Deathberry and Deathgame   作:目の熊

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第十話です。

宜しくお願いいたします。


Episode 10. Don't judge by appearance (2)

 19層の迷宮区として設定されているエリアのうち、半分はジャングルエリアとして地上に広がっている。そのため、残る遺跡エリアにはそんなに広い面積はない。二、三の小部屋と通路のみで構成されたフロアが積み重なってできた多階層式であり、東西それぞれでほぼ独立している。両者が交わるのは最上部より二階層下の最終安全エリアだけで、そこから先はまた東西に分かれている。

 即席パーティーを組んだ俺とキリトはその安全エリアを通過し、そのまま目的地の東部最上層入り口までやってきていた。道中何度かモンスターとエンカウントしたが、特に苦戦も強いられることもなかった。キリトが強いという点もあるが、ここ東部の攻略難易度が西部に比べて低いことも理由の一つだと思う。

 東部は西部と違って通路が明るく、出現するモンスターの動きも読みやすい。敵の攻撃に耐えうる、あるいは躱しきる自信としっかりした準備さえあれば、踏破はそこまで難しくない。俺たちがいつものように安全マージンガン無視で迷宮区に突っ込み続け、その勢いのまま先日東部を完全踏破してマップデータを公表して(バラまいて)からは、迷宮区に挑むプレイヤーもかなり増加し、最上層近くで見掛ける人の数も少しずつ増えてきた。今回の情報も、そうして迷宮区に来るプレイヤーが増えたが故にもたらされたものなんだろう。

 

「どうだキリト、なんかわかったか」

 

 『索敵』スキルで周囲の反応を調べていた、「最上層で見掛ける」確率トップの黒衣の剣士に、俺は抜き身の刀を担ぎつつ問いかけた。

 

「うーん、今の所、俺たち以外に反応はないな。迷宮区の造りも他と差異はないみたいだし、隠し通路なんかのギミックもなさそうだ」

「やっぱり、その知り合いにガセネタ掴まされたんじゃねえのかよ?」

「クラインの奴に、そんな賢しい真似は出来ない……と、思うんだけどなあ」

 

 クラインというらしいその知り合いをさらっとディスりつつ、尚も周囲の反応を監視するキリト。可視化されたマップを覗いてみると、確かに俺たちを示す二点以外にフロア内の反応がない。

 

「あるいは、俺の推測が間違ってたか、だなあ」

「ガセ渡された可能性とどっちがたけーよ」

「二対八の割合で、俺の推測ミス」

「……そのクラインってのは、そんなに頭の出来がアレなのかよ」

「いいヤツなんだけどな。基本的に行動原理が単純で、隠し事がヘタクソなんだ。嘘なんて吐けば一発でバレる」

 

 そう言われると、何となくウチの親父が思い浮かんでくる。あのヒゲダルマもガキみたいに単純で、生前のお袋曰く嘘もすげえ下手だったらしい。ああ、こっから現実に帰ったら、俺は絶対にブン殴られるんだろーな。ムカつくが、迷惑かけたのも事実だし仕方ねえか。

 

 久々に家族のことを思い出しつつ、マップを注視するキリトに先行して通路の角を曲がった瞬間、

 

「ッ!?」

 

 暗闇からブーツの底が顔面目掛けてすっ跳んできた。

 

 槍の刺突を思わせるその脚撃を、身体を捻じり切らんばかりにツイストして何とか回避。そのまま後ろに倒れ込む勢いを利用してバク転、第二撃が来る前に一気に後退して距離を取った。

 

 が、敵の行動は俊敏だった。

 黒いマントのようなものを羽織ったそいつは上段蹴りを外した体勢を即座に立て直し、間合いを詰めるべく一気に突っ込んでくる。

 

「させるかよ!」

 

 横からキリトが剣を片手に接近し、片手用直剣の単発刺突技《レイジスパイク》を敵の予想進路に撃ち込んだ。ペールブルーの閃光が高速で疾駆する敵の懐に突き立つ――かと思ったが、なんと敵はその場で進路を直角変更、キリトの真横をすり抜け、再度こっちに向かってくる。

 

