表には聞こえぬ銃声
死角という物は意外な所にある。大手のデパートの一室、そこは外部の清掃業者からすれば『店の従業員が使っているのだろう』と思い、従業員からすれば『外部の清掃業者が使っているのだろう』と思うことによって成立している施錠された鉄のドアの中の一室。だが今は違った。事前に鍵を預かっていた土御門がドアを開け中に入る。
中は10人は掛けれるソファー、その手前に小さなガラステーブル、一番奥にはバーカウンターらしき物まであり、別世界が広がっていた。
「いらっしゃーい」
奥から土御門を見つけたのか陽気な男の声がする。男は土御門より身長が低く、軽薄そうな顔立ち、どこかのブランドのスーツ、ネクタイはしめておらず、シャツのボタンを3つ外していて胸板が見えている。首から携帯電話を4、5個下げている男の通り名は
「ああ、悪い、悪い。これ接客業だからさ、軽く見せる為にやってる訳、嫌なら辞めるけど?」
「いや、そのままで良い」
土御門がそう言うと、ニヤリと笑った。
「さてと、お探しの商品は何かな?今は解錠系の『センサー潰し』が粒揃いだ。ヤバいのはマネーロータリングの札束洗浄係。例の『〇九三〇事件』以降に新しい条例ができたから品薄になってるよ。後は普通かな」
強盗と言うのは複数人数でやることがある。鍵開け、突入、資金洗浄など色々あるが中には『強盗をしたいけど人数が足りない』という人向けに人材を紹介し、紹介料で稼いでいる人物だ。
「何か飲むか?」
そう言われた土御門はカウンターの方にある缶に目をやると眉をひそめた。
「シンナーを飲む趣味はないな」
「勘違いするな。あれはインク落としのためだ。アルコールは冷蔵庫の中に入ってる。結構いいのが揃ってるよ」
「どちらにしても遠慮しておこう」
「まぁ、仕事の前はそう言うもんだ。さて、ビジネスの話に戻ろうか?何がお望みだ?」
「ああ、俺はそっちじゃない。捕まえる方だ」
人材派遣はハァ?という顔をしていたが土御門が取り出した拳銃に驚き、慌ててカウンターの陰に入り、置いてあった防弾チョッキとサブマシンガンを手に取る。
土御門の撃った弾丸がシンナーの缶に穴を開け、たちまち嫌な臭いを充満させる。
人材派遣もサブマシンガンの初弾をリロードしたところで銃声が止まる。カウンターの奥から顔だけを出して覗き込む。
(弾切れか?)
だがそうではなかった土御門がオイルライターを擦っていた。人材派遣が見たのは火が点いた瞬間。土御門はカウンターに躊躇いもなく投げ込む。
サブマシンガンも防弾チョッキも置いて、カウンターから人材派遣が飛び出た直後、シンナーの水たまりにオイルライターが落ち、爆発的に燃える。
どうにか範囲内から逃げ出した人材派遣は丸腰で銃を突きつけられていることに気づく。
「待て!待て!待ってくれ!何もしないよ!抵抗なんてしな」
人材派遣が言葉を言い終わる前にトリガーを引く。人材派遣は驚いて脇腹を見る。そこには赤黒い穴があった。
「テ、メ…!抵抗しない、って…」
言葉を言い終わらない内に倒れる。
土御門は携帯電話を取り出し、登録されていた番号に連絡する。
「回収だ」
電話が何かを言い、土御門はこう返す。
「これからこいつのアドレスを使って調べ物だ。下部組織に連絡しろ。こっちは登録住所を元に調べるが一方通行は……いない?」
チッ、と土御門は舌打ちする。
「そうか。あいつはあっちに行ってるんだったなだったら仕方ない。荒道……もいない?」
さっきより大きく舌打ちをした土御門は面倒そうに伝える。
「海原、お前が出ろ。バックアップは結標に交代だ」
土御門は通話を切る。
土御門元春、一方通行、結標淡希、海原光貴、荒道大地。
彼ら五人を総称して『グループ』と呼ぶ。
社会の裏にいながら、表舞台を守るために活動している小組織だ。
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10月9日。学園都市の創立記念日であり、学園都市の中では祝日となり休みになる。
アビニョンから帰投した荒道は朝早くに一方通行に呼び出されていた。彼らが向かったのは病院、学園都市でもかなり大きな病院だった。
紫外線を反射していたせいで肌が白く、血色が悪く見える一方通行は迷わずに病院の中を杖をつきながら歩いて行く。その後ろには血色も良く、明らかに病人ではない荒道が歩いていた。
「どこ行くんだ?」
「黙って付いてこい」
さっきからこの調子だがどうやら身長の低いカエル顔の医者をつけているようだ。写真で見た事がある打ち止めと会話してからタクシーで送り出した医者だ。
その間何をしていたかと言うと物陰から見ていた。いくら一方通行に会いに打ち止めに行けと言っても行かないのだ。
医者は談話室に入ると一方通行も入っていく、カエル顔の医者は何か飲み物を買っているようだった。一方通行にアゴで横の談話スペースに腰を掛けろと言われたので訳がわからないまま座る。
一方通行が医者の背後に立ち、拳銃を押しつけた。センサーで見る限り、自分の身体を使って拳銃は見えないように工夫されているみたいだが荒道は焦っていた。
(こんなところでどういうつもりだ一方通行!いや、いざとなれば拳銃を人の目には見えないレベルまで融解させて…!)
