とある魔術のグループ   作:静かな人

13 / 16
私立受験合格!!と言っても一ヶ月後に本命の公立高校受験があるんですが…。
前回の後書きの通り、緩い感じのやつです。そして、今までで一番長いです。


オリジナルエピソード2
視線の正体


「おーい、大地!」

 

学校を終え、部活にも入っていない荒道は帰り道を歩いているところに声がかかる。

後ろを振り返ると小走りで来るクラスメイトの上条当麻の姿があった。

 

「帰り道一緒だったんだな」

 

「今まで気づかなかったな」

 

そんな会話をしながら歩いているとまたもや後ろから声がする。

 

「おーい、アンタ!」

 

どこかで聞き覚えのある声だなと思い、荒道が後ろを振り返る頃にはかなり聞き覚えのある声だった上条はすでに後ろを向いていた。後ろにいたのはレベル5第三位・『超電磁砲』の御坂美琴。

 

「アンタ、今日暇?暇だったら……」

 

御坂の言葉が途中で切れたのは理由がある。

 

「何であんたがここにいんのよ!!」

 

荒道の姿が目に入ったから。

 

「久しぶり」

 

と普通に荒道は返す。

 

「こんな所で何してんのよ!」

 

と、ここまで御坂が怒っているのは訳があり、荒道が学園都市侵入した日に今はここにいない白井黒子と共に荒道と戦ったことがあり、その時から変わらずに荒道に対する御坂の印象は犯罪者だったからだ。

 

「いや、下校中だけど。ちなみこいつと同じ学校で同じクラスだ」

 

当の本人は犯罪者と見なされている自覚など無く、普通に歩いていたら職務質問されたくらいの物である。

 

「まぁまぁ、御坂さん。昔の事は水に流して…」

 

上条が慰めるが御坂は戦った時の事を思い出したのだろうか、

 

「アンタ、勝負しなさい!」

 

リベンジを仕掛けるという始末である。

 

「ん〜?勝負?動かないっていうハンデ、2対1のハンデがあって勝てなかったのになぁ?それにどうやって攻撃する?電流か?砂鉄か?レールガンか?全部止めた覚えがあるんだがなぁ?」

 

本気で煽る荒道。それは真実なので言い換えそうにも言い返せない御坂。呆れた顔をした上条がツッコミを飛ばす。

 

「あの〜荒道さん?自称紳士が何やってるんですか?」

 

「いや、なんか御坂ってイジメたくなるタイプだなと思ってな」

 

「ああ、言われてみればそうだな。確かにイジメたくなるタイプではあるな」

 

「な、な!何言ってんのよバカ!!」

 

上条にあんな事を言われた御坂は想像がレベル5・第三位の脳で行われ、一気に赤面し、頭のあたりがビリビリと電気が走っている。

 

 

ここまでは、ここまでは普通だった。御坂が上条に絡み、上条が何か言って御坂を怒らせる。上条は同じ寮に住んでいる土御門と帰る事もあるので一緒に帰っているのが荒道に変わっただけ。

この道をよく通る人なら『またやってるな』位のものだった。この後は怒った御坂が電撃を出し、それを上条の『幻想殺し』が打ち消す。そのはずだった。

 

ただ、離れた所から御坂の後ろ姿を発見した白井がテレポート移動して、御坂に抱きつかなければ。

 

 

「お姉さま〜!!」

 

「ちょ!黒子?!」

 

白井に抱きつかれた御坂は体が横に傾き、電撃は無防備な荒道に飛んで行く。

 

「えっ?」

 

抜群の反射神経と音速以上で展開できる能力があっても不意打ちの電撃には流石に対応出来ない。

バァン!と電気が弾ける音と共に荒道の体が吹き飛ぶ。御坂は上条の事になると電気の制御がきかなくなる節があり、先ほどの電撃もかなり高めの威力で放ってしまっていた。

 

「ちょっと!大丈夫?!」

 

「おい!大地!しっかりしろ!」

 

御坂と上条が荒道に駆け寄る。白井は軽くパニック状態である。

上条が肩に触れようとした瞬間、ガバッと荒道が人間らしからぬ動きで起き上がる。

 

「白井黒子…ぶっ潰す…!」

 

周りの砂鉄や砂が動き、荒道の半径30m以内に立ち込める。視認こそできないが周りの人は大気そのものが震えているような感覚に襲われる。

 

「あの…その…ごめんなさいですの!!」

 

周りの雰囲気と荒道の目線に恐怖を感じた白井はしっかり、御坂を回収してテレポートでその場から立ち去る。

 

「あの野郎逃げやがった…」

 

そう呟いて、能力を半径30mから半径20mの通常モードに戻そうとした時、センサーに人型の物が現れる。

 

(帰って来た?)

 

と思い、その方向を向くと女性がいただがそれは白井ではなく、白井よりも身長が高い。何より驚いたのは学園都市に来てから時折感じていた視線と同じ物を感じた。興味と驚き、少し怖れが混じった視線。

その女性と目を合わせていたがそこにスーツ姿の男が視線を塞ぐように横切る。スーツ姿の男が横切った時にはその女性はいなかった。

 

「と、当麻…帰ろう…」

 

「おう。でもその前に今日はスーパーでタイムセールがあるから寄っていいか?」

 

「よし、帰ろう、今すぐ帰ろう!」

 

上条の話など全てスルーし、突然上条の奥襟を掴む荒道。

 

「ちょ!どうしたんだよ?!なんか顔が青ざめてるぞ!」

 

上条の言葉など聞かずに荒道は『虚偽地球』で砂を手元に集め、持ち手を作る。そしてそれを掴み、操作して浮く。

 

「えっ、荒道さん?なんか浮いてません?!あ、歩いて帰ろう!」

 

数々の戦場を右手一本で生き延びてきた上条でも空には不慣れで恐怖を覚える。しかも、同級生に蹴落とされ、上空7000mからスカイダイビングという嫌な思いをしたばかりである。

まだ落ちても怪我をする高さではないので必死にもがくが片手で上条を支える荒道の手は解けることがなく、荒道が手にしてる砂の塊らしき物で浮いてるというのは予想できたが今は荒道に奥襟を掴まれ、子猫を運んでるような状態なので異能の力なら一撃で粉砕する『幻想殺し』も触れれなければ意味がない。

 