「俺が目当てかよ、フザけやがって!」

 

 悪態をつきつつ刀を構えた俺目掛けて敵が突進してくる。そのマントの中で、何かが蠢いたように見えた。

 直後、チカッと銀色の光が瞬き、凄まじい速度で右手が突き込まれる。手首を返して刀を閃かせ、攻撃を受け流す。ガキンッ、という金属音と共に上がる火花。袖に隠れて見えないが、どうやら武器に当たったようだ。

 お返しに胴を水平に薙ぎ払うが、敵は左手を振ってそれを弾く。またも硬質な音が響く。が、その瞬間、左の脇腹が大きく空いた。そこ目掛けて間髪入れず回し蹴りを放ったものの、間合いが遠すぎた。俺の蹴り足のつま先は、敵のマントの裾を掠める程度に留まる。

 

 背後から強襲したキリトの一閃を見えているかのようにひらりと躱し、敵はそのまま大きく跳躍して距離を取った。その隙に俺もキリトと合流し、並んで獲物を構えて敵と対峙する。

 

「一護! 無事か!?」

「アッたり前だ! 不意打ちとかナメた真似しやがって! このクソ犯罪者(オレンジ)野郎、絶対に叩っ斬ってやる!!」

 

 俺は刀を真正面に構えて襲撃者を睨みつけた。

 着地した体勢のまま、しゃがんだままで動く気配はない。黒いフードを被っていて、顔は見えない。手元が隠れてる所為で獲物が何なのかもわからない。一つ確かなのは、キリトの『索敵』スキルに引っかからなかった以上、コイツはそれを上回る『隠蔽』スキル持ちだってことだ。さっきの殺す気全開の蹴りといい、多分相当手馴れた犯罪者(オレンジ)プレイヤー……

 

「……おい、一護。あいつのカーソルの色……黄色だ」

 

 じゃねえのかよ。

 

 犯罪者(オレンジ)プレイヤーは、その名の通りカーソルの色が一般プレイヤーのグリーンからオレンジへと変わっている。直前まで気配を消してたことといい、不意を突いて蹴りをブチ込もうとしてきたことといい、てっきりソイツの上にはオレンジのカーソルが乗っかってると思ってた。

 だが、よく見てみると、奴を示すカーソルの色はオレンジではなく確かに黄色に染まっていた。

 

 その色の意味するところは、

 

「コイツNPCなのかよ!?」

「ひっ……!」

 

 俺の驚く声と、誰かの怯えたような細い悲鳴が重なった。石造りの通路に声が反響しながら消えていき、その場に沈黙が降りた。

 

「……おいキリト、今の女々しい悲鳴はテメーか」

「そんなわけないだろ! 男の俺にあんな声が出せるか!」

「前々から女っ面だとは思ってたが、内面までソッチ寄りなのかよ……超ドン引きだぜ」

「他人の話を聞けよ!!」

 

 やっぱり線の細さは気にしていたのか、ムキになって反論するキリトを放置して、俺は蹲ったままのNPCへと近づいて行った。戦意は一かけらも無さそうだが、また顔面に蹴りが飛んでこないとも限らない。刀を右手に持ったまま、ゆっくりと奴との距離を縮めていく。

 近づいてみると、黒い布の塊にしか見えなかったソイツの輪郭がはっきりと見えてきた。第一に、纏ってるのはマントじゃなく、昔歴史の教科書かなんかで見た古ぼけた外套だった。そこに浮かび上がっている身体の線は思いのほか華奢で、さっきの鋭い一撃のイメージとは到底結びつかない程だ。獲物はまだ見えないが、腰には淡黄色に塗られた細身の鞘が提げられている。緩く湾曲した形状からして、多分刀の鞘だろう。

 

 何となく正体に目星がついた俺は、距離一メートルのところで足を止めた。俺のブーツの音が止まったことに気付いたからか、NPCの身体がピクッと跳ねた。

 どう見てもコッチに対してビビりまくってる。先に攻撃してきたのはソッチだろうが。一人で不意打ちかまして一人でガクブルするとか、どういう脳みその作りしてんだよ……ああ、コイツ人間じゃねえから脳みそねえのか。

