甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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さぁ、皆大好き絶望の時間の始まりだよ(笑)
※今回もIS勢がメインです。ご注意ください。


第十四話 人外

 それは少女のものだった。

 ミイラであるはずの、死体であるはずのそれから発せられたであろう声に一同は驚愕を隠せない。

 だが、本当に驚くのはそのすぐ後―――――全てはそこから一瞬の出来事だった。

 

 風。そう、風だ。奇妙で奇怪で不快。何とも言い難い力の奔流が自らの横を通り過ぎた感覚。

 

「え……?」

 

 それと同時にブルーティアーズがまるでサッカーボールのように吹き飛んでいった。

 

「なっ……!?」

「セシリアっ!!」

 

 叫ぶ鈴と一夏。あまりの出来事に信じられないと言わんばかりな口調な二人であったが、しかしそんなことをしている場合ではない。

 不穏な空気が再び彼らを襲いにかかる。

 

「っ!? 鈴!!」

「分かってるわよ!!」

 

 瞬間、二人は同時に空中へと飛び立つ。それは恐怖からの咄嗟の行動。ふと見るとセシリアはアリーナの壁に激突していた。意識はあるようで、死んでいるわけではないようだが、それでもまともに動ける状態ではないらしい。

 

「セシリア、大丈夫か!!」

『ええ……ですけど、ダメージは……相当、喰らいましたわ……まともに動けそうにありません』

「嘘でしょ……遮断シールド越しの攻撃なのに……」

 

 血反吐を吐きながらのセシリアの言葉に鈴は呆然と言う。

 そしてその通りだと一夏は思う。

 遮断シールドは絶対なのだ(・・・・・・・・・・・・・)。だからこそ、ISは競技用のスーツとして使用されているし、万が一のことが起こらないようにしているのだ。

 そのはずだ。

 そのはずだのに。

 

「何で……」

 

 何が原因なのか、そんなものは言わずもがな。

 しかし、それでも一夏は思うのだ。一体何が起こったんだ、と。

 例え一夏の読み通り、あのミイラが原因だとしても、それはおかしい。何故なら、あれは一瞬たりとも動いていないのだから。

 にも拘らず、セシリアはいきなり吹き飛ばされた。まるで大きな何かに殴り飛ばされたかのように。

 あれだけの攻撃を何もせずに放つことなど不可能のはず。

 ならば、敵はあのミイラではないのか?

 などと考えている暇はなく、そしてその予想は否定される。

 

「一夏っ、あれ!!」

 

 ふと鈴の声がしたと同時、一夏は気づいた。

 先程まで停止していたISが再び動き出しているということに。

 そして。

 

『汚ラワシイ血ダ――――――一滴残ラズ、引キ裂イテヤル』

 

 どこか奇妙な声音。恐らく死体だからこその影響だろう。

 だが、今度こそ、確信する。

 あのミイラは生きてはいないが、同様に死んでもいないということを。

 

『ウラー・インピェーリア!!』

 

 そうして獣は動き出す。

 女王の魔眼は二人を捉え、そして―――――飛び出す。

 およそニ十メートル程の距離を一瞬にして詰めた。

 そして、その先にいるのはツインテールの少女。

 

「鈴っ!!」

「しま……」

 

 気づく。

 しかし遅い。圧倒的なまでに遅い。

 

『マヌケガ』

 

 声がしたと同時、ISの踵が鈴の顔面を狙う。無論、彼女のISにはシールドが張られてある。その程度の攻撃を喰らったところで何のことはないはずだ。

 普段ならば。

 咄嗟に鈴は両手を交差させ防御の体勢を取る。

 

『無駄ダ』

 

 だがそれがどうしたと言わんばかりにミイラはそのまま踵落としを炸裂させる。

 同時、鈴のISはシールドが一瞬光ったかと思えば、相手の攻撃に耐えられなかったのだろう。そのまま地面へと音速並みの疾さで落下する。

 土煙が舞い、約半径五メートル程のクレーターが出現した。

 その隣に敵ISは着地する。

 

「鈴……くそ!?」

 