「不幸だーーー!!」

 

冬が近づき、日に日に寒さが増していく十月の空に虚しく上条の声が響きわたる。

 

 

=========================

 

 

「あの…結論はどういうことなんでせうか?」

 

上条は荒道の家、と言っても寮のマンションの一部屋だが部屋のリビングに座っている。家主の荒道はベッドの上の布団で外から見てもわかるくらいに震えている。

 

「だ、か、ら、幽霊が、幽霊がいたんだよ!?」

 

亀のように顔だけを布団から覗かせて事情を話す。その顔はお前の方が幽霊だと、言いたくなるくらい青い。

 

「はぁ?幽霊?そんなのいる……わけ………」

 

夏休みの『御使墜し(エンゼルフォール)』事件の時に土御門がサーシャーーー正しくはミーシャ・クロイツェフは幽霊殺しに特化したロシア正教に所属していると聞いた記憶があり、幽霊はいないと言い切れないのが悲しい。

 

「俺にどうしろって言うんだ。まさか幽霊が出てきた所を右手で触れろって言うんじゃないだろうな?」

 

荒道は顔色をいくらからマシにして、凄い勢いで首というか頭を縦に振っている。

こうなっては断れないのが上条当麻という人間。彼の『幻想殺し』は初めは彼自身も消せるかどうか疑った異能の力もあったが、場数を踏んで経験を積むとほとんどなくなり、今では幽霊さえ消せると思っていたがまず、それが本当に幽霊なのか確かめなくてはいけない。もしかすると魔術師の攻撃の可能性だってある。

 

「それは本当に幽霊なのか?学園都市ならテレポーターって事も十分あり得るだろ」

 

「テレポーターってのは消える時は一瞬で消える。だが幽霊は一瞬に変わりはなかったがジワジワ消えていく感じだった。センサーで感知したんだ、ほぼ間違いはない」

 

しかし、質量がある幽霊ってのも不思議なものだと、感じながら質問を続ける。

 

「次は幽霊がどんな奴か教えてくれ。もし、これが魔術師の攻撃だったらインデックスに聞けば何かわかるかもしれないしな」

 

少しの希望を見たのか荒道は布団から首だけ出して質問に答える。

 

「まず、女性だな。身長は当麻より低かったな。そして何故か冬服の学生服。メガネをかけて、髪が腰くらいまであったな」

 

上条がそれを聞いた後横を指差し、

 

「もしかしてこいつか?」

 

確かに幽霊はそこに立っていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!?!?!!!?」

 

寮中に響きわたる声を出しながら布団から飛び起きる。そしてベランダにダッシュ、窓は開けずに、フレームごとタックルで吹き飛ばし、ガラスが砕ける音も置いていくような速さで飛び降りる。

荒道は7階から飛び降りても大丈夫なくらい頑丈だったが、反応したのは幽霊。ベランダに向かっていった時点で察していたのか、荒道が飛び降りてから一秒も経たない内に幽霊も飛び降り、荒道を空中でキャッチする事に成功する。

 

「おーい、大丈夫か?!」

 

ガラスの破片に気をつけてベランダ出てきた上条がベランダから顔をのぞかせる。

 

「ええ、無事です」

 

「いや、あなたの胸で気絶してませんかその人?」

 

「えっ?わっ?!だ、大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 

幽霊に抱きしめられて、失神したのか、パニックで常人以下に減った体力を豊満な胸で圧迫され、窒息で気絶したのかは定かでは無い。

 

 

==========================

 

 

荒道は目を開ける。とりあえず体を起こす。

 

「おっ、起きたか」

 

と上条が声をかける。寝る直前の記憶が靄がかかったようになっていてうまく思い出せない。

 

「俺はどうして寝てたんだ?」

 

「寝てたってお前な…気を失ってたんだぞ?」

 

「俺が?なんで?それにこの部屋は?」

 

気づけば見慣れない部屋にいて首を回して部屋を観察する。上条を0度として、右に90度、上条の前を通過してから左に首を回す。左で90度の地点で、

 

幽霊と目が会う。

 

実際には幽霊だと気づくにの数秒かかった。その数秒は幽霊を見たことにより、荒道が生物本能で頭にかけた靄が払われ、今までの記憶を思い出すことに使われた時間だった。

 

「うおおおお!?幽霊!!?!?」

 

驚きで後ろに下がるが壁に背中をぶつける。また窓を突き破って、ベランダ逃げようかと思った時、何かすすり泣きのようなものが聞こえる。

 

「そうですよね…私なんて幽霊……『化物』ですよね……恐いですよね…やっぱりどう足掻いても『化物』に変わりはないんですよね………」

 

幽霊が泣いているという状況に驚いているといつの間にか幽霊の横にいたインデックスが語調を強めて言ってくる。

 

「いくらあらみちでも、ひょうかを泣かすのは許せないかも!」

 

何故インデックスがいるかを問いたかったがそれよりも今までの、戻って来た記憶の中の情報に驚いていた。

 

「泣かないでくれ。俺は『化物』なんて言ってないし、思ってもいない。俺が恐いのは突発的に現れる物なんだ。……それに、助けてくれてありがとな」

 

「私『化物』じゃないですか?」

 

「ああ、幽霊だなんて驚いて悪かった」

 

すると、更に泣き出してしまう。少しのあいだ慰めると泣き止んでくれる。

 

「しっかし、あの荒道大地さんが恐い物が幽霊だとは夢にも思わなかったですよ」

 

とからかった口調で上条が喋るとインデックスもそれに乗る。

 

「たしかにあらみちが幽霊を恐がる人には思えないね」

 

普通、人は何か自分の弱点を突かれると取り繕ったり、否定したりするものだが、

 

「だって恐い物は恐いんだよ!」

 

それすらできないくらいに荒道にとって幽霊とは恐いのだ。幼少期からずっとそうなのだ。

それを見てクスクスと幽霊は笑う。だが悪いと思ったのか

幽霊は謝るが荒道は全く気にしていない。

 

「さっきみたいに笑ってくれればイイんだよ。そういや名前は?」

 

風斬 氷華(かざきり ひょうか)です。」

 

「さっきこいつが言ってたと思うけど、俺は荒道大地。よろしく」

 

そう言って手を伸ばして握手を求めると弱気そうな顔の通りに、恐る恐る手を伸ばし、握手を交わす。

 