 

 脳内に渦巻く益体もない考えを捨て去り、俺は静かに問いかける。

 

「……アンタ、何モンだ? なんでいきなり、俺を狙ったんだ」

 

 俺の問いに対し、NPCはまたピクッと身体を跳ねさせる。強く掴めばへし折れそうな肩が微かに震えている。虐めているようで非常にやりにくいったらないが、だからってこっちまで黙ったままでは事態は解決しない。心を鬼にして、俺はさらに質問を続ける。

 

「この前、ここらで煙みてえに消えた外套の女を見たって情報があった。アンタがそうなのか? 何が目的で、ここをウロウロしてんだよ」

「……っく…………な、さぃ……」

 

 微かにだが、返答らしきものがあった。だが、声がかすれちまってて良く聞こえない。

 もっと近くで聞こうと一歩踏み出したその時、そいつがようやく顔を上げた。

 

 そこにあったのは、ギリシャの彫像を思わせる、見覚えのある彫の深い端正な顔立ち。リーナに勝るとも劣らない、石膏のように白い肌。被ったフードの縁から覗くのは緩く波打つダークブラウンの髪で、通路の明かりを反射して艶やかに輝いていた。

 そして、アメジストのような紫の瞳の収まった切れ長の両目には、大粒の涙が溜まっていた。

 

「……ご、ごめんなさぃ、いきなり蹴りつけてしまって……お、お詫びに、なんでも、なんでもしますからぁ……赦して、くださぃ……ぐすっ……」

 

 写真の外套女こと、女性NPCはそう言ってポロポロと涙を零した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 モンスターハウスのアラートを思わせる音量でマジ泣きしだした外套女によって、俺とキリトは熟考するヒマもなくその場からの撤退を余儀なくされた。『索敵』スキルでモンスターの湧きを警戒するキリトの先導で、俺は外套女を肩に担いで猛ダッシュした。NPCに不必要に接触するとハラスメントでふっ飛ばされるハズなんだが、今回は都合のいいことにそんなことはなく、泣きじゃくる女NPCは大人しく――ギャン泣きの音量的には大暴れなんだが――俺に担がれていた。

 

 幸いモンスターとのエンカウントは一体だけで済み、キリトの強引な三連撃ソードスキルであっさり撃破。次が湧いてくる前に、俺たちは二階層下の安全エリアに逃げ込むことができた。

 

 存在しないはずの酸素を仮想の肺に供給するべく俺たちがゼーゼーやってる横で、女はまだグスグスやっていた。

 

「ひぐっ……ごめんなさい、ごめんなさいぃ…………」

「……よお、オメーいい加減泣き止めよ。別になんも怒っちゃいねえんだから」

「うぅっ……ぐすっ……ほ、ほんと、ですか……?」

 

 涙に濡れた瞳で外套女が俺を見る。顔立ちが整ってる分泣き顔に艶っぽさがあって、ちょっとだけ心臓の鼓動が早くなる。こういう時、美人ってのはズルいよな、とか思ってしまうが、今はその考えをねじ伏せ、なるったけ穏やかな声で俺は応えてやる。

 

「ああ、ほんとだ。俺たちは怒ってねえし、お前に危害を加えるつもりもねえ。だから、お前が何者で、あそこで何をやってたのかを教えて――」

「あ、そうなんだ。いやーよかったー」

「「………………は?」」

 

 途端に元気になった女の姿に、キリトと俺の声が完全にハモった。一瞬のズレもなく、完璧に。

 

 あれ? さっきまでコイツ、マジで泣いてたよな? なんで一瞬後にはけろっとしてんだ? さっきまでと最早別人レベルで性格変わってねえか? あのビクビクしてた態度はドコいった?