そんなことを考えていると聴覚が優れている荒道は小さな声で医者が話すのが聞こえる。
「随分な挨拶だね…。アビニョンからはいつ帰ってきたんだい?」
「どこでそンなことを聞いてきやがった。…情報が欲しい。電極の設計図だ」
この会話だけで医者は只者ではないことがわかった。アビニョンへの侵略行為は公では全く違う理由に変えられ、レベル5の投下など発表されているはずないのになぜかこの医者は知っている。
電極の開発者だということにも驚いた。一度能力でスキャンをかけたことがあったが、よくここまで詰め込めたものだと、まだ学園都市の科学力の一端しか見たことのない荒道でもチョーカー型の電極が学園都市の発明品の上位に位置する物だと認識していた。
「何で設計図が必要なんだい?チョーカーの調子が悪いなら僕が直してあげようか?」
「黙れ。イイから渡しやがれ」
「もう少し早く来ればよかったのに、打ち止めが会いたがってたよ」
「テメェの知ったことじゃねェだろ」
「そうはいかない。何たって僕は医者だ。患者が欲しがっている物を揃えてやるのが僕の仕事だ」
「だから待ってたンだろうが。クソッたれ」
そう言うと一度会話が終わり、医者が着ていた白衣からシャーペンの芯ケースのような物を取り出した。荒道は既にセンサーでわかっていたがUSBメモリだ。
「用意がイイな」
「患者が必要な物を用意するのが僕の仕事なんでね」
(いや、用意よすぎるだろ…)
カエル顔の医者が心配したように付け加える。
「その中身を活用するのは難しいよ。僕は必要な機材は全部自分で作ってしまうからね。同じのを作るなら工作機械から作らなきゃならない」
「それは大丈夫だ、こっちには物を作れる能力者がいるからな」
言い終えると身体は拳銃を隠すために動かさず首だけ後ろを振り向き、荒道を見る。
荒道は合点がいった。一方通行は電極を作らせる為にこの場所に連れて来たんだと。
顔から意図があまり読めなかったため、取り敢えず席を立ち、カエルのの医者に挨拶をする。
「おはようございます。荒道大地です。以後お見知りおきを」
「顔は見えないから名前と声だけ覚えておくよ」
事故紹介されても前を向いていたカエル顔の医者は返事が帰ってこないのがわかると後ろを振り返る。そこにはもう誰も居なかった。
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病院から出てすぐ、土御門から電話がかかってくる。
「もしもし、どうしたんだ?」
「仕事だ。第七学区のマンション『ファミリーサイド』の二号棟に来てくれ。場所はわかるか?」
頭の中で地図をめくり、ここからのルートを確認する。
「大丈夫だ。ここに一方通行もいるから連れてこようか?」
「ああ、頼む」
訝しげに見ている一方通行に伝える。
「仕事だってさ。場所はわかってるからついて来てくれ」
「クソったれが」
そう言うと一方通行は前を向いて歩き出す。荒道は携帯電話を耳にあて、会話を再開する。
「仕事の内容は?」
「短く済ますぞ。俺は仕事で人材派遣っていう犯罪をしたい奴らに人を紹介してその仲介料で食ってる奴を捕まえた。どんな犯罪の手助けをしたか裏を取るために海原の馬鹿を人材派遣の部屋に行かせたんだがそこで海原が消えた」
「光貴が!?」
聞いた時は酷く焦った荒道だがどうにか落ち着き、話を聞く。
「突然通話が途絶えた。今から行くのはそれは海原を狙ったのか、人材派遣の情報を狙っていたのかを確かめに行く」
「その人材派遣から聞き出せないのか?」
「『情報は俺の頭の中にある』とか妙な駄々をこねられる前に裏付けが欲しくて海原を回したんだ。人材派遣は護送車で運んでいる。部屋から何か手がかりがみつからなかったら場合の最終手段として聞き出すつもりだ」
「そうか……。すぐ行く」
苦々しく電話を切ると荒道は歩調を早めながら、一方通行に土御門が教えてくれた情報を伝える。
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「ひでーな、こいつは」
荒道は第七学区のマンション『ファミリーサイド』のニ号棟の明らかに何かが爆発した跡がある部屋の玄関に入り、言った言葉だった。
4LDKはあった部屋なのだろうが今では壁が吹き飛び、部屋は2つしかなく、玄関に足を入れた時点でバスルームが見えている状態だった。
「ここか?海原の馬鹿が消えた場所は?」
