うるさく静かな時間
本日の学校の四時間目は異様に長引いてしまった。
原因は上条当麻と荒道大地、この二人にあった。
それは上条が歴史教師に放った一言『へぇー、じゃあもしも織田信長が織田幕府を作っていたら日本はどうなっていたんですか?』から始まった。
荒道はレベル5級の能力者なので頭は良く、能力者である以上、数学、理科は朝飯前、英語も普通に話せるので面白みを感じない。国語はそこそこ。
なら、残る主要五科目の最後の一つ、社会はどうだろうか?社会はほぼ暗記科目。習わなければわからない事がほとんどだ。だから、学校に最近まで通っていなかった荒道にとっては新鮮な、興味が持てる面白い科目だった。上条の言葉に感化された荒道は予想を歴史教師にぶつける、そうなればあとは荒道と歴史教師の間で議論が始まるだけであった。
長引いた授業の後、上条らは購買に駆け込むもパンは売り切れ、食堂は空いてない。おまけに食券販売機は
上条は小萌先生に家庭科調理室の解放をお願いしたが駄目だった。
授業を長引かせた犯人、上条当麻は飢えに苦しんでいるのに対し、一方、荒道大地は自分の持って来た弁当食べている。
上条を始め、土御門、青髪ピアス、弁当を作り忘れた
「脱走だ!脱走してコンビニで飯を買うんだ!!」
誰かが叫んだ。いつの間にか空腹な二十一人が円陣を組み、作戦会議を始めている。こう言う時に力を発揮するのは吹寄だ。
「全員が一斉に学校を出れば流石に気付かれるわ!こういう時は実働部隊を三〜五人に絞って、その人達にお金を渡して買って来てもらうのが得策よ!」
そこで吹寄が言葉を切り、バン!と机を叩いてから話を続ける。
「そして!実働部隊の一人はもう決まっているわ!!」
そう、吹寄が言った後、空腹同盟二十一人が照らし合わせたように元凶の一人、荒道を睨みつける。
それまで他人事の様に見ていた荒道は
「ヒイッ!」
と情けない声を上げる。自分がこの要因の一人だと理解していた荒道は観念して、罪滅ぼしのために作戦会議に参加する。
土御門が要らないプリントの裏に正確な見取り図を素早く書き、作戦を考え始める。
「これが不審者対策の警報関係の位置。こっちの赤外線センサーは夜間だけだから気にしなくて良い。…で、職員室の位置完結を考えると正面から出て行けばフェンス周辺で即バレする。窓から校庭全体が丸見えだからにゃー。やっぱり、基本は裏口だぜい。ただ、購買のおじさんなども出入りするから、そことぶつかると厄介にゃー」
「なるほど…ポイントは裏口を通るタイミングってわけね。よし、役割分担を決めるわよ!」
学校を脱走する実働部隊に選出されたのは既に決まっていた荒道、いつものクラスでの暴れっぷりを評価され、上条、土御門、青髪ピアス、吹寄の五人となった。
「でも不幸な上条に昼飯なんて大丈夫なのか?」
「あいつはいざという時に囮と言う大役がある」
「なるほど、グットアイディア!」
ボソボソ言っているクラスメイトと最後に同調した荒道は上条のゲンコツをくらう。
その他は皆バックアップに回る事になった。
携帯を大人数で話せるトランシーバーモードに設定して、デジタル時計を秒単位まで合わせる。
「じゃあ、予定通りに。…作戦開始!」
吹寄が二回手を叩くと蜘蛛の子を散らすように空腹同盟二十一人と荒道が教室から出て行く。
上条、土御門、荒道、青髪ピアス、吹寄は廊下を『早歩きと走るの境目辺り』の速さで歩いて行く。これは『廊下を走っている所を見咎められる』と言うイージーミスを防ぐためである。革靴はおいて置き、上履きのまま裏口に向かう。革靴が無いのに、グラウンドで誰も遊んでいないと言うのはかなりおかしい状況になるからだ。
一旦別れた仲間が体育用の運動靴を持ってきてくれる。代わりに上履きを預け、また『早歩きと走るの境目』の速さて歩き始める。
校舎から体育館へ繋がる『外にある通路まで行くと、運動靴を履いて一気に外へ出る。そこからはダッシュで、誰かに見咎められる前に校舎裏に走る。
金属製のフェンスが見える。周りにはネックだった購買のおじさんもいない。
「よし!このまま一気に脱走するぞ!」
上条がそう言いフェンスに手を掛けようかと思った時、
ブッブー、と囚人が脱走した事を伝えるが如く、車のたけましいクラクションが鳴る。
後ろを振り返るとそこにはファミレスで外食して今帰って来たと言わんばかりのゴリラこと、
生活指導のゴリラは今ファミリー用の4ドアに乗っているのだが、ゴリラと形容されるだけの体格があると、公衆電話に入ってるように見える。
「チッ!!教職員の車両の出入りに裏口が使われる可能性を考慮すべきだったわ!」
吹寄は己の失策を悔いるが、上条が感じたのは他の事だった。
