絹旗最愛
「………ろせ……せ……………せろ!」
荒道の頭の中に声が響く、聞き取り辛い言葉、男か女、それさえもわからない。距離など掴めない真っ暗な闇の中にいるのにその声はとても近くにあるとわかる。
荒道はこの時、自分の意識が薄れて行くような、乗っ取られて行くのがわかった、そして意識を失ってはいけないのもわかっていた。
何時間か経った時、4時のアラームが鳴り響く。
ガバッ、と起き上がった荒道は深く息を吸い、呼吸を整える。
(またこれか…)
彼がそう思うのも何回目か数えられなかった。そしていつも同じことをを思い出す。
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荒道はロシアにいた時、いつものように工事現場で仕事を終えてそこの作業員とバーにいた。作業員は彼の不思議な力に期限まで間に合わないという所を助けてもらい、酒を奢っていた。
ウイスキーを飲みながら荒道はロシア語で尋ねる。
「俺はもうそろそろロシアを出て行こうと思うんだ。だから最後に何かいい所はないかい?」
「なら、占星施術旅団に行くといい。…あれは元だったかな?まぁいい、この街の北のはずれに来てるはずじゃ」
作業員の中では一番高齢の男が酒で顔を赤くしながら話す。砂漠が2年間ですっかり肌に合ってしまった荒道にとっては寒い場所は嫌だったが、まだ9月なので暖かく、行くことにした。
酒には強い荒道は二日酔いなど起こさず快調な朝を迎え、言われた通りに歩くと直ぐに見つかった。
客として案内されてテントの中に入った途端にわかった。ここは魔術を使っている所だと。
「さぁ、今日は何の相談かな?」
いかにも占い屋然とした老人だった。
「俺の夢を暴いて欲しい。本物の魔術を使った占いで」
『アドリア海の女王』の一件で魔術を学んだ彼は14、15歳の頃から不定期に見るようになっていた謎の夢の正体を知りたかった。荒道は老人に自分が魔術を知っている事を話すと観念したかのように占い始めた。
数分で占いが終わり、伝える時の老人の顔は酷く疲れていて、そして脅えているように見えた。
「若いの…お前さんの身体の中には何か…強大なモノがある。わしら普通の魔術師ではその鱗片さえ見れない程の…何故人の身にれているのか不思議な程に大きなモノがお前さんの身体には入っている。…夢に関してはそれが影響してるとしか思えん…わしはこの旅団では一番占いには長けておるからな、この旅団ではこれ以上の事はできん…力になれずすまんな…」
「いや、占ってくれてありがとう。それは多分いつかわかると思う。確証はないがそんな気がする」
料金を支払いながらそう言ってテントの外に出る。
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この事は家族にも秘密にしてあることだった。得体の知れないモノを抱えてると知られたくなかった。これは自分一人の問題だと荒道は思っていた。だからそこで思考を切った。
周りはテレビや本棚。後ろを向くとキッチンがある。学生寮に届いた荷物は全て昨日の内に片付けておいた。
荒道はいつものトレーニングメニューをこなしているといつも以上に調子が良く、気づけば1時間以上も多くやってしまい、慌てて朝、昼、夕、明日の朝、学校に持って行く弁当の大荷物を買いに行った。朝食を食べた後は資料等に目を通し、早めの昼食を食べた後制服店に出かけて何事もなく制服を買って郵送してもらう。理由はぶらぶらしようかなと思ったからである。
店の外に出るとビルが目に止まる。店名は『
(もう、ここに居座るんだから私服、買った方がいいよな)
そう思い店に入る。
店の中は至って普通の店で男物の服屋を探していた時に目に入るものがあった。ふわふわしたニットのワンピースにボブ位の長さの髪の毛、そしてその少女もこちらを見ている。
「あっ!絹旗」
「あ!あなたは超あの時の!」
「すまなかった!」
速攻で頭を下げる荒道。絹旗はあたふたしている。
「えっ…超どういうことですか?!」
「いや、あの時酷いことをしてしまった非礼を詫びているんだが…もう怖くないか?」
この時絹旗の頭が邪悪に回転した。
(この人罪悪感が超あるみたいですね。ここはひとつ仕返しに…)
「まだ怖いので服を買って下さい!」
閉塞空間で窒息した時の怖さは意識が回復してからも残っていたが一晩すればなくなっていた。仕事もなかったので服を買いに来たのだが偶然にも荒道と会い、それを利用し、服を買ってもらおうとしているのだが、さっきの言葉に普通の人ならおかしいなと感じる所だがそこは女性に優しい荒道。
