甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

12 / 35
遅れて申し訳ありません。リアルが何分忙しかったもので。
べ、別に他のサイトのオリジナル小説を完結させてたからじゃないんだからね!
……はい。本当に申し訳ありません。心の底から反省しています。

※再び甘粕成分無し。ただし替わりにある少女が多めに登場しますのでご注意ください。


第十一話 鈴音

 凰鈴音の来襲から数日。

 ……いや来襲とは言っても、その後すぐに千冬によって追い返されたわけだが。しかし、それによって皆の疑問が確信へと変わった。

 織斑一夏と凰鈴音は知り合いである。

 その事実はすぐさま全クラス、否全学級に伝わった。

 そして、噂が大好きな女子生徒達の話を聞くと、内容は次のとおり。

 

「織斑君と凰さんは幼馴染なんですって」

「何でも篠ノ乃さんと入れ違いにやってきて知り合ったとか」

「それで去年……つまりは、中学三年の時に中国に帰ったんだって」

「でも織斑君って凄いよねぇ。だって、凰さんって中国の代表候補生でしょ? そんな人と知り合いだなんて」

「それに最近じゃあ篠ノ乃さんやセシリアさんとかも仲良さそうだし」

 

 それは凄いことなのか?

 そんな疑問が頭をよぎるが、しかし聖は何も言わない。所詮、織斑一夏がどれだけの繋がりを持とうと聖には関係のないことなのだから。

 とは言うものの、元凶である織斑一夏は聖と同じクラス。故に知りたくなくても彼の周りの状況は入ってくるのだ。

 例えば凰鈴音との関係を箒やセシリアが織斑一夏に色々と聞いていたこと。

 例えばそれに対して凰鈴音が余裕の態度で返すなど。

 例えば……織斑に紹介される時『ただの幼馴染』と言われていたことなど。

 ここ最近で言えば、何やら放課後ISの練習を箒がやるか、セシリアがやるかで揉めているとか。

 そんなどうでもいい情報が何故か入ってくる。何故だろうか。

 

 

 しかし、今の聖にとって重要な問題は彼らではない。

 現在、彼女の部屋で居座っている二人の馬鹿である。

 

「ったく、あいつら……」

 

 などと言いながら聖は夜の廊下を歩いていた。その目的は自動販売機のジュース。

 喉が渇いたから買い物に出かける……という理由ならば良かったのだが、そうではない。これは一種の罰ゲーム。負けた者が勝利者達が欲しい飲み物を買ってくるという何とも在り来りなものだ。

 その勝負内容は言うまでもない。

 

「あの二人が容赦ないのは知ってたけど……何で私の宿儺が負けるかなぁ。そりゃあ、スペック的に? ハイドリヒ卿の方が上だし? ヴァルゼライド総統は色んな意味で規格外だし? 加えて連中の腕前はプロ級だし? でもなぁ……何で負けるかなぁ。いや、ハイドリヒ卿はともかく、ヴァルゼライド総統には相討ちでもおかしくないはずなんだけど。声的に」

 

 それはお前の愛が足りないからだ……などというツッコミは無論飛んでこない。

 

「今度はベイ中尉で……いや、あの人はやめとこう。宿儺や司狼並みに好きだし、外伝で主人公やってるけどやめとこう。水銀(へんたい)の呪いで絶対に勝てない気がする」

 

 などと誰にか分からない言い訳を呟きつつ、聖は自販機の前に立つ。

 さて、あの二人が言っていた飲み物はあるだろうか……そんなことを考えながら探していると。

 

「…………ぅ、……う……」

 

 何やらうめき声のようなものが聞こえてきた。

 一瞬何だ、と思う聖だったが、よく聞いてみるとそれがうめき声ではなく泣いている少女の声だというのがすぐる分かった。

 ふと声がする自販機の隣を覗いてみると。

 

「あなたは……」

「……あんた……ぐすっ、誰……?」

 

 そこには大粒の涙を流している凰鈴音が体育座りしていた。

 

 *

 

「落ち着いた?」

「…………うん」

 

 ベンチに座り込む鈴は答える。

 確かにもう涙は流してはいないが、しかしいつものような活気はない。落ち着いている、というより、落ち込んでいる、という方がより正確だ。

 

「はいこれ」

「……ポカリ?」

「わたしのおごりよ。嫌いだった?」

「ううん……ありがと」

 

 礼を言う鈴であったが、やはり元気はない。

 そんな状態でありながらも、一応聖は彼女の話を聞くことができた。

 凰鈴音―――――もとい、鈴の話を要約するとこうである。

 

「つまり、あなたは織斑一夏に昔プロポーズしたけどそれを別の意味で覚えられていて、ショックで泣いていた、と」

「ぷっ!!」

 

