「見つけた」
荒道の目に写っているのは赤いスポーツカーとそれに乗る小太りの男。荒道は面倒なので服に仕込んだ鉄を操作し、宙に浮く。そして死角から一気に接近し、小太りの男の襟をつかみ、車の外に投げ捨てる。
グチャ!っとグロテスクな音が人気のない道に響く。小太りの男と入れ替わるように運転席に座り、荒道はちゃっかり車をパクって運転している。
衛生アンテナ破壊は一方通行に任せているので引き返し、土御門達と合流しようかと思っていると電話が鳴る。聞こえてきたのは耳が痛くなるほどの大声だった。
『第十一学区外壁周辺に外壁を登る侵入者を発見!数は5000人程度!全員武装しています!現在無人攻撃ヘリHsAFHー11、通称『六枚羽』が三機現場に向かっていますが掃討のために向かってください!』
「わかった。あと死体処理をもう一人追加だ」
車を路肩に止め、能力で再び浮き上がり、第十一学区を目指す。
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『ブロック』に半ば流れで潜伏し、傭兵5000人を学園都市に引き入れるという作戦を知った『グループ』の構成員・海原光貴は立体駐車場をトラウィスカルパンテクトウリの槍でバラバラにし、傭兵5000人を始末するために無人攻撃ヘリ『六枚羽』を呼び寄せた。だが『六枚羽』は海原も敵と認識し、攻撃しようとしていた。
(ここまでか…ッ!)
無理を承知で自分に銃口を向けている『六枚羽』に黒曜石の槍を向ける。
マズルフラッシュが見え、目を閉じてしまい、次に聞こえのは自分の体が貫かれる音かと思ったがそんな音はしなかった。聞こえてきたのは優しい声だった。
「大丈夫か?光貴」
海原はその声に驚き、目を開ける。その目には何故か勝手に勢いを落とし、止まっている弾丸と心配そうな顔をする荒道の姿があった。
「だ、大地!?」
驚いたのもつかの間、ガン!!という音。無人攻撃ヘリの上に白い髪のレベル5が降り立ち、プロペラを握り、ベクトル操作で無理矢理止める。流石の最新鋭の無人攻撃ヘリも理解出来ないような事態なのか、そのまま落下し、爆発と共に炎を上げる。
「大地と一方通行さんですか…」
「外壁周辺で騒ぎがあるつゥから来てみりゃこのざまだ」
退屈そうに電極のスイッチを切り替えて、いつものの杖をつく。
「土御門達も外部接続ターミナルの方を終わらせたから、俺が衛星通信アンテナをぶっ壊しゃ終わりだと思ったンだがな。次は外周部で侵入者騒ぎが起きてるって管制が喚きやがる」
「利用されていた、くらい掴んでいましたか」
「何の考えも無く、『六枚羽』を呼んだわけじゃねェだろ。『ブロック』の連中は?」
「逃げられました。外から来た傭兵を100人ほど引き連れていると思います」
「衛星はそのためか。『ブロック』だの『メンバー』だの傭兵だの、クソみたいな連中が動き回ってやがる」
そこで会話を聞いていた荒道が口を挟む。
「一方通行、さっき『メンバー』って言ったか?」
「ああ、言ったがどうした?オマエも襲われたか?」
「その通り、しかも丁寧にターゲットは俺だけだったよ」
「それはおかしな話ですね?大地一人を狙うとは」
「まぁ、そうなんだけど襲ってきたやつは全員殺しちまった手がかりはゼロだ。」
そォか、とつまらなさそうに呟いた一方通行は『六枚羽』を見ていた。
「どうやら帰るみたいですね」
「同じ仲間に壊されるのが嫌なンだろ」
「あれ一機250億するらしいですよ」
「……8兆250億円」
荒道がボソッと呟いたのを聞いた一方通行は全力で荒道の後頭部を杖で殴る。
「痛ーッ!悪かった!ゴメン!」
謝る荒道を見て気が済んだのか杖を地面に戻す。
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『グループ』は全員揃って第十一学区外壁周辺に集まっていた。理由は学園都市暗部の一つ『ブロック』が今は100人程になっているが元は5000人もいた傭兵達を使って何をしようとしていたのかを聞き出すためだった。