「風斬、お前一体何者なんだ?」

 

この質問に風斬はしばらく逡巡していたが今までの荒道の行動に信頼を見つけ出したのか話し始める。

 

「AIM拡散力場って知ってますか?」

 

「能力者が無意識に発しているフィールドの事だったか?」

 

これはまだ学園都市の幼い頃にいた時の知識だ。いくら実験に興味がなかったとはいえ、研究員達の話を何度も耳にすれば頭に入るものだ。

 

「その通りです。私はAIM拡散力場の塊なんです」

 

「ええっと、その体を構成してるのがAIM拡散力だって事?」

 

「理解が早くて助かります。さっきも言った通り私はAIM拡散力が集まって存在しているので、一定以上のAIM拡散力場がないとその場所から消えてしまうんです」

 

「消えた後は?」

 

初めての存在に興味をかられ、質問が次々に頭の中にあるが一つずつ質問していく。

 

「その場から消えると、他に私を構成できるくらいにAIM拡散力場がある場所で自動的に構成されます」

 

今まで静かに聞いていた上条が疑問を口にする。

 

「AIM拡散力場ってのは、この能力者だらけの学園都市じゃあ溢れてるもんだろ?その中でどうして荒道ばかり何度も会う…というより、視線を感じられたんだ?インデックスはわからないけど、俺もこれで会うのは3回目だ。しかも、自然に会ったのは1回だけだ」

 

上条の疑問は荒道も感じていた。この学園都市は治安の悪い第10学区や一般生徒の立ち入り禁止の第23学区などを除けばそこかしらに能力者がおり、ある程度絞られた面積の中で風斬は他人にダーツを投げられ、その場所にランダムに飛ばされているようなものだ。学園都市に住む学生180万人中で一個人の近くに何度もダーツが突き刺さるなんて奇跡と言っても片付けきれなない事柄だった。

 

「それは私も思ってました。最初は気づかなかったんです。けど、だんだんと飛んだ場所には荒道さんがよくいる事に気付いて、それで何かあるのかなと思って見ていたんです。それが恐がらせてるなんて知らなくて…本当にごめんなさい」

 

「別にいいって、悪意が合った訳じゃないんだし、なんなら話しかけてくれても良かったんだぜ?」

 

「わ、私そういうのが苦手で…」

 

「気にすんな、それも個性だしな…さて、本題に戻るか。一つの仮説が出来たんだが…これはやってみる方が簡単だ」

 

そう言って立ち上がる荒道。今度は普通に窓を開けて、ベランダに出る。

 

「風斬はそこから動かないでくれ」

 

そう言うとジャンプしてベランダの柵の上に立ち、そこから外に一歩踏み出す。『虚偽地球』で砂を集め、その上に乗っているので落ちはしない。

 

「10m……15m……」

 

途中から後ろ歩きで風斬を見ながら、5m単位で距離を確認しながら進んでいく。

 

「20m……21m」

 

20mを超えた瞬間に風斬の体が急にブレ、存在そのものが薄くなる。

 

「ひょうか!?消えちゃうの?」

 

インデックスが心配そうな声を上げる。それを風斬が薄くなるのを見ていた荒道は能力の範囲を半径20mから30mに拡大する。すると元に戻る。

 

「元に戻ったんだよ!」

 

一歩前に進み、風斬と自分の距離を20mに縮めてから能力範囲を元の半径20mに戻すが何も起こらない。

 

また一歩下がり、風斬との距離を20m以上あけると風斬の存在が薄くなる。今度は一歩踏み出し、20m以内になると風斬の存在が元に戻る。

 

「なるほど。わかった」

 

部屋に戻ってから、そう話しかける。

 

「何がだ?」

 

上条の頭に浮かぶハテナマークを解消してやるために話し始める。

 

「まずは、風斬の出現条件だ。風斬が出現させるのには必要なのは場所はAIM拡散力場が濃い場所、俺の周りによく現れるってことは俺の周りがよく濃いAIM拡散力場に包まれてるって事だ。

そこで疑問が出でくる。俺は意図的にAIM拡散力場が濃い場所に入って行ってる訳じゃないのに何故周りがAIM拡散力場が濃い場所なんだろうなと思って」

 

一息に喋ったので疲れたのか少し息をついてから説明を開始する。

 

「そこで、幾つかの可能性の中で今すぐに出来て一番有効な『荒道大地の発するAIM拡散力場が濃い』と言う説を実験したんだが…正解みたいだな。

さっきの風斬が消えかけたり、元に戻ったりしたのは俺が自分のAIM拡散力場に風斬を入れたり出したりしたからだ。

そうだな…ダーツに例えるとだな、学園都市と言うダーツの的に風斬と言うダーツを投げる。ダーツの的は区切られていて、その場所に風斬の体は構成される。で、俺はそのダーツの的の中で区切りが大きいんだ。そうなれば他の区切りよりも的が大きいという単純な理由でダーツが刺さり易いだろ?

…どうやら俺は能力圏内にはぎっしり、だけどAIM拡散力場があるけどそこを抜けると微量のAIM拡散力場しかないみたいだな」

 

「えっと、つまり、それは大地の能力圏内に入れば風斬はこうしていられるって事でいいんですよね?荒道先生?」

 

「まぁ、そうだな。といっても一人で風斬を出現させる事は出来ないみたいだけどな」

 

そこまで聞いていた風斬、インデックス、上条が拍手を送る。

 

「これで謎が解けましたね」

 

謎が解けたのが嬉しいのか笑顔で話す。

 

「そうだな。もうこんな時間か……あっ、タイムセール終わってる…不幸だ…」

 

こちらは肩を落としているが、そこに救いの神が舞い降りる。

 

「元はといえば俺の責任だしな…よし、今日は俺が飯を作ろう!」

 

「あらみちが作ってくれるの!?」

 

「おう!その通りだ!風斬も食うだろ?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん!」

 

「それで、上条。食材を取りに行きたいんだが、ここはどこだ?」

 

「ここは俺の家で大地の家はそっちだ」

 

上条が指した方向に進み、その先にある部屋の家具の配置を『虚偽地球』で観察すると全く同じで、風斬を幽霊と勘違いして逃げようとした際に壊した窓もしっかり確認できる。

 

「何故今まで気づかなかったんだろう?」

 