 透明な液体が空中を舞う。

 事実を言ったまでなのだが、そこまで驚くような……ことなのだろう。彼女からしてみれば。

 

「な、なななな、アンタ、何言って……!?」

「実際そうでしょうが。自分が料理が上手くなったら酢豚を毎日食わせてあげる……それって私がお嫁さんになって毎日味噌汁を作ってあげる的なことでしょう?」

「ち、違っ! そんな、意味では、断じて、ないわよ!!」

 

 などと供述しているものの、顔は真っ赤であり、説得力の欠片もない。これがリアルツンデレというやつか。

 

「まぁ、あなたが織斑一夏のことが好きだとして……」

「だから、違うって!!」

「……仮定の話よ。もし、織斑一夏に対してプロポーズをしたつもりなら、まぁ今回の件は八割は織斑一夏が悪いでしょうね」

「八割……?」

 

 聖の言葉に首を傾げる鈴。

 女の方に、というのは些か表現はあれだが、少なくとも彼女は告白をしたつもりなのだ。それを正しく受け取らなかったのはやはり織斑一夏に責任はあるとは思う。

 だが、だ。擁護するわけではないが、今回の場合、織斑一夏が全て悪い、というわけではないだろう。

 何故なら。

 

「でも、あなたにも至らない点があったとは思うけど」

「それは……酢豚のところ?」

「いや、酢豚だろうが味噌汁だろうが、それは別に問題じゃないわよ……問題なのは、回りくどい言い方よ。あの織斑一夏よ? 自分のことを気になってる女が二人も傍にいるっていうのに全く気づく気配がないあの『唐変木』よ? そんな奴が遠まわしの告白に気づくと思う?」

「それは……まぁ……」

「何が原因でああなったのかは知らないけど、きっと彼は『付き合って』という言葉すらも『買い物に付き合う』的な意味に解釈するわよ」

「それは流石に言い過ぎ……とは言い切れないわね」

 

 鈴でさえも聖の言葉を否定することはできなかった。それだけ織斑一夏の常人離れしたスルースキルは高いのだ。いや、格好良く横文字で表現したが、実際のところは女心が分かっていないだけだが。

 簡単に言えば超がつく程の鈍感なのである。

 

「まぁ、あなたが直接的な意味合いで告白できなかったのは分かるけど」

 

 彼女が告白したのが小学生か、はたまた中学生の時なのか。そこまで聞くつもりはない。だが、いつだろうが告白することに勇気が必要なのは当然だ。そして、その結果少々誤魔化しの言葉が混じってしまうのは自然な流れと言えるだろう。

 

「……あたしね、この学園に来たのは一夏を追ってきたからなの。ほらあいつ、一時期テレビとかで話題になったじゃない? 世界で唯一の男性IS乗り誕生だって……そのニュースを聞きつけてね」

「聞きつけて追いかけてきたって……でもIS学園ってそんな簡単に編入できるところじゃ……」

 

 聖の言葉に鈴は「あー……」と明後日の方向を見ながら苦笑する。

 

「それはその、前から誘いはあったのよ。中国の軍部の奴らにね。連中からしれみれば、あたしをIS学園とのパイプにしたかったんだと思う。後はまぁ、IS学園にいる他国の搭乗者のデータ採集とか? まっ、そういうのが嫌で一度は断ったんだけど……一夏が入学したのを知って今度は逆に脅して何とか編入できたってわけ」

 

 鈴の説明のほとんどは理解できるものだった。なるほど、だから彼女はこんな微妙な時期にやってきたということか。

 

「にしても、脅したって……中国の軍人相手によくできたわね」

「し、仕方ないじゃない! そうでもしなきゃ、一夏の元に行けなかったんだから……そりゃあ男を追って編入するなんて他の連中からしてみれば馬鹿馬鹿しくて許せないことだとは思うけど……」

「それを自覚している辺りはマシってところかしらね」

 

 うぐっ、と肩を竦ませる鈴の姿から考えて、どうやらそれなりの罪悪感は感じているようだ。

 それにしても……恋は盲目とは言うものの、ここまで行動的な鈴を聖は素直に凄いと思っていた。一人の男のためにそこまでできる女性は今の世の中にどれだけいるだろうか?

