今年もこの作品をよろしくお願いします
千石はゾーンに入った
その瞬間キセキの世代は全員気が付いた。そして全員がこの試合で一番の警戒態勢に入る
かつて青峰は数回だがゾーンに入ったことがある。そしてその万能感、自分の力を余すことなく使える解放感、そして周りの風景、速度すら鮮明に遅く見える時間間隔。すくなくともゾーンに入っていない青峰には対抗するにも限度と言う物があることを知っている。ゾーンに対抗するには元々の圧倒的スペックが必要となる。青峰にとってそれは
しかしそのスキルが自分たちと同格である千石がゾーンに入った状態ではどれほど通用するかはわからない
76-86
今のスコアでは帝光が10点のアドバンテージがある。しかし今の千石の状況を考えればそのような点差などないと考えた方がいいだろう。そんな帝光の気持ちも知らずに千石はボールを運んでいく
キセキの世代全員が千石に対処できるようにヘルプ寄りの位置にディフェンスにつく。全員が最警戒モードに入るが
ピッ
千石はマークの甘い黒谷にパスを出す。帝光は予想外の
78-86
「ナイスパス!」
「おう」
明洸の予想外の攻めに困惑する帝光
「気を引き締めろ。相手の力は未知数だ。決して油断はするな」
赤司の言葉に再度警戒をしながらキセキの世代はフロントコートに上がっていく。そこでマークマンの確認を行うがマークマンが変わっていた
赤司には持田が、紫原には変わらず片山が、青峰には荻原が、緑間には黒谷が、黄瀬には若干ヘルプ寄りだが千石がマークについていた
「(どういう考えだ?今更マークを戻すなんて予想してなかったぞ。だがこれでパスはいつも通り出すことができる)」
赤司は今までの千石のディフェンスにより少なくない消耗を強いられていた。少なくともこのまま試合が進めば赤司にもゲームに少なくない影響を出していただろう
「(ならここは点差を広げるために)真太郎!」
赤司は点差を少しでも広げるために緑間にパスを出す
バチン!
千石がパスをカットする
「な!(馬鹿な!眼を使わなかったがやつはギリギリまで動きはなかった。あそこでカットするにはあらかじめあそこにパスがだされると知っていなければ届くはずが無い!)」
千石はそのまま誰の邪魔もされず悠々とレイアップを決める
80-86
「くっ(考えすぎるな。まぐれかもしれない。次で見極めろ)」
赤司は今度こそ見逃さないように
赤司は今度こそ千石の守備範囲外にいる青峰にパスを出す。しかし今回は千石はパスカットに対する
「(これは間違いない。やつは僕が何処にパスを出すかあらかじめ予想をしている。それもかなり高度な予想を)」
赤司が考えている間にも青峰はプレイを続けていく。青峰はお得意の
「甘ぇ!」
青峰はチェンジオブペースで千石のタイミングを外し、ドリブルで切り返し躱すが
バチン
それすらも今の千石には予想通り、いや答え通りだった
千石はわざと青峰がギリギリで反応し躱すことのできるタイミングで飛び出し青峰に自分の意識を向けさせたのだ。一度抜いた荻原から意識を外す為に
青峰が千石に足止めを喰らっている間に荻原は態勢を整え、千石を避けるために青峰が切り返しをしたドリブルを狙ったのだ。結果青峰は千石に意識が完全にいっており荻原まで手が回らなかったのだ
荻原は青峰からボールをカットするとすぐに千石にパスを渡し自らはフロントコートに駆け上がる。青峰と紫原もそれに反応し自陣のゴールに急いで戻るがボールを持っている千石はそんな急ぐこともなく悠々とボールをついてフロントコートに上がっていく
そのような行動をとった千石に両選手とも怪訝な表情になるが一人だけ違った
「(……なるほど。先程のような状況でも急ぐことなく周りをしっかり見ている。もしあそこで速攻をしていたらスティールを狙っていた僕にボールを獲られていただろう。今の奴は何手先も考え予想を立てている。こちらも迂闊な行動はできないな)」
赤司の言う通り今の千石はゾーンに入ったことにより飛躍的に情報処理能力が上がっていた。千石のゾーンは青峰のような身体的強化ゾーンではない。千石は身体強化はすくなくその分、情報処理能力が通常の人間数人がかりで行うような速度で処理をしている。その中で千石はいくつもの予想をたてその中で何が悪手か、何が最善か。多くの起こりうるであろう未来の中から相手の性格、プレイスタイル、現在の状況、その中からさらに選択肢を絞り正確な答えにたどり着く。勿論千石の答えは万能ではない。間違う事もある、そして予測不可能な時もある。だが一流のプレイヤーであればあるほど何が最善か何が今最もやってはいけないことか知っている。つまり一流プレイヤーであればあるほど答えにたどり着かれやすいのだ
静かにそしてゆっくりとフロントコートに上がっていく。その姿に帝光は何とも言い表せないような奇妙な感覚に陥る
そんな中赤司だけがこの奇妙な感覚の正体に気が付いた
「(まるですべてを見透かしているような顔と眼だな。普段はすべてを見透かす側なのだがな……まったくもって不愉快だよ千石恭一)」
赤司は千石の表情に不快な気持ちを抱く。しかし千石はここで思い切ったことを仕掛けてきた
シュッ
83-86
ワアァァァァ!