「はは…ここ最近はろくに帰ってこれませんでしたから」

 

上条は苦笑を浮かべて、頭をかきながら答える。

 

 

==============================

 

 

肉を油が引かれたフライパンに入れ、途中で胡椒をふりかける。調理している場所は上条宅、荒道の家は窓が潰れているので止めになった。

 

「いい匂いがしてきたんだよ!」

 

「ほんとだな。何作ってんだ?」

 

「ん?トンテキだよ」

 

肉をひっくり返しながら荒道は答える。

 

「どんな料理なんだ?」

 

「ステーキと同じ作り方だ。ステーキは牛肉だけどこっちは豚肉なんだ」

 

「あっ!ステーキの『テキ』と豚肉の『豚』を『トン』って読んで『トンテキ』なんですね?」

 

「正解だ風斬。ちなみに三重県・四日市市の名物料理だ」

 

「ねぇ、ねぇ、あらみち!まだかな!後どれくらいで出来上がる?」

 

横で風斬は苦笑し、上条は注意する。和やかな風景を見ながらインデックスに話しかける。

 

「スープくらいなら作ってやるよ。ただしインスタントなのは許してくれよ」

 

肉を焼く片手間で『虚偽地球』で隣にある自分の部屋のインスタントの卵スープの箱を砂で持ち上げて、自分の部屋から上条の部屋に持ってくる。

湯を沸かし、三人分のスープを作る。そして、その中の一つに誰にも見られないように白い結晶入れる。

そしてまた『虚偽地球』で砂を操作してスープをテーブルに持っていく。

 

豚肉がいい頃合いになってきたのでウスターソース、酒、醤油、りんごのすりおろし、ケチャップ、ハチミツを混ぜたものを豚肉に絡めて、トンテキが完成する。

 

「さぁ、召し上がれ」

 

テーブルに並ぶのは白飯、トンテキ、サラダ、スープ。インデックスだけはスープをお代わりしている。

 

「「「いただきます」」」

 

三人が声を合わせて言った後まず全員がトンテキに箸を伸ばす。

 

「おお!美味いな!」

 

「うん!とっても美味しいんだよ!ねぇ、ひょうか?」

 

「うん、とっても美味しいです荒道さん」

 

「そうかそうか。よかったよかった」

 

満足気に頷いていると上条が箸を止めて荒道質問する。

 

「そういや、なんでこんだけの量の肉が荒道の家に置いてあったんだ?」

 

「ああ、それは今日の晩御飯に食うつもりだったからな」

 

「それって、荒道さん一人のですか?」

 

「そうだけど?」

 

さも当たり前といった顔で荒道は答える。

 

「もしかして、俺たち大地の晩御飯取っちゃった?」

 

「いやいや、そんなことない。俺はこれだけの量でも大丈夫だしな」

 

あまりにもあっけらかんとした荒道の態度にバクバクと食べ続けるインデックスを除いた二人は罪悪感さえ湧かなかった。

 

 

==============================

 

 

「なぁ、上条。今日インデックスがあれだけの量で満足したと思うか?」

 

上条と荒道の二人は台所に並んで皿洗いをしていた。荒道は最初は断ったが、食事のお礼というと言って聞かなかったので一緒にやる事になった。

 

「正直言うとあまり満足してるとは思えない…」

 

突然の質問に戸惑ったが数秒、風斬と楽しそうにテレビを見ているインデックスを見て答える。

だが自分の発言と今の状況に矛盾が出でくる。

 

「あれ?でも、なんで何も言わないんだ?」

 

そう、本来インデックスは自分の食欲に忠実でお腹が減れば食べ物を求め、くれなければ上条の頭に噛み付くという行動をする人間なのだ。

 

「こいつを混ぜたからだ」

 

そう言って荒道は白い結晶を取り出す。

 

「なんだそりゃ?」

 

「これはこれ平たく言えば胃液と反応して膨らむんだ。これをインデックスのスープに混ぜておいた。結果はあの通りだ」

 

「なるほど、腹の中で膨らむから、満腹に感じるのか」

 

得心した上条の手に白い結果の入った袋を持たせる。

 

「ほら、それやるよ。ただし、本当に家計が危うい時にだけ使うんだぞ」

 

「いや、色々ありがとうな」

 

「何、気にすんな」

 

止めていた手を再び動かし、皿洗いを再開しようとした時インデックスの声が上がる。

 

「ひょうか、また消えちゃうの?」

 

「うん、もう消えちゃうみたい。…荒道さんご飯ありがとうございました」

 

「また、食べに来いよ」

 

首を縦に振ると風斬はインデックスに向き直る。

 

「じゃあね、バイバイ」

 

「うん、また遊ぼうね!」

 

インデックスがそう言うと風斬は消えて行った。

 

皿洗いを終えるとそれを待っていたかのように、荒道の携帯電話が鳴る。荒道の携帯の着信音はデフォルトのはずなのに違う音がする。

答えはもうわかっている。

 

「ちょっと出てくる」

 

そう言って荒道は上条の家から出て、通話ボタンを押す。

 

『こんばんは、荒道。』

 

仕事の電話。表に公表できないような裏の仕事をする暗部の仕事の始まりはいつも一本の電話から始まる。

 

『今日の仕事は奪還任務なんですが…最近神奈川県・三浦市に来ていたロシアの原子力航空母艦『プチーツァ・クリェートカ』を知っていますか?日本語で『鳥籠』」

 

日本という国から実質的に独立しても日本は日本、外のニュースなら普通に入ってくる。それが国際的なものであるならなおさらだ。

 

「ああ、知ってるよ。よくあんな戦闘機満載の空母を日本に来る事を日本や各国が認めたもんだ」

 

壁に体を預けながら話す。

 

『攻撃すれば戦争になる事くらいロシアもわかっているでしょう。その辺りも踏まえて承認に踏み切ったのだと思いますよ』

 

「本題は?何が奪われた?」

 

端的に聞く。もう、質問の時点でいつもより一層クソみたいな仕事がくるのはわかっていたので、心を無にして聞く。

 

『打ち止めが攫われました』

 

「おい、そりゃどういう事だ!」

 

平常心など保っていられるはずがない。壁から身を離し、食いつくように質問する。

 

