ハーフタイムが終了し3Qが始まる
ボールは明洸ボールから始まった
「1本!1本しっかり決めよう!」
持田がボールをキープしゲームメイクをするが持田のマークは赤司だ。今の持田に赤司に対抗できる手段はない
その状況を見た千石が赤司の死角からスクリーンを掛けに行くが赤司はまるで見えているかのように避ける。持田は切り返しを行い赤司から距離を開けハイポストに立つ片山にパスをする。片山は無理に攻めようとせず紫原を引き付けた後、千石にパスを出す。千石はジャンプシュートを狙うがマークの変わった青峰はそれを許さず驚異的な速度で千石との間合いを潰す
「これが無理なら!」
千石はジャンプシュートをやめ、ドライブを仕掛ける。青峰は即座に反応し千石に追従する。千石は青峰の野性的ともいえる反応速度に舌を巻きながらトップスピードから切り返し青峰を振り切ろうとする。勿論青峰も反応するが
「いてっ!」
青峰の進行方向に黒谷のスクリーンがふさがる。変わりに黒谷のマークマンの黄瀬がスイッチにつくが千石はチェンジオブペースを行い黄瀬のタイミングをずらし抜き去る。千石がレイアップを行う瞬間後ろから巨大な影が襲い掛かる
「ふぅ!」
紫原が黄瀬が抜かれたと見た瞬間、千石の迎撃を行うためにすでにブロックの態勢を整えていた
「千石」
だが紫原の対応を明洸のチームプレイが上回った
千石は片山の声にすぐさま反応しバックパスを出す。紫原も着地しすぐさま迎撃をするために跳ぶが片山は千石にリターンをし千石が受け取る。千石はそのままアリウープを叩き込む
60-68
明洸が一歩帝光に詰め寄るが次の攻撃を防がなければ2Qの繰り返しとなる
赤司はスローインを受け取りボールを運ぶが明洸のディフェンスを見て顔を顰める
「これは………とてもあからさまな挑発だね…」
明洸のディフェンスは黄瀬以外はマンツーマン、そしてヘルプの位置に荻原。確かに効果的なディフェンスだ。荻原の反応速度は紫原、青峰に追従しうるほどのものだ。荻原がヘルプとしてカットを狙っているのだとしたら前半よりもシビアなパスが要求されることは間違いないだろう。そして最も懸念であった黄瀬のマークはとうとう誰もつくことが無くなった。この状況で黄瀬が怒り、周りが見えなくなるのではないかと赤司は考えた
そして案の定
「(は~!?俺のマークだけ誰もついていないって舐めてんっスか?流石にここまであからさまに舐められて我慢できるほど俺も優しくないっスよ!)」
キレていた
「随分と思い切った作戦をしてくるじゃないか」
「いやいや、こっちはこれで一杯一杯ですわ」
確かに千石が言っている通りこのディフェンスは明洸の精一杯の奇襲であり、効率的なディフェンスなのだ。今の明洸に全てのキセキの世代を一対一で抑えることは不可能なのだ。なら逆にすべてを防がず防げる範囲で防ぐ、これが明洸がとることのできる最善の手段なのだ。最もこの作戦は黄瀬が
「ならその思惑に乗ってやろうじゃないか」
赤司はノーマークになっている黄瀬にパスを出す。荻原がすぐさま反応しディフェンスに向かう、がディフェンスの態勢は崩れており荻原の左側ががら空きだ
「何のつもりかわかんないっスけど……舐めてんのなら容赦しないっスよ!」
黄瀬はこの試合一番のキレのあるドライブで荻原の左にドライブを仕掛ける。だが頭に血が上っており周りが見えていない。そして荻原は何の反応もせずそのまま黄瀬のドライブを見逃す
「!?」
がそれは罠だった
黄瀬のドライブは荻原を抜いた瞬間に後ろからのバックチップでボールを弾かれる
「もーらい」
勿論獲ったのは千石である。荻原はわざと千石が対応することのできる左にドライブを誘導し千石に黄瀬の対応を任せたのだ。この連携はとっさの物であって打ち合わせは全くしていない。お互いの力量を理解し、尚且つ信用しているからこそできた連携だ
千石はすでに前面に走っている荻原にパスを出そうとするが赤司が立ちふさがる