外壁近くには『六枚羽』の攻撃を受け、『ブロック』に見捨てられ、生きる事も死ぬ事も出来ない傭兵が転がっていた。
「さて質問だ」
土御門は端的に言った。
「5000人の傭兵を集めてお前達はどこを襲撃しようとしていた?」
「な、何の話だ」
「とぼけるなよ、5000人って言うと大きく聞こえるがそれで学園都市を潰せるとは思ってないだろ。話せよ、『商売』の内容を」
数秒黙り込むが『ブロック』は初めから裏切るつもりだったか、失敗したと思い込んだのだろう。
「…第十学区だ」
「第十学区?あそこは実験動物の廃棄場や原子力関連の研究施設、それに墓地や少年院しかないような所だぞ?」
傭兵は続ける。
「その少年院を襲う予定だった」
その言葉に過剰に反応したのは結標淡希だった。
傭兵の胸倉に掴みかかり、取り乱した様子で質問をする。
「何でそんな所を襲うのよ!VIPの犯罪者でも助け出そうって言うの!?」
荒道は前に結標が『守りたい人』を話してくれたのを思い出し、次に少年院の情報を忘れかけていた頭から引っ張り出す。学園都市の少年院は能力を使った犯罪者が集められており、能力者対策がされていると聞いている。仮に能力を使えなければ、それはただの少年少女の集まり。それでは普通の火器で武装している傭兵からは身を守ることさえ出来ないだろう。
傭兵の男はポツリと呟く。
「俺たちの標的は…座標移動だ」
この男は目の前で胸倉を掴んでいる女が誰だかわかっていないのだろうか。
だが今の荒道はそう思う事も無いほど頭に血が上っていた。『家族』を狙おうとしている事が許せなかった。能力を使い、傭兵の頭を叩き割ろうかと思った時、海原に小突かれる。
「抑えて下さい。皆思っている事は一緒です」
「悪い…」
頭を冷やし、傭兵の言葉に耳を傾ける。
「あそこには、座標移動の仲間がいると聞いた。だから、仲間を捕まえて、座標移動との交渉に使う」
わざわざ彼女を指名する理由は何故か。それは結標本人が答えを出した。
「『窓のないビル』の…『案内人』…」
初めは何のことかわからなかった荒道だが次第に予想はついていった。
「第七学区にある『窓のないビル』を行き来するためのテレポーターを『案内人』と呼ぶのか…?」
『窓のないビル』というのは本当に窓がどこにもなく、無論のこと入り口も存在しないビルだ。そんな所に入るには三次元的な制約を無視する空間移動能力者しか居ない。
「その通りだ」
土御門がこちらを振り返り、肯定する。すぐに前に向き直り、傭兵に質問を重ねる。
「…で何だ?お前たちが5000人の傭兵を使ってまで欲しかった物は?」
「物資搬入路のルート情報だ。窓のないビルに関するな。外からでは核兵器でも破壊できないが中からなら違う。入り口も出口もないと言われているが、必ず何かしらの物資のやり取りを行っているはずだ。そいつを利用して、『窓のないビル』を内側から吹き飛ばす」
「吹き飛ばす、だと?」
「多層同期型爆弾の用意があると、『ブロック』は言っていた。お前達、学園都市が作った兵器だろ」
多層同期型爆弾と言うのは、高性能爆薬を規則的に配置した大型爆弾の事だ。用途は『小さな標的へ、一点に爆風を集中させ、破壊する』事を目的としている。都市部に紛れた敵要塞を民間人への被害を出さずに破壊するために編み出されたものだ。
「世界の混乱を収める必要があった。俺は傭兵をやっているからわかる。世界はもう限界なんだ。じきにあっちこっちで内紛が起こる。戦争ってのは起きる前に止めなくちゃならないんだ」
傭兵は『グループ』の顔を交互に見ながら言う。
「座標移動本人を作戦に組み込むつもりはない。信用出来ない奴はいつまでも信用出来ないからな。だから深追いはしない。座標移動の力が情報通りなら、そいつの協力があれば物事は簡単に進むんだが、そればかりは仕方ない。こっちは協力を得られない事を前提にーーー」
「そう」
遮る様に結標は言った。
「ところで貴方、目の前にいるのが誰だかわかってる?」
は?と顔で意味がわからないと言っていた傭兵の顔が青ざめる。
「まさか、お前が……ッ!」
傭兵の体に杭のようなものが10本程突き刺さるがまだ生きているらしい。