『どうやらロシアは事前に計画を立てていたようで、いつでも打ち止めを拉致できる状態にしておき、今日の夕方ごろの『鳥籠』出航に合わせて拉致、そしてロシアに連れ去ろうという計画だったみたいです』

 

電話の男の声はいたって平坦、こちらの焦る心を逆撫でするように感じられた。

 

「で、なんだ?打ち止めを奪還して、魚の住む所も無いくらい、空母をバラバラにして海に沈めりゃいいのか?」

 

『空母は沈めないで下さいね、原子力艦なので面倒な事になります。一方通話に任せてもよかったのですが、彼は打ち止めが絡むと船を沈めかねませんからね。

単独で空母を制圧でき、自制が効く人間を『グループ』から選んだ結果あなたになったのです。

…さて、あなたも助けに行きたいでしょうから今から作戦をお伝えします。まず第11学区の物資搬入を行っているターミナルに行き、そこから学園都市の外に出てもらい、指定の海岸に行ってもらいます。そこに学園都市製の水上オートバイクで空母を追いかけて先ほど説明したように空母を沈ませずに打ち止めを奪還してください』

 

長ったらしい言葉の後のシンプルな作戦を頭に入れ、そのまま電話を切る。荒道の携帯にはアビニョンで回収した駆動鎧の装甲が携帯にカバーに使われていているが、それが荒道の握力と無意識のうちの能力使用によって少し変形していた。

上条の家のドアを少し開け、顔だけをそこから覗かせる。

 

「当麻、ちょっと野暮用が出来たから行ってくる」

 

そして、ドアを閉める。だがその時、上条は荒道の顔を見て何かを感じた。それはいつもにゃーにゃー、ふざけている土御門が仕事をする時のようだった。

その時にはもう体が動いていた。ドアに駆け寄り、そのままの勢いでドアを開けて叫ぶ。

 

「大地!」

 

だが辺りを見ても誰もおらず、塗装された壁の間にある柵だけが大きくへこみ、人の足跡を残していた。

 

 

==============================

 

 

電話の男の指定する海岸に行ってみたがほとんど崖だった。サスペンスの殺人現場のような所だった。崖下を覗き込むと細長いボートのような物が見える。

飛び降り、細長いボートに着地するとやはりそこは学園都市が用意した水上オートバイクだった。

 

運転席の後ろには車のような4人掛けらしき座席があり、何よりも目を引くのが前方にあるガラス。普通の水上オートバイクはガラスがなく、前方にはハンドルだけというのが一般的な作りだ。しかも、それが流線型状というべきか特殊な形になっているので尚更だ。

ハンドルは普通のバイクのハンドル、それにスピード計などがついていているのでボートと水上オートバイクの融合した物に見える。

座席には手のひらほどの縁以外が液晶のタブレット端末置かれており、触れるとこの水上オートバイクの説明が映し出される。

動かし方は簡単で元々水バイクを運転できた荒道はすぐに動かすことが可能だった。

 

そして、動かしてからガラスの意味を理解した。単に波除け。だがそれはこの水上オートバイクにはかなり重要だ。この水上オートバイクは学園都市のテクノロジーを駆使して、時速700㎞まで出るというモンスターマシンだ。そのスピードは波が襲いかかるなら、その波の中を突っ切って行けというスタイルである。今日の海は荒れていたので、波を何度も突っ切っていたがガラスの特殊形状故か、自分はもちろん、背後の座席も濡れておらず、ガラスにかかった水は驚異的なスピードで落ち、視界はいつもクリアだ。

 

(学園都市ってのはどんな分野でも手を出すな…)

 

学園都市には海は無く、こんなモンスターマシンを安全に走らせられる所などあるはずがないのでただ理論だけで作り、外部の協力機関に試運転を任せたのだろうか。

 

手元のタブレッド端末で確認するにはもうすでにこの水上オートバイクに乗って159㎞進んでいるらしい。あと100㎞で『鳥籠』に追いつけると思った時、前方に変わった物が見える。それは長さ1m、高さ30㎝ほどの四角の箱にカメラが取り付けられていて、その上には回転するプロペラが四つ。色は闇に紛れるような黒色。

 

(ドローンか…面倒だな…)

 

多分このドローンは『鳥籠』の索敵装置の一つと荒道は判断する。北東には東京都に属する神津島があるが距離は30㎞もあり、市販のドローンではここまでの飛行は到底無理だ。

荒道は潜入して、静かに打ち止めを奪還する作戦を予定していたが発見されたことにより、別の案を考えねばならない。

実際にそのカメラはしっかりと荒道を捉え、その様子を電波で原子力空母『プチーツァ・クリェートカ』の指令室に送られていた。

敵に発見された所でやる事に変わりはない。何が来ようと叩き潰し、打ち止めを救出する事に変わりはなかった。

 

 

==============================

 

 

日本の神奈川県・三浦市から出発してから2時間ほど。この原子力空母『プチーツァ・クリェートカ』通称『鳥籠』が日本に来航した名目は新型艦のお披露目と戦闘機による航空ショー、だがそれは『表』の話。本当は学園都市のクローンであり、能力者である『打ち止め』と呼ばれる少女を拉致するのが『裏』の目的。

詳しくはロシアの上層部もわからないが『打ち止め』は同じクローンどうしで『ミサカネットワーク』というものを能力で構成しているらしく、その『ミサカネットワーク』の司令塔である『打ち止め』とロシアの学園都市協力機関にいる『妹達』を使って検証、実験をするのがこの計画の最終段階。

なら『打ち止め』の拉致は下準備と言っていい段階かもしれない。だが下準備でも学園都市に手を出す事は死に繋がる可能性が十分あり、注意しなければならない。

航路は日露戦争の折、バルチック艦隊が通った経路に似たような道をたどっている。わざわざ遠回りをする理由は日本のことわざ『急がば回れ』に従ったのではなく、『表』が『乗組員達の訓練のために航海を長くする』などと言ったのが理由だった。これにも『裏』はあり、後一時間ほど進めば、母国の特殊部隊が『打ち止め』回収に来る予定で、回収された『打ち止め』はロシアに直行する。

その後『鳥籠』はただ普通に航海すればいいだけ、計画は全乗組員が知っており、『鳥籠』の指令室は緊張が張り詰め、誰も言葉を話さず、機械音や荒れている海が作り出す波が砕ける音だけが響いていた。