 ハテナだらけの俺たちを余所に、女は立ちあがりうーんっ、と伸びをして、外套の裾をパンパンと叩いて埃を払った。そのまま何故かくるりとその場でターン、外套の裾がドレスのように広がりたなびくが、そこはどうでもいい。

 

「……えーっと、その……ケガとかは、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。しっかり無傷だよん。あんがとねー」

「そ、そっか、そりゃあ何より……」

 

 とりあえず話しかけてみた、といった感じのキリトも、至極フランクな女の返答を受けて狐につままれたような表情になり、そのまま黙ってしまった。色々言いたいことがありすぎて、何から突っ込めばいいのやら。

 

 戸惑う俺たちの前で、女はニッと笑うと声高らかに話し始めた。

 

「初めまして、かな? 話を聞いた感じだと、わたしの存在自体はもう知ってるみたいだけど」

「ああ、いるってことだけは知ってたけど、詳しいことはなんにも……」

「だよねだよねー。わたし、人に見つかりそうになる度に『光曲』で逃げてたもん。今回はキミらに用があったから出てきたんだけど、フツーに『ハロー!』っていってもつまんないから、あえて先制攻撃してみたんだ。ま、全部避けられちゃったけどね。よっ、ナイス反応!」

「お、おう。そりゃどーも……」

 

 『光曲』という聞いたことのない単語が出てきた。話の流れからして、例の「霧のように消える」現象を引き起こしたスキルの名称っぽいが、NPCってことは固有の能力の可能性も高い。こいつに限らず、戦闘が可能なNPCの中にはクエスト用に特異な能力を保有してる奴も多いと聞く。エフェクト無しでその場から一瞬で消失するなんて反則級の能力だが、コイツが敵対的じゃなかったのがせめてもの救いだな。

 

 様々な情報が飛び出してきて少し混乱したが、女がさらさら喋ってくれるおかげでこっちの調子もなんとか戻ってきた。出会いがしらのアレは、もうメンドクサイからなかったことにしよう。フツーじゃつまんないから、とか納得いかねえ理由が聞こえた気がしたが、深く突っ込んでも釈明も謝罪も効けそうにない。そんな実りの無さそうな事案は脇に追いやって、俺はもう一度疑問をぶつけてみることにした。

 

「なあアンタ、ちょっと訊きてえことがあるんだが」

「ん? なにナニ?」

「アンタは一体何モンなんだ? 俺たちに用ってのは何なんだ?」

「あ、やっぱりソコ気になる? 気になっちゃう? 気にしちゃいますー?」

 

 またなんかキャラが変わった。話し方も煽るようなウザイ口調に切り替わってる。ホント、なんなんだコイツ。

 もう一々気にしてたらキリがない気がしてきた。「これは多分演技だ」と自分に言い聞かせて腹の底のイライラを鎮め、俺は再三同じ問いを投げる。

 

「ああ気になる。だから答えてくれ。オメーは一体、何モンなんだよ」

「やー、どうしよっかなー。言おうかなー、ヒミツにしとこうかなー」

「……地面に沈めるぞテメエ、さっさと素直に答えろ」

「えー、別に言わなきゃいけないギムとかないしー、どうしよっかなー?」

 

 女はこっちを馬鹿にしたような視線を向けつつ「どうしよっかなー?」を連発しだした。顔に張り付いた余裕の笑みがウザさを加速させる。

 いつもなら帰るかぶん殴るかの二択なんだが、これがクエスト開始フラグだったらマズイ。こいつの高い鼻っ柱が折れるぐらいなら一向に構わないが、クエストフラグまで折れちまうのは避けたい。俺ももう十八歳。キレてばっかじゃなくて、ここは相手のペースに乗らず、冷静に対応するんだ。

 

「言いたくねえならもう帰れよ鬱陶しい」

「え、言いたくないなんて一言も言ってないけど?」

 

 イラッとくる、が我慢だ。相手のペースに乗らず、冷静に対応するんだ。

 

「お前はここに何しに来た」

「もちろん、君たちに用があったからお話ししに来たに決まってるでしょ! 用もないのにこのわたしが来ると思う?」

「……オーケイ、じゃあ用件を聞こう」

「え、あの、わたし今、『来ると思う?』って聞いたんだよ? 質問にちゃんと答えてくれないかなー?」

 

 ……イライラッとくる、が我慢だ。相手のペースに乗らず冷静に対処するんだ。

 

「思わねえよ。さあ答えたぜ。俺の質問にも答えてもらうぞ」

「いやいや、わたし『質問に答えてくれたらキミの問いにも答えるよ』なんて言った覚えないけどなー」

 

 …………ブチッときた、が我慢だ。相手のペースに乗らず冷静に対処……できるか!!