「卑怯だーっ!!よりにもよって外食かよ!あの猛獣ゴリラ、自分はくつろいで食べてる間に俺たちにはあのキャパ不足の食堂で骨肉の争いをさせてーっ!!」
荒道が感じたのは全く別の事だった。
「あれだけ体が大きいと大変そうだな…公衆電話とか入るのか?」
「馬鹿カミやん、荒道はん!何を言うとるねん!ここで捕まったらみんなのお昼はどうなるんや!」
ハッ、とした二人はゴリラ教師災誤から逃げるためにすぐさまフェンスに手をかける。吹寄はいち早く別ルートに逃亡。青髪ピアスもフェンスを登ろうとしたが、囮として土御門に蹴落とされてしまった。
学校の外に出た三人は尊い犠牲を無駄にしないため、敷地外の道を疾走する。土御門は走りながら後ろを振り返り、ギョッとした。
「あのゴリラ、青髪ピアスを絞め落としてこっちに来たにゃー!!」
今から後ろに走って、災誤先生を沈めるには三秒で足りるだろうがそれはできない。荒道の求める『平穏』な学校生活とは程遠いからだ。というか、学校を脱走して、コンビニに行ってる時点で『平穏』から離れている気がするが。
「土御門!大地!ここは三手に別れて逃げるぞ!」
「よし、わかった!」
真っ直ぐに上条、右に土御門、左に荒道と別れる。
別れたあとは問題なく、荒道はコンビニにたどり着くことができた。土御門も遅れて到着し、そのすぐ後に上条がやって来るがその顔には疑問が浮かんでいた。
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災誤先生は健康上の都合で早退なされました。
放課後、お昼ご飯大作戦をコンプリートした上条と荒道は下履き用のバッシュに履き替え、校門を出たそこには青い顔をした五和がいた。
「よっ、五和久しぶり」
そう言って顔を出すと、
「イ、イタリアンマフィアの人!」
と驚いた顔をしたのでまだ元気はありそうだ。
「あれは格好だけだ、俺はイタリアンマフィアじゃない!」
と力説する。天草式の面々と初めて会った時は警戒された記憶が荒道の頭に蘇る。
「待たせて悪かったな」
と言った上条の顔を見るとまた顔を青くする。話によれば災誤先生を後方のアックア?とかいう奴と間違えてぶっ飛ばしてしまったらしい。
「後方のアックア、という名前は覚えていますか?」
恐る恐るという感じで五和が上条に聞く。
「確か、『神の右席』の一人だよな。九月三十日に会った事はあるけど」
荒道が学園都市に来る前なので、知る由も無いが、九月三十日には上条当麻は『神の右席』・前方のヴェントを激戦の末倒した。その時、前方のヴェントを回収したのが後方のアックア。
「話の腰を折って悪いが、『神の右席』ってのはなんだ?」
質問をすると五和が申し訳なさそうな顔をする。
「ああっ、すいません…。えっと、『神の右席』と言うのはですね、ローマ正教の暗部でして、初めはローマ教皇の相談役だったらしいですけど今はもう、実質的にローマ正教のトップに立っているみたいです」
「なるほど。それで、その後方のアックアとやらがどうしたんだ?」
「また外国の街で妙な事始めようとしてるのか?」
上条が聞くと、とても言いづらそうな顔になる。数秒ほど黙り込んで、言葉を考え終えたのか、五和は言う。
「あの…それがですね…、今回の目的はあなたにあるみたいです」
「は?」
「ええと、イギリス清教と学園都市に果たし状が来てまして…内容が、後方のアックアが数日中に上条当麻を襲撃するから用心して置け、と」
イマイチ、『神の右席』に狙われるという事の重大さがわからない上条は微妙な顔をしており、横の荒道は呆れた、という顔だ。呆れの先はそこまでの事をやった上条について、だ。
「はぁ〜お前も来るとこまで来たな…」
「いや〜上条さん的にはそんなにやってないと思うんですけどね…?それにしても、何でただの高校生一人にそこまでバカ高い経費をかけるんだろうな。前方のヴェントの話しじゃ、ローマ教皇に書類を作らせてたみたいだしな」
「ひっ!?いえいえいえ!?あなたがこれまでどれだけの人を助けたり、ローマ正教暗部の企みを次々阻止したりしたわけでして、それはもうただの高校生で済ませられないというか!」
五和がかなり焦って叫んだが、上条は天草式補正がかかっているものだと結論付けた。
「にしても前方、左方ときて後方か」
「今、イギリスで調べているんですがそれらしい情報がなかなか出ずにいて…」
「秘密組織中の秘密メンバーだもんな」
「詳細を掴めない『神の右席』としての力はもちろん、『聖人』としての力もあるようなので、
ここで荒道が五和に質問する。
「女教皇様ってのは誰だ?これは確認なんだが、『聖人』は『神の子』に身体的特徴が似てるから偶像崇拝の理論で『神の子』の力の一端を引き出せる、だっけ?」