そんな中をドローンモニターを監視している海兵から声が静寂を裂く。

 

「十番モニターにボートを一隻確認!方位は北!まっすぐこちらに向かってきます!」

 

指令室がざわめき始める。ついに学園都市が追ってきた。仲間の特殊部隊かと願いたかったが、まだ一時間もある状況では無理なことだった。無情な報告が続く。

 

「レーダーから推測するにボートの速度は700㎞ほどと推測されます!」

 

ボートを発見したドローンは『鳥籠』を中心に100㎞の範囲を二十機で周回しながら監視している。機体が大きいのは悪天候の中でも天候に恵まれた時でも同じように行動させるため。コンピュータ制御で完璧に同じ互いの距離を保ち、高性能の暗視カメラや望遠カメラなどで『鳥籠』周囲100㎞は完全な索敵体制で監視する。ロシアの技術者が自信を持って『鳥籠』に乗せた物だった。

 

いつもは安心し、自慢できる技術が今や変えようのない現実を叩きつけつける。

 

艦長のアダモフ・レフは顔は青ざめていても冷静に命令を出す。

 

『ボートの位置を確認次第、1番ミサイルハッチから十本発射せよ』

 

この空母に積まれているミサイルは対空用で、高性能レーダーによるロックオンし、発射。発射後もミサイル自体の追尾により敵を追いかけ、確実に撃墜する。高性能の追尾性能が売りのミサイルだ。それを利用すれば海上にいる敵にもミサイルを打ち込める。

 

どよめきたつ指令室に艦長の声が響き、訓練された兵士は落ち着き、復唱しながら自分の仕事をこなしていく。艦長のアダモフ・レフには少しの勝算があった。それはボートが一隻だということ、人数が少なければおのずと戦力は低くなる。ドローンから送られて来た映像を見ても乗っているのは一人、いくらボートが速かろうとミサイルやこちらの全戦力をつぎ込めば勝てると思っていた。

 

後にそれはただの過信だったとアダモフ・レフは知る。

 

 

=============================

 

 

ドローンを発見してから1分も経たない内に空気を震わせる音が聞こえる。

 

「ミサイルか…」

 

上を見ると少しずつ角度を変えてこちらに向かって来る明かりが見える。だがそれは灯台の光などではなく、ミサイルが推進のために燃料を燃やした炎。見ている内にミサイルの全貌が見える程になるが荒道大地は逃げない。

 

むしろ上を見ていたことによって少し緩まっていた握力をもう一度入れ直し、スロットルを全開にする。

 

自分の能力『虚偽地球』の能力範囲を半径30mに伸ばす。ミサイルが『範囲』に入って来た瞬間に横に軌道を逸らす。正面から受け止める事は出来たが体力消費が大きい事を考えれば賢いやり方ではない。

本来の着弾位置を意図的にずらされたミサイルは左右にドボン!ドボン!と海に入り、派手な音と水柱を上げるがそれは時速700㎞を出すモンスターマシンにとってはそれは後ろの方で起きている話になる。波は多少荒れるがほとんど考慮しなくていいような物だ。

 

ここまでで起きた水柱は九本、『鳥籠』が発射した十本。最後の一本はまだ宙にあった。

 

荒道の能力『虚偽地球』に操られる形で。

 

タブレット端末で距離を確認し、既に前を向かせているミサイルの角度を演算する。そして荒道の『虚偽地球』のパワーと『虚偽地球』によって中の機械を操られ、止められいたエンジン機関部を再起動させ、燃料を消費が再び始まり、来た時よりも速いスピードで帰って行く。

 

空気が焦げる匂いとエンジンが作り出した轟音に顔をしかめていた荒道はまた上空に何を発見する。

 

「お次は戦闘機か、曲芸飛行でもしてくれるのかね?」

 

適当な事を言いながら、自分の携帯、水上オートバイクに置かれていたタブレット端末とポケットの寮の鍵を学ランの内ポケットにしまいこみ、学ランに仕込んでいる鉄の原子を『虚偽地球』で操作し、宙に浮し、そのまま一気に上昇する。

 

「さぁて、人間VS戦闘機!史上初のドックファイトと行きますか!!」

 

 

=============================

 

 

「早く鎮火しろ!!急げ!」

 

飛行甲板に怒号が飛び交う。理由は自分達が放ったミサイルが何故か自分達の艦に帰ってきて、現在進行系で飛行甲板を焼いているからである。

自分達のミサイルが着弾する前に二十機の戦闘機を飛ばしたが飛行甲板は着艦は出来ても発艦は出来ない状態になった。

 

艦長アダモフ・レフは飛行甲板の損害報告を聞き終え、戦闘機で始末できなかった場合の事を考え始める。だがそれ以上の案が浮かばない。ミサイルを何かしらの方法で避け、その内の一本を投げ返してくるような奴に勝てるというビジョンが浮かばない。『鳥籠』にはアサルトライフルが乗組員の数以上の積まれていたがそれで勝てるはずがないのは子供でもわかる。

彼が一種の恐慌状態に陥ろうとしていた時、戦闘機から無線連絡が入る。

 

『しゅ、主翼に人が!ひ、ひ、人が乗っています!!』

 

普段は通信を担当する海兵が連絡を受け、それを艦長に伝える方式なのだが今回は緊急事態のためそのまま艦長に連絡が行くようになっていた。

 

アダモフ・レフは艦長に任命される位にはそれなりに経験と実績を積んできた身だ。想像を超えた事態に頭がパニックになるのを抑え、震える声で指示を出す。

 

「エルロン・ロールだ!編隊を離れてから一回転して、そいつを振り落とせ!」

 

無線機に向かって叫ぶ。エルロン・ロールは飛行中に左右どちらかに360度回転するという曲芸飛行でも使われる技である。その技の名称や、やり方を教えたのは自分が何を言っているのか確認するための物だった。

 

『そ、そ、操縦桿が動かない!!それにミ、ミサイルを発射された!!』

 

そこで別の機の無線が入る。

 

『おい!止めろ!こっちに来るな!来る…ーーー』

 

爆音と共に通信が途絶えた。

 

無線から僅かながらに漏れた意味不明な言葉は指令室を完全に凍りつかせた。

 

 

==============================

 

 

「おお、あれか」

 

