甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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そろそろロッズ・フロム・ゴッド的な話を落とそうかと思います。
※今回はIS勢がメインです。ご注意ください。


第十三話 襲撃

 アリーナ上空の遮断シールドというものが張られていた。それはIS学園が誇る強固なものであり、並大抵のものでは破壊されることはない。

 しかし、それは既に過去の話。

 現在は謎のISの奇襲によって破壊されてしまっていた。

 そんな現状に戸惑いを感じつつ、管制室にいた山田麻耶はアリーナにいる二人のIS乗りに緊急連絡をしていた。

 

「もしもし織斑くん、凰さん!? 今すぐアリーナから脱出して下さい!! すぐに先生達がISで制圧しに行きます!!」

 

 緊急事態のためか、いつも穏やかな彼女が今はどうしようもなく威厳を持っていた。

 いや、これはただ単に焦っているともとれるか。

 しかし、そんな彼女の言葉を一夏は受け入れない。

 

『いや、皆が逃げるまで食い止めないと』

 

 その言葉は正しかった。

 あのISは遮断シールドさえ突破してきたのだ。アリーナそのものを破壊することは勿論、人間があのISの攻撃を受けてしまえばひとたまりもない。

 しかし……。

 

『それでいいな、鈴』

『だ、誰に言ってんのよ。そ、それより離しなさいってば! 動けないじゃない!!』

『ああ、悪い』

 

 言うと二人はそれ以降返答しなくなった。

 

「織斑君!? だ、ダメですよ! 生徒さんにもしものことがあったら……もしもし!? 織斑くん聞いてます!? 凰さんも聞いてますか!?」

 

 麻耶は返答しないと分かっていても何度も呼んでしまう。それだけ今の彼女は切羽詰っていた。

 彼らの言い分は正しい。けれど、正しいからとって生徒自身を危ない目に会わす教師がどこにいるだろうか。

 そんな彼女とは裏腹に千冬はいつものような態度で言う。

 

「落ち着いてください、山田先生。貴女が焦っても状況は変わらない」

「ですけど、織斑先生――――!?」

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

「なっ、そんな呑気なことを……!?」

 

 と言い返そうとしたその時、麻耶は見た。

 千冬が組んでいる腕。その右手がギュッと服を掴んでいることに。そしてその手が震えていることに。

 それが意味することを彼女は理解した。

 

「織斑先生……」

「今我々がやるべきことはあの二人が時間稼ぎをしている間に少しでも逃げ遅れた連中を救出すること。だが――――」

 

 と言いながらブック型端末の画面を数回叩き、表示される情報を切り替える。その数値はこのアリーナのステータスチェック……つまりは現状どうなっているのかが分かる。

 それを見た金髪少女……セシリアは目を丸くさせながら言う。

 

「遮断シールドのレベルが4……!? しかも、扉が全てロックされて――――――まさか」

「あのISの仕業、だろうな。これでは避難するどことか、救援に向かうこともできない」

 

 冷静に状況を判断する千冬であったが、心の底はそうもいかない。苛立ちのせいか、端末を操作する仕草がどことなく荒っぽくなっている。

 

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を!?」

「現在やっている。それに既に三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できればすぐに部隊を突入させる」

 

 既に策は講じている。

 しかしそれは言ってしまえば今は何もできない、ということと同じだ。

 そのことに苛立ちを覚えるのはここにいる全員。

 千冬もセシリアも麻耶もそして……。

 

「あら?」

 

 と、そこで麻耶はあることに気がついた。

 

「篠ノ之さんはどこへ……?」

 

 三人と共に一夏の試合を観戦していた少女。その姿が見当たらなかった。

 

 *

 

 襲撃後、聖は避難出口へとやって……きてはいなかった。

 いや、無論避難することが今は先決であり、優先すべきことなのだ。現状で聖ができることなど何もないのだから。

 しかし、そんな彼女が今アリーナ内部で駆けずり回っているのは無論、目的があった。

 それは。

 

「あっの馬鹿……どこに行ったの!?」

 

 いつの間にか居なくなった甘粕(ばか)を探すためである。

 織斑一夏と鈴の対戦の時は確かにいた。ならばいつ居なくなったのか? 答えは明白、所属不明のISが襲撃し、そこから避難する時だ。

 甘粕のことである。どうせあのISと対峙している二人の勇姿と見たいとか何とか、そういった理由で彼らが見える場所に言っているに違いない。

 

「全く、本当に面倒なことしかしてくれないんだから……!?」

 

 口に出して文句を垂れる一方で疑問が浮かぶ。

 何故自分はあのような馬鹿を探しているのだろうか。放っておけばいいのではないだろうか。

 そもそもにして、あの少女……というのは憚られるルームメイトがこんなことで危険な目にあうだろうか?