 

「思わねえよ!! だからさっさと用件を言え外套女!」

「えー、別に言わなきゃいけないギムとかないしー、どうしよっかなー?」

「義務はなくても言わねえとオメーの用が済まねえだろうが! 早く言えよ!!」

「ちぇー、わかったよもう。ちゃんと言いますよー。

 えっと、今日の朝は久しぶりにオムレツ食べたんだけど、付け合せのウィンナーがなくってー。わたし朝はガッツリ食べたい派だから物足んなくてさ、さっき下の露店で……」

「おいちょっと待て、何を語りだしてんだ?」

「え、さっきの私の間食について、だけど」

 

 …………はあ?

 

「……なんで、ンなこと急に喋りだしてんだよ、テメエ」

「え、ダメ?」

「俺は、テメエが何の用かを話せって言ってんだよ、人の話聞け」

「わたしは、今から『何の用かを話す』なんて言ってないよ? 人の話聞いてる?」

 

 ――――プッツン。

 

 俺の、頭の中で、何かが切れた、音がした。

 

「……あのー、一護サン? ウザイのは分かりますが、程々にしてくださいね? ココ、一応公共の場なんで」

 

 キリトがなんか言ってるが、今はそれに反応する余裕はない。頭の中が、怒り、いやもう殺意に届くレベルのイライラで溢れ返っていた。

 俺は大股で外套女との距離を詰める。特に警戒した様子もなく、すっとぼけた笑顔を浮かべている女の目の前に立ち、長い髪の下に隠れていた耳朶を両方とも掴む。

 

 そして、

 

「いい加減にしろテメエエエエエェェェェェェッ!!」

「ひぎゃあああああぁぁああああああああああッ!!」

 

 耳朶をギリギリと捻じり上げた。

 

 手加減なく思いっきり抓っているせいで、ミチミチという肉が軋む音が聞こえてきそうな気がするくらいに外套女の耳がツイストして変形している。某劇画調漫画家のイラストもかくやという程の苦悶の表情が浮かんでいる辺り、相当効いていると見える。昔、親父が殴りかかってきたのを叩き落としたついでにやったときも、後で親父が割と真剣な顔で「あれはヤバイからせめて他のお仕置きにしてくれ」といったくらいだ。

 以前リーナから教えてもらったが、NPCには人間の五感に対するリアクションのシミュレーションプログラムってのが入ってるらしい。その中にはもちろん痛覚も存在して、仮にNPCがモンスターかなんかに襲われて負傷した場合、苦悶の声を上げたり顔を歪めたり、なんて反応を返すそうだ。もしその痛覚ってのがきっちり現実のそれを反映できてるなら、いかにAIが動かすアバターでもこの激痛には耐えられないだろう。

 

「みみがあああぁぁっ! みみがとれちゃう、とれちゃうってえええぇぇぇええええっ!!」

「用件話せっつってんのにシカトして屁理屈ばっかほざきやがって……人の話を聞かねえ、生ゴミみてえな耳なんて要らねえよな? 壊れた物とか要らない物はとっとかないで捨てなさいって、ウチの妹も言ってたぜ。アレだよ、世の中大切なのは断捨離だよ!! 断! 捨! 離!! 断ッ! 捨ァ! 離ィッ!!」

「あにゃああああああああみみがみみがみみみみミミみみみミミミみミみみみイいいぃぃィッ!!!」

 

 何やら叫び声が壊れたミンミンゼミみたいになってきたし、もう充分だろう。というか、これ以上やると、マジで耳朶がポロッと逝きかねない。さっきの茶化しに対しての怒りもなんとか静まったし、一先ず放すか。

 

 手を放してやると、外套女はものすごい勢いで俺から距離を取った。耳朶が真っ赤になってるのは、俺の地獄ツイストにリアルなダメージ判定があったからか、それともまた半泣きになってるからか。いや、HPが減ってねえから後者だな。つうか俺、NPCに触れるどころか害を与えたのに、警告もなんもねえな。マジでどうなってんだか。