結標は傭兵の胸ぐらから手を離すと、ただ俯いたまま、奥歯を噛み締める。
最も守りたいものを、それこそ何を失ってまでも絶対に守りたいものを、今まさに奪われつつある状況。それを前に結標を除く4人は俯いていた。同じようなものを抱いているからこそ、彼らは何も言わなかった。
『守りたい人』が周りにいる『家族』である荒道も『家族』を悲しませたくない故に『家族』の『守りたい人』が危険な目にあっていることに憤っていた。
「行くぞ」
土御門が促すように告げる。
ここから先は『グループ』の仕事ではなく、結標淡希の事情だ。だがそれを口に出す者はいなかった。海原が『ブロック』の中に紛れた時のように、『グループ』の人間が己に割り振られた仕事として、窮地を乗り越えるのとは、状況が違うからだ。
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『グループ』は移動用の救急車に乗って移動している。目的地は第11学区にある少年院だ。
「学園都市にある少年院はこれだけだ。敷地を半分に区切って男子房、女子房に分けているみたいだ」
土御門はノートパソコンを操りながら喋る。
「今の学園都市には反逆罪という罪状はない。だから結標の仲間は法的に裁けない状態にある。そんなヤツらは普通の独房には入れておけない」
「隠し部屋があるというわけですか?」
海原は結標を見ていうが何も知らないようだ。
「少年院の見取り図はねェのか?」
「この手の特別な建物が建設会社に残ってるとは思えない」
ここで一方通行があることに気づく。
「この少年院、消火部門がねェぞ。火災が起きる頻度が低いから予算削減のために削ってるってわけか。だったら消防署の連中は少年院の中を自由に動き回れるように事前に見取り図を渡されているはずだ」
土御門が素早く、クラックの先を変える。結果はすぐに出た。
「あった。一部の機密区画は塗り潰されてるが建物の構造上ここしかない」
「隠されているなら、『ブロック』の野郎も手間取るんじゃ」
「『ブロック』と『グループ』の権限は同等ってこいつが言ってたじゃねェか」
一方通行は結標を指しながら話す。
「元春、警備はどうなってるんだ?」
「看守が使ってるのはMPSー79ーーー旧型の駆動鎧だ。対能力者用装備ってだけで暴走能力者を止める為の護身具しか持っていないから期待出来る物じゃないな。『ブロック』の連中は傭兵含めて、『外』の装備から学園都市製の殺人兵器に装備仕直しているだろうからな。駆動鎧が役に立つといえば盾位なもんだ」
「対能力用の設備はどォなってんだ?」
「AIMジャマーを始めとしてざっと25ほど」
「って事は施設の中で能力は使えねェのか?」
「いや。集中力を散らせるとか、
ただし、と土御門は前置きする。
「下手に能力を使うと暴走する怖れがある。特に複雑な演算を必要とするものはまずいな。並の能力者なら怪我くらいで済むがお前や結標は危険すぎる。つまらない自殺をしたくなけりゃ気をつけることだ」
「俺ってどうなるのかな?」
荒道が素朴な疑問を口にする。
「お前の能力は言えば『念動力系』の能力だが、出力が大きいからやめておけ」
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第10学区・少年院に救急車が止まると後部ドアから一方通行、土御門元春、海原光貴、結標淡希、荒道大地が勢いよく飛び出す。
少年院の周りには高さ15mの壁があり、中の様子は見えなかったがここからでも体に悪そうな匂いが鼻についた。
結標は壊されたゲートをくぐり、中に入ろうとしているが一方通行はあることに気づく。
「音がしねェな」
「気づいたか、看守達と『ブロック』の銃撃音が聞こえない」
「もしかして、もう終わってたり…?」
検問所を兼ねていたゲートの先は護送車のロータリーだった、20メートル四方のアスファルトに足を踏み入れた途端、頭に痛みを感じる。その瞬間に『虚偽地球』の能力の一環である、地球から作られた物質を感知する最大で半径30mの範囲が『地球から作られた物質』を感知したり、しなかったりと滅茶苦茶になってしまい使い物にならない。