 様々な問いが頭に浮かぶが、しかし聖は探すのをやめない。

 何故ならば。

 

「後で何かあったって分かったら、目覚めが悪いじゃない……!!」

 

 それが本心なのか、それとも虚言なのか。真実は本人にしか分からない。

 けれども今やるべきことは理解している。それだけで十分だった。

 

「にしても、誰もいないわね……まぁ当然だけど」

 

 赤い照明が照らすアリーナ内部。正確に言うならばここは元々アリーナの観客席だ。

 謎のISの襲撃時、即座に作動した緊急装置によって外との間に壁が出現し、遮断している。これがあるおかげで外の戦闘に巻き込まれずに済んでいるわけだ。

 肝心の生徒達はというと、奥にある出入り口にいるが、外に避難できてもいない。というもの、何かの故障なのか、出入り口が固く閉ざされているのだ。

 

「もうすぐ学園の救出部隊が来るとは思うけど……」

 

 何故だろうか。何か嫌な予感はするのは。

 しかしそんなことを考えても仕方がないと判断した聖はそのまま別の場所へと捜索しようとした。

 瞬間である。

 

 なんの前ぶりもなく、外と遮断してあった壁の一部が崩壊した。

 

 

「なっ何!?」

 

 崩れる瓦礫に巻き込まれないように逃げる聖。幸いなことに崩壊した壁の場所は聖がいる場所よりも遠かった。

 けれども崩れた壁は予想以上大きかった。これでは謎のISが穴から侵入してしまう可能性もある。いや、もしかすればそのためにあのISが穴を作ったのかもしれない。

 それを確認するため、ではないが聖は外の様子を見るために大きな穴へと近づく。

 そして外では予想通りというべきか、謎のISに織斑一夏と鈴は苦戦を強いられていた。

 

「……ちょっとあれはまずいわよね……」

 

 ISに触って未だ二ヶ月も経たない聖であっても、戦況が悪いのはすぐに理解できた。

 巨大な両拳での接近戦。両肩に乗ってる砲身からの遠距離ビーム攻撃。そして何より、連携が取れていない織斑一夏と鈴。

 これだけの悪条件が揃っているのはやはりまずい。

 しかし、今の自分には何もできない。

 と思っていると。

 

 

『一夏ぁぁぁぁぁあああああ』

 

 

 どこからか聞き覚えのある声が響いてきた。

 

 

 *

 

 

「箒っ!?」

 

 唐突に呼ばれたこと、そしてそれが自分の幼馴染であったことに驚きながら、一夏は放送室の方へと目をやる。

 今から一かバチかの攻撃をしかけるまさにその時というなんとも間の悪い瞬間だ。

 

「あいつ……何してんだよ!!」

 

 そんなことを言ったところで彼女には聞こえない。

 その替わり、というべきか。箒は先程と同じような音量で一夏に言う。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 それはある種の声援、だったのだろう。

 しかし、それが事態を悪化させる。

 考えて見て欲しい。ここまで大声で叫ばれたとして、それが聞こえるのがこちらだけということが有りうるだろうか?

 答えは……否である。

 ハッ、と一夏は敵ISへと視線を向ける。

 

「…………、」

 

 見事想像通りというべきか。謎のISは先程まで大声で叫んでいた箒の方へと向いていた。

 そして獲物に狙いを定めるかのように両手を箒に向けると、そこに光の粒子が集まっていく。

 ビーム砲を打つ気なのだ。

 

「くそ……鈴っ!! やってくれ!!」

「わかったわよ!!」

 

 溜めに溜めた衝撃砲を放とうとする鈴。無論、狙いは敵のIS。

 その射線上に一夏は躍り出た。

 

「ばっ、ちょっと!! 何してんの!!」

「いいからそのまま撃て!!」

「……ああもうっ!! どうなっても知らないわよ!!」

 

 そしてそのまま一夏は鈴の衝撃砲を受けた。

 想い衝撃が背中にかかったと同時に一夏は『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を作動させる。

 瞬時加速。その原理は後部のスタスター翼からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、圧縮して一気に放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速するのだ。

 そして、それは外部からのエネルギーでも良い。

 つまり、鈴のIS……『甲龍』の衝撃砲からエネルギーを吸収することも可能というわけだ。

 重く、凄まじい衝撃が体中をきしませる。

 そして―――――加速する。

 

「ォォォオオオッ!!」

 

 右手に持つ雪片弐型が強い光を放つ。中心の溝から外側に展開したそれは、一回り大きいエネルギーの剣と変貌していく。

 

【零落白夜】。

 それが、今のこの剣の正体である。

 あらゆるエネルギー兵器……つまりはISのバリアーさえ無効化する特殊な技。その圧倒的なまでに必要とされるエネルギーはしかして今、一夏の手には存在している。

 故に彼は前へと突っ込む。

 

(俺は……千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人すべてを――――)

 

 そうして敵ISとの距離を一気に縮めた瞬間。

 

「守る!」

 

 その言葉と同時に必殺の一撃で敵ISの右腕を見事に切断。

 

「やっ……ぐはっ!?」

 

 しかし喜びも束の間、切られた右腕のことなど知るかと言わんばかりに敵ISは左拳を叩き込んできた。

 そして追撃と言わんばかりにビーム砲を一夏へと向ける。

 至近距離からの攻撃など、今喰らえばひとたまりもないのは明白。

 

「「一夏っ!?」」

 

 叫ぶ幼馴染達。その声音は必死そのもの。

 けれど――――当の本人は笑みを浮かべている。

 何故ならば――――。

 

「……狙いは?」

『完璧、でしてよ』

 

 刹那。

 客席からブルーティアーズのレーザービームが敵ISを貫いていく。

 本来ならば、その攻撃で止めをさすことは不可能なのだろう。

 しかし、だ。その攻撃を守る楯……遮断シールドは既に先程一夏が取り除いている。

 ならばどうなるか?

