Deathberry and Deathgame   作:目の熊

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第三章始まりです。

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Chapter 3. 『世界を変えた人』
Episode 15. Take care of Black Cat


 弱点・欠点なんてのは、誰にでもあるもんだ。

 

 高々百年ちょっとしたら死んじまう人間は元より、百年単位で生きている死神でさえ、それは例外じゃない。

 例えば白哉。

 六番隊隊長(たちば)四大貴族出身(いえがら)歴代最強(じつりょく)、オマケに美形(イケメン)と四拍子揃ったアイツでさえ、芸術的センスが皆無という欠点がある。

 砕蜂は夜一さんが絡むと全くの役立たずになるし、京楽さんは女に弱い。剣八なんか凶行蛮行が多すぎて、むしろ長所の方が少ないくらいだ。

 けど、その欠点や弱点があるからこそ、そいつの長所や強みってのが光ってくるんだ。完璧超人なんてつまらねえ。弱みの一つくらいは持ってないと、人間味ってモンがなくなっちまう。そうだろ?

 

 ……だから、

 

「……いい加減、それやめたらどうだ? 三か月やっても効果がねーんじゃ、もう治んねえって」

「イヤ。たとえ何か月、いや何年かかることになっても、私は絶対にあきらめない」

「その不屈の精神はごリッパだけどよ、オメーのその異常な()()っぷりは、もう努力どうこうで何とかなるモンじゃねえだろ。それにそのバケツ被って呪文唱えんの、ホントにやり方あってんのか? そもそもバケツ(そんなん)で音痴が治るなんて、聞いたことねーぞ」

 

 ソファーに寝っ転がった俺のため息交じりの意見を無視して、リーナはまたバケツをひっ被ってしまった。頭がすっぽりバケツに隠れた状態で何やらゴニャゴニャやられるってのは、俺の目にも耳にも優しくない。最初見たときなんか、俺を笑わせにきてんのかと思って鼻で笑い飛ばしちまった。まあその直後に、飛んできた短剣を白刃取りすることになったが。

 

 そう、俺の相方のリーナの現状最大の欠点、それは、壊滅的なまでに音痴なことだ。

 発覚したのは今から三か月前。なんかのクエストで『NPCの出す音に合わせて「かえるの歌」を歌い、音程のズレをチェック。点数が高い、すなわちズレが少ない方にアイテムが出る』ってミニゲームがあった。俺は「そんな小っ恥ずかしいことやってられるか」とスルーしようとしたんだが、リーナの「私に負ける種目が増えるのが怖いの?」という挑発に乗せられて挑戦することに。

 結果は、俺八十五点、リーナ十七点で俺の圧勝だった。ぶっちゃけ、俺が勝ったってことよりも、「自信ありますよ」って顔してご大層に挑発までかましてきたたリーナが想像を絶するレベルでド下手だったことに驚いちまって、茶々を入れることさえもできなかった覚えがある。後で訊いてみると、自分が下手なのは自覚していたが、まさか一護よりも下手だとは思わなかった、とのこと。なんつー失礼なヤツだ。お前の中の俺はどんだけ無能なんだよ。

 

 その一件以来、俺に「かえるの歌」で勝つべく、リーナは空いた時間にバケツを被り(テレビかなんかで見たやり方らしい。昔三日やって挫折したとか何とか)、歌とも鬼道の詠唱ともつかないナニかを発声するようになった。負けず嫌いなのは大いに結構だが、せめて俺のいないトコでやってくれ。部屋の外への音は一切遮断されてるからご近所トラブルにはならなくても、同じツインで寝泊まりしてる俺には直で聞こえてくんだよ! という俺の切実な訴えは、何の効力も発揮せずにシカトされた。勝率ゼロのジャンケンを二か月続けても諦めなかった俺を愚劣とか言いやがったのは何処のどいつだっつーの。

 

 と、ひとしきりやって満足したのか、リーナはバケツを頭から退けるとアイテムウィンドウへと放り込んだ。今日のところはこれでお終いらしい。

 

「ん。ちょっと良くなったような気がする」

「錯覚だろ、目え覚ませ」

「一護、貴方はもう少し相棒に対する配慮というものをすべき、精神的な意味で」

「だったらオメーも相棒に対する配慮ってものをしやがれ、聴覚的な意味で」

「そう思うのなら、もっと効果的なトレーニング法とか機材を探してきて。具体的には、『一日一時間であらフシギ! 三日で歌が完全習得できるマシン!!』みたいなのを」

「ムチャいうな。ンなもんがマジで存在しちまったら、音痴って言葉がとっくの昔に死語になってんだろ」

 