「AIMジャマーか…」
苦々しげに呟いた一方通行の方向を見るとワイヤーのような物が15mの壁上に張り巡らせてある。
荒道は一度少年院の外に出て、能力の『虚偽地球』で鋭く加工された石を飛ばし、ワイヤーを切断する。
「どうだ?」
「少しはマシになったがダメだな。大方、他にも色々な機材を組み合わせてそれぞれの効果を高めあったり、どこかが潰れてもカバー出来るようになってンだろ」
荒道が戻り、再び歩き出したがその足はすぐに止まる。
死体。
『ブロック』が招いた傭兵だろうか。50人近い男が全員血を流して倒れている。ある者はこめかみを拳銃を撃ち抜かれ、ある者はショットガンを顔に浴びて頭がなく、ある者は首筋にナイフを刺したまま倒れている。
「こいつら、全員自分の武器で死んでやがる…」
土御門が言った言葉を確かめるため、死体の平原に目をやると、本当に外傷に一致する武器を持っていた。
「自殺…?いやこれは…」
海原が呟やきかけた時だった。
「見つけたぞ」
五人の背後から声が聞こえた。荒道が振り返るとゲートを塞ぐように赤いセーラー服を着た小柄な少女がいた。だがその眼には異様な眼光があった。
「ここに居るって事は『ブロック』のクソ野郎か?」
「いいえ、私は『メンバー』。利用していただけだから別に所属に興味はないけど」
ことなげに少女は伝える。傭兵50人はこの少女に襲われたのだろう。そして、無傷でいる。その事を誇示しないあたりは本当に興味がないのだろう。
(またしても『メンバー』か…)
荒道は一度『メンバー』に襲われている。しかも彼一人をターゲットにして。一方通行も襲われていたりするのでイマイチ目的がわからない組織だった。何にせよ、彼にとっては敵対するなら潰すまでだ。
だが少女の顔を見て過敏に反応する者がいた。
「まさか、あなたは…」
「今さら私に素性を尋ねるのか、エツァリ」
海原を少女はそう呼んだ。それこそが彼の本当の名なのか。
驚き、固まっている海原を見て、少女は自分の顔を拭った。そこにはさっきまでの東洋人の風貌は消え、浅黒い肌の彫りの深い顔だちの少女がいた。
「『ブロック』には感謝しないとな。後ろのやつらの力は半減されるから邪魔される心配も減るだろうし」
その顔を見て、声を聞き、海原の表情が歪む。
「ショチトル、何故あなたがこんな所に…!あなたはこういうことをする術式を持っていなかったはずだし、そもそもあなたは『組織』の中でも汚れ仕事とは無縁のポジションにいたはずだ!」
「理由はただ一つだ」
ショチトルと呼ばれた少女は表情を変えずに告げる。
「学園都市に寝返った裏切り者め、貴様を処分するためにここに来た」
「そういう事か」
「なるほど」
土御門と荒道、魔術を知っている者は理解した。
「ここは自分が食い止めます。あなた達は先に行ってください」
絞り出すようにして、海原は声を出す。
「彼女はショチトル。自分がここに来る前に同じ『組織』に所属していたアステカで魔術師です」
ショチトルと呼ばれた少女は海原の言葉を聞いても顔色一つ変えない。
「私が用があるのはエツァリだけだが、彼らが行かせるかな」
銃声が聞こえた。
荒道は普段なら何事もないように立たずめる能力を持っているがAIMジャマーの影響を受けている以上どうなるのかはわからないので急いで一方通行と土御門と共に護送車の影に隠れる。
そうしてる間にも、少年院の中からバタバタと足音が聞こえて来る。
「様子見していた『ブロック』の傭兵か…。あいつらの相手はしなくていいのか」
土御門の質問をショチトルは無視する。本当に海原もといエツァリを始末するためだけにこの場に立っているようだ。こうしてる間にも『ブロック』は結標の仲間が収容されている独房に近づいている。彼らを人質に使うために。
チッ、と一方通行は舌打ちして、
「クソッたれが、さっさと行ってこい」
「貴方…」
「俺は杖をつかなきゃ歩けねェ。下手に能力も使えないんじゃ、オマエの『座標移動』もアテになんねェからな。なら一番足が遅いヤツが足止めに対処する」
一方通行は早口で喋る。