一方通行が先に来ていた土御門と結標に話しかける。
「そうだ。目的は海原じゃなくて人材派遣の情報らしい。部屋からは情報が残っていそうな物は全部持って行かれてる……意外と落ち着いてるな、荒道」
唐突にかけられた言葉に戸惑ったが理解し、言葉を返す。
「光貴は簡単に死なない。それに仕事の時の覚悟はしてる」
短く、簡潔に返すと土御門はニヤリと、笑う。
「オーケー、オーケー、ならいい。じゃあ早速だがお前の能力でこの辺りに何かヒントが落ちてないか探してくれ。手がかりがなっかたので帰ってきましたじゃ、済まないからな」
「わかった」
荒道は目を瞑り捜索の準備をする。能力範囲を半径30mに拡大。集中しするとセンサーが精密になっていき、半径30mの『地球から出来た物資』がどこにあるか、その原子構造までもが彼の頭の中に入り込んでいく。
彼は能力は先ほどの状態のまま目を開き、歩き始める。
ボロボロになり、廊下か部屋か判別し難いところを歩いていると炭素だけで構成された物質が見つかる。ダイヤモンドだ。その方向に首を向けるとあるのは木の小さな箪笥、中に入っているのだろう。気になるのはそこではなく、同じ炭素を含んでいるというのに木はセンサーに感知されない自分の能力の曖昧さにうんざりする。
そんなどうでもいいような事までも記憶し、部屋の『地球から出来た物質』全ての探索を終える。
「スキャン完了。…元春の言うとおり、情報がありそうな物は全て持って行かれてるけど気になる物はあった」
伝えたあと気になった場面の記憶を呼び、覚える事が優先の記憶を頭の中で確認しながら伝える。
「クローゼットに人が入ってる。鉄が血管の中を動いて無いから多分死んでる…後は電子レンジの中にICチップを五つ発見した。多分、学園都市の紙幣に使われてるやつだ」
「紙幣は確か海原の報告にあったわね」
土御門と結標は動き出すが一方通行は綿が出ているソファーに腰掛けている。
「ほら、一方通行も!」
「ハイ、ハイ…」
反論するのも面倒だという感じで返事をして、電子レンジの中身を取り出す。
「…ビンゴだァ」
「あら、ほんとに紙幣だわ」
「あれ?淡希?信用してなかった?」
一言いうたびに顔をどんどん近づけていく荒道の顔と結標の顔の距離はキスの手前まで来ていて、淡希は
「そ、そそ、そんなわけないじゃない!?家族なのよ!?」
最後は意味がわからなかったが、顔を赤くしながら体の前で手を振っている。紙幣を持った一方通行は呆れてついにソファーに横になってしまったが「グループ」のリーダー土御門は違っていた。
「おい、いつから「グループ」はそんな仲良しチームになったんだ?…こっちもビンゴだ」
少し離れた場所にいる土御門はクローゼットの戸を開けて中にいた死体を引っ張りだす。土御門が死体をひっくり返すと脚の皮膚が10㎝ほど剥がれているのが見えた。
「これは海原の仕業だな」
「足のそれがか?アイツの趣味か?」
途端に結標が嫌な顔をする。彼女は以前に演算を誤り、足の皮が剥がれてしまったことがあり、そのトラウマは消えておらず、ストレス軽減のために低周波振動治療器を使わなければいけないほどだ。
「違う。アイツは人の皮膚を使って一種の札を作る。荒道以外は魔術を知らんだろうから理屈の説明は省くがあいつは他人とすり替われるスキルを持ってんだ」
覆面を引き剥がし、何かないか探りながら土御門は言う。
「海原はこいつとそっくり入れ替わってる。今は襲ってきたやつに混じって機を見計らってんだろうさ」
顔を上げ、つまりと、言ってから。
「あの変装野郎はまだ生きてる。どこで笑ってるかは知らんがな」
そうの言葉を聞いて荒道は安堵した。それが顔に出ていたのかニヤリとした結標が
「大地、今あなたホッとしたでしょ?さっき自分で『死んでない』って言ってたのに?」
先ほどの仕返しに結標がからかうが
「そりゃホッとしたさ。さぁ、とっとと仕事を終わらせよう」
思った成果を得れずに地団駄を踏む結標を見て後ろの土御門は呟く。
「ついに頭がイカれたか?」
杖を突きながら歩き出した一方通行が反応する。
「さァな?でも、大地の提案には賛成だァ」
闇が闇を潰すために動き始める。
こんな感じで5000文字程度に区切りながら投稿します。たぶん3、4話構成になります。この通りにできるかどうかはわかりませんがお願いいたします。
今回も読んで頂きありがとうございました。