「マジかよ!」
「この土壇場で決めやがった!」
「これで帝光との差は3点差だ!」
千石は帝光が中を固めているとみるや青峰がマークにつく前にハーフラインからスリーを撃ったのだ。それに帝光は反応することができずスリーを決められるのをただ見ていることしかできなかった
緑間は先程の千石の3Pで再び対抗心を燃やしている。一度千石との勝負を決めたとしても、シューターとしてこの場で一番の仕事をした千石に負けたくないと思ったのだ
緑間が対抗心を燃やしている間赤司は冷静に今の状況を分析していた
今の状況は完全に千石のペースに引きずり込まれている。自分たちが千石を警戒したら他の明洸メンバーが攻め、明洸のメンバーにも気を向けると一瞬でも気を抜いたら一撃を叩き込まれる。ディフェンスでも単独で仕掛けるこちらの性質を利用しこちらを誘導しようとしかけてくる。今の状態の帝光にはこれまでにないほどアリジゴクの様に抜け出せなくなっていた
このような出来事は全中の決勝戦の鎌田西中学以来だ。あの時は合気道を利用したディフェンスによりファウルを誘発されロースコアの試合展開に一時的に追い込まれるほどであったが、今回はそれとはかなり別である。一人の
この現状を打破するために一度赤司はタイムアウトを取る
「お前たちが全力でプレイすることを許可する」
赤司はベンチに戻りそう一言告げる
「今の千石恭一を止めるには今の8割程度の力では止め切ることは不可能だ。奴は俺達が次にどのような行動をするか予想をたて対処してくる。それもかなり高度で確実な予想をだ」
赤司の言葉に紫原、緑間、黄瀬はうまく理解できずに困惑するが青峰は苦い表情をしていた
「確かにあれはやべぇ。俺がドリブルを誘導されて尚且つボールを奪われるほどの予想だ。今の8割じゃ荷が重いぜ」
青峰の先程のスティールが偶々でないことを知ると3人は驚く
「肝に銘じろ。この試合いまだかつて無いほど緊迫した試合になるだろう。一瞬の油断が敗北につながる。だが厄介な相手は千石恭一だけだ。それ以外は僕達の足元にも及ばない。奴の行動一つ一つを見極めろ。そして帝光の理念を思い出せ、勝つのは当たり前だ。内容云々は勝ってからだ。百戦百勝、僕達は今まで負けることはなかった。だから今回も勝つ。そして」
「絶対は僕だ!」
赤司の言葉に今までのどの試合よりも真剣な表情になる。決勝に来るまでにここまでキセキの世代が真剣な表情になったことはないだろう。それは同時にキセキの世代が千石恭一という人物を自分たちと同格と認めた瞬間でもあった
その頃明光ベンチは
「アイシングもってこい!」
「テーピング巻き直すぞ!」
「それよりもドリンクも持ってこい!」
帝光のゾーンプレスによって消耗した選手の体力を少しでも回復させるためにベンチメンバーが慌ただしく動いていた
「千石、プレスはどうする?」
持田は今までかろうじて突破できていたプレスの対処法ではいつか突破できなくなるとわかっており対策を練ろうとするが
「モッチーがスローイン……他のメンバーは上がって」
千石はあり得ないことを言い出した。今まで千石はパスをさばきながらどうにかしてフロントコートにボールを運んでいたのだ。それをこのタイムアウトの後から一人で運ぶというのだ。明洸メンバーからしたらこれ以上千石に負担を掛けたくないというのもあり勿論反対する
「恭一それ本気で言ってんのか!?」
「さすがにイッチーでもそれは無茶だって!」
荻原と黒谷も今までの状態を考え反対する
「まずお前の体力が持つのか?」
持田は一番の不安要素である千石の体力の問題について千石に聞く