 女が上だとか、男が下だとか、そういう風潮が伝染病の如く広がっているこの世界において、この少女は好きな相手のためにここまでやってきたのだ。

 脅し、という行為は褒められたものではないが、しかしそれでも彼女の努力は評価すべきことがらだ。

 だが、そこまでした彼女だからこそ、この現状に蹲る他無かったのだろう。

 

「……でもどうしたらいいんだろう。あたしがいない間に変な虫がついちゃってるし」

 

 変な虫、というのが箒やセシリアのことであることは言わずもがな。しかし箒から言わせてもらえば、鈴の方が後からやってきた女という認識であることに違いない。もしかすれば、今現在もそのことで苛々しており、それを織斑一夏にぶつけている可能性もある。

 まあ、それはそれで織斑一夏の自業自得、と言えなくもないが、そんなことはどうでもいい。

 

「私に聞かれても何も言えないわよ」

 

 結局のところ、それである。

 正直な話、聖は織斑一夏が何故こうも女性陣から好意を向かれるのかが分からない。はっきり言ってしまえば魅力を感じないのだ。そんな相手は別段嫌いでもないが、興味もない。故に彼女達がどう想っているのか、それを正確に判断することはできないし、するつもりもなかった。

 そもそもにして、聖は既に多くの厄介事に巻き込まれている。そしてその中でも一等問題児な奴が現在進行中で彼女の部屋でゲームをしているわけだ。

 これ以上迷惑を被るのは御免だ、と思うのは何の不思議もないことだ。

 けれど。

 

「…………、」

 

 無言で俯く少女の姿はどこか寂しげだった。

 放って置く、という手段は当然ある。これは鈴の問題だ。聖には何の関係もないし、被害もでない。むしろ、彼女に何かしら助言することで自分に妙なことが返ってくる可能性だってある。

 けれども。

 聖には今の鈴に何も言わず、立ち去るという選択肢は無かった。

 

「しかしまぁ、好きになったものは仕方ない。そういうのは惚れた者の負けって相場が決まってるのよ」

「……わかってるわよ、そんなことは」

「そう、だったら」

 

 言いながら聖は立ち上がり、自らが飲み干したペットボトルをゴミ箱へシュート。

 見事に入ったと同時に鈴の方へと顔を向ける。

 

「織斑一夏を惚れさせないとね」

「……へ?」

 

 言葉の意味を理解しきれていない鈴に聖は続けて言う。

 

「言ったでしょ? 恋愛っていうのは惚れた者の負けなのよ。だったら話は簡単。相手にも負けて貰えばいいだけの話。そうすれば問題は解決される」

「相手を惚れさせるって言っても……」

「自分の気持ちだけを押し付けて相手が好きになってくれるなんてことは有り得ない。そんなのただの自己愛に過ぎないわ。相手のことを想うのなら、相手が何を望んでいるのか、それを分かった上で自分に惚れさせる度量を持ってなくてどうするのよ」

 

 好きです付き合ってください。その言葉は大切なものだ。言葉にするには勇気が必要だ。故に馬鹿にすることなどできるわけがない。

 しかし、だ。

 本当に相手のことが好きならば自分に惚れさせる努力もするべきだろうと聖は想うのだ。

 目を丸くさせていた鈴は少しの間惚けると、微笑を浮かべた。

 

「何よそれ。良いこと言ってるようで実際のところ、当たり前のことを口にしてるだけじゃない」

「ええそうよ。だってわたし、恋なんてしたことないし」

「結構なこと言ってたクセに結局それなのね……でもまぁおかげでちょっとは励まされたかな」

 

 背伸びをしながら立ち上がる鈴。

 その表情には既に涙は見当たらない。

 

「色々とありがと……えーっと」

「聖。世良聖よ」

「そう。じゃあ、聖。また何かあったらあんたのところに行くわね」

 

 はにかみながら言う鈴。

 それは断固として断りたい聖であったが、流石の彼女もここで空気を読めないわけではない。

 

「……まぁ、愚痴を聞く程度ならいいわよ」

「了解っ、それじゃあね!」

 

 手を振りながら去っていく彼女の姿に先程の寂しさは感じられなかった。

 再びやってきた厄介事に聖は大きなため息を吐きながらも、そのまま自らの部屋へと帰っていった。

 

 

 そして数日後。

 クラス対抗戦において織斑一夏と鈴の対決が学校中に広まったのだった。




一方その頃

簪「混沌より溢れよ怒りの日(Du-sollst――Dies irae)!!」

甘粕「超新星(Metalnova)―――天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s )!!」

 二人はいつも通りであった。

―――――――――――――――――――――

 というわけで鈴が全面に出てくる回でした。
 前々から鈴は登場させていたんですが、これほどまでに出てくるのは今回が初めて。というのも彼女は甘粕が『気に入りそう』なので少々厄介な事態になりかねないので……。
 とは言え、ようやく一夏VS鈴に持って行けます。

 何度も申し上げていましが、本当にリアルが忙しくなっているので、更新速度も遅れていくと思いますが、何卒、何とぞ、よろしくお願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。