「まさかこんな考えだったとはね」
千石は一度止まりスピードを緩める。そして次の瞬間ボールが消えた
「な!?」
赤司は千石が何をしたのか理解できずその場で立ち止まる。ボールはすでに荻原に渡っており荻原は誰の邪魔をされることなくダンクを叩き込む
62-68
「何なのだよあのパスは……」
緑間は先程の出来事を見て口を開ける。千石がカットし、すぐさま赤司がディフェンスにつくが赤司が全く反応することができずにパスを通されるなど緑間は見たことが無い。そして緑間自身も一瞬ボールを見失うほどのパスの速度であった。当然緑間も千石が何をしたのかを理解することができなかった
「ナイッシュー!」
千石は荻原に声をかけるが
「恭一!」
荻原は真剣な表情で千石に詰め寄る
「あのパスもうちょい威力はどうにかなんねえの!?むっちゃ痛いんだけど!」
荻原は少し赤身の帯びた手を見せ文句を漏らす
「手加減できんのならしてるって。あれの制御はまだできんのよ」
千石が先程見せたパスは全国大会の休みの間少しずつ練習したノーモーションパスだ。このノーモーションパスは千石の強靭な手首の力で出されており、腕や体からの察知は一切できないパスとなっている。しかし手首での力加減があまり得意でない千石は現在威力の調整ができず、物凄く強烈な威力のあるパスしか出せない現状だ。明洸のメンバーはこのパスを距離が近くなければ数回なら取れるほどに進化していた。だが当の千石は手首を負傷しており左手でしか使えないことからこの試合では多く使えないことは明確だ
「あのパスは……まあいい。今はこちらの現状をどうにかすることが先決だ」
赤司は先程は黄瀬にパスを出したが先程のプレイを見て確信した。黄瀬涼太はキセキの世代で一番未完成なプレイヤーであること、そしてこの試合の行方を左右することを
現状他の3人にパスを回せば点が入るだろう。だが絶対ではない。まず千石とヘルプの位置についている荻原がいる限り簡単にパスを出すことはできない。仮にもパスを出せたとしてもよくて一対二、悪くて一対三の状況で戦わなければならない。ヘルプの荻原は勿論、自分についている千石も隙があればカットとブロックを狙ってくるであろう。そうなると確実に点を入れられるかと言われれば外から決めることのできる緑間ぐらいである
明洸の奇襲は個人プレイを好む帝光を確実に捉えている。もしこの場で帝光が連携をするチームならばこのようなことにはならず明洸にダブルスコアで勝っているだろうが、三年になってから連携と言う物を一切やっていない、そしてやらずに相手を捻じ伏せてきたキセキの世代達は今更連携をやるなどプライドが許さない。そうした選手の気持ちすら捉えて練られた作戦を考えた千石はかなりのキレ者であるだろう
「黄瀬」
赤司はボールを運びながら黄瀬に呼びかける
「……なんスか?」
黄瀬も先程の失敗を悔いているのであろう雰囲気がどことなく暗い
「この先、先程のような場面が何度も起きるだろう。本来ならこれまでの失態を考えたならお前にパスは回さない。だがもう一度だけチャンスを与えてやろう。今度は失敗をするな。もしも次にあんな失敗があるのなら………僕はお前に何も期待をしない」
赤司は冷めきった眼で黄瀬に話す。黄瀬は今までにないほど赤司を失望させていることに気づき慌てて答える
「勿論っスよ!もうあんな失敗はしないっス!頭も冷えたっスし、俺はまだまだやれるっスよ!」
「ならいい」
赤司はそれだけ言い上がっていく
「もうあんな真似は絶対にしない!」
黄瀬は静かに闘志を燃やしながら静かに、そして深く集中していく
ゾワッ
黄瀬の豹変した集中力に千石が気圧される
「(まずいな。予想よりも何倍も持ち直すのが速い、いや、速すぎる。このままじゃまずいな)」
千石は豹変した黄瀬の集中力に内心焦りを覚える。ここで黄瀬が成長することは明洸の敗色が濃くなることを意味する。だが今の千石は黄瀬に対応するほど余裕はない。ハーフタイムの際に体力は幾分か回復したが無駄使いは一切できない