 卍解における転神体みたいなもんがそうそうあってたまるかよ……いや、あのゲタ帽子ならどっかから出してきかねない。某タヌキも真っ青――奴は元から青いが、まあ比喩ってヤツだ――の何でもアリっぷりだからな、あの人。

 そんな俺の思考を余所に、リーナはスタスタとこっちに歩いてきて、俺が寝そべるソファーへとダイブしてきた。潰される前に起き上がって回避してやると、クッションに頭から突っ込んだリーナはうつ伏せのまま器用にスニーカーを脱ぎ捨て、もぞもぞといつもの体育座りへと体勢を変えた。

 

「大体、じゃんけんでもコイントスでもルーレットでも全戦全勝の私が、歌で一護に負けるなんて絶対におかしい。どこかに見落としがあるはず」

「いやおかしいのはオメーだよ。じゃんけんでもコイントスでもルーレットでも、この半年の間一回も負けがねえってどーゆーコトだよ。それで十分過ぎるじゃねえか。自重しろ」

 

 不服そうなリーナに俺がツッコみをいれた時、視界に小さなウィンドウが表示された。メッセージの着信を示すそのアイコンをクリックし、中身をザッと流し読んだ俺は「すぐ行く」とだけ書いた返信を飛ばし、首をボキボキやりながら立ち上がった。

 部屋着に着ていたパーカーをアイテムボックスに戻し、いつもの襟なしロングコートと愛刀『宵刈』を装備した俺を見て、リーナが首をかしげた。

 

「下の層に狩りに行くの? それとも狼ヶ原?」

「いや、ディアベルから『力を貸してほしいことがある』ってメッセージが来た。ヒマつぶしに行ってみる」

「私も行く」

「ああ、リーナも連れてこいって書いてあったからな。そーしてくれ」

 

 つい最近まではあり得なかったような内容の会話を交わしつつ、装備を整えた俺たちは宿を後にした。四月になってもまだ肌寒い晴天の下を歩きながら、俺は深いため息を吐いた。

 

「……ったく。まさか最前線に敵がほとんどいねえ、なんてことがあるなんてな」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 28層にはフィールドダンジョンが一ヶ所しか存在しない。北部にある草原フィールドの奥の窪地『狼ヶ原』ってのがそこだ。リーナ曰く「攻撃力は高いがHPが低くそれでいて高経験値、オマケにリスポーン間隔完全固定と、どうぞコイツを狩ってレベルをゴリゴリ上げてくださいとでも言わんばかりの仕様」だそうだ。

 おかげでこの狩場は毎日攻略組でごった返し、一回行ってみたときなんか「八時間待ち」とか言われて八秒で引き返した記憶がある。夜なら空いてるみてえなんだが、それだとリーナが()()()で使い物にならねえ。やっぱり、俺たちには効率重視の狩場は合わない。

 

 けど、だからって迷宮区にカチ込みかけても、今回ばっかりは意味がねえ。なにせ、『狼ヶ原』を除く全部のフィールドにはモンスターが全く出現せず、迷宮区への道はまどろっこしいスイッチやらなぞなぞやらがわんさか捩じ込まれていて、マトモに進むことすら出来ないからだ。

 そういうのが得意じゃない俺らは早々に攻略からドロップアウトし、今は複数のギルドが連携して、あーでもないこーでもないってやりながら、少しずつ道を切り開いてるって話だ。武装やアイテムが出るってんで、一応モチベは下がっちゃいないらしいが、何せ仕掛けの数がやたらと多く、そこそこの時間は掛かりそうってことだった。心底ウザい設計だ。フィールドモンスターゼロでボスもすげえ弱かった22層や26層よりは、多少マシなのかもしれねえけど。

 その一方、トラップ多発の27層やボス攻略の難易度が鬼畜だった25層は敵のレベルや数が凄まじく、おかげで俺らの鍛練が捗りまくった。まあ、そのツケがコレじゃあ流石に嫌になるけどな。

 27層のトラップは一通り狩り尽くしたんで、今行ってもザコい敵がチョロチョロとしか出てこねえから行く気がしない。虐殺系のクエストもとうの昔に受け尽くし、武器を初期のヤツに格下げして相対的難易度を上げて挑むのも飽きた。こっちのスペックが落ちたところで、敵連中の動きのトロさは変わんねえからな。