「よし、じゃあ買いに行こう」
自分の目的など放り出してしまう。
絹旗はあっさり認め過ぎて内心かなり驚いていたが隠しながら先を歩く。
「超名前はなんて言うんですか?」
「まだ言ってなかったっけ?俺は荒道大地よろしくな」
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「超どれにしましょうか?」
「これなんかいいんじゃないか?」
荒道、絹旗の二人は女性物のニット系のワンピースを見ていた。
「私が超決めます!」
と少し膨れ面をしながら怒る絹旗に荒道は何も言わずに下がる。そこから15分、絹旗が3着服を持って試着室に歩いて行く。その中には荒道が選んだライトイエローのワンピースも含まれていた。
「超どうですか?」
「いいんじゃないか?」
試着室から出てくる青色のワンピースを着た絹旗。
「そうですか?私は超微妙だと思うんですけど」
そう言って一通り着たので着替えている時に足元が揺れる。地震だ。学園都市は日本の関東地方に作られた都市、日本は環太平洋造山帯に属しているので地震は起きても異常ではないのだが次に起こったことが荒道にとっては異常な事態だった。
「うわっ!?」
可愛らしい声が試着室から聞こえたと思ったら、絹旗がカーテンを千切って目の前に現れる。
仰向けに倒れ、服を着かけた状態で腕はバンザイしながら下着だけの姿で。
「…〜〜ッ!!?」
荒道は一瞬固まってから驚き、砂の粒子を動かし、カーテンを絹旗の前にかけ、誰にも見えなくする。
絹旗は普通は怒る所だがこの人の良心に漬け込んで服を買って貰っているという所があり、怒れずにいて、カーテンで身体を隠してくれたので出た言葉は感謝だった。
「超ありがとうございます…見ました?」
「若干…ごめん…」
「まぁ、今回は不慮の事故で超許しておきましょう」
「ありがと」
絹旗は試着室から出るとまだ少し顔が赤いが荒道に話しかける。
「じゃあ、これとこれ超お願いします」
そう言って渡したのは、白いニット系のワンピース、荒道が選んだライトイエローの同じくニット系のワンピース。
「よし、じゃあ会計行くか」
金を払ってから絹旗が聞いてくる。
「そういえば、荒道って超ジャージですよね」
「そうだな。動きやすいし、これで寝れるし」
「あなたは超滝壺ですか?!」
「ん?あのジャージの子か?」
「ええ、超そうですよ」
「そうか、あの子にも悪かったって言っといてくれ」
「なんで荒道は優しいのに麦野には超あそこまでしたんですか?」
「あれは…もう、第4位にはこれくらいしないと止まらないかなぁ、と思って…」
「結構、超やり過ぎたと思いませんか?」
「正直思ってます…でもさ!俺基本的には女性に優しいよ!イギリス人やフランス人を見習って!」
「まぁ、こちらが悪いのに超謝る姿勢は驚きましたけどね」
「その話はともかく、俺も服買いに来たんだよ。俺そういうセンス無いと思うから見繕ってくれないか?」
「よし、いいでしょう。この超美少女絹旗に任せなさい!」
「頼んだ!」
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「う〜ん?何が超似合いますかね?何か好きな物とかありますから?」
「いや、それが人生のほとんどを診察衣、日光を遮断する素材の長袖とジャージで過ごしていたからな、唯一かっこ良いと思って着たのがイタリアンマフィアのスーツ姿だからな…特に好みはないんだ」
「荒道は本当に変わってますね」
絹旗が選んでくれたのはそろそろ寒くなるだろうということでダークブルーのタートルネックにパープルのフード付きベスト、動きやすいライトグリーンのズボン。
「おー!いいな!」
「そうですか!やはりこの絹旗の超センスに間違いはなかったです!ではそれを買って超次の所に行きましょう!」
「おー!ってまだ行くのか…?」
「もちろん次は超映画です!」
「わかった。俺はこれ買って来るよ」
「せっかくだからそれを買って、着てから超行きましょう!」
服を買いその場で着せてもらい、待たせていた絹旗の元に向かうがある事に気づく。流石に五万も使うと金がない事に。
「ちょっと待ってろ、金下ろして来る」
「超了解です。どれだけ超預金があるんですか?」
答える前にATMに土御門が用意してくれたキャッシュカードを入れ、暗証番号を入力し、五万円引き出す。
「確か…五百万くらい」
「今引き出した分の超10倍ですか!というか預金金額は超普通に教えないで下さい!そんな事してたらあなたは人がいいんですから変な女に超捕まってお金取られますよ!」