 毒づきながら一夏は目の前に化物を睨むと同時に再び気づいた。

 彼女……ミイラの眼光が鋭く黄金に輝いていたことに。

 先程までは確かに空洞だったはずの場所に何故瞳が宿っているのか。これはもはや科学の領分を超えてしまっている。

 まるで(ジャンル)違いな世界に迷い込んだような、そんな感覚が一夏を襲う。

 

『一夏さん、おどきになって下さい!!』

 

 言われた一夏は理解し、即座にその場から離脱した。そしてその直後、いくつものレーザー攻撃が敵ISに襲いかかった。

 ブルーティアーズのピット攻撃。空中に分散しているピットからの攻撃は操作する側も困難であるが、それ故に相手にする方からしてみれば相当厄介な代物。

 けれども、だ。

 

『ハッ、何ダソレハ?』

 

 鼻で笑うかのような言葉。

 そしてそれを体で体現するかのようにミイラの少女はブルーティアーズの攻撃を次々と避けていく。

 それは規格外の速さ。全く動いていないようにしか見えないというのに、一発も直撃しない理由はそれくらいしか考えられなかった。目で追えない程疾く、吐き気を催す程理不尽に。

 格が、違いすぎる。

 さらには。

 

『邪魔ナ蠅ダ』

 

 言うとミイラの姿が消えた。

 そしてその直後、四機あったブルーティアーズのピットが全て四散した。

 

『そ、んな……』

『蠅ハ好カン。ドウニモ「奴」ヲ思イ出ス』

 

 まるで虫を潰すような口調……いや、実際彼女にとってみればその程度のことなのだろう。

 それだけ相手が圧倒的強者であることを一夏は認識せざるを得ない。

 だとしても……。

 

「はぁぁぁあああっ!!」

 

 土煙の中から特攻していったのは額から血を流していた鈴。

 その両手に持つ巨大な青龍刀に遠心力をかけながらミイラの少女に詰め寄る。恐らくは衝撃砲が効かないと踏んだのだろう。あの速度ではブルーティアーズの二の舞になるだけだ。

 ならば近距離戦闘ならどうだ?

 その考えは、しかしてやはり通用しない。

 

『ダカラ無駄ダト言ッテイル』

 

 鈴が放つ横薙ぎに縦方向から蹴りを合わせ、青龍刀の一本をへし折ったばかりか、そのまま右ストレートを彼女に叩き込む。

 

「つっうううっ!?」

『遠心力ニ頼リ過ギダ。振リガデカイゾ、支点ヲ狙ワレレバコノ有様ダ』

 

 故に。

 

『手本ヲ見セテヤル』

 

 そして追い打ちと言わんばかりに回し蹴りを放つ。それは言葉通りに手本のつもりなのだろう。適度な遠心力。疾く、鋭く、隙がない。

 故に援護に行こうとした一夏が間に合うわけもなく、そのまま壁まで吹き飛ばされ、新しいクレーターが生まれる。

 

 何だ、これは。

 何だ、これは。 

 何だ、このふざけた状況は!? 一対三なんだぞ? こっちは全員専用機なんだぞ? 代表候補生が二人もいるんだぞ!?

 一夏は彼女達と戦ったことがある。だから、彼女達がどれだけ強いのか、それを知っているつもりだ。だというのに何だこれは。

 まるで虫けらのような扱い。滑稽にも程がある。

 

『サァ、次ハ誰ダ?』

「く……俺だぁぁぁぁあああ!!」

 

 叫び、構え、そして突撃。

 既に二人はやられた。死んではないだろうが、それでも今は動けないはずだ。信じがたいことだが、目の前にいる化物にはISのシールドはほぼ無意味だと言っても過言じゃあない。

 嘘だと思いたい。そんなこと有り得ないと叫びたい。

 けれど、それは今は考えるな。

 やるべきことは一つ、目の前にいる怪物を倒すことだ。

 などと思う一夏であったが、しかしそれでも差は埋められない。

 

『ハハハハハハハッ、何ダソレハ。大道芸デモヤッテイルツモリカ?』

 

 嘲笑が木霊する。そこからくる悔しさと共に、一夏は確信した。

 もはや疑いようがない。こいつは、この化物は白兵戦の頂点だ。速さだけではない。ISをバリアーごと吹き飛ばす怪力はもはや常軌を逸している。

 しかも、だ。この怪物は一番最初に何もせず、セシリアを吹き飛ばした。恐らくは何らかの飛び道具を持っているのだろう。

 こんな奴をどうやって倒せというんだ!?