千石の考えがまとまらないうちに赤司は黄瀬にパスを出す。荻原が反応しマークにつくが黄瀬は一切気に留めず荻原を抜き去る。千石はすぐさまバックチップを狙うが黄瀬はまるで予想していたかのようにドリブルチェンジをし躱す。その間に荻原は前に回り込むが黄瀬はシャムゴットアイスを使い綺麗に抜き去りダンクを決める
62-70
「あんにゃろー!」
先程黄瀬が使ったシャムゴットアイスは千石が緑間を抜いたときに使った技だ。千石程キレはないが十分形になっている。黄瀬の土壇場での集中力によって停滞しつつあった黄瀬の成長に再び火をともした
「俺は負けないっスよ!たとえそれが俺よりも強い相手でも!」
黄瀬は千石に向かって言い放つ
「はっ!いいねいいね、面白いよ!これだからバスケはやめられない!」
千石は黄瀬の言葉に最高の笑みで返す
「何笑ってんだ!さっさとやり返すぞ!」
持田は笑っている千石を蹴飛ばしボールを運び始める
「こっからは一方的な戦いになるぜ!」
ボールを運ぶ持田の前に青峰と黄瀬が立ちふさがる
「プレスか!?」
千石は帝光の作戦に気づくがすでに遅かった。持田は青峰と黄瀬のダブルチームに圧倒されボールを簡単に奪われる。そして青峰がダンクを叩き込む
62-72
「このやろ~。このQで勝負をつけるつもりか!」
赤司はハーフタイムの最中に3Qでの作戦を言い渡していた。オールコートプレス、3-1-1の超攻撃型プレス。赤司はこのQで明洸の息の根を徹底的に止めるつもりでこの作戦を全員に告げた。最初こそキセキの世代は難色を示していたが赤司の一言でその意見も消えた
「本当に千石恭一が僕達と同じならやつはこれを突破しようとしてくるだろう。それともお前達はここまでして奴が試合を投げ出すような奴に見えるか?」
この言葉でキセキの世代は満場一致でこの作戦に賛成した。彼らも見たくなったのだ。自分たちと同等かもしれない千石恭一の底を
「モッチー!リスタート速く!」
青峰のシュートを決められた千石は持田にリスタートのスローインを急かす
「わかってる!」
持田もすぐさまボールを取り千石にパスを出す。ゾーンプレスの攻略は切り返しの速さが重要だ。少しでも相手の態勢が整う前に突破する。いくら千石でも準備万端の状態のキセキの世代のゾーンプレスを突破するのは至難の業だ
千石はパスを受け取りすぐさまコートを駆け上がろうとするが
「させん!」
緑間が立ちふさがる
「押し通る!」
千石は強引に身体をボールよりも前にだし強引に緑間の横を抜ける
「させないっスよ!」
そこに黄瀬が待ち構えるが千石は持田にパスを出し、すぐさま逆サイドに走り込む
「千石!」
そこから持田からリターンパスを受け取り前を向くが
「そんなんで俺を出し抜けるわけないじゃん」
紫原は千石のランコースにあらかじめ回り込み千石を待ち構えていたのだ
「ならこれはどうかな!」
千石は再びノーモーションパスをゴール下の片山に出す。ボールはとてつもない加速をし片山に渡る
「ナイスパス」
片山は危なげなくゴールしたシュートを決める
64-72
「へー、そう言う仕掛けか」
遠くから千石を眺めていた赤司は不気味な笑みを浮かべながら先程の千石のプレイを見ていた
「今回はうまくいったようだけどいつまでそれが持つかな?」
赤司はこの突破方法が長くは続かないであろうことを予見していた
「ナイッシュー片山!」
「うるさい、暑苦しい」
千石の言葉を一蹴する片山
「酷くね!?」
「いちいち大げさだ。あの場面で外したらお前の苦労が台無しだ。そんなことは絶対にしない」
「地味にうれしいこと言ってくれんじゃん!」
「よしゃー!このままいくぞ!」
荻原は声を出し周りを盛り上げる
『おう!』
赤司はボールを運んでいる途中に明洸の意表を突き高弾道パスを出す
「よいしょ」
ガシャン!