荒道は最後の一機の戦闘機の主翼に捕まった状態で燃え盛る飛行甲板を見て呟く。

パイロットは生かしており、意識も奪っていない。『虚偽地球』で戦闘機の仕組みを調べ上げ、コントロールは荒道がしているので恐怖でいつ意識が飛んでもおかしくないが。

 

まだ着艦はできる状態の飛行甲板だがそんな面倒な事はしない。

 

ただ、残虐に恐怖を与えるために。荒道は普段は優しい人間だが仕事となれば、それを成功させるためならなんだってする人間だ。

飛行甲板にさらに火を注ぐため、最後の戦闘機には特攻と言う手段をとってもらう事にした。

 

バァン!!戦闘機の爆発は周りを震わせる。そんなことを気にも留めず、途中で主翼から離れていた荒道は辺りを見渡し、目当ての物を発見する。

無線機。ただの無線機ではなく、艦内全てに連絡できる据え置き型の無線機だ。

荒道は無線を取り、横に付いている無線で呼びかける場所を設定するスイッチを全てONにしていく。艦内全てに呼びかけられる状態になったところでロシア語で無線に話しかける。

 

「あーあー?聴こえてるかなぁ?まぁ、だいたい予想はつくと思うけど学園都市の能力者だ。早速要件だけ伝えさせてもらうけど、お前らは馬鹿な事に打ち止めを拉致した。当たり前だけど学園都市のお偉方はキレてるんだ。で、学園都市から降った命令がお前ら全員、皆・殺・し、って訳だ。…一応言っておくけど拉致した打ち止めを人質に使うなんてマヌケな事は考えるなよ。俺はそんなことしたって止まらねぇからな。つまらない事してる暇があるなライフルの一丁でも持って来い。…んじゃ!そんな訳で虐殺タイムスタートーー!!」

 

久しぶりのロシア語での長広舌に演技の疲れで溜息を吐くのを抑え、無線を引きちってから溜息を吐く。

 

先ほど流したのはほとんどが真っ赤な嘘。あっているのは『学園都市の能力者』だと言う事と『上の命令』の二つくらいしかないだろう。

演技までして嘘をついたのは打ち止めが人質に取られるのを避けるため。普通なら打ち止めを人質に取られるのを恐れているから、『打ち止めを人質に取っても意味がない』という下手な嘘をついたという事くらいはわかるだろうが艦長含めた海兵が、ミサイルを避けられるどころか撃ち返され、戦闘機二十機をは全滅させるような化け物に攻め込まれている、という状況にパニックになり、正常な判断ができなくなっているので誰もそれを疑おうとはしない。

これは荒道がドローンに発見された時点で思い浮かんだ案だった。今までのミサイルを撃ち返したり、戦闘機と戦うなどという演出も全ては『鳥籠』に乗る全員からある程度の思考能力を奪うことだった。

 

知力を持った化物が原子力空母『プチーツァ・クリェートカ』を恐怖に落とし入れる。

 

 

================================

 

 

扉を開け、足を艦内に入れた瞬間に銃声が響きわたる。荒道は飛んでくる弾丸を物ともしない。『虚偽地球』の自動で行われる銃弾の反射。これは一方通行のようなベクトルを逆向きにするのではなく、一度弾丸を止めてから弾丸を逆向きにしてから同じスピードで発射するという反射である。

 

狭い艦内でピラミッド状に列を組み、3×3人で行われた一斉射撃の弾丸は化物の10m以内にも近づく事は出来ず、何故か弾丸は戻ってくる、頭部に角度調整をされて。

 

死体を踏み越え、角を曲がるとまた同じことが繰り返される。

そこからは部屋があったので『虚偽地球』で浮かせた砂などに部屋内をくまなく探索し、打ち止めの体格ほどのものを探していく。その廊下にはずらりと部屋が並んでいたが砂を浮かせる事くらいは苦にもなからなかった。

 

そして角を曲がりる。するとまた先ほどと同じ隊列で、同じ銃で、射撃をしてくる。結果は前の二回が表している。

 

「おいおい、ずっとこのままか…?」

 

作業ゲーは嫌いだった。

 

 

================================

 

 

かなり艦内を探したがまだ、打ち止めは見つからない。今いる階段を降りれば船の最深部になる。

静かな艦内に自分以外の足音が混じる事に荒道は気づいた。その足音はこちらに近づいて来る。単体で近づく兵士は初めてだったので話を聞く事にする。

兵士が階段を登ろうとした瞬間に合わせて飛び、首を片手で持ち、そのまま壁に抑えつける。銃は不意打ちで力が入っていなかったのか、手から離れている。

 

「化物め…!」

 

ロシア語で呻くようにして兵士は呟く、だがそんなものは無視して荒道は話す。

 

「打ち止めはどこにいる?言わなければ殺す」

 

言葉が伝わるようにロシア語で伝える。この発言で荒道が無線機で話した内容と今話した内容に矛盾が生じるのだが、単身で兵士を次々と殺すような、もはや人間と言っていいのかわからない化物に首を掴まれている状態で冷静な判断をしろと言う方が酷だろう。

 

「打ち止め…?知らないな…化物め…」

 

ロシアに忠を尽くす海兵として最後の抵抗だった。

だがそんな事は荒道にとっては関係ない事だった。

 

「そうか。…さっきから、化物って言ってるよな。まぁ、躊躇なく人を殺せる俺は化物かもしれないがな、あんな幼い子を拉致するテメェらも十分化物だよ」

 

海兵は反論しようとした。だが次の瞬間に左手の拳が海兵の顔面に叩きこまれ、そのまま骨を砕き、脳をグチャグチャにする。

 

しばらく歩くと倉庫に入る。ここには乗組員全員が日本からロシアに行くまでの物資が積まれているのでかなり大きい作りになっているので能力範囲を半径30mまで伸ばし、捜索を始める。

 

数分するとセンサーが小さな人影を感知する。この積まれた物資の向こう側。周りこむと、十月九日、暗部抗争があった日と同じ格好をした打ち止めがベットの上に転がされている。

目は開けていないが脈拍は正常、体の血管にも異常は無く、揺すっても起きないので薬か何かで眠らされているようだった。

 