 連続的に放たれる攻撃に敵ISはなすすべもなく受け続け、結果機能を停止させ、人の切れた操り人形のようにがっくりとその場に膝を折る。

 ふぅ、とため息をついているとふとセシリアから通信が入る。

 

『ギリギリのタイミングでしたわ』

『ああ……でも、セシリアならやれると思っていたさ』

『そ、そうですの……。と、当然ですわね! 何せわたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生なのですから。これくらいのこと、造作もないですわ!!』

 

 といつものような会話を聞けるだけで一夏は理解する。

 ああ、終わったんだ、と。

 やりきった達成感と共に疲れと虚脱感が彼を襲う。

 しかし何はともあれ、だ。

 

「これで事件は一見落着ってことだな」

 

 そう。これで事件は終わ――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、終わらん。地獄(しれん)はここから始まるのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタンッと何かが壊れる音がした

 

「……?」

 

 ふと見てみると敵のISの一部が壊れていた。そしてそれによって、中の様子がどんな風になっているのか見えるようになった。

 一夏は思った。このISには人間的動きが全く存在していない、と。

 一夏は思った。それ故にこのISには誰も搭乗していない、と。

 一夏は思った。結果、このISは無人機なのだ、と。

 それは今も思っているし、変わらない。

 けれど、と一つ思い浮かべることがある。

 もしも、人間ではない何かがあったとするなら、どうだろうか。

 

「……何だ、あれ……」

 

 目を疑いたくなるような光景がそこにはあった。

 まず、それは白かった。純白、という意味ではなく、まるで死臭を誘うかのようなその色合いは生者にとっては猛毒のようなものだ。

 次に、それは古かった。見た目から察するにかれこれ百年以上前の代物……いや、これを代物などという表現は不適合と言うべきだろう。

 そして、それはおぞましかった。恐らくこれを見た人間の大半はそういったある種の恐怖を抱くだろう。そうでない人間がいたとしても、決して幸福的感情など抱くわけがない。

 これを一言に、そして簡潔に表現するならばただ一つ。

 

 そこには白骨化した死体が入れられていた。

 

「何よ……どうなってんのよ、これ……」

「これは一体……」

 

 後からやってきた鈴とセシリアも一夏と同様な感想を抱く。

 当然だ。こんなモノがISの中に入れられていたなんてこと、信じられないのが普通である。

 いや……これをモノと言うべきかどうか、それすらも迷うものだ。

 白骨化した死体……ミイラは既にモノだ。血を抜かれ、肉を削がれ、温もりを徹底的に消失させている。故に生きているわけではない。だからこそ、博物館にあるミイラなどはそこまで嫌悪するわけでもないし、恐怖することもない。

 しかし、だ。

 

「気味が悪い、などというレベルではありませんわ……」

 

 ならばどうして自分達はここまでこのミイラに嫌悪を抱くのだろうか。

 所属不明のISに入っていたから? それもあるだろうが、しかしそれよりももっと重大な原因があるはずだ。

 

「っていうか、あれ……何かこっちを睨んでるように見えるのはあたしの気のせい……?」

 

 言われてみれば、と一夏はようやく気づく。

 それが死体であるにも拘らず、何かしらの感情をこちらにぶつけているような、そんな風に見えるのだ。怒りや憎悪、嘆きに悲哀。そういったマイナス的なものを放出している気がする

 そのことを意識した瞬間、胃液やら何やらが逆流してきそうになった。

 そして一夏は思う。思ってしまう。

 こんな死体になってまで、こんな状態になってまで恐怖を、嫌悪を感じさせるそれは――――。

 

「まるで……化物じゃないか……」

 

 

 

 

 

 言った。

 言ってしまった。

 口にしたということはそれは心の中で思っていると……つまりは認識していると証明したようなもの。

 そして、それこそが『彼女』の力の発動条件。

 

 

 

 

 

 

 

 

『急段・顕象――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ少年よ。少女よ。心せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼牙機甲獣化帝国(ウラー・ゲオルギィ・インピェーリヤ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここからが本当の地獄(しれん)である。




やってしまった……ついにやってしまった……。
しかし、後悔はしていません。
色々言いたいことがあると思いますが、今日は敢えて語りません。
そこら辺は感想などで受け付けます。
さぁ、ここからどうなるのか……それは次回のお楽しみということで!

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