そのパスを取ったのは紫原だ。赤司は先程のパスを紫原がぎりぎり届く位置にパスを出し、そのままアリウープさせ決めさせたのだ
64-74
まさかの失点である
「油断してたな」
千石は思いがけない失点に顔を歪める
明らかに明洸の気の緩みからの失点だ。そしてこの失点で明洸は再認識した。生半可な気持ちでは帝光に勝つことなどできないことを
「千石!」
持田はスローインを千石に出すがまたしても青峰と黄瀬のプレスに捕まる
「こりゃきつい!」
千石はかろうじてボールを奪われず、キープをするが二人のプレッシャーに前に進むことができない
「おら黄瀬!もっと詰めろ!」
「わかってるっスよ!」
二人は前に進ませる気は一切なく、それどころかボールを獲ろうと追い詰めていく
「恭一!」
荻原はすかさず千石からボールをもらえる位置に移動し声を出す
「!」
千石は荻原の方を向き、お互い一瞬のアイコンタクトをする
千石は荻原にパスを出し荻原はタップパスで黄瀬の後ろにパスを出す。千石はパスを出した瞬間黄瀬と青峰の間を強引に押し通りパスを受け取る。バイオレーションまで時間が無いので千石はフロントコートにいる黒谷にパスを投げる
「ナイス連携!」
黒谷はそのまま攻めず持田、荻原、千石がフロントコートに上がってくるのを待つ
「黒谷もナイスポジション」
千石は黒谷のポジショニングを褒めながらボールを受け取る
先程黒谷は赤司がカットできない位置に移動しボールを受け取ったのだ。そして自分と片山のみでは赤司と紫原を攻略できないと考えると3人が来るまでボールキープに徹していたのだ
「それにしても毎回あのプレスはきついな~」
千石は思わずため息をついた
そして次の瞬間赤司の横をドライブで抜こうとするが赤司は反応し前に回り込む
「ありゃ、やっぱ騙されない?」
「あからさまな溜息だったからね。それに君のやることに僕も溜息をつきたくなるよ」
「そりゃそうか」
赤司と千石が話している間に赤司の左側に片山がスクリーンを掛ける。千石は見落としそうなほど小さなフェイントをかけた後赤司の左を抜いた
「何!」
赤司は千石の小さなフェイントに反応し片山のスクリーンを抜けるために一歩後ろに下がっていた。一流プレイヤーだからこそ見逃すことのなかった動作に赤司は見事に引っかかった。千石はスクリーンを使わずそのまま赤司の左にドライブを仕掛けた。流石の赤司も自分相手にわざわざスクリーンを使わず左から仕掛けてくるとは考えておらず千石のドライブを許してしまう
「させない!」
そこに黄瀬が反応し千石の前に立ちふさがる
千石はギャロップステップで黄瀬を躱そうとするが黄瀬も無理やり身体をひねりついて行く。さらに紫原が詰めにかかる
「イッチー!」
黒谷の声に反応しバックビハインドパスを出す。黒谷はそのままジャンプシュートを撃ち決める
66-74
「ナイッシュー!」
「ナイスパス!(普段よりパスが荒い。パスに気を遣う余裕がなくなってきたのか?)」
黒谷は千石を心配するがそんな黒谷の気持ちは的外れだった
「(やっべ~!超楽しい!このイケるかイケないかのギリギリの闘い。この駆け引き。一瞬の判断が勝負を分けるこの闘い、さいっっこうだね!しかもこっちもいい感じになってきた!今ならいける!そんな気がする)」
千石は今までかつてないほどテンションと集中力が上がっていた。少しずつプレイのキレも上がり始めてもいた
そして帝光が決め、明洸がギリギリのところで返す。そんな状況が3分ほど続いたとき
千石は扉を開いた
千石恭一の脳内シミュレーション勝率 楽しみ過ぎてそんなことに気を回すことが無くなりました