ホッと安心したがそれでは済まされないものがあった。

打ち止めの扱いである。ただ単純に倉庫と言う、人間では無く、物が入れられる場所に置いている。

すなわち打ち止めを物扱いしている事が荒道の怒りを買った。

これで帰ろうかと思っていたがさらに攻撃しなければ気がすまなくなった。

まず、今まで起こした惨劇、これから起きる惨劇を見せないために打ち止めに大きめのハンカチを使った目隠しをする。その次はこの船、『鳥籠』の周りにつかせている水上オートバイクに現在地まで来るように操作する。

 

打ち止めを背に乗せ、『虚偽地球』で飛行甲板を目指す。垂直に浮き上がり、途中の天井は原子と原子の結びつきを外す事によって、溶かしていく。

 

荒道は艦内を巡る間に大体の構造を把握していた。『電話の男』が船を沈めるなと、命令したのは原子力空母だったから、放射能等々が漏れ出すのが不味いだけ。そこで荒道は原子炉で最も問題がないであろう、艦橋にミサイルを撃ち込む。

 

飛行甲板に足を下ろし、ミサイルハッチを発見すると迷い無く進む。そして、ハッチを開け、『虚偽地球』の力だけでミサイルを引っ張りだし、

 

「うらぁッ!!」

 

と一声に投げ、少し遅れてから『虚偽地球』の力だけで推進したミサイルは艦橋に命中する。

 

轟!!戦闘機を墜落させた時よりも激しい衝撃が『鳥籠』全体を震わせる。爆音の中に悲鳴が混じる。

 

その後は踵を返し、来ていた水上オートバイクに乗り込み、後部座席に打ち止めを寝かせる。

運転してすぐに電話がかかってくる。

 

「なんだ?仕事ならきっちりしたぞ」

 

『ええ、ありがとうございました。後は下部組織がしますので、打ち止めを家に帰してあげて下さい。ではおやすみなさい』

 

やはり『電話の男』との会話は嫌気がさす。

電話をしまい、モンスターマシンをフルスロットルにする。時速700㎞の水上オートバイクを堪能しようかと思った時、後部座席から声がする。

 

「ううん…ってミサカはミサカは目を覚ましてみたり…」

 

そう言うと起きあがり、

 

「あれ?目を開けたのに真っ暗?!ってミサカはミサカはあたふたする!」

 

焦っているかと思えば、

 

「何か頭についてる?ってミサカはミサカはそれを外してみたり!」

 

となんだか騒がしい。

 

「おはよう、打ち止め」

 

一度船を止めてから後ろを振り向き、笑顔を話かける。

 

「あなたは誰?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

 

「俺は荒道大地。一方通行の『家族』だ」

 

「あの人にも家族が居たんだね!ってミサカはミサカは驚いてみたり!…でも顔があまり似てないってミサカはミサカは疑問に思ってみる」

 

「血は繋がってないからな。まぁ、今は学園都市に帰ろうか」

 

水上オートバイクをかなりのスピードで走らせると打ち止めの嬉しそうな声が聞こえてくる。

もう少しスピードを上げてやろうかと、思った時再び電話が鳴る。

電話にでて、もしもし、と言う前に声が入る。

 

『大地ィ?何やってンだ?』

 

かなり強い口調の一方通行の声が電話から聞こえる。

こちらが言う前に一方通行の言葉が続く。

 

『黄泉川から『打ち止めがいなくなった』っゥからオマエ以外の『グループ』全員で探してる最中にロシアのスパイを始末しろって仕事が入りやがってよォ、オマエに電話かけてもでねェ。電話にでねェのはともかく仕事をしねェとはどういう事だ?ニートかァ?ニートなのか?!』

 

「落ち着け、一方通行!あと、俺は学生だからニートじゃない!!」

 

電話の先の一方通行はいい返そうとしたがそれを止めた。電話の遠くの方から『あの人?!一方通行なの?!ってミサカはミサカは事実を確認してみたり!』と聞こえたからである。

食い入るように電話に向かって叫ぶ。

 

『オイ、大地!!どうなってンだ!?なんでオマエの所にあのガキがいる!?今どこだ?!』

 

手元のタブレット端末を見ながら荒道は答える。

 

「えっと…太平洋?伊豆半島の近く?」

 

『ふざけてンのか?』

 

「結構マジだ」

 

『…意味がわかンねェ。詳しく説明しろ』

 

「(俺は夕方に『電話の男』から打ち止めの奪還の仕事が来たんだ。拉致したのはロシア。ちょうど神奈川県に来ていた原子力空母『プチーツァ・クリェートカ』に打ち止めを乗せて出航した。いくら原子力艦でもスピードは遅いからな、今乗ってるモンスター水上オートバイクに乗って追いかけて、打ち止めを奪還、それで今に至る訳だ)」

 

口元に手を当てて、打ち止めに話を聞かれないようにコソコソと喋る。

 

『帰って来たら連絡してくれ、そこに行く。…あと、クソガキを海で遊ばせてやってくンねェか?学園都市に住んでたら滅多に外にはでれねェからな』

 

「わかった、じゃあな」

 

電話を切ろうとした時『大地ー!ちょっと待つんだぜい!』と電話から聞こえてくる。

再び耳に携帯を当て、会話を始める。

 

「どうしたんだ、元春?」

 

『今日は飯を大地に作ってもらおうかと思ってにゃー』

 

「任せとけ!…で何食べたい?」

 

『そこらへんは大地にお任せするぜい』

 

「なら、お好み焼きにでもするかな?」

 

『よし、じゃあ材料はこっちで用意しとくから早く帰ってくるんだにゃー』

 

「じゃあな」

 

今度こそ、通話を切る。それを見計らったのか打ち止めが肩を揺すってくる。

 

「ねぇ、ねぇ、アラミチ!もっともっとスピード出せないの?!ってミサカはミサカは願望を交えて聞いてみたり!」

 

「えっと、海でちょっと遊んだりしない?」

 

「ミサカはスリルを求めたいのだ!ってミサカはミサカは我を突き通してみたり!」

 

「よし、じゃあしっかり捕まっとけよ!」

 

そう言って水上オートバイクのスロットルを全開にする。

その時の荒道の顔は日常の顔に戻っていた。




緩い感じと言ったな、あれは嘘だ。
ええ、嘘です。すいません。やりたくなって…。ネットで調べた知識くらいの物なので間違っていたらすいません。
次は原作16巻に入ります。そして、衝撃の事実が明らかに!ご期待ください。
今回も読んで頂きありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。