きます。原作では流されるままでしたが、流れに逆らえるのかどうかが、今後のポイントですね。

次回もまたお付き合い頂ければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。