 

 何より、上層クラスのプレイヤーが下層を荒らすのはマナー違反らしい。19層辺りで派手に暴れたせいか、俺たちの人相はそれなり以上に広まっちまっていた。最初のころならともかく、今の状態でテキトーなことをやらかせば、確実に素性がバレる。

 この前なんか、街の中を歩いてただけで「リーナさんを掛けて俺と勝負だ!」とか、絡んでんだか何だかよくわかんねえ台詞と共に決闘を申し込まれた。十秒で斬殺したけどな、リーナが。

 俺が決闘を受ける受けないを決める前に、食事前で機嫌の悪いリーナに襟首をガッチリ掴まれて広場に強制連行。衆人環視の中ダメージを受けない圏内戦闘でボッコボコに叩きのめされ、挙句の果てに「私より弱い男が調子に乗るな」とバッサリ切られたヤツの表情は、ちょっとその辺じゃお目にかかれねえくらいの絶望の色に染まってた。自分をレベル32のベテランとかほざいてやがったが、それじゃこの前ケンカ売ってきて俺の《矢筈》でアッサリのされたマッチョのオッサン(レベル33)とどっこいだ。そもそもレベル差がデカすぎる。

 

 25・27層で散々暴れたおかげで、今のレベルは俺もリーナも46と相当高くなっていたが、そのせいで迷宮区に出現するモンスターやフロアボスが全般的に弱っちい(25層のボスは除くが)20番台の層は、俺たちにとってはちょっと物足りない。27層の呆れるほどに多種多様なトラップの山が懐かしくなっちまう。

 

「はっ、はぁっ、この、ツルハシ野郎! 斬っても斬っても、湧きやがるとか、どーなってんだ!! もう四十体は倒してんだぞ!?」

「それより、あの、多関節マネキン軍団を、なんとか、してっ!! 両足もいでも、向かってくるとか、ほんとムリ!!」

 

 戦士モンスターと人形モンスターの最悪コンビがわんさと湧いてくるアラームトラップ・結晶無効化エリアのオマケ付き、とか、

 

「なんだこの鳥オバケ、スゲー弱そうだな。さっさと斬って……おい、リーナ?」

「……ソードスキルが、発動しない」

「……え?」

 

 スキルありきの戦闘スタイルを取るリーナに消えないトラウマを植え付けたソードスキル無効化エリア、とか、

 

「――――。――? ――!?」

「――!? ――、――――――!!」

 

 何の前触れもなくいきなり声が出なくなる沈黙エリア、とか。

 

 他にもモンスターハウスに麻痺・毒・混乱なんかの状態異常、落とし穴もあった。他にもまだあったような気もするが、多すぎて覚えてない。多分、当たったトラップの延べ数は三十を超えていた。けど、今の層にはトラップの一つどころか斬る相手すらいない。28層が解放されたのはつい一昨日だが、俺たちにはもう宿に引きこもるかテキトーに街をうろつくか、腕が鈍らないように組手するかの三択しかなくなっていた。三つ目の組手で一日六時間は潰せたとしても時間は腐る程に有り余り、結果、四月上旬の今、俺たちはSAO始まって以来一番ヒマを持て余していた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ディアベルの所属する、『技能・戦術・戦略アカデミー(Skill, Strategy and Tactics Academy)』、通称SSTAは拠点を第一層主住区『はじまりの街』に持つ「SAOで最も人道的なギルド」だ。

 ベータ経験者を中心に組織されるこのギルドは、初心者から中級者までを対象にして、狩りをするときの基本から装備の選び方、ステータスビルドやソードスキルについて、個人戦から集団戦まで戦いの中での基本的な立ち回り方まで教えてるそうだ。30人で構成されたギルドの運営は基本的に『資金調達部隊』にローテーションで配属された連中の稼ぎと上級プレイヤー及び「卒業生」からの寄付で成り立っていて、受講プレイヤーから取る『授業料』は安めに設定してあるそうだ。

 こんなゲームの中でまで学校作るとかどんだけマジメな連中なんだよ、と混ぜっかえすのは簡単だが、こいつらがいなかったら最初の一ヶ月で死んだプレイヤーの数は倍になっていただろうと言われるほど、その影響力は大きい。初期の頃はご丁寧に給食も作ってたらしい。マジで学校だ。