 

 気になることは山ほどできたが、とりあえず後回しだ。怒りがある程度収まってても警戒は欠片も解かない。効き目が継続してるうちにきっちり脅しとくか。じりじりと後ずさりする女に俺はゆっくりと歩いて近づいていく。

 

「さあ、次は良く考えて喋れよ? もし、まだ茶化しやがるようなら……」

「よ、ようなら……?」

 

 恐る恐る、という様子の女に対して、俺はあらんかぎりの怒りを込めた笑みを浮かべて、

 

「……耳だけじゃなくて、屁理屈しか喋らねえ喋る舌も、要らねえよなあ?」

「ひ、ひぃっ!?」

 

 顔色が一瞬で真っ青になる外套女。効果テキメンで何よりだ。

 

「……そんじゃ、もっかい訊くぜ。な・ん・の・用・だ?」

「…………ぐすっ、わ、悪ふざけして、ごめんなさい。マツリといいます。一護くんとキリトくんにお話ししたい事があって、伺いましたぁ……」

「ほー……で? 文字通りの突撃訪問したことに関して、何かねえの?」

「ひぐっ!? ……と、突然の訪問、申し訳ありません、です……どうか、お時間をいただけないでしょうか……ううっ、ぐすっ…………」

 

 指をバキバキ鳴らす俺の前で、外套の裾を握り締めながらついに二度目の号泣を始めた外套女……もといマツリを見て、俺はようやく警戒を解いた。散々上げ足取りまくった罰としちゃあ、これくらいやってもバチは当たらないだろ……いや、ちょっとやりすぎた気がしないでも、なくもなくもないが……いやいや、あんだけ挑発されたんだ、むしろ妥当だろ。

 

「……で? どうするんだよ、一護。俺はこれが目当てだったからいいんだけど」

「……まあ、俺も別にいいんだけどよ」

「……ほっ、良かったあ。ていうか、あんな鬼みたいな拷問しなくても……」

「あ? なんか言ったか外套女?」

「ごめんなさいすいません何でもないですお時間下さってありがとうございます」

 

 それにしても……疲れた。

 




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

というわけで、キリトとのコンビプレーとオリジナルイベントNPC・マツリの登場でした。
後半のキレ方、少しは一護っぽくできていたでしょうか。マツリの上げ足取りというか屁理屈全開のウザイ話し方はけっこう書いてて楽しかったです。
また、NPCの感覚云々は独自で設定しました。原作でNPCが痛みを感じるような描写が無かったので。
(もしプログレッシブに載っていたらどなたか教えてくださいお願いします)

あと、マツリの『光曲』のモデルはBLEACHの鬼道『縛道の二十六・曲光』でした。雛森がちょろっと使ってましたけど、便利な術ですよね。霊圧消したらもう完全穏行ですし。

※オマケ
「うー、耳が痛い……」
「自業自得だろーが。大体なんだよ、あのウザったいキャラバリエーションは」
「いや、その……この前手に入れた本に『これでアナタも人気者! 周りを盛り上げるキャラ百選!!』って記事が載ってて、面白そうだったからつい……」
「アホくせえ記事だなオイ。ンなもん誰が書いてんだよ、まさかアルゴのヤツじゃねえだろーな……」
「うーん、執筆者名はなかったけど、ロゴマークみたいなのはあったよ? なんか、黒い菱形の中に十二って描かれたヤツ」
「…………え?」
「あ、あと『ワタシが五十年かけて分析した『面白いと評される理想の人物像』を結集させた至極の記録だヨ』ってのと『これさえ読めば、明日からアナタもモテモテのウハウハッスよん♪』ってコメントもあったかな」
「………………」
「一護くん?」
「……ま、まさか、な」

へっくしょい! うぅ、風邪でも引いたッスかね?
by 某駄菓子屋店主


次話で『Don't judge by appearance』は終了です。
ついでに、あと二、三話で二章が終了します。長かったなあ……。

次回の更新は来週火曜日の午前十時を予定しております。

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