「心配してくれてんのか…ありがとな」
荒道は20㎝ほどの身長差を使いポン、ポンと撫でる。
「やっ!超やめてください!!」
絹旗は顔を赤くし、手を払おうとするがその手は直ぐに引っ込む。
「どうした絹旗、顔を赤いぞ?熱あるのか?」
「超大丈夫です!超行きますよ!」
二人は一度外に出て地下街に入った。
「今日は超これを見ますよ!」
道中、絹旗が渡してきた映画雑誌を見て荒道は呟いた。
「…もうちょっと違うのにしない?」
「あなたに超決定権はないです!」
「こんなの明らかにB級、C級映画じゃねーか?」
「あなたは女性に優しいんですから、超従ってください!」
「なんか、それとこれとは違うような…」
二人は映画館に入るが客はああと絹旗の二人だけだった。
絹旗と明らかにB級、C級映画を見に行った。結論から言おう。最高だった。世界観は怪獣が現れる世界で、人類は本当に親しい人どうししか乗れない二人乗りの巨大ロボットに乗って戦うと言うストーリーだったが、素晴らしいCGや音楽に魅了され、映画が終わった後に「バッキャロー!!広報なにやってんだ!!」と叫びたくなるくらい、映画の内容と比べと宣伝やパンフレットが酷かったのが売れない原因に違いない。世の中は残酷だ。(この日の荒道の日記より)
「うー。なんで超起こしてくれなかったんですか?」
「悪い、悪い。スクリーンに集中し過ぎてな」
二人は地下街を歩いていた。絹旗が不機嫌な理由は簡単なことだった。映画を序盤でつまらなさそうと判断した絹旗は直ぐ寝てしまったが荒道からの感想を聞くとかなり面白そうだったので後悔しているのだ。
「私の超アンテナも鈍ってきたのかもしれませんね…」
この状況をどうにかしようと周りに目をやるとクレープ屋が見つかる。
「よし、クレープ食べよう!」
「奢りですか?」
「奢りだよ」
荒道が首を縦にふると絹旗は元気に走って行く。
絹旗はクリームがかなり入ったクレープを、荒道はキャラメルソースとアーモンドのクレープをベンチに並んで食べている。
「いやー超悪いですね〜」
「いいってことよ。ほらクリームついてるぞ」
そう言って手で絹旗の口元のクリームを拭い、自分の口に持って行く。
異常なまでの天然への怒りと恥ずかしさで自分の能力の窒素装甲を展開して殴りかかろうとした時
「やっぱり熱はないんだな…」
荒道が自分と絹旗の前髪をかき上げ、額と額を合わせていだ。
自分が熱だと心配しているとわかると絹旗はすっかり毒気を抜かれ、赤い顔を隠すためうつむいてクレープを食べる。
顔が普通の色に戻すためにたっぷり時間をかけてクレープを食べた絹旗がベンチから立ち上がる。
「さぁ、超帰りましょう」
「もう、こんな時間か…帰るか」
二人は立ち上がり、地下街の出口を目指して歩いて行くと携帯ショップの横を通るときにチラシを渡される。
「何の超チラシを貰ったんですか?」
「これだよ」
と渡されたチラシには『ペア契約でお得に!!恋人!夫婦で!』とかかれていて『恋人』の文字で自分達が恋人に見られていると思い、今日何度目と知れぬ赤面をした。
「そうだ。電話番号でも交換しとくか?」
携帯電話のチラシを見て思い出し、絹旗に聞くが
「ええ…超いいですよ…」
うつむきながら返事をする。
地上に出ると荒道と絹旗の帰り道は真逆だった。
「ありがとうな、今日は楽しかった」
「私こそ超ありがとうございます。…後その超天然は治したほうがいいですよ」
お互い何故こうなったかも忘れてお礼をいう。絹旗は追加で指摘が入るが
「天然?何のことだ?」
という反応なので治らないのかも知れない。
「超もういいです。超バイバイです」
「ああ、バイバイ」
二人は別の向きに帰るが
(今日は超楽しかったです!そういえば、超久しぶりですね)
(今日は楽しかったな、何年ぶりだろう?)
気持ちは一緒だった。
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荒道は日記を書いていた。外で騒がしい声が聞こえる。耳のいい荒道は耳をすますと自身の能力について話していたのがわかった。
ノートを閉じ、寝ようと思ったとき誰かに見られているのを感じた。周りを見渡すが部屋には荒道以外誰もいない。探してやろうと集中して、砂の動きを見始めるとそれはピタッと消えた。いつしか外の話し声さえ聞こえるなくなり、荒道の部屋には静寂が訪れた。
突然のシリアスすいません。次の話は学校に行く話しです。今回も読んでいただきありがとうございます。