「今は問題ない。それに今の方法は最善ではない。だが今の俺にはわかる。何が最善であるかが」
千石のいきなりの発言に戸惑う明洸メンバー
「少なくともこのままプレスを全員で運び続ける場合4Qの途中で半分がガス欠すると思う」
その言葉に持田と荻原が少し反応する
二人はプレスを突破するためにバックコートからボール運びに参加しており千石の次に疲労が蓄積している。持田自身もこのタイミングで帝光がタイムアウトを取ったからよかったものの本来ならこちらからタイムアウトの申請をし、体力回復と何かしらの対策を講じようと考えていたのだ
「確かにそうかもしれないけど恭一はそれで持つのか?」
「当たり前だ。それにフロントコートに数が増えれば増えるほどパスコースが増えボールを持っていく時間が速くなる。だからこれは俺だけに負担がかかるわけじゃない。むしろお前らの方が大きな消耗になるかもしれない」
千石の意見を聞き明洸メンバーは納得する
「わかった千石。その作戦で行こう。何回も言うがへばってもお前の替えはいないから替えないぞ!」
「当たり前だ。こんな舞台から無理やり引きずり落としたら毎晩夢の中に化けて出てやるぞ!」
「本当に出そうで怖いわ」
「うし、じゃあ行くか」
荻原の声で4人も立ち上がる
「このQで巻き返すからな!楽しんでいくぞ!」
『おう!』
千石の一声で楽しそうにしながらコートに戻る明洸。その光景に帝光は怪訝な表情をする
「(それにしてもやっぱ帝光って面白くないよなあ~。相手としては文句の言いようのない相手だけどチームメイトとしてはないわ~。絶対このメンバーと一緒にチームになりたくないな。面白くないもん、こんな罰ゲームみたいなユニットでバスケするとか絶対ヤダ、てか寝てる方が絶対いいわ)」
千石はキセキの世代にとても失礼なことを考えながら赤司のマークにつく
「赤司」
赤司はハーフラインにいる緑間にパスを出す。緑間はすぐに高弾道シュートを撃つ。マークの黒谷は身長差もありパスを出された時点でドライブ以外は止めることはできない。最も緑間の最大の武器は高弾道で放たれる3Pなので3P以外は基本的に撃たない
緑間の高弾道シュートの着弾時間の間に青峰と黄瀬が千石のマークにつき始める。2人とも緑間が外すことはないと考えており、滞空時間の間に千石に対してのマークを強める
千石はその状況でも一切焦らず少し顔を顰める程度だった。まるでやることが少し増えたと言わんばかりの顔だ。その顔に青峰と黄瀬はムカッとした表情になる。元々2人とも感情的になりやすいプレイヤーだ。千石の先程の表情を2人は「やっても意味ないことをよくやる」と言っているように捉えてしまったのだ。実際千石は顔を顰めてはいたが内心面白くて仕方がなかった
キセキの世代とも言われる選手が2人がかりで自分を止めようとしているのだ。あくまで作戦上こうなるのだがそれが千石にとって面白くて仕方がなかった。自分と同等のレベルのプレイヤー2人と毎回こうして戦うことができるのだ。千石にとってどんなにつらい事であっても面白ければ辛くても痛くても何でもする。千石恭一は事バスケに関しては面白ければ自身のできる事なら何でもするような男なのだ
83-89
緑間の高弾道シュートがリングをくぐった後、持田がスローインをすぐに開始する。千石がパスをもらうために青峰に身体を入れ前に入らせないようにする。持田は千石の頭上にオーバーパスを出す。千石はそれをジャンプストップで受け取る。着地と同時に黄瀬が詰めかかるが千石は一度持田に視線を移しその後黄瀬を抜き去る。黄瀬はまたパスを出されると考えており棒立ちに近い態勢で抜かれる。それを予想していた青峰が回り込む。それに対して千石は一度青峰の目の前で急停止、そしてわざと青峰が取れるかもしれない位置にボールをつく。青峰は急停止したことにより体制が崩れたと読みカットを狙うが千石はチェンジオブペースとクロスドライブで逆に抜き去ろうとする
