放課後。いつもならば、日が落ち始める時間帯に戦車道の練習は終了する。
私、拓海はうみさんを迎えに向かうがてら少しばかり寄り道をした。
西住に使えている身として多少なりとも戦車に興味がある。軽く見物をするつもりで、ぶらぶらと倉庫を散策していた。
道中、茅野さんがⅣ号の入口に腰掛け、どこか遠い目をして空を見上げている姿を目にする。少しばかりの胸騒ぎを感じながら、声をかける。
「どうされたんですか?」
「なんだ。君か」
声をかけると、首を傾け俺の姿を視認しそう言った。
「私もつくづく力不足だ。結局誰も救えなかった。これではみほさんに見せる顔がない」
「まさか」
「君にも謝っておこう。早めに情報を譲ってくれたのに失敗だったよ」
「……失敗、か。まゆさんが転校してくることは簡単にわかったのですが、まさか壊してしまうなんて。……思いもしなかった」
「私の読みが甘かった。……本当にすまない。また繰り返す結果となってしまった」
「わかりました。あとはこちらでなんとかしてみます。ご足労有難うございました。形だけはそう言っておきましょう」
精一杯の反撃を込めてそう言った。茅野さんはむっとした表情を見せながらも「すまない」と謝罪した。
居心地がそこはかとなく悪くなったように感じた私は「それでは」と言い残し、逃げるようにその場から立ち去った。
本来の目的を果たすためだと心にいいわけをして。
それからほどなく倉庫内を進んでいった。倉庫の端で、うみさんを見つけることができた。が、どうにも様子がおかしかった。倉庫の壁に背中を預け天井を見上げ、心をどこか遠くで無くしてしまっているような様子だった。
「帰りませんか?」
「……やっぱり、強いんだね。西住って」
私の声で誰が来たのか理解した彼女はどこかあきらめがついた様な弱弱しい声でそう言った。
「いくら血を引いているからって、宗家の人のほうが嫌でも強いんだってこと、やっとわかった……」
「何を言って……」
私は彼女が何を言っているのか、理解したくはなかった。わかりたいと思いたくなかった。
「何が悪かったんだと思う? やっぱり周りの環境かな?」
にたりとした笑みを浮かべた彼女は、ゆっくりと首を垂らし、憎たらしい顔を私に向ける。
その時私は何かに自我を奪われた。
はっとした時には、彼女の頬を平手で叩き、涙を頬に涙を流しながら抱き付いていた。
「お願いです。あなただけは、あなただけは壊れないで……」
上ずった声でそう言い、泣きついている私は「うみ様」と呼ぶ従者ではなく、幼いころから彼女に恋い焦がれている一人の少年だったのかもしれない。
うみさんの父は東京出身の実家暮らしをしている人で、みほさんはその家で家庭を築いていた。そのため、宗家に一家で来るというのはそのころから珍しいことになっていた。
小学4年生になりたてのある日。その日は、珍しくうみさんたち一家が珍しく宗家に足を運んでいた。
私は姉であるまゆの戦車の整備や練習の手伝いをしようとしていた。だが、何もさせてもらえなかったのだ。
小さくて難しいことは何もわからないはずなのだから、今では納得できるが、当時の私にはそれが許せなかった。
姉はもうすでに戦車を取り扱いできた。だから、私も焦っていたのだろう。
だが、それは叶わずに、むしろ邪魔だといわれ追い出された。
追い出されたその足で、自室に戻り電気もつけないまま、体育座りをしてひっそりと泣いていた。
しばらくして、背後からうみさんのやさしい声が聞こえてきた。
「どうして泣いているの?」
「僕はいらない子なんだって。男だから、馬鹿だからいらないって。必要ないって」
「……う~ん。うん。じゃあ約束しよ?」
うみさんは、なにかいいことを思いついたのか、弾んだ声でそういった。
「約束?」
「私があなたをもらってあげる。だから、あなたはずっと私のそばにいて!」
満面の笑みを見せた彼女は私に小さな手をめいっぱい差し伸ばす。
私は無心でその手をつかんだ。
私がうみさん一家と東京に行くと言っても誰も引き留めもせず、何も起こらないまま宗家を後にした。
それから4年ほどたった時、姉のまゆが暴力沙汰の事件を起こし停学になったと知らせを受けた。
今回はずっと男の視点でやってみました。
なんかこう書きづらいですね。同性のくせに。