 

『ノロイ、鈍イ、欠伸ガ出ル。アア、マッタクナッテイナイ』

「くぅぅぅううううっ!! 何なんだよ、お前!!」

『私カ? サァナ。名前ナド当ニ忘レテシマッタ。自分ガナンノタメニ生マレタノカ、ソレスラ覚エテオラン。タダ、記憶シテイル事ガアルトスレバ―――――』

 

 殺気が迸る。

 

『人間ガ憎イ、ソノ感情ダケダ』

 

 襲い来る牙から一夏は咄嗟の判断で何とか後ろに避けることが成功。しかし、今のが単なるまぐれだというのも嫌というほど自覚していた。

 このままでは確実に負ける。いや、それだけではない。ここにいる三人、そしてアリーナにいる全生徒達が殺されてしまう。

 それはダメだ。

 自分はさっき決めたではないか。

 関わる者全てを守る、と。

 しかし、だとしてもあの速さではどうにもならない。もしも勝てる可能性があるとすれば……。

 

『何ヲ考エテイルノカ分カルゾ、当テサエスレバ――――ソウダナ、ヨロシイ』

 

 そういって怪物はその場に棒立ちになる。

 

『許ソウデハナイカ、当テテミロ』

 

 何を馬鹿な……と一瞬戸惑う一夏であったが、しかしこれは千載一遇。相手が油断していようが、勝機はここただ一つ。

 だからこそ、一夏は全身全霊の一撃を放つ必要がある。

 故に、一夏は掛けに出るために怪物から距離を取る。

 そして瞬時加速、作動。

 一度使えば最早これは通用しなくなる。しかし、相手は今も一夏の攻撃を受けきるつもりだ。ならば、ここが使いどころのはずだ。

 

「はあああああっ!!」

 

 そして次の瞬間、直進――――――――渾身のひと振りを放った。

 

『―――――――』

 

 結果命中。間違いなく当たった。その感触が嫌というほど一夏の手に伝わってくる。何かを直接斬ったという感触は怖気と共に吐き気を催しそうになる。

 けれど、確実に切り裂いた。その結果は変わらない。

 ああ、だというのに。

 何故これ以上の悪夢が続くのか。

 

『効カンナァ、ソノ程度カ、名モ知ラヌ塵ヨ』

 

『殺セ殺セ、男モ女モ乳飲ミ子モ……ナァ誰ヲ殺ストイウノダ、コンナ様デ』

 

『イイヤ……ソモソモ貴様ニハ殺意ガ丸キリナイ……本当ニ何ナンダ、貴様。殺ス覚悟モ殺サレル覚悟モナイ……ソンナ様デ何故私ノ前ニ立ツ?』

 

『コレナラバ、「連中」ノ方ガヨッポドマシダッタゾ……知ラヌ間ニ人間ハココマデ堕チタカ』

 

 傷が――――ミイラのか細い胴体を叩き切ったはずなのに、喰らえば確実に胴体が二つに分かれるというに、そしてその結果を確かにみたというのに。

 致命傷……という表現はそもそもおかしいが、しかしそうであろうはずの傷が、瞬く間に修復されていく。復元、と言い換えるべきかもしれないその現象は再び一夏に衝撃を与える。

 

「そ、んな……」

 

 これがもし、全く傷つかない、というのであればまだ精神的ダメージは少なかったのかもしれない。もしかすれば、そのどうしようもない硬い皮膚を叩けば勝てるのだと勝機を願うことができたかもしれない。

 だが、現実はそれを遥かに上回る。

 

「不死身、なのか……?」

 

 ミイラだというのに不死身と表現するのはやはりおかしいが、それでもそれが事実だ。

 攻撃は通じる。しかし、そんなものは無意味だ。どれだけ渾身の一撃を放とうが、どれだけ必殺の一撃を食らわせようが、関係ない。

 何せ、即座に治ってしまうのだから。

 

『ソンナ胡乱ナモノニ興味ハナイガナ……サテ、ソチラガ来ナイノナラ、コチラガ行クゾ』

 