「土御門は結標のサポートだ。まだ『ブロック』の連中が何人中に入るかはわからねェ、最悪大勢と戦う事も考慮しろ」
続けて一方通行は荒道を見る。
「大地お前は一番足が速い、地図にあった機密区画にはAIMジャマーの制御出来るコンピューターがあるはずだ。そこからAIMジャマーを止めてこい。AIMジャマーさえ止められりゃこんなクソったれな状況簡単に打破出来る」
これで各々の行動が決まった。一方通行は傭兵達の足止め、土御門と結標は特別房にいる少年達の救出、荒道はAIMジャマーを停止させる、海原は言うまでもなく、ショチトルと決着をつける。
『グループ』の五人は一度だけ顔をわずかに合わせて頷くと、
「行くぞ!!」
五人が行動を開始する。
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(あの先を曲がれば後は直線…!)
他人から見れば短距離走のペース、自身では長距離走の少し早いくらいのスピードで、荒道は味気の無い扉が取り付けられている廊下を走っていた。
理由はAIMジャマーを止めるため、それさえ止められれば万事解決する。
AIMジャマーは能力を使いづらくする装置だが一方通行や結標の『座標移動』など複雑な演算を使う物は使えば能力の暴走で自殺する程の可能性があり、実際には封じられているに等しいかった。
それは『虚偽地球』という強大な能力を持つ荒道にとっても同じことで、能力を使えばどうなるかわからない状態にあった。
今では『虚偽地球』の能力の『地球から作られた物資』を原子レベルで感知できるセンサーもテレビの白黒の砂嵐に様になっていて、AIMジャマーの頭痛の他に頭の中にノイズが走るような感覚がしている。
感知する能力は自動的に発動しているのでON/OFFの切り替えが効かないこの能力を少しばかり、恨んでいた。
だがそんな考えは角を曲ろうとした時に遮断される。
何かが振り下ろされる。それを荒道は曲がろうとしている身体を無理矢理横に避けることでギリギリで回避する。荒道の目の前に現れたのは駆動鎧・MPSー79がバールのような物を振り下ろした姿だった。
(ここに来て駆動鎧…!後一歩だってのに…!)
普段の荒道なら先ほどのような奇襲も事前に察知し、何より対峙しても金属の塊の駆動鎧なら操ることさえ出来たがAIMジャマーがそれを阻む。
荒道の手にはロータリーで死んでいた傭兵から奪った拳銃があったがそれくらいではどうしようもない。
考えている間にも駆動鎧はバールを振るう。荒道はバックステップで後ろに下がりながらバールを避ける。
荒道はこのままバックステップで避け、次の角で走り、距離を取り、その後、策を練ることにした。いくら駆動鎧といえ自分の走りについてこれるとは思わなかった。それは正しく、実際に走れば駆動鎧は追いつけないはずだった。
ただ、角にもう一機の駆動鎧がなければ。
その駆動鎧もバールを振り下ろす。これもギリギリで回避する。今の荒道は前と左は駆動鎧、右と後ろは壁に阻まれていた。
ゴンッ!!荒道の頭の中で音が鳴り響く。一機目の駆動鎧にバールで側頭部を殴られたと気付いたのは右の壁にぶつかってからだった。
頭がろくに働かない中『このままでは殺される』と判断した荒道は前、二機目の駆動鎧の脇を転がるようにして、すり抜ける。駆動鎧も虚をつかれたのだろうか、バールは振り下ろされなかった。
荒道は5mほど進んでから倒れてしまう。人間どうしでは5mという距離は長いように思えるかもしれないが2mを越す巨体の駆動鎧から見れば2、3歩歩けばバールの攻撃範囲に入る距離だった。
荒道はどうにか立てているという状態だった。普通の人間ならば脳震盪やら脳挫傷やら関係なく、脳味噌を潰されて死ぬほどのダメージだが生きているのはひとえに荒道の頑丈さの賜物か。
それでも脳へのダメージは脳へのダメージ。視界がぼやけ、今にも飛びそうな意識を繋げていたのは『家族』だった。
この駆動鎧二機が能力を封じるためにAIMジャマーを守っている『ブロック』なのか。腰抜けの看守が駆動鎧を着て立てこもっていたのか。
(そんな事はどうでもいい!!何より…!)