「『聖人』についてはその通りです。テストで書けば間違いなく丸が貰えます。女教皇様は私が所属している天草式十字凄教の教皇で名前を
「その神裂も『聖人』なのか?」
「察しがいいですね」
『聖人』というのは世界で二十人といない。その訳は先天性であるからで、努力どうこうでなれる事ではないからだ。人数もさる事ながら、『聖人』の希少価値が高いのはその身に秘める圧倒的な『
実際に、『聖人』神裂火織は本物の天使と戦い、生還している。
「でも私達にも策が無いわけでは無いんです」
五和が意気込みながら話す。
「『神の右席』は魔術サイドで絶大な力を持つ組織です。正直に言って私達が太刀打ちできるかどうかわかりません。でも今までに前方のヴェント、左方のテッラと退ける事に成功しています。それは何故か」
「ふんふん」
「詳しく分析したのかはわかりませんがその二人には『科学サイドからの大規模な介入があった事』って言うのが共通してるんですよ。左方のテッラの時は駆動鎧と超音速爆撃機が計画を変更させましたし、前方のヴェントの時は…ええと……天使のような物が見えたとか?」
上条は言われてみればそんな気がすると思っているが荒道は左方のテッラ、超音速爆撃機という言葉を思い出し、
(あの一件ってやっぱり魔術絡みだったのかよ…しかも当麻達はそこに至ったぽいし、あの爆撃が当たってたらシャレにもなんなかったな…)
後少しで友を殺すところだったと考えると寒気を覚える。横を見ると変わる事なく上条と五和が話しており、もう一度普通に会話に参加しようとする。
「表からも陰からもひっくるめてアックアからの護衛に当たるって事は他の天草式は周りにいるわけか?」
「そうですね、ここからは見えないと思いますが、皆さん一般人に身を隠しながら上条さんを中心に一定の距離を保ちながら移動していると思いますよ」
「そうか…なら探してこよう!」
好奇心。ただそれだけで隠密のプロ、天草式十字凄教に荒道は一方的にかくれんぼを始める。
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天草式が学園都市全体にいて、それを探すとなればほぼ無理に等しいが、護衛任務に就いている天草式は上条と付かず離れずの距離を保っている。それなら捜索範囲はぐっと狭まる。
荒道はビルの上を飛んだり、道路を駆けたりしている。もちろん能力フル稼働で。
そして見つける。見つけれたのはその一箇所に止まっていたからだ。その場所は小さな映画館のすぐ傍、近くには細い横道があり、さらに横道を宝くじ売り場が設置され、視界を遮っている。人ごみの中にありながらも人の目につかない奇妙な場所に。
映画館の上から降りると天草式全員がこちらを見る。全員体が強張ったような反応をするが今は無視し、天草式十字凄教の教皇代理・
「久しぶり、建宮!」
「おお、久しぶりなのよな。荒道」
「あれ?荒道って学園都市に住んでないんじゃなかったっけ?」
女性の中では長身の対馬が聞いてくる。
「あれから色々あって引っ越したんですよ…で、建宮。護衛任務の途中になんでサッカーボール?」
そう、建宮の足元にはサッカーボールがある。学園都市では普通にサッカーが行われているが、細い横道とはいえ、すぐ横に人が多い通りがあるところでする事ではなく、すれば確実に目立つ事になる。
「まぁ、このフィールドの狙撃手・建宮斎字を見ておくのよな」
そう言うと数歩下がり、助走をつけ、サッカーボールを蹴る。強烈なスピンがかかったボールは鋭い弧を描く。その先を見て見るとそこはさっきまで一緒にいた上条当麻の側頭部。
ボールは見事に上条当麻の頭にゴール。
その上条当麻は気絶しており、横で歩いていた五和の胸にゴール。
そして、荒道の手が、建宮斎字の頭をかなり勢い良く、スパーン!とゴール。
「何やってんだーッ!!」
頭を抱えながら建宮は
「ちょっと待つのよな…!あれは五和の事を手伝ってやろうとおもってな!」
と言うが、紳士を自称している荒道にとっては許される事ではない。さらに言葉を重ねようとした時、
「人が色々抱えて困ってるのに…変なモノを追加でゴロゴロ押し付けてんじゃないわよアンタらーっ!!」
怒声と共に雷撃の槍が連続で飛んでくる。なんだかもうお馴染みと言えるほどになった学園都市第三位・御坂美琴である。
「ヤバッ!」
建宮がそう呟くと天草式の面々が人混みに紛れていく。荒道もダッシュで逃げる。
天草式は技術で人混み紛れ、御坂の目から逃れたが荒道はただ力技で走っただけである。
今回は物語の構成上、短くなりました。受験が終わったので不定期には変わり無いんですが投稿ペースを上げていけると思います。
今回も読んで頂きありがとうございました。