 

 そんなマジメ連中の一人であるディアベルが待ち合わせに指定してきた11層主住区『タフト』のカフェテラスで俺たちはおち合っていた。

 

「……んで? なんだよ、力貸してほしいコトってのは。わりーが先に言っとくけど、スキル教えろとか、狩りの基礎の指導しろとかはできねーからな」

「いやいや、そんな大層なことを頼むつもりはないんだ。もっと単純なことだよ」

「単純、か。どっかのギルドの護衛でもすんのか」

 

 無言でスイーツの山を消化するリーナの横で、ディアベル一押しだとかいうガトーショコラを頬張りながら俺が訊くと、紅茶のカップを傾けていたディアベルは大きく頷いた。

 

「まあ、大雑把に言ってしまえばそんなところかな。オレがキミたちに頼みたいことは、ある小規模ギルドの引率なんだ」

「護衛じゃなくて、引率? ってことは、一応自力で外に出れる連中なんだろ? 小学校じゃあるめえし、ンなことする意味あんのかよ」

「あるんだよ、これが」

 

 カップを置いたディアベルの目が真剣な色に光る。

 

「訓練ならともかく実戦においては、初心者パーティーの場合、柔軟な対応というものが中々できない。相手モンスターが想定を少しでも外れた動きをしただけで連携が崩れ、そのままやられてしまう事が多いんだ。戦線が崩壊したとき、それを押し戻せるだけの実力をもった保護者のような存在はとても重要だ。

 今回キミたちに引率してもらいたいパーティーはまだ講習を受けていないから、戦闘がかなり拙いと思う。挑むのは彼らがいつも狩りをしているという20層のフィールドダンジョン『ひだまりの森』。そこで、彼らについて行って動きを見つつ、危なくなったら加勢する。頼みたい仕事の内容は、そんなところだ」

「それ、別に俺らがやる必要ねーだろ。フツーにオメーらだけで十分じゃねえか?」

「いやー、恥ずかしながら、ウチのギルドは今繁盛期でね。講習の実施だけで精いっぱいで人手が足りないんだよ。最前線は今謎解き(リドル)で忙しいってことで、戦線から外れて時間が余ってる攻略組の人たちも多い。そう判断して、信頼できるキミたちにまず声をかけたってことさ」

「ホメたってなんもでねーよ」

 

 そう言いつつ、俺はリーナを横目で見た。コイツは交渉の条件が悪ければ、例え自分が食事中でも横やりを入れてくる。それが黙って大人しくメシ食ってるってことは、ここまでの内容に特にアヤシイところがねえって言ってるのと同じ意味だ。炭鉱のカナリアみてえな扱いだが、気にしたら負けだ。

 

「もちろんタダでとは言わない。キミたち攻略組を雇う以上、相応の報酬を払おうじゃないか」

「いくらだ」

「期限は28層のギミックエリアが攻略されるまで。日給で一人五万コル」

「……お守の駄賃にしちゃあ、ズイブンとたけーな」

「トッププレイヤーの引率なんだ。これくらいが妥当じゃないか。ギルド内でもこの額に反対する者はいなかったしね。

 ……さて。この条件で、小規模ギルドの引率、引き受け――」

「受ける」

「……金に目がくらみやがったな、テメエ」

 

 目が¥マークになったリーナを見て、俺は呆れた声を出した。つい最近装備を新調したせいで金欠らしいコイツにとっちゃ、金払いが良くてヒマが潰せるクエストなんてのは、願ったり叶ったりだろう。

 

「ありがとう、リーナさん。よろしくお願いするよ。一護君、キミはどうだい?」

「……まあ、他にやることもねえしな。いいぜ、受ける」

「良かった、助かるよ。SSTAの平均レベルはせいぜい中の上程度だからね、確実に安全性を確保するならそれなりの人手を割かなければならないんだ。その点、キミたちなら二人でも十分すぎるくらいに安全だ。改めて、礼を言うよ」

「言わなくていいぜ、大げさな」

「ははっ、キミは相変わらずだね……っと失礼、メッセージだ」

 

 ディアベルはそう言って目の前の空間をクリックし、先刻俺がやったような動作で指を振る。こっちからは見えないが、眼前に表示されたメッセージをスクロールしていたディアベルだったが、突如その動きが止まった。軽いため息と共に、水色の髪の下の目が伏せられる。