 瞬間、再び目に見えない速度で距離を詰まれた。

 もはやそこからどう動こうが意味がない、既に拳は一夏の目の前にやってきた。

 

 

 そして―――殴る。

 

 

 

 

 殴る、殴る、殴る。

 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 

 

 

 無限ループに近い単純な攻撃。しかしその一発一発は強力であり、ISのシールドなどお構いなしだ。そんなものなど端っから意味がないと言っているような具合の連撃が一夏を襲う。

 当然、そんなものを受け続けて耐えられる者などいるわけがない。

 ラッシュが終わる頃には既に一夏の体はボロ雑巾そのものだった。

 そんな彼を見て、怪物はため息を吐いた。

 

『ドウシタ、コレデ終ワリカ? ハッ、ドウシヨウモナク弱イナ貴様。訂正ダ、「連中」トハ比ベ物ニナラン。戦ノ真トヤラハドコへヤッタ?』

「なん……だよ、それ……」

『知ラン。何ダロウナ、思イ出センガ、一ツ言エル事ガアル……本当ニ堕落シタモノダ、人間モ』

 

 すると怪物の瞳が黄金色に光輝く。

 一夏は直感で理解した。何かが来る、と。

 それは最初にセシリアを吹き飛ばしたあの攻撃―――――!?

 けれど、今の彼にそれを回避する余裕も時間もない。

 

 いや……そもそもこれを避けたところでどうなるというのだ?

 

 よしんば回避ができたとして、その先にあるのはさらなる絶望。倒せないと分かりきっている敵をどうして相手にしようとするのか。そんな無駄なことをして生き抜いたとしても、待っている死は回避できない。いいや、むしろ今以上に悲惨な目にあう可能性の方が高い。

 ならば、これ以上足掻くことに何の意味がある?

 

 戦いの中で敵はふたつ存在する。それは己と相手である。

 そして既に一夏は心が折れていた。あらゆる状況が、現実が、彼を追い詰めたのだ。自分自身に負けているのだ。そんな人間に目の前の怪物に立ち向かう勇気などあるわけがなく、もしも戦うことができたとしても勝利することなど不可能。

 よってこの時、織斑一夏という一人の少年の死は確定した。

 

 その場から動かない一夏の姿を、怪物は軽蔑の眼差しで睨みつける。

 

『失望ダ。モウ用ハナイ……死ネ』

 

 そうして。

 不可視にして不可避な『結末』が一夏目掛けて放たれ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿かあんたはッ、何簡単に諦めてるのよッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声と共にやってきた少女は、あろうことかなんの装備もない状態で勢いよく怪物へと特攻をしかけ、案の定なんの効果もないままそのまま怪物に軽く吹き飛ばされる。

 

『? 何ダ、貴様ハ』

 

 虫を払うような仕草で返り討ちにした怪物がそんな言葉を口走る。

 一方の吹き飛ばされた少女は体から血を流している。当然だ。ISでも敵わない化物に生身のまま投げ飛ばされたのだから。死んでいない方が運が良い。

 けれど、それで分かったはずだ。目の前の恐怖を。

 しかし、それで理解したはずだ。そこにある絶望を。

 だから、それで悟ったはずだ。逃げても生き延びることはできないことを。

 

 けれど、けれど、けれど。

 それでも彼女は顔を歪ませながらも、その場に立つ。

 その姿から、瞳から、表情から、彼女が未だ諦めてはいないことを一夏は知る。

 

 一夏は知っていた。彼女のことを知っていた。

 彼女の名は―――――。

 

「せ、ら……?」

 

 世良聖が、そこにいた。




そういうわけで皆大好きキーラちゃんの大活躍な話でした。
絶望感とか出せていればいいんですが……。

感想の反応を見てみると予想外な人が多かったようです。
まぁ、実際本編で彼女の死体がどうなったかは語られてなかったはず……なので問題はないと思いますが……。
え? 死体の保存はどうやっていたかって……そ、それは裏設定ということで……(考えていなかったなんて言えない言えない

次回はついに聖が動きます。どうなるのか、楽しみにしていてください。
それでは!

……さーて、ここからどうしようか(オイ

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