足を開き、背筋を伸ばし、フラフラの状態から立ち上がる。
「『家族』まだ戦ってるのに自分だけぶっ倒れる訳には行かねぇんだよ!!」
戦線布告するように、荒道は叫ぶ。その眼光は駆動鎧達に『生物的な恐怖』を感じとらせた。
駆動鎧が一歩後退する。明らかに異常だと思った。駆動鎧の力で振るわれたバールを食らっても生き延び、ましてやあそこまで叫ぶ力があるはずがないと。だが現実は襲いかかる。
ゆらりとした動作から、急にスピードを上げる。荒道に近い駆動鎧は片手でバールを叩きつける。だがそれはできなかった。荒道はバールを振り下ろされ始めた時点で彼は駆動鎧の手元にいた。駆動鎧は円運動を利用して、バールを叩きつける。円運動をするという事は遠心力が働き、一番振り回している物に力がかかる瞬間がある。そのタイミングは一番手から離れようとしている状態。
その瞬間を荒道は見抜いた。バールを一番手から離れようとするタイミングでバールを蹴り飛ばし、駆動鎧の手から離す事に成功する。
荒道は駆動鎧より先に落ちたバールを掴む。このバールは大の大人が3人いてどうにか運べるかという程の重量がある。だが彼は持ち上げ、ゴルフのスイングの如く、バールを上に振る。
あっけにとられていた駆動鎧はどちらとも動くことができなかった。バールを奪われた駆動鎧は頭部を破壊され、自分の脳漿をばら撒いた。
後ろに駆動鎧が倒れ、思い出したかのように二機目の駆動鎧がバールを振り下ろす。
荒道はバールを横にして受け止める。力比べとなり、押されていく荒道だが、
「うぉぉぉぉぉらぁぁぁ!!」
咆哮とともにそのまま上に駆動鎧が振るうバールを押し上げ、自身のバールの尻を駆動鎧に向け、ビリアードのように手を添える。球の代わりに脳天を打ち抜く。
廊下に頭部を破壊された駆動鎧が二機転がる。
「さて、急ぐか」
============================
AIMジャマーを停止させ、能力が使えるようになった荒道は体の中の鉄分を操作し、バールで殴られた時に少し破れたらしい脳の静脈から血の塊を傷口から排出する。治療も済んだ荒道が走ってロータリーに戻るとそこには一方通行と海原がいた。AIMジャマーを解除したため本来の力を振るうことが出来た一方通行がやったのだろうか、傭兵達が出てきていた辺りはボロボロになっていた。
AIMジャマーを止めると普通の房にいた子どもが脱走をしようと能力を使うのが気がかりだったがそんな気配は無かった。暴れても護送車を吹っ飛ばしたり、色々派手な事をすれば収まっただろうが。
土御門と結標も顔を見せる。
これで『グループ』の五人は再び合流した。各々の戦場で戦ってきたのか誰一人として傷がない者はいない。
土御門は四人を見てつまらなそうに言う。
「それじゃ戻るか、闇の中へ」
内容的に少し面白味に欠けたかなと思います。理由なのですが戦闘描写を書こうと思ったら一万字を突破してしまい、分ける事になりました。ですから次は初めの方から戦闘描写になります。
今回も読んで頂きありがとうございました。