「させないっス!」
がクロスドライブをした直後に一度抜いた黄瀬が後ろからボールをカットしようとする。その黄瀬の執念は千石にも予想できずボールを前に弾かれる
「もーらい」
少し離れたところに居る紫原がいち早く反応しボールを捕りにかかるが
「この程度でボールを諦めるかよ!」
千石は野球選手のヘッドスライディングの様に前に跳び、指でボールを弾き飛ばす。ボールは紫原の横を抜け前に走っていた荻原に渡る
「ナイス根性!」
フロントコートには荻原、黒谷、片山の3人がいる。対して帝光には赤司1人しかいない。荻原はこのアウトナンバーの状況ではこちらに分があると思い攻め込む
「片山!」
荻原は赤司が届かない高さにパスを出す。片山はそのまま赤司の上からダンクを叩き込もうとするが
「片山!左斜め後ろにパス!」
突然の千石の声に驚く片山。片山は驚きながらも千石の言われる通り左斜め後ろにパスを出す。と自分の右横には
「ちっ!」
大きく跳躍していた紫原がいた。もしもあのままダンクをしていたら紫原の餌食となっていただろう。黒谷はボールを受け取りそのままジャンプシュートを撃とうとするが
「バックパスだ!」
またもや千石の声が入るがすでにジャンプシュートを撃つ態勢に入っておりもう止められない。そこに赤司が素早く距離を詰め、黒谷がジャンプシュートを撃つ前にボールを弾く
「しまっ――――」
「速攻!」
赤司はすぐにフロントコートにいる青峰、緑間、黄瀬に向かってロングパスを出す。ボールを受け取ったのは緑間だ
「クソッ!」
緑間のマークに持田がつくが身長差は大きくミスマッチになる
「その程度のディフェンスでは俺を止められん」
緑間はシュート態勢に入り離陸しシュートを撃とうとするが横から大きな影が出てくる
「させない!」
千石だ。千石は先程のヘッドスライディングによって逆速攻への対処が送れこのようにギリギリのタイミングでブロックに駆けつけるという形になった
「くっ!」
緑間は慌ててシュートからパスに切り替え黄瀬にパスを出す。黄瀬はそのまま一度ドリブルをつき助走をつけ跳ぶ
「させるか!」
そこに後ろからダンクを弾こうと飛び上がる荻原がいた
「だりゃ!」
荻原は横から黄瀬のワンハンドダンクを弾こうとするが一瞬拮抗した後パワー負けし吹き飛ばされる
「がっ!」
荻原はそのまま背中からコートに叩きつけられる
この時千石は少し驚いていた
先程の速攻はどう頑張っても止めることはできないと千石は答えを出した。だから千石は最後の悪あがきとして緑間のブロックに跳んだのだ。しかし千石の答え通り緑間はそこからパスを出しブロックされることで回避した。千石はその時点で失点は確実だと思った。だがそこで荻原が超人的な反応速度で逆速攻に反応しフロントコートからバックコートまで戻ってきていたのだ。千石は荻原が先程の速攻のスピードに対処することができないと考えていた。しかし実際はブロックを吹き飛ばされはしたがブロックに間に合うことはできた。試合が始まる前の千石にはできない芸当だった。これはつまり荻原は千石の予想を超える速度でこの試合の中成長しているのだ
「こりゃ、面白くなってきたな!」
千石は何時も通りの笑いを浮かべ、倒れている荻原に手を出した