うみさんに黙ってここまで勝手をしようとしているのは、いつ以来だろうか。
小学1年生からずっと傍にいた。一生尽くしても返しきれないほどの恩義が彼女にはある。
私、拓海は、自分の命を彼女に授けるのだと心に決めている。
彼女が困っているのならば、真っ先に手を差し伸べられるそんな存在であり続ける。
だから、今回も、手を差し伸べる。それが、彼女が一番嫌っているであろうやり方であっても。
うみさんが力がほしいといったその日の夜。いくら初夏だとはいっても8時にもなれば暗くなり、視界が悪くなる。
私は一人、ある人物との約束の地である学校近くの公園で、相手の人を待っていた。
時間にルーズな人物であるため、たかが1時間程度遅れることなどわかりきっている。それとも、わざと待たされているのか。
どちらにせよ、約束の時間が過ぎても姿を現さないことには変わりない。
「よくもまあ、大人しく待っているもんね。それほど、あの子が大事なの?」
背後から声をかけられ、やっと来たかと溜息を漏らす。
「急にお呼び立てして申し訳ありません。西住まゆさん」
「あくまで他人、ですか」
ふっと笑みを浮かべたまゆさんは、激しい剣幕を見せる。
「ねえ、それが姉に対する態度?」
「……私はもとより一人です。双子の姉などいません」
「……まあいいわ。で、用件は何?」
「戦車道をもう一度、してはくれませんか?」
「……私が辞めた理由、知ってるくせに。よく言えたもんね」
「ほかの誰でもないうみさんの頼みです。引き受けてはいただけないでしょうか? ……姉さん」
私がめったに使わない言葉を使ったのが効いたのか、まゆさんははぁと盛大な溜息とともに厭きれ顔を見せた。
「わかった。そこまで言うならやるわ。もう一度」そう言って私と目線を合わそうとしないまま、踵を返す。
「ねえ、うみちゃんは、みほさんに似ていないよね? ……一体、誰の子なんだろうね? ねえ、タクミ君?」
背中を向けられ、いったいどんな表情をしているのか読み取れないが、きっとほくそ笑んでいるだろう。
なにせ、彼女はすべての事情を知っているのだから。
西住まゆさんが転校してきて、2週間がたとうとしていたころ。私、東条うみにとってはきつい現実がやってきた。
それは、西住まゆさんが戦車道を選択した。ということだ。
戦車道を選択しているみんなにとっては、うれしいことでもあり、頼もしいこと。
でもそれは、私の居場所がなくなりかけていることを示唆しているようだった。
まゆさんが戦車道を選択してから初めての練習。
練習前のミーティングでまゆさんが入ったことと、まゆさんの自己紹介が行われた。
「いろいろあってやることにしました。私に期待しても何も出てきませんので、それだけは分かっておいてくださいね」
たったそれだけ言って、大きな欠伸をした。相変わらずの気だるそうな表情だ。
「彼女の加入は、大洗にとって大きな戦力となりえるだろう。公式戦での記録がないとはいえ、西住流宗家の出であることには変わりない。期待はするな、ということだからしないでおくが、がっかりさせるようなことだけはしないでくれよ? そして、ほかの皆は、まゆに頼りっきりになるのではなく、この前のひどい敗戦をしっかりと反省し自身向上に努めることいいな」
茅野先輩はいつものような自信ありげな素振りでそう言い、まゆさんの肩に手を乗せ何かをささやいた。
そんな様子を私はどうしてか直視できなかった。
私はどうして、西住まゆ以下の存在だと勝手になっているのだろうか。
時間軸の書き方が最近分からなくなり始めました。
かなりまずいですね!(´・ω・`)