 

「ドタキャンか?」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだが……やはり、キリトくんは難しいか」

「当たり前だろ。意外でもなんでもねー。アイツがギルドのお守りなんて依頼、引き受けるわけがねえだろ」

「まあ、そうだよね。ソロだったころの彼ならともかく、今の彼はギルド所属だ。他のギルドの引率を受けてくれるはずは――」

「おい待てよ、オメー今なんつった? キリトがギルド入りだと?」

 

 至極当然って感じの口調で言い放たれた驚愕の事実に、俺は思わず聞き返した。付き合い最悪のアイツがギルドに入るなんざ、涅マユリが人権尊重するくらい有り得ねえと思ってたのに。

 驚く俺とは対照的に、ディアベルは怪訝そうな顔をしていた。

 

「おや? キリト君に聞いたところでは一護君とリーナ君も知っているはず、とのことだったが。どこかのフィールドで会ったような口振りだったよ」

「どっかで会った……? 覚えてねーな」

「んぐんぐ……一週間前、素材回収に行った迷宮区で会ったでしょ。その時、彼のHPバーにギルド所属のマークが付いてた。そんな最近のことも忘れたの? この8ビット脳みそ男」

「うるせーな、つかなんだよ8ビットって」

「アルファベット、もしくは数字一文字のビット数。1バイトと同義」

「……よくわかんねーけど、とりあえずスゲーバカにしてんのはわかった」

 

 バッと見1ホール分のケーキをさっくり完食した底なし胃袋女を俺は睨み付けたが、当の本人はドコ吹く風とでも言わんばかりの表情で紅茶をすすっている。

 

「ま、まあその話は置いといて、引率の話に戻ってもいいかな。

 実は、引率の第一回は今日からでお願いしたい、と彼らから要望があってね。ホームはこの街にあるそうだから、メッセージを飛ばせばすぐに来てくれると思う。どうかな」

「……まあ、いいんじゃねえの。どーせやるなら、早い方がいいだろ」

「同じく」

「そうか、ありがとう。なら早速、呼んでみようか……」

 

 承諾を受けたディアベルがメッセージを飛ばしたその七分後、俺たちの座るテラス席の前に五人のプレイヤーが立っていた。

 特に目立った特徴はない。男四人、女一人の構成で、武器は装備してない。男四人のうち、三人は軽鎧、一人はマントを羽織った――多分「シーフ型」ってヤツだ――軽装、女の方はよくわかんねえ。防具すらないから、機動特化か? いやタイトスカートみたいなもん穿いてるし、それはねえか。スカート穿いてバンバン動くのはあのスケベ女だけで十分だ。あとコイツだけ、明らかに俺の面見てビビりまくってる……いや、もう慣れたけどよ。

 

 緋色の上下に軽鎧を重ねた男が一歩前に進み出て、軽く一礼してきた。

 

「えっと、初めまして。ギルド『月夜の黒猫団』リーダーのケイタです。僕たちの引率を引き受けて下さってありがとうございます、短い期間ですが、よろしくお願いします」

「一護だ。こっちは大食いのリーナ。俺らは別にプロでもなんでもねえから、そんなに畏まんなくていいぜ。敬語もいらねえし」

 

 ニガテなんだ、敬語(そーゆーの)、と付け加えると、ケイタは丸顔を少し困ったようにひそめたが、すぐに人の良さそうな笑顔を浮かべて頷いた。

 

「……わかった。じゃあ、改めて。よろしくお願いするよ、一護、リーナ」

「私には様を付けて」

「え!?」

「気にすんな、戯れ言だ」

 

 初対面のヤツに十中八九ブッ込む相方のおふざけをバッサリ切り捨て、俺は立ち上がって右手を差し出す。

 

「んじゃあ、ちょっとの間だけど、よろしくな」

「あ、はい! ……じゃなかった。こちらこそ、よろしく」

 

 そう言ってケイタは俺と握手を交わし、俺たちの個人クエスト(お守り)が決定した。




感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
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というわけで、第三章、月夜の黒猫団編です。
多分、ちょっと短めになると思います。

そして、第三のヒロイン候補、サチ登場でした。短気で強気な一護とはどう考えても正反対な彼女ですが、果たして一護との関係はどうなっていくのか、乞うご期待。

次回の更新は来週火曜日の